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勇者召喚に巻き込まれた一般人です。~世界最強かもしれない冒険者パーティーと出会った結果、普通が何なのか分からなくなりました~  作者: 天晴/晴夜


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60.模様替え、始めました。

中の人も部屋の片づけに追われています。

「あ、そういや親方。丁度良かった」

「何だ?」

「朝から分けてたやつ、一回見てもらえます? 勝手に捨てるなって言われてたんで、纏めておきました」

「ああ、そういや言ったな」

 ダンは外へ運び出された木箱の前まで歩く。

 朝から恒一が仕分けを続け、ノーラが加わってから更に整理された結果、今では中身も随分と分かりやすくなっていた。

「こっちは使えそうなやつです。で、こっちは俺達じゃ分からなかったやつ。あっちが、多分もう駄目かなってやつです」

「どれ」

 ダンがその場にしゃがみ込む。

 まず手を伸ばしたのは、恒一とノーラが用途を判断出来なかった箱だ。

「親方、これ何です?」

「ああ? これは――」

 古びた木製の部品を受け取り、ひっくり返す。

「あー……昔使ってた治具の一部だな」

「やっぱり治具か」

「ただ、これだけあっても使えねえぞ。本体はとっくにねえ」

「じゃあ処分?」

「だな。こっちは……何で残ってんだ、こんなもん」

 今度は錆びた金具を摘まみ上げ、そのまま処分する側へ放り込む。

「あ、それ駄目なんだ」

「錆が中まで食ってる。磨いても使いもんにならん」

「なるほど……」

 横から覗き込んでいたノーラが頷いた。

「じゃあ、こっちは?」

「それは残せ」

「同じくらい古そうだけど」

「表面が汚れてるだけだ。磨きゃ使える」

「へぇ」

 恒一も二つを見比べる。

 どちらも一見すれば古びた金具だ。だが、ダンに言われてよく見ると、確かに傷み方が違う。

「こういうのも見分けられるようにならないとなぁ……」

「そのうち嫌でも分かるようになる」

「そんなもんですか?」

「毎日見て、触ってりゃな」

 実に職人らしい答えだった。

 それからしばらく、ダンによる判定が続いた。恒一とノーラが首を傾げた物も、ダンは大抵ひと目か二目で判断していく。

「親方、これ」

「捨てろ」

「まだ何も言ってませんけど」

「顔で分かる」

 その言い様にノーラまで頷いた。

「何か『これ使えそうじゃないですか?』って顔してた」

「まだ一言も言ってないんだけどなぁ……」

「ちなみに使えねえぞ」

「あっはい」

 大人しく処分する側へ置いた。


 これで、朝から積み上がっていた確認待ちの山も随分と小さくなった。

「よし。細けえもんはこんなとこだな」

 ダンが膝へ手をついて立ち上がる。

「残すやつは後で纏めて仕舞っとけ。捨てる方は俺が処分しとく」

「分かりました」

「じゃあ次、こっち見ようぜ」

 アステルの声に振り向く。

 先ほど運び出した作業台の前で、手にした布をぱたぱたと振っていた。

「こいつ、埃落としたら思ったより綺麗だぞ」

「お、本当だ」

 近付いてみると、朝に見た時とは随分印象が違う。

 長年放置されていたせいで酷く埃を被っていたが、表面を拭いてみれば、下から現れた木材そのものは思いのほかしっかりしている。

 さすがに細かな傷や染みはある。だが、作業台として使うのであれば、その程度は問題にならない。

 恒一は天板へ手を置き、軽く体重を掛けてみた。

「ぐらつきは……少しあるかな」

「こっちの脚だ。天板との繋ぎの補強材が外れている」

 オルビスが天板の端に手を軽く置いた。

「あ、本当だ」

「直せそう?」

「これくらいならな」

 ダンも覗き込み、緩んだ箇所を確認する。

「一回締め直して、それでも駄目なら材を替えて組み直せ。天板はまだ十分使える」

「じゃあ、この作業台は続投ですね」

「おう」

 恒一は少し嬉しくなった。

 新しい作業台を作るのも面白いが、まずはここに残されていた物を手入れして引き継ぐ。それもまた悪くない。

「棚の方はどう?」

 ノーラが呼ぶ。

 こちらも双子が外へ運び出した後、埃を払い終えていた。

「一個は平気そう。こっちは下の方がちょっと怪しいかなぁ……」

「どれどれ」

 恒一とダンが近付く。

 古い棚の下部には、僅かに変色している部分があった。腐食の兆候だろう。

「……湿気ですかね」

「だろうな」

 ダンが指先で木の表面を押し、次いで軽く叩く。

「ここは駄目だ。新しい材に替える」

「全部作り直すほどじゃない?」

「ねえな。他は生きてる」

「こっちの棚は?」

「そいつはそのまま使えるな。拭いて乾かしてから、表面の蝋だけ塗り直しゃいい」

 残す物が決まれば、今度は何を直せばいいのかが見えてくる。

 朝には何から手を付ければいいのか分からないほど雑然としていた倉庫が、ようやく少しずつ整理されてきた。

「さて、窓だな」

 ダンが倉庫を振り返った。

「さっき言ってたやつ、今のうちに大きさ決めとくか」

「あ、お願いします」

 一同で倉庫へ戻る。

 中の物をほとんど外へ出したことで、朝とは比べものにならないほど広く感じた。

「何もないと結構広いな」

「物の置き方が悪かったのもあるだろう」

 オルビスの言う通りだ。

 壁際を埋めていた棚や木箱がなくなり、中央も完全に空いている。薄暗さこそ変わらないものの、これなら実際の広さも把握しやすい。

 ダンは固着した窓の前へ立つと、枠を軽く叩いた。

「こいつはもう外すとして……どのくらい欲しい?」

「そうですね……」

 恒一も隣へ立つ。

 ここで作業することを考える。

 中央には作業台。

 自然光を取り込みたいが、棚を置く場所まで潰すほど大きな窓は必要ない。

「今より一回り……いや、二回りくらい大きくてもいいかな」

「この辺までか?」

 ダンが壁へ指を当てる。

「もう少し横に広く出来ます?」

「出来るが、あんまり広げると壁側が使いづらくなるぞ」

「ああ、棚も置きたいですもんね」

 恒一は少し下がって全体を見る。

 考え始めると、また青白い光が出てきそうになる。

「……今日は頭の中だけで」

「何だそれ」

「こっちの話です」

 苦笑しつつ、今度は反対側の壁へ目を向ける。

「追加する方も、同じくらいですかね」

「揃えた方が作るのは楽だな」

「じゃあ同じ大きさで」

「高さは?」

「作業台で作業してる時に、手元へ光が入りやすいくらい……」

「なら、この辺だな」

 ダンが大まかな位置を示す。

 恒一も中央へ立って確かめてみる。

「うん。良さそうです」

「よし」

 ダンが壁をぽんと叩いた。

「明日の午後にでもやるか。午前の仕事片付けてからだが、窓枠二組作るくらいならやれる。お前も手伝えよ」

「はい。入口も一緒に見ます?」

「ああ。そっちは窓終わってからだな。まず枠の取り方考えねえと」

「分かりました」

 窓を直す。

 新しい窓を増やす。

 入口を広げる。

 作業台と棚を補修する。

 そして、それらを使いやすい場所へ配置していく。

 頭の中に、また次々とやることが浮かんでくる。

 けれど今度は、視界に光が灯る前に。

「……後で」

 恒一は自分から呟いた。

「今日は掃除」

「順調じゃん」

 アステルが笑う。

「昨日みたいになりたくないからな」

「うむ、よろしい」

「だから何でお前が先生みたいなんだよ」

 そんな軽口を交わしながら、再び外へ出る。

 やることは、まだまだある。

 けれど朝とは違って、何を残し、何を直し、次に何をするのかが随分とはっきりしてきた。

 何もなかったところへ、新しい物を一から作るわけではない。ここに残っていた物を手入れし、使える物はまた使う。足りない物だけを、新しく作る。

 そうして少しずつ。

 古い倉庫は、恒一の工房になる準備を始めていた。


 作業台の手入れは、そのままダンに見てもらいながら進めることになった。

「まず、こいつだな」

 ダンが示したのは、先ほどオルビスが見つけた脚の付け根だった。天板と脚を繋ぐ補強材の固定が緩み、一部が外れかけている。

「材そのものは生きてる。腐ってもねえし、割れもねえ。締め直しゃ十分だ」

「良かった」

 てっきり一部は新しい材へ交換することになるかと思っていたが、それなら話は早い。

 恒一はダンに教えられながら、一度緩んだ部分を確認していく。

「いきなり締めるなよ。まず歪んでねえか見ろ」

「はい」

「こっち押さえろ。そうだ。んで、脚の位置合わせてから締め直す」

「これくらいですか?」

「もうちょい。……そこだ」

 言われた通りに位置を合わせ、緩んでいた箇所を固定し直す。

 ただ力任せに締めればいいわけではない。古い材だからこそ、状態を見ながら無理を掛けないように。

 ひとつ直しては確認し、また次へ。そうして全て締め直したところで、恒一は天板へ両手を置いた。

 ぐっ、と体重を掛ける。

「お」

 先ほどまであった僅かなぐらつきが、ほとんどない。今度は少し方向を変えて押してみるが、それでもびくともしなかった。

「おお……直った」

「だから言ったろ。締め直しゃ使えるって」

 ダンは当然のように言う。

「さすが親方ですね」

「この程度で褒めんな」

 そう言いながらも、どことなく満更でもなさそうなのだから分かりやすい。

「オルビスもよくすぐに見つけたな」

 恒一が振り返ると、少し離れたところで棚の状態を見ていたオルビスが顔を上げた。

「動かした時に、そこだけ僅かにずれていたからな」

「運びながら見てたのか?」

「目に入っただけだ」

「……相変わらずよく見てるなぁ」

「大したことじゃない」

 本人にとっては、本当にそうなのだろう。

 ともあれ、これで作業台は使えるようになった。

 しかも。

「コーイチ、こっちも終わったぞ」

 アステルに呼ばれて天板へ目を向ける。

「おお……」

 思わず声が漏れた。

 朝に見た時は、埃と汚れに覆われた古びた作業台だった。

 それが今は、まるで別物だ。

 アステルが布で丁寧に拭き上げてくれた天板からは、長年の汚れに隠れていた深い飴色の木肌が現れている。

 しかも、継ぎ目の無い大きな一枚板だった。

 細かな傷や染みはいくつも残っている。刃物を当てたらしい跡もあれば、何か硬い物を落としたような小さな凹みもある。

 けれど、それらも含めて不思議と格好良かった。

「良い色だなぁ……」

 恒一は思わず掌で天板を撫でる。

 新品の木材にはない、長い時間を経た木の色だった。

「結構いい材使ってるぞ、それ」

 ダンが言う。

「そうなんですか?」

「おう。今じゃ同じ厚みで、その大きさの一枚板取ろうと思ったら、それなりにするだろうな」

「へぇ……」

 そう聞くと、ますます捨てずに済んで良かったと思う。

 誰が、いつ使っていたのかは分からない。けれど、この作業台も昔はここで何かを作るために使われていたのだろう。

 それを直して、今度は自分が使う。

「……なんか、いいな」

「何が?」

「いや。こういう、引き継いでいけるものって良いよなって」

 恒一が笑うと、アステルも口角を上げて天板を軽く叩いた。

「じゃ、せっかく直ったんだしさ」

「ん?」

「中に置いてみようぜ」

「今?」

「今」

 アステルが倉庫を見る。

「どうせ今日戻すんだろ?」

「まあ、そのつもりだけど」

「だったら一回置いてみた方が早いって。他の配置も考えやすいだろ?」

「……まあな」

 朝から何度も考えた。倉庫の中央、どの方向からでも手を入れられて、複数人でも囲める場所。

 【工房】によって何度も青白い輪郭を描いた、あの位置だ。

「よし。じゃあ持ってくか」

「待て待て、お前一人で持つなよ」

「重さは平気だって」

「アステル」

 既にオルビスが反対側へ回っていた。

「持つぞ」

「はいよ。じゃ、兄さんそっちな」

 二人がそれぞれ端を持つ。

「コーイチ、場所の指示を頼む」

「ああ」

 恒一が先に倉庫へ入った。

 中は、朝とは見違えるほど何もない。

 棚も木箱も外へ出され、床の埃も綺麗に掃き出されている。少々薄暗いのは相変わらずだが、今なら部屋全体を一目で見渡せた。

 恒一は中央まで歩く。

「……この辺だな」

「ここ?」

「ああ。もう少し――アステル側を奥に」

「これくらい?」

「もうちょい。……そこ」

「おし」

 双子が息を合わせて作業台を下ろす。

 ごとん、と重い音が小さな倉庫の中へ響いた。

「…………」

 恒一は少し離れて、全体を見る。

 中央に置かれた、飴色の作業台。

 朝には青白い線でしかなかったものが、今はそこにある。

「……おお」

「どう?」

 アステルが聞く。

「ちょっと待って……」

 入口まで戻ってみる。

 そこから材料を運んでくるつもりで、作業台まで歩く。右側へ回る。奥行きも十分で問題ない。

 反対側へ回り込み、今度は壁との距離を見る。

「……うん」

 作業台の向こう側、正面にはアステルがいた。

「二人で向かい合っても平気だな」

「余裕あるな」

 アステルが両腕を広げてみる。

「横も大丈夫そうだね!」

 丁度奥側に立っていたオルビスの向かいに、ノーラが立つ。四辺それぞれに大人が立っても十分そうだ。

 朝、自分が考えた通りだった。

 誰かと向かい合って作業が出来る。横からだって手を出せる。大きな物なら、皆で囲める。

「……うん。やっぱり、ここだな」

 恒一は満足して頷いた。

「決まり?」

「ああ。とりあえずは、ここで使ってみる」

「良いじゃん」

 アステルが笑い、作業台の天板を軽くコン、と叩いた。

 その音が、まだ何もない倉庫の中へ小さく響く。

 棚はまだ入れていない。工具も素材も置いていない。窓は固着したまま、入口だってこれから直す。

 工房と呼ぶには、まだまだ足りないものばかりだ。

 それでも、朝にはただの物置だった場所の中央に、一台の作業台が置かれた。それだけで、不思議なくらい景色が違って見えのだった。

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