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勇者召喚に巻き込まれた一般人です。~世界最強かもしれない冒険者パーティーと出会った結果、普通が何なのか分からなくなりました~  作者: 天晴/晴夜
第一幕

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65/102

65.重ねてまとめてコンパクトに。

エピソードを華麗に綺麗に一本すっ飛ばしました(お馬鹿)

下書き時点で気付け私ィ……。

というわけで早々に差し替え修正致しましたスミマセン。

 翌日の昼下がり。

 午前中の仕事を終え昼食も済ませた恒一は、休憩時間を使って自分の工房へと足を運んでいた。

 昨日取り付けた二つの窓は開け放たれ、ステイでほどよい角度に固定されている。そこから入り込む風が、作業台の上に広げた紙の端を時折ふわりと持ち上げていた。

 恒一は片手で紙を押さえながら、もう片方の手で鉛筆を走らせる。

「……こんな感じだったよな」

 描いているのは、丸い座面と、その下から伸びる四本の細い脚。ただし、脚は真っ直ぐ下へ降りているわけではない。座面の裏から一度外側へ逃げるように曲がり、そこから床へ向かって伸びている。

 頭に浮かべているのは、日本にいた頃、勤めていた会社で見慣れていた丸椅子だった。

 会議室の隅や倉庫の前、ちょっとした作業をする場所なんかに置かれていた、ごくありふれたパイプ椅子。

 背もたれもなく、座面も丸いだけ。洒落た家具というほどのものでもない。けれど使わない時には何脚も重ねて置けるため、場所を取らなかった。

「四つも置くなら、やっぱり重ねられる(スタッキング)ってのは外せないよなぁ」

 工房はきっと、これから物が増えていく。今は広く感じるこの空間も、工具や材料、作りかけの物が増えれば、いつまでもそうとは限らない。

 必要な時には出して、使わない時には端へまとめておける。それだけでも随分違うはずだ。

 恒一は描いた脚の線を指先でなぞった。

「問題はこれだよな……」

 記憶の中の椅子は、細い金属の管を曲げて作られていた。

 もちろん、どういう太さだったのか、どんな角度で曲がっていたのかまで覚えているわけではない。普段何気なく使っていた物だ。構造を調べたことなど一度もなかった。

 覚えているのは、丸い座面と、外へ少し張り出した脚。それから、上から別の椅子を被せるように重ねられたということくらいだ。

「金属で作るなら……鍛冶屋に頼むことになるのか?」

 金属なら細くても強度を出せる。曲線だって、加工する設備と技術があれば作れるはずだ。

 では、あえて木で作るならどうするか。

 真っ直ぐな脚を外に向けて斜めに付けるだけでも、ある程度は重ねられるかもしれない。だが、座面の裏で脚同士がぶつからないよう位置をずらし、それでいて座った時に安定するようにしなければならない。

 恒一は新しい線を一本引き、その隣にもう一本描いた。重ねた時の様子を考えようとしたものの、紙の上ではどうにも分かりづらい。

「一本ずつ真っ直ぐ作って、取り付ける位置をずらして……いや、それだと二脚目が……うーん?」

 紙を回して上から見た図も描いてみる。

 四本の脚。その外側へ、もう一脚分。

「……うーん」

 考えているうちに、額へ皺が寄っていたらしい。

「さっきから何を難しい顔してんだ?」

 横から声がして、恒一は顔を上げた。

 振り向けば、工房の入口にダンが立っている。どうやら休憩のついでに様子を見に来たらしい。

「あ、ダンさん」

「椅子考えてたんじゃなかったのか?」

「その椅子で悩んでるんですよ」

 恒一が身体をずらすと、ダンは作業台のそばまで歩いてきた。机上の紙には、丸い座面を横から見た図、その下へ伸びる四本の脚。さらに横には、何脚かを重ねた時のつもりで描いた線が重なっている。

 ダンはしばらく無言でそれを眺めた。

「……変わった脚だな」

「昔、似たような椅子を使ってたんです。こんなふうに脚が外へ逃げてて、使わない時は上から重ねて置けるんですよ」

「ほう」

 ダンが紙へ顔を近づける。恒一は鉛筆の先で、脚の部分を示した。

「ただ、俺が知ってるのは金属で出来たやつなんです。細い管をこう、曲げてあって……中が空洞になってる細長い金属です。こういう太さの」

 指で輪を作ってみせると、ダンは「ああ」と頷いた。

「鉄の筒みてえなもんか」

「そんな感じです。それで椅子の脚を作ってたんですけど……こっちで同じことをするなら鍛冶屋に頼むのかなって」

 言いながら、恒一はもう一度紙へ視線を落とした。

 もちろん鍛冶屋へ頼めば何かしら作る方法はあるだろう。だが、金属加工について自分はほとんど何も知らない。材料費も加工賃も分からない。

 何より、せっかく木工の工房で使う椅子なのだから、できれば自分でも手を動かして作ってみたい気持ちがあった。

「木だと、こういう曲がった脚はできるのかなって。単にこういう形に切り出すだけでも行けますかね?」

 そう尋ねればダンは紙から目を離し、何でもないことのように言った。

「つまりお前、今度は曲げやりてぇのか?」

「……はい?」

 思わず聞き返す。

 ダンは恒一の描いた脚を太い指でなぞった。

「真っ直ぐじゃなくて、こう外へ逃がして、そのまま下まで繋げてえんだろ?」

「ええ。そう出来れば一番近いんですけど……」

「なら曲げりゃいい」

「木を?」

「ああ」

 あまりにも当然のように返されて、恒一は数秒黙った。

 木を曲げる。言葉だけなら分かる。薄い板なら、しならせることもあるだろうし、竹だって曲がる。が、当然それらは元に戻ろうとしてしまう。

 椅子の脚として人の体重を支えるような太さの木材を、曲げた形のまま保たせるという発想は、恒一の中になかった。

「……曲がるんですか? 木材って」

「そりゃ何でも好きな形になるってわけじゃねえぞ」

 ダンは苦笑すると、近くに積まれていた細めの端材から一本を抜き取った。その木目を目で追いながら、掌で軽く撫でる。

「木は乾いたまま無理にやりゃ折れる。だが、熱と水気を入れてやれば随分と話は変わる」

「熱と水気……」

「蒸すんだよ」

 その言葉に、恒一の視線がダンの手元へ落ちた。

「材をしっかり蒸して、柔らかいうちに曲げる。曲げたらその形で動かねえように押さえて、冷えて乾くまで待つ」

 ダンは端材を両手で持ち、緩やかな弧を描くような仕草をしてみせた。もちろん乾いた端材を本当に曲げるわけではない。どう動かすかを示しているだけだ。

「型を作って、それに沿わせることもある。毎回手加減だけで同じ形に出来るほど、木は素直じゃねえからな」

 恒一はその説明を聞きながら、紙の上の椅子へ目を戻した。

 真っ直ぐな木を削って曲線を作るのではなく、木そのものを曲げる。頭の中で、さっきまで金属の管だった脚が、一本の木材へと置き換わっていく。

「そんな加工があるんですね……」

「あるぞ。椅子なんかじゃ昔から使う」

「知らなかったな……」

 素直にそう呟くと、ダンが鼻を鳴らした。

「知らねえなら覚えりゃいい」

 その言い方があまりにもいつも通りで、恒一は思わず笑った。

「そうですね」

 日本で暮らしていた頃、木製の椅子など数え切れないほど見てきた。デザイナー家具などは特に、確かに曲線を描いた背もたれも、丸みのある脚や肘置きを備えた物もあったはずだ。

 けれど、それがどうやって作られているのかを考えたことはなかった。完成した物を知っていることと、それを作る方法を知っていることは、やはり全く別の話なのだ。

 恒一は紙の端に新しい線を引いた。今度は金属の細い脚ではなく、少し幅のある木の棒を思い浮かべながら、緩やかな弧を描いてみる。

「こういうのも出来ます?」

「形だけならな。ただし、その太さと曲がりなら材は選ぶぞ」

「木なら何でもいいわけじゃないですよね」

「当たり前だ。木目もあるし、粘りも違う。曲げやすい木もあれば、すぐ割れやがる木もある。それに――」

 ダンは恒一の描いた曲線の外側を爪で軽くコツンと叩いた。

「曲げりゃ、こっちは引っ張られる。内側は逆に詰まる。無茶な曲げ方すりゃ、外から裂けるぞ」

 カーブの外側が伸び、内側が縮む。言われれば当たり前のことなのに、先ほどまでは形だけしか考えていなかった。

 いつの間にか、紙の上へ淡い青白い線が浮かんでいた。曲げた脚の外側へ細い線が沿い、その内側には間隔の詰まった短い線が並んでいく。

「……あ」

 以前なら、気付いた時には勝手に描かれていたように感じていたもの。けれど今は少し違った。

 ダンの説明を聞いて、自分で曲げた木の状態を想像した。その考えをなぞるように、青白い線が紙の上へ重なっている。

 外側は引かれる。

 内側は押される。

 恒一が意識を向ければ、線もそれに合わせてわずかに形を変えた。

「コーイチ?」

「あ、いや。ちょっと考えてました」

 声をかけられて、恒一は紙から顔を上げた。同時に視界の線もふっと消える。

「んで、こいつを何脚作るつもりだ?」

「最終的には四脚くらいですね。ただ、まず一脚だけ作ろうと思ってます」

「ほう?」

「先に全部作って、座りにくかったら困りますし。まず一脚作って、実際に座ってみて、高さとか安定するかを見たいんです」

 そう言うと、ダンは少しだけ口元を上げた。

「それでいい。脚なんざ長けりゃ後で詰められるが、最初から短く切ったもんは戻らねえからな」

「ですよね」

「見て考えてるだけじゃなく、実際に座ってみろ。作業台に向かった時、肘がどの辺に来るかも見りゃいい」

 恒一は目の前にある大きな作業台を見た。

「今ある椅子を持ってきて比べればいいですか?」

「そうだな、まずはそうしろ。それを基準にして、低けりゃ板でも噛ませりゃいい。自分で座って確かめた方が早えぞ」

「分かりました」

 また一つ、紙の上だけで考えていたものが現物へ戻ってくる。

 寸法を決めてから作るのではなく、必要な高さそのものを身体で確かめる。当然と言えば当然なのだろう。だが、その当然を一つずつ覚えていくのが今は面白い。

 恒一は描きかけの丸椅子を見下ろした。

 最初に思い浮かべた、会社の片隅にあるパイプ椅子。そのまま同じ物を作る必要はないのだ。

 欲しいのは金属の脚ではなく、重ねて片付けられて、工房で気軽に使える椅子だ。それなら、この世界で出来る作り方を考えればいい。

「……木を曲げる、か」

 改めて呟くと、妙に胸が躍った。そんな恒一を横目で見て、ダンが呆れたように笑う。

「その顔してるってことは、やる気だな?」

「はい。やってみたいです」

「なら休憩終わったら、まず使えそうな端材見繕っとけ。いきなり椅子の脚を曲げようとすんなよ、先に練習だ。曲げ方も知らねえ奴が本番の材から触るんじゃねえ」

「ああ、そりゃそうですね」

 初めて使う加工法なのに、最初から完成品を作ろうとするのは無謀だ。

 ――まず、木を曲げてみる。

 椅子を作るための最初の一手が、椅子そのものではなく一本の木を曲げるという加工方法の試行錯誤から始まる。それが何だかとても職人らしく思えて、恒一は少しだけ楽しくなったのだった。

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