89.もう一つの設計図。
賑やかな晩餐から一夜明けた翌朝。
休日の赤樫亭の工房では、朝食を終えたばかりの恒一とロイドが早々に、大きな作業台を挟んで向かい合っていた。
ちなみにダンを始めとした職人達は、燻製ワイバーンを肴に晩酌が盛り上がってしまい撃沈中だ。
以前宴会でアステル相手に(勝手に)挑んだ時ほどは呑んでいなかったと思うので、まぁ心配はあるまい。
「さて。いよいよ本番だな」
台の上には、グラナード山地から持ち帰った風鳴樹の材と、何枚かの図面が広げられている。
ロイドが袖を捲り、材の表面を軽く叩いた。
「まずは一脚。上手くいったら、同じ寸法で残りも作る。……と言いたいところだが、今回はそう簡単にいかねえだろうな」
「やっぱり、曲げるところが難しい?」
「それもある。だが、曲げられりゃ完成ってわけじゃねえ。脚の角度、座面との繋ぎ、重ねた時の収まり具合。全部確かめなきゃならん」
そう言ってロイドは、図面の一角を指で押さえた。描かれているのは、背もたれのない小ぶりな椅子だ。
四本の脚は下へ向かってわずかに広がり、座面を支える部分には緩やかな曲線が使われている。重ねて収納できるよう、脚同士が干渉しないことも考えた形だった。
「最初に考えてた、二本のコの字を交差させる形だけどさ」
「ああ。あれな」
ロイドは頷き、図面の中央に鉛筆で小さな丸を描いた。
「交差するところを深く削って組むと、そこが弱くなる。普通の材ならともかく、今回は曲げた部材だ。せっかく木目を繋げて強さを残すんだから、途中で大きく欠き取るのは惜しい」
「なるほど……」
「だから、脚の曲げ材はそれぞれ独立させて、上で座面の枠に固定する。横揺れを抑えるための繋ぎも入れるが、まずはこの形で試してみようぜ」
ロイドが別の紙を重ねる。そこには、脚を横から見た図と、座面を裏返した状態の図が描かれていた。
「こっちなら、一度に曲げる部分を少なくできるし、一本ずつ調整も利く」
「それに、重ねた時にどこが当たるかも分かりやすいね」
「そういうことだ。それに今回の脚は、厚みを減らして幅を持たせた形にしただろ? だから固定部の面積が増えた分、独立した脚でも十分な強度は出ると見てる。風鳴樹だからこそ出来るデザインだわな」
恒一は図面を見比べながら頷いた。
自分一人で考えていた時には、曲げ木で作る一本に繋がった形ばかりに目が向いていた。しかしロイドが加えた線には、実際に木を切り、組み、長く使うための理由がある。
見た目の形を決めることと、家具として成立させること。その二つは、似ているようで少し違うのだ。
「……やっぱり、ロイドと一緒に考えると違うなぁ」
「何だよ、急に」
「いや、俺一人だったら交差する部分をどう固定するかで、ずっと悩んでたと思う」
「そりゃ、俺はそういう仕事を習ってきたからな。逆に、お前が言い出さなきゃ、風鳴樹で重ねられる椅子を作ろうなんて考えもしなかったぞ」
ロイドは何でもないことのように言い、図面を脇へ寄せた。
「よし。形が決まったところで、木を切るか」
「おう!」
恒一もはりきって袖を捲った。
風鳴樹の加工は、やはり一筋縄ではいかなかった。
まず、鋸がなかなか進まない。端材試験でも分かっていたことだが、実際に椅子の部材を切り出そうとすると、その硬さが改めて身に染みる。
「……これ、普通の木のつもりでやったら、腕が先に終わるな」
「だから刃の当て方を変えるんだよ。力任せに押すな。切れるところを少しずつ探せ」
ロイドが恒一の手元を見ながら助言する。
言われた通りに角度を調整すると、先ほどよりもわずかに鋸が進みやすくなった。
「お、違う」
「だろ? 硬い材ほど、道具に無理をさせちゃ駄目なんだ」
もっとも、違いが分かったからといって、急に加工が速くなるわけではない。恒一が一本を切り終える頃には、ロイドは別の材の木取りを済ませ、木目の向きを確かめていた。
曲げる部分に大きな節や傷がないこと。木目が途中で大きく途切れないこと。加工の際に削り落とす余裕があること。
一本一本、向きを変えながら確かめていく。
「この辺り、使えそう?」
「悪くないな。ただ、こっちの面を外側にした方がいい。曲げた時に木目が逃げにくい」
「ああ、分かった」
恒一は材を受け取り、ロイドが指し示した部分を覗き込んだ。淡いクリーム色の表面に、細い木目が幾重にも走っている。
初めて見た時には、ただ綺麗な木だと思った。
けれど今は、その一本一本が加工の成否に関わるものとして見えてくる。
知れば知るほど、同じ材料が違って見える。それが今は無性に面白かった。
「……何か、楽しそうだな」
「うん?」
「いや、難しい顔してたと思ったら、急に笑うからよ」
「ああ……。こういうの、知ると面白くてさ」
恒一が材を持ち上げる。
「山で見た時は、椅子に使えそうな硬い木だなって思っただけだったけど。今は木目の向きとか、曲げ方とか、色々考えられるだろ?」
「まあな」
「同じ木なのに、分かることが増えてるんだなぁって。そう思うと嬉しくてさ」
ロイドは一瞬きょとんとした後、ふっと笑った。
「……そういうところ、お前らしいよな」
「そう?」
「ああ。よし、だったら次は蒸し曲げだ。もっと面白いぞ」
「ああ、楽しみだ!」
午前のうちに必要な部材を切り出し、寸法を整えた二人は、昼食を挟んで蒸し曲げの準備に取り掛かった。
工房の片隅には、前日までの試験で使った蒸し器と曲げ型が置かれている。
ただし、今回は端材とは長さも太さも違う。
ロイドは実際の部材に合わせて作り直した型を作業台へ固定し、締め具の位置を一つずつ確認していった。
「曲げる時は、一気にやるぞ」
「ゆっくりじゃ駄目なのか?」
「冷めると硬くなるからな。もちろん無理に押し込むのも駄目だが、迷ってる暇はねえ」
「了解。俺はどこを押さえればいい?」
「こっちの端だ。俺が曲げ始めたら、材が浮かないように支えてくれ」
前回の試験結果を参考に、蒸す時間も長めに取る。時折状態を確かめながら、二人は蒸気の立ち上る器具を見守った。
やがて、ロイドが蓋を開ける。
「……よし。やるぞ!」
「おう!」
厚手の手袋を着け、熱を帯びた材を取り出す。蒸気が白く立ち上り、工房に湿った木の香りが広がった。
ロイドが手早く材を型に沿わせ、恒一が反対側を支える。
「コーイチ! ここ、押さえてくれ!」
「了解!」
締め具が少しずつ回され、風鳴樹がゆっくりと曲がっていく。
初めはほとんど動かなかった硬い木が、蒸気を含んだ今、確かに形を変えていた。
「……おおっ」
「まだだ。ここからもう少し……」
締め具を一段進め、材の表面を確かめ、また少し動かす。ロイドの額に汗が浮かぶ。
やがて、狙った曲線へと収まったところで、最後の固定具が締められた。
「……よし!」
ロイドが大きく息を吐き、恒一もつられるように肩の力を抜いた。
「曲がった……!」
「ああ。今のところはな」
ロイドは曲げた材の表面を丹念に確かめた。
「割れは見えねえ。木目も大きく乱れてない。悪くないぞ」
「うん、やったな」
「喜ぶのはまだ早いぞ。乾かした後、どれだけ戻るか分からねえからな」
そう言いながらも、ロイドの口元は緩んでいる。
最初の一本。それが無事に形になったことは、やはり嬉しいらしかった。
「よっしゃ、この調子であと三本もやっていくか!」
「ああ!」
勢いづいた二人は、早速次の材へと向き直った。
そうして、午後も半ばを過ぎた頃。
工房には、曲げ型に固定された脚部材が整然と並んでいた。
形そのものは、どれも悪くない。だが、問題はここからだった。
「……で、乾燥か」
恒一が腕を組む。
「普通なら数日間、完全に乾いて形が決まるまで、しばらくこのまま置いておくんだよね?」
「ああ。特にこいつは水分が抜けにくそうだからな。焦らず待つなら、かなり余裕を見ておきたい」
ロイドが曲げ型を軽く叩く。
「だが、試作品一脚分くらいなら……試しに、あいつらに相談してみるのも手だな」
「あいつら?」
恒一が首を傾げたところで、工房の入口から声がした。
「呼んだ?」
「……いや、まだ呼んでねえよ」
振り向くと、そこにはアステルとオルビスが立っていた。どうやら丁度今、赤樫亭へ顔を出したところらしい。
「……まだ、ということは、呼ぶつもりではあったのか」
「何だ、丁度いいじゃないか!」
「お前ぇら毎度都合が良すぎるだろ……」
ロイドが苦笑してみせるも、アステルはそんなことを気にした様子もなく、作業台の上へ視線を向けた。
「おっ、曲がってる。もう脚になってんじゃん!」
「まだ脚の材料だよ。ここから乾燥させて、組み立てるんだ」
「へえー。じゃあ、もうちょっとだな!」
「その乾燥が、ちょっとじゃ済まねえんだよ」
かかる時間と、いかにこれが重要な工程であるか。ロイドの説明を聞くと、アステルが納得したように頷く。
「なるほどな。で、俺達に手伝えることがあるってわけ?」
「ああ。木を傷めない程度に、乾燥を早められないかと思ってな」
ロイドは更に、風鳴樹の性質と、急激な乾燥で起こり得る問題を説明した。
表面だけが急激に先に乾けば、内部との収縮差で割れが生じるかもしれない。
乾燥を早めたいからといって、熱を掛けすぎてもいけない。
そして、今の段階で水分を抜ききる必要はなく、最後は自然乾燥で落ち着かせたい。
双子は途中で口を挟まず真剣に聞いていた。
「……なるほど。つまり内部の水分を少しずつ外へ移動させながら、温度も調整する必要があるわけだな」
オルビスが曲げ型を覗き込む。
「炎と水の複合なら、できると思うぞ」
「お、俺も同じこと考えた。ただ、木の中で急に水を動かすとまずいんだろ? だったら、ゆっくりやった方がいいよな」
「そうしてくれると助かる。俺が状態を見ながら止めるから、最初は弱め短めで頼む」
「ああ、了解した」
こうして、工房では少々珍しい乾燥作業が始まった。
曲げ型に固定された部材をまずは一本ずつ、双子がそれぞれ担当する。
オルビスが片方の材に手をかざし、アステルも反対側で同じように構えた。
淡い魔力の気配が、木材へと染み込んでいく。
炎属性によって温度が穏やかに保たれ、水属性を操る事で内部の水分を少しずつ移動させる。
見た目には、ほとんど変化がない。時折、材の表面にごく薄い湿り気が浮かび、それがゆっくりと消えていくだけだ。
魔力を流しては止め、ロイドが慎重に状態を確かめる。繰り返す度に、木材は少しずつ乾燥へ向かっていた。
「……すげえな」
ロイドが感心したように呟く。
「これだけ均一に乾かせるなら、かなり助かるぞ」
「まだ加減を探ってるところだがな。次はもう少し温度を下げるか?」
「ああ、頼む。表面は十分だ。中の水分が落ち着くのを待ちたい」
「分かった」
「おっけー」
そのやり取りを、恒一はじっと見つめていた。
正確には、木材へ流れ込む魔力の気配を追っていた。
以前なら、ただ不思議な力が働いているとしか感じられなかっただろう。けれど今は、少し違う。
木の内部へ広がる熱。そして、中心から外側へ向かって移動する水分。それぞれの働きが、微妙に異なる魔力の流れとして感じ取れる。
(……これ、前に見たやつと似てるな)
恒一は作業台の端に置いてあった紙を引き寄せた。
筆記具を手に取り、少し考える。
(まずは水の流れから……。ああ、ここをこう描けば分かりやすいかな?)
頭の中にあるものを、図にして整理したい。そう思った途端、視界の中にあの細い青白い線が浮かんだ。
木材の輪郭をなぞる線。その内部をゆっくりと巡り、外側へ抜けていく線。
さらに、別の色合いを帯びた細い流れが、それを包むように広がっている。
恒一はその様子を確かめながら、紙の上へ図を書き起こしていった。
「ふむふむ、なるほどなぁ……」
まず、木材の断面を描く。
その中心から外へ向かって、何本かの矢印を加える。
「水球を作る時と同じで、ただし周囲じゃなくて、木の内部から集めて外に逃がしてるわけだ……」
以前、魔法によって水が集まる様子を観察したことがあった。
今回の魔力の動きは、それとよく似ている。ただ、対象となる水分の場所が違う。
周囲の空気から集めるのではなく、木材の内部にある水分へ働き掛けているのだ。
「で、熱は……ああ、それがこっちか。段階的に流れが弱くなったのは、温度変化で傷まないように、少しずつ下げていってたからなんだな」
恒一はもう一本、線を書き加えた。
木材全体を包むような緩やかな曲線。その傍らに、流れの強弱についても、小さな注記を添える。
水分の移動と温度の変化。流れの太さは出力の大きさだ。
(なるほど……。ただ乾かしてるんじゃなくて、木の状態を見ながら調整してるんだな)
恒一は夢中になって筆記具を動かした。
図を一度見直し、足りない部分を書き足す。
それから、少し離して眺めてみる。
「……うん。これで良し!」
最後の注記を書き終え、満足して筆記具を置いた。視界に浮かんでいた青白い線も、役目を終えたようにすっと消える。
恒一は完成した図を手に取り、ロイドへ見せようと顔を上げ……そこで、妙なことに気付く。
アステルとオルビスが、揃ってこちらを見ていた。
「……コーイチ」
「ん?」
「お前、いつの間に使えるようになったんだ?」
「……何が?」
アステルが目を丸くしている。
オルビスも、少し感心したように頷いた。
「随分上達したな。自分で使い始めて、終わらせられるようになったのか」
「……へっ?」
恒一は間の抜けた声を上げた。
何を言われているのか、すぐには分からなかったのだ。
しかし、手元の図面と、先ほどまで視界に浮かんでいた線を思い返し――ようやく気付く。
「……あれ?」
確かに、今回は勝手に見え始めたわけではなかった。魔力の流れを整理したくて、自分で線を描こうと思った。
そして、必要なものを書き終え、もう十分だと思ったところで、視界の線も消えていた。
「……あれ? 俺、今、自分で使ってた?」
「だからそう言ってんじゃん!」
アステルが笑った。
「いや、でも……え? そんなつもりじゃ……」
「自覚がなかったのか……」
そう言いながら、オルビスが小さく息を吐く。
「とはいえ、以前とは明らかに違うようだな」
その会話を聞いていたロイドも、興味を引かれたように恒一の手元へ視線を向けた。
「……つまり、例のスキルとやらを自分の意思で使えるようになったってことか?」
「そう……なのかな?」
「本人が分かってねえのかよ」
「いや、だって今までは勝手に出てきてたし……」
恒一は困惑したまま、紙の上の図を見下ろした。描かれているのは、木材の内部を巡る魔力の流れ。
確かに自分が観察し、考え、書き起こしたものだ。だが、言われてみれば、そこへ至る過程がいつもと違っていた。
「……じゃあさ、もう一回やってみたら?」
「もう一回?」
「そうそう。さっきみたいに考えて、線を出してみるんだよ」
「なるほど」
恒一は頷き、再び木材へ視線を向けた。先ほどと同じように、魔力の流れを思い浮かべる。
(ええと……線を描く、線を描く……)
しかし。
「…………」
「…………」
「……出ないな」
「あれ?」
恒一が呟き、アステルが首を傾げる。
「……あれ?」
今度は何も起こらなかった。何度か試してみたものの、青白い線は現れない。
「うーん……さっきは出来ていたのになぁ」
「ふむ……」
オルビスが少し考え込む。
「恐らく、ただ発動させようと考えるだけでは駄目なのだろうな」
「どういうこと?」
「先ほどは、魔力の流れを理解したいという明確な目的があった。それに加えて、追うべき魔力の流れが目の前にあっただろう? だから自然に使えたのかもしれないな」
「……なるほど」
恒一は頷いた。
確かに、先ほどはスキルを使おうと考えていたわけではない。
ただ、目の前の魔法を理解したかった。そのために、見えたものや感じたものを図にしようとしたのだ。
「じゃあ、まだ完全にコーイチの意思で使いこなせるわけじゃないのか?」
「そうだな。だが、停止出来ていた事も含め、以前よりも自分の意思が関わるようになったのは確かだろう」
「……つまり?」
「少なくとも、前進はしているということだ」
オルビスの答えに、アステルが大きく頷いた。
「そうそう! 前よりできること増えたんだから、いいじゃん!」
「……まあ、そうだな」
恒一もつられて笑う。
まだ、何ができるようになったのかははっきりしない。けれど、自分の中で何かが少し変わったことだけは、確かなようだ。
それが少し嬉しくて、恒一はもう一度、手元の図を見下ろした。
以前は、ただ見えたものを追い掛けるだけだった。今は、見たいものを考え、理解するためにこうして書くこともできる。
その違いは、思っていた以上に大きいのかもしれない。
「……よし。じゃあ、また何か面白いものがあったら試してみよう」
「おう! その時は俺も手伝うぜ」
「ああ。ありがとう、アステル」
ひとまずスキルの話が落ち着いたところで、ロイドが作業台に置かれた紙を手に取った。
「……にしても、これ、結構分かりやすいな」
「そう?」
「ああ。俺は魔法の細かい理屈なんて知らねえけど、これなら何をやってたのか何となく分かるぞ」
ロイドは図面の中央を指でなぞった。
「へぇ、こんな仕組みで水気が動くんだなぁ」
「うん。多分、大きく外れてはいないと思うんだけど……」
「実際の魔力操作をしないと分からない部分はあるかと思うが、属性魔力の流れの説明・解説としては合っているぞ」
横から図を覗き込んだオルビスが頷く。
アステルも、その隣で感心したように目を細めた。
「うん、すっごい分かりやすいと思うぞ、これ」
「そっかー。良かった」
自分が理解するために描いたものだったが、こうして他の人にも伝わるのは嬉しい。
恒一がほっとしたところで、オルビスが何気なく呟いた。
「……と言うか、魔法理論の初級向けの資料として最適だな、これは」
「あー、確かに」
アステルがぽんっと手を打つ。
「コーイチ、ここが魔導学院とかだったら先生達に攫われてそう」
「あり得る」
「え゛」
あまりにもあっさり肯定され、恒一は思わず変な声を漏らした。
「……いや、冗談だよね?」
「俺は冗談のつもりだったけど?」
アステルが笑う。
「兄さんは?」
「有用な教材を作れる人材を、教育機関が欲しがるのは不思議ではないだろう」
「ちょ……オルビスさん?」
「もちろん、本人の意思を無視して連れていくのは論外だがな」
「そこは安心したけど、何か別の意味で安心できないんだけど……」
恒一は思わず図面へ目を落とした。
ただ、見えたものを書き留めただけなのに。
どうやら、自分が思っていたよりも使い道のあるものを描いてしまったらしい。
「……まあ、今は椅子を作る方が先だな」
ロイドが図面を作業台へ戻す。
「そう、それ!」
恒一は勢いよく頷いた。今は魔導学院の心配よりも、目の前の風鳴樹である。
その後もロイドが慎重に状態を確かめ、双子の魔法による補助を終えた。
木材の内部に余分な水分を残しすぎず、かといって急激に乾かしすぎない程度に。最後は曲げ型に固定したまま、数日間自然乾燥させることになった。
「よし。あとはこいつらが落ち着くのを待つだけだな」
ロイドが満足そうに頷く。
「その間に、座面の枠を作っておこう。脚が仕上がったら、すぐに仮組みできるようにな」
「了解!」
恒一は頷き、再び図面を広げたのだった。




