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勇者召喚に巻き込まれた一般人です。~世界最強かもしれない冒険者パーティーと出会った結果、普通が何なのか分からなくなりました~  作者: 天晴/晴夜


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25/31

25.スキルというもの。

 窓から差し込む光が、紅茶の湖面でゆらゆらと揺れる。恒一は少し考え込むように、それを眺めた。

「俺にも、正直よく分からないんだ」

 ぽつりと漏らす。

「この世界へ来てから、自分のスキルは木材加工に向いてるんだろうな、って思ってた」

 ダンの工房で働き始めてからのことを思い返す。

「木目が見やすかったり、この木は加工しやすそうだ、とか。そういうのが何となく分かるようになって」

 双子が静かに頷く。

「だから、自分でも『木工向きのスキルなんだ』って納得してた。でも――」

 そこで恒一は少しだけ苦笑した。

「でも、最近少しずつ違ってきてる」

「違う?」

「前にガロンさんの保管庫を見た時も、少しだけ妙な感覚があったんだ」

 あの時は、ただ湿気が気になっただけだと思っていた。

 けれど、今日は違った。

「今日は、皆で色々話してるうちに、聞いたり考えたことが頭の中で全部が繋がっていって」

 窓の位置や、棚の造り、風の流れ方。シンの知識を、ダンの経験を。聞いて、自分で考えていた。

「……その後急に、頭の中で纏まった」

「纏まった?」

「ああ」

 言葉を選びながら続ける。

「窓はここ、棚はこう、風はこう流す……一つ一つ考えるんじゃなくて、全部を繋いだ完成形が見えた気がして」

 アステルもオルビスも真剣な表情で聞いている。

「それから」

 恒一はゆっくりと顔を上げた。

「まるで空中に直接書いたみたいに、纏めたものが光の線や文字で浮かび上がって。見えたと言うより、ここをこうしてくれ、っていう指示を書き込んだみたいな感覚だった」

 アステルがぱちぱちと瞬きを繰り返す。

 隣ではオルビスが静かに腕を組み、しばらく考えて――やがて、小さく口を開いた。

「なら」

 その声に、二人の視線が集まる。

「その指示内容が、共鳴を通してアステルへ伝わった……というのか」

 アステルは一瞬固まり、

「…………」

 数秒後。

「いやいやいや!」

 ぶんぶんと首を横へ振った。

「感情じゃない、意識そのものに"共鳴"とかしたこと無いんですけど!?」

 思わず素の口調になってしまう。

「普通は『嬉しい』とか『悲しい』とか、そういうのだぞ? 『換気口はこっちです』なんて流れてきたことないからな?!」

 その言い様に、恒一も吹き出した。

「確かに、それはちょっと“想い”じゃあなさそうだな」

「俺だってびっくりしたんだから!」

 アステルは両手を広げて大げさに肩を竦める。

「急に『はいそこ!』って響いてきたんだぞ?」

「だから、つい指差したんだ?」

「自分でもそんなの言われ……てはないけど、教えられて、そんでどうしたら良いのか分かんなかったんだって!」

 その慌てぶりがあまりにも本気だったので、悪いと思いつつもついつい笑ってしまう。

 そんな中、二人のやり取りを横で聞いていたオルビスが、小さく息をついた。

「……アステルが共鳴した内容の件は、よく分からんから一旦置いておく」

「お兄ちゃん、弟の扱いが雑ゥ!」

 即座に抗議の声が飛ぶ。だが、オルビスは気にした様子もなく話を続けた。

「重要なのは、コーイチの方だ」

 恒一へ視線を向ける。

「お前の話を聞く限り、今現在のそのスキルは」

 少しだけ考え、静かに言葉を選ぶ。

 恒一もアステルも黙って耳を傾ける。

「正解を教えるものではない、ましてや、代わりに考えるものでもない」

 恒一は、何も知らない状態から答えを得たわけではなかった。

「自身で学び」

「自身で考え」

「自身で結論へ辿り着く」

 一つずつ区切るように言う。

「その過程を整理し、形として明確化し、必要なら、他者へ共有しやすい形へ纏め上げる……そういうものなのかもしれん」

 そこで初めて、オルビスは少しだけ口元を緩めた。

 恒一は思わず息を呑む。言われてみれば、その通りだった。

 あの視界に広がったものは、何一つ知らないことを唐突に知ったわけではない。皆の話を聞き、自分で考え、その結果行き着いた答えが"見える形"になっていただけなのだ。

「指示書や、設計図みたいなもの……?」

 恒一が呟く。

「近い」

 オルビスは頷いた。

「頭の中で完成した設計図を、お前自身が強く思い描いた。その"完成した形"へ、アステルの共鳴が触れた――仮説だが、な」

 三人の間に、しばしの沈黙が落ちる。

 誰も断言はできない。

 それでも今ある情報を並べるなら、その仮説が最も自然だった。

 やがてアステルが、ぽりぽりと頬を掻きながら言った。

「……つまり俺、コーイチの頭の中の設計図に共鳴したってこと?」

「そう考えるのが、一番辻褄は合う」

「そんなことある?」

「俺も初めて聞いた」

 兄弟は顔を見合わせる。

 そして、ほぼ同時に恒一へ視線を向けた。

 その目は、不思議そうでもあり、どこか嬉しそうでもあった。

 また一つ。

 誰も知らなかった"可能性"を、三人で見つけてしまったのだから。


「……ていうか」

 しばらく考え込んでいたアステルが、不意に顔を上げた。

「コーイチさ」

「ん?」

「最初に適正スキル、見たんだろ?」

「ああ」

 王城へ召喚された直後。

 あの水晶へ手を置き、自分は【工作】という適正を授かった。だから木工の仕事にも、不思議と納得できていたのだ。

「でも、それに無かったものが、今は見えてきてる」

 アステルは腕を組み、小さく首を傾げる。

「……それってさ。スキル自体が、変化なり何なりしてるってことじゃないか?」

 その一言に、恒一は思わず目を瞬かせた。

「変化?」

「冒険者界隈じゃ、スキルってそこそこ知られてる話なんだ」

 アステルは説明を続ける。

「魔導師なら魔法の種類や属性の適正。戦士系なら剣とか槍とかの自分に向いてる武器や、剣士なのか格闘家なのかみたいな職種(ジョブ)だな。そういうのは、ギルドの適正判断用の水晶である程度分かるよ」

「そうなのか」

 恒一は初めて聞く話だった。

「俺達も昔、冒険者登録する時に一応見てもらってる。俺の場合なら、剣とか魔法の適正が出てた」

「もっとも」

 隣のオルビスが静かに補足する。

「共鳴や残響は表示されない。俺達にとっては、あれは体質のようなものだからな」

「うん、だから水晶に出るのは、あくまで一般的な適正だけ」

 恒一はなるほど、と頷いた。双子の能力は、スキルとは別物なのだ。

「元々持っていた適性が、それを磨くことで後から開花するパターンはよくある。先日の勇者達のようにな」

 恒一の脳裏へ、大和達の姿が浮かぶ。

 召喚された高校生達も、最初から戦えたわけではない。今は訓練を重ね、経験を積み、少しずつ力を伸ばしている段階。それは自然な成長だ。

「だが……」

 そこまで言うと、オルビスは静かに首を横へ振った。

「スキルそのものの性質が変化するなど、聞いたことが無い」

 沈黙が落ちる。

 アステルも腕を組んだまま唸った。

「例えば……剣の鍛練してたら敵の動きが読めるようになりました、とか。頑張って使いまくってたら火魔法が更に上手くなった、とか。……そういう話なら聞くんだけどなぁ」

「【剣】が【槍】になりました、【火魔法】が急に【水魔法】になりました、等という話は知らん」

「それは確かに別物だな」

「だろ? だから余計に気になるんだよ」

 オルビスはゆっくりと紅茶を飲み干す。

 カップを静かにソーサーへ戻すと、恒一へ視線を向けた。

「確認する方法は、一つある」

「……ギルドか」

 アステルがすぐに察したように言う。

「コーイチが触れたのと同じ、適正判断の水晶」

「ああ」

 オルビスは頷く。

「もう一度、見てもらうべきだろう」

 その一言で、三人の考えは一致した。

 今起きている変化が何なのか。まずは、それを確かめる必要がある。

「ただ……」

 アステルが空になったカップへ紅茶のおかわりを注ぎながら、ぽつりと呟いた。

「これはもう、本当に勘でしかないんだけどな」

 湯気の立つカップを眺めながら、小さく首を傾げる。

「コーイチのスキルさ」

「うん」

「まだ完全に"変わった"ってところまでは行ってない気がする」

 恒一とオルビスが同時にアステルを見る。

「変わってない?」

「いや、変わり始めてるというか?」

 アステルは少し困ったように笑った。

「上手く言えないんだけど。何か……途中なんだ」

 言葉を探すように指先でカップの縁をなぞる。

「本当に勘だから、適正判断してみないと何とも言えない。でも」

 小さく息を吐く。

「まだ"完成"じゃない気がするんだよ」

 恒一は首を傾げた。

「完成じゃない?」

「うん」

 アステルは何度も頷く。

「例えば芽が出る前とか、あと少しで殻を破る、とか。そんな感じ? だから今は『変わった』じゃなくて『変わりかけてる』ところ」

 自分でも説明しづらいらしく、苦笑いを浮かべる。

 だが、続く言葉は迷いなく口にした。

「あと一歩、そこまで来てる」

 静かな店内で、その言葉だけが不思議とはっきり響いた気がした。

 オルビスはしばらく考え込んでいたが、やがて静かに頷く。

「……確かに。俺も同じ印象だ」

 恒一は顔を上げる。

「コーイチの話を聞く限り、スキルは既に変化を始めていると見て良い。だが、まだ決定的な何かが足りない」

 ふと、自分の掌を見つめた。

 ――【工作】。

 その力は確かに変わり始めている。

 けれど、それが何へ向かっているのかまでは、自分にも分からない。

「なら」

 アステルがぱん、と両手を合わせる。

「今すぐギルド行っても、多分まだ何も変わってないと思うぞ」

「え?」

「だって"あと一歩"だからな」

 あっけらかんと言う。

「今見ても【工作】のままか、何か引っ掛かる程度じゃないかな。……だからさ」

 そう言って明るく笑い掛ける。

「保管庫、ちゃんと直そう」

 目の前にある課題。皆が協力してやろうとしていること。


「最後までやって」

「ガロンさんが笑って」

「『良かった』って思えた時」

「その時、本当に変わる気がする」


 アステル自身が言うように、根拠はない。理屈でもない。それでも、その言葉には不思議な説得力があった。

 共鳴の力を持つ彼の"勘"は、これまで何度も人を助けてきたのだから。

「……そうだな」

 恒一は小さく笑った。

「今は考えても答えは出ないし、まずは目の前の目標だな」

 カップへ残っていた紅茶を飲み干す。

「今やれることを、しっかりやろう」

 その言葉に、オルビスも静かに頷く。

「結果を見てからでも遅くはない」

 少し重かった空気が、ふっと和らぐ。アステルも安心したように笑った。

「よし、じゃあ明日から改装準備だな」

「そうだな」

 恒一も自然と笑みを返す。

 皆で考え、皆で作る。

 その方が、きっと良いものになる。


 そんなことを考えながら、ふと口をついて出た。

「いっそ、扇風機でもあればもっと良いんだけどなぁ」

「センプーキ?」

 アステルが首を傾げる。

 オルビスも聞き慣れない言葉だったらしく、静かに恒一を見る。

「ああ」

 恒一は苦笑した。

「俺の故郷には魔法は無いけど、『電気』とか『科学』っていう技術があってさ」

 二人は興味深そうに耳を傾ける。

「扇風機っていうのは、丸く並べた羽根をぐるぐる回して風を起こす道具なんだ」

「羽根を回す?」

「そう」

 恒一は指先で円を描きながら説明する。

「風を送るためだけの機械だよ。夏なんかは結構お世話になったなぁ」

「……風」

 アステルがぽつりと呟く。

 そのまま人差し指を顎へ当て、小さく考え込んだ。

「それ」

 一拍置いて顔を上げる。

「魔石で出来ないか?」

「……魔石?」

 恒一は思わず聞き返した。

 また知らない単語だった。

 けれど。

 そろそろ恒一にも解ってきた。アステルがこういう顔をする時は、大抵ろくでもない──いや、とんでもなく面白い話になる、と。

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