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勇者召喚に巻き込まれた一般人です。~世界最強かもしれない冒険者パーティーと出会った結果、普通が何なのか分からなくなりました~  作者: 天晴/晴夜
第一幕

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70/102

70.小さな冒険、いざ出発です。

「それじゃ、そろそろ出るぞー!」

「わふっ!」

 アステルの声に応えるように、クロムが一声鳴く。

 見送りに出てきたハンナへ礼を言い、恒一達はそれぞれ荷物を手にクロムの傍へ集まった。

 まず先頭にアステルが跨がり、その手を借りつつ後ろへ恒一が続く。以前にも乗ったことがあるので、ここまではまだ勝手が分かる。

 続いてロイドが少々おっかなびっくりといった様子で身体を持ち上げ、恒一の後ろへ。そして最後にオルビスが軽々と跨がったところで――。

「あっはっは! さすがに狭いな!」

「笑い事かよ!」

「まあ、逆に隙間があった方が危ないだろう」

「お前はなんでそんな落ち着いてんだよ!」

 大の男が四人。

 いくらクロムが巨大とはいえ、さすがにその背へ一列に並べば、なかなかの詰まり具合である。

 もっとも、言われてみれば確かにオルビスの言う通りだ。これだけ密着していれば、少なくとも左右へ大きく身体を振られない限り、互いの身体が支えにもなる。

「コーイチは俺に掴まっといて。ロイドはコーイチな」

「了解。って、オルビスは?」

「俺は問題ない」

「問題ないんだ……」

 以前三人で乗った時にも最後尾だったが、今回のオルビスはさらに後ろ――クロムの腰に近い辺りだ。そこへ何の支えもなく座って、本人はまるで気にした様子がない。

 ロイドも同じことに気付いたらしい。

「お前、何に掴まんの?」

「特に何も?」

「何にも!?」

「この程度なら必要ない」

「いや必要あるだろ!?」

 そんなやり取りを聞きながら、アステルはクロムの首筋を軽く撫でる。

「クロ、最初はゆっくりな。ある程度二人が慣れてから上げよう」

「わふっ」

 短い返事と共に、クロムが歩き始めた。

「お、おお……」

 恒一の後ろでロイドが僅かに身構える。

 裏庭を抜け、赤樫亭の脇から通りへ出る。まだ人通りの少ない早朝とはいえ、巨大な魔狼の背に成人男性が四人みっちり乗っている姿はそれなりに目立つ。通りの向こうでこちらを見た男が二度見したのを、恒一はそっと見なかったことにした。

「気を付けて行ってくるんだよー!」

 背後からハンナの声が飛んでくる。

「はい、行ってきます!」

「行ってきまーす!」

 恒一とアステルが振り返って答える。こうして、四人と一匹は朝の王都を進み始めた。

 さすがに街中を巨大な魔狼が駆け抜けるわけにもいかない。城門を抜けるまでの間は、クロムも早歩き程度である。最早顔見知りの門番に行き先を告げ、街道へ出て人通りが少なくなったところでアステルが前方へ目を向けた。

 あらためてよく見れば、彼自身は普段より随分と前に位置取っている。恒一達に比較的安定した背の中央を譲った結果、ほとんどクロムの肩に近い位置まで出ているのだ。

「アステル、乗る位置そこで大丈夫なのか?」

「ん? ああ、平気平気。大丈夫だよ」

 何でもないことのように笑い、軽く腰を浮かせて位置を整える。

「さて、と。この辺ならもういいかな」

「わふ」

「んじゃクロ、少しずつ上げてってくれ」

「ウォンッ!」

 返事と同時に、歩幅が伸びた。クロムの身体が、僅かに沈む。その動きを感じた瞬間、恒一は反射的にアステルを掴む腕へ力を込めた。

「うおっ――!」

 くんっ、と一瞬だけ身体が後ろに置き去りにされ、ロイドの口から思わず声が漏れる。同時に、恒一の腹に回した腕にぐっと力が入った。

「ぐえ。ちょ、ロイド! 苦しい苦しい!」

「うるせえ! 離したら俺が落ちるだろうが!」

「離せとは言ってないからもう少し緩めて! そこ鳩尾(みぞおち)!」

「先に言え!」

「今言った!」

「あっはは、大丈夫大丈夫! まだそんなに出してないから!」

 前からアステルの笑い声が聞こえてきた。

「それ何の安心材料にもなってねえぞ!」

 ロイドの声が風に流れていく。

 確かに速い。もう馬で駆ける速度など、とうに超えているだろう。だが、恒一が覚えていたような、身体を後ろへ置き去りにされるほどの加速ではなかった。

 そして感じるのはもう一つ。速さの割に揺れが少ないのだ。

 もちろん全く振動がないわけではない。クロムが地面を蹴るたびに巨体は動くし、その背にいる恒一達にも地を蹴る衝撃は伝わってくる。だが、景色はあっという間に後ろに流れこそすれ、大きく上下することはない。

 普段とは走り方そのものが違っている。

「……クロ、走り方変えてる?」

 風に負けないよう少し声を張ると、アステルは振り返らないまま答えた。

「ああ、分かった?」

「前に飛ばした時と、全然違う」

「今日は四人いるからな! なるべく背中が跳ねないように走ってくれてる!」

「わふっ!」

「そうだよな~クロ。ちゃんと安全運転だよな~」

 安全運転。

 その言葉を聞いたロイドが、しばらく黙った後にポツリと訪ねた。

「……なあ、コーイチ」

「ん?」

「これで抑えてんの?」

「うん、全力に比べたらかなり」

「…………」

 恒一の腹に回されていた腕が、また少しだけ強くなった。

「ゔ、だから苦しいって!」

「お前、前はこれより速いの乗ったんだよな?」

「だから事情があったんだって!」

「よく落ちなかったな!?」

「俺もそう思う!」

 少なくとも、あの時に四人乗っていたら無理だっただろう。

 そんな事を考えながら前を見ると、アステルの姿勢が先ほどまでとは少し変わっていることに気付いた。

 膝で身体を支えて、僅かに腰を浮かせた前傾姿勢のまま、クロムの動きに合わせて滑らかに重心を移して乗っているのだ。それでいて、腰から上はほとんど動いていない。

 そして後ろを振り返れば――。

「どうした?」

「あ、いや……」

 最後尾のオルビスが乗っているのはクロムの腰辺り、つまり後ろ足のすぐ上近くである。こちらも相当動く場所のはずだ。だが彼は片手を荷物へ軽く添えている程度で、アステルと同じく身体がぶれる様子すらない。

 もちろん慣れというのもあろうが、両者共に、とんでもない体躯とバランス感覚である。

 同時に、つまるところこの位置取りは、アステルが先導、オルビスが殿(しんがり)を務めつつ、最も安定する位置に慣れない二人を挟むように配置しているわけだ。

「……お前らさ」

「ん?」

「こういうとこは、ちゃんと冒険者なんだな……」

「どういう意味だよ!?」

 ロイドの物言いに、アステルが笑いながら抗議する。恒一も思わず吹き出した。

 だが、言いたいことは少し分かる気がした。

 王都で一緒に過ごしている時とは違う。荷造りも、道(ルート)選びも、クロムへの乗り方も。本人達は恐らく意識すらしていないだろうが、ひとたび旅に出れば経験の違いがはっきり見えるものだった。


 そうこうしてる間に、気付けば王都を囲む城壁も随分と小さくなっていた。

 三泊四日の探索旅。目指すはグラナード山地、『鳴風渓谷(めいふうけいこく)』。

 まだ見ぬ風鳴樹を求めて――四人と一匹の、少しばかり普通ではない材料探しの旅が始まった。

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