47.行楽弁当の定番です。
ちょいっと短め。
皆さんは中身何が好き?
「さて」
恒一はクロムへ礼を言いながら頭をひと撫ですると、大きく伸びをした。足元の草を払って立ち上がる。
「それじゃあ、昼飯にしようか」
「ん! 待ってました!」
アステルが勢いよく手を挙げる。
「今日は朝からアレコレやったから腹減った!」
「お前は何もしなくても時間になれば減っているだろう」
「細かいことは気にしない!」
そんなやり取りを交わしながら、二人はクロムの背から旅用の鞄や諸々の荷物を下ろし、大判の敷布を手際よく広げた。大和達も、それぞれ持参した昼食の包みを取り出していく。
「コーイチ~。弁当の包みここで良いか?」
「ああ、真ん中へんに置いといて」
一緒に運んでもらっていた大きな包みを敷布の中央へ置き、結び目をほどく。
中から姿を現したのは、段を重ねた木の重箱だった。
「おお~、重箱だ」
その大きさに少し驚きながら、大和が興味深そうに覗き込む。
「工房のおかみさんに手伝ってもらってな。多めに作ってきたんだ。ちなみに、重箱は親方特製だ」
恒一は笑いながら一番上の蓋をぱかりと開けた。
その瞬間だった。
「…………」
勇者達の誰からともなく、動きが止まる。
一段目へ整然と並ぶ、白い小山。
ころんと丸いもの。
三角のもの。
俵のように細長いもの。
どれも真っ白な米で形作られていた。
「……おにぎりだ」
玲司がぽつりと呟く。
隣では、ひまりが目をきらきらと輝かせていた。
「おにぎりだぁぁ……!」
その一言だけで、四人の空気が少し変わる。
「久しぶり……」
「うん、日本にいた頃、遠足とか運動会とか、定番だったよな」
美琴が懐かしそうに微笑み、大和も思い出すように頷いた。
その向かいでは、オルビスとアステルが不思議そうに顔を見合わせている。
「おにぎり?」
「白米は分かるが、これは初めて見たな」
「持ち歩けるように米を固めたのか?」
「まぁ、見た目はそうなんだけどな」
首を傾げる二人へ、恒一は悪戯っぽく笑った。
「こいつは、ご飯の中に具が入ってるんだ」
「具?」
「そう。形ごとに中身が違うようにしてみた。丸いのはシンプルに塩と米だけの塩むすび。他の二つは……食ってからのお楽しみだ」
「おぉ……面白そうだな!」
「成る程、形で中身が見分けられるようになっているのか」
「そそ。間違えて同じのばっか当たらないようにな」
恒一が説明すると、大和達も「ああ、それ分かる」と頷いた。
「俺達の故郷では定番だったんです。家庭によって具も違いますし、遠足や行楽のお弁当にもよく入っていて」
「一口におにぎりって言っても、本当に色々あるんだよ! 梅とか昆布とか、おかかとか!」
「あと鮭もな!」
大和がすかさず続ける。
「……ツナマヨも捨て難いですね」
玲司まで真面目な顔で加わると、
「「「いや~、それ分かる!」」」
大いに盛り上がり始めた四人のその様子に、双子は思わず笑ってしまう。
「そんなに種類があるのか」
「へぇ……面白いなぁ」
二人にとっては初めて見る料理だ。
それでも、話している皆がこんなにも楽しそうなのを見れば、この料理が故郷を思い出させる特別な味なのだと自然に伝わってくる。
恒一は重箱を皆の前へ寄せた。
「じゃ、せっかくだ。皆で食べよう」
「「「「いただきます!」」」」
湖畔へ、元気な声が重なった。
久しぶりに口へ運ぶ故郷の味。
初めて出会う、新しい米料理。
同じ一つのおにぎりでも、それぞれが違う想いを胸に手を伸ばした。
オルビスがまず選んだのは、三角形のおにぎりだった。
一口かじると、真っ白なご飯の中から薄紅色のほぐし身がほろりと顔を覗かせる。
「これは……ミストリアトラウトか?」
魚の風味を確かめるようにもう一口食べてから、オルビスが恒一を見る。
「お、流石だな」
恒一は少し嬉しそうに笑った。
「実は昨日、シンさんが切り身を分けてくれたんだ。塩を振って焼いてからほぐして、中に入れてみた」
「成る程」
更に一口かじりながら、静かに頷く。
「焼いたことで余分な水分が抜けているし、塩気も効いている。旨い上に、持ち運ぶ料理としても理にかなっているな」
「そういうこと。魚の脂もご飯によく合うしな」
一方、その隣では。
がぶ、とアステルが俵型のおにぎりへ豪快にかぶり付いた。
「……んっ?!」
目を丸くしたまま、もぐもぐと口を動かす。
噛むほどに広がる甘辛い味付けと、肉の旨味。
「あ、肉だこれ! もしかして、一昨日狩ってきた岩石牛か?」
「当たり」
恒一が笑って頷く。
「この前の宴会ほどじゃなかったけど、結構な量貰ったからさ。工房の晩飯で食べきれなかった分を薄切りにして、ソイユと砂糖で甘辛く煮てみたんだ」
「あー、あれか!」
アステルは感心したように何度も頷く。
「焚き火で炙った時も旨かったけど、こっちは味が濃くて余計にご飯が消えるな……!」
言葉通り、あっという間に一つ目を平らげてしまう。
「これ、危ないぞ」
ぺろりと唇を舐めて空になった手を眺めながら、真面目な顔で呟いた。
「気付いたら何個でも食えるやつだ」
「分かる」
恒一も思わず笑う。
「おにぎり専門店なんかもあったんだけどさ。やっぱ肉系の具はこのタイプの味が多くて、性別年代問わず人気だったんだよ」
「あー、そりゃこれは人気出るだろうなぁ」
アステルは満足そうに頷きながら、早くも次のおにぎりへ視線を向けていた。
その隣では、ひまりが両手でおにぎりを両手で支えるよえに持ったまま、幸せそうに口を動かし目を細めていた。
「んんん~~!」
言葉にならない声を漏らしながら、じっくりと味わう。炊き立てとは少し違う、ほどよく締まったご飯の食感。
噛むほどに広がる米本来の甘み。
そして、中から現れる具材の旨味。
「おいしいぃ……」
ようやく絞り出したその一言には、心からの実感が込められていた。
「この感じ……久しぶり」
思わず頬が緩む。
「お弁当のおにぎりって、炊き立てとはまた違う美味しさがあるよね」
「分かる」
美琴も優しく微笑みながら頷いた。
「少し冷めることで、ご飯がしっかりして……具の味とも馴染む感じがするのよね」
「そうそう!」
大和も勢いよく頷く。
「遠足とか部活の大会とか、朝早く起きて親が作ってくれてさぁ」
「コンビニのおにぎりも美味しかったけど、やっぱり手作りは別だったな」
玲司がしみじみと呟く。
そんな四人の様子を眺めながら、オルビスとアステルもそれぞれの手にしたおにぎりを見下ろす。
「確かにこれは面白い料理だな。何が入るかで、まるで別の料理になる」
「だろ? 合いそうだと思ったら、取りあえず入れてみる。だから飽きないんだよ」
「成る程なぁ。確かにこれは、中身によって無限だよな」
アステルは大きく頷く。
「これなら旅の弁当にもぴったりだな!」
その言葉に、恒一は思わず苦笑した。
(……しまったな、この兄弟の事だから、そのうちまた斜め上の方向に走り出す気がする……)
主にアステルが。そんな予感が、妙に現実味を帯びて胸をよぎるのだった。




