OL時代 その1
さらに何年かが経ち、愛子ちゃんは社会に出て、就職する事になりました。
もちろん、その頃には石田さんとは、奥さんに不倫がばれ、すったもんだの挙句に、別れていました。
正直、彼女の大学での成績は遊んでいたせいで、あまり良くなかったのですが、就職活動を頑張り、なんとか希望していた、大きな広告代理店に、就職する事が出来ました。
愛子ちゃんは、その会社で、営業職としてバリバリ働こうと思ったのですが、若い女の子では、取引先に信頼されないとの理由で、結局は、受付嬢の仕事をする事になりました。
受付嬢の仕事は、単調で退屈でしたが、大企業だけあって、お給料はまあまあだったので、愛子ちゃんは我慢する事にしました。
隣にいる同僚と、接客の合間にお喋りをしたり、ランチの時に、同世代の仲間たちと、噂話に花を咲かせるのが、この時期の愛子ちゃんの楽しみでした。
話の内容は、上司の悪口とか、恋バナがほとんどでした。
愛子ちゃんは、たまには真面目な話もしたかったのですが、世界情勢や社会問題など、深刻な話をすると、他の女の子に引かれました。
当時は難しい事は考えず、飄々と楽しくスマートに生きるのが、カッコいい生き方とされていました。
物事を真面目に考えたり、それについて議論する事は、意味が無いし、ダサいと思われていたのです。
何故なら、社会全体を支配する、重苦しい現実を前にして、それらの理想論や異議申し立ては、まったくの無力だったからです。
ですから若者たちは、冷徹で残酷な現実から逃避し、距離を置いて、達観するしかなかったのでした。
もし、社会に対してまともに向かい合えば、自分自身も、その深い闇に取り込まれる事が、何となく解っていたのです。
そして、その態度の根本には、世界の現状や人類の歴史に対する、深い絶望と諦念の気持ちがありました。
さて、愛子ちゃんは、その後も何年か、受付嬢を続けたのですが、段々と飽きて来て、そろそろ、いい人を見つけて、寿退社したいなーなどと、考えるようになっていました。
その為、社員同士で催されるコンパとかにも、積極的に参加していたのです。
しかし、その矢先、とんでもない出来事が、愛子ちゃんを襲いました。
なんと、会社を、リストラされてしまったのです。
愛子ちゃんの会社は、テレビ番組や映画の制作に携わる、大手の広告代理店なのですが、度重なる不祥事と景気の悪化により、業績が急激に悪化してしまいました。
会社は、本社ビルを、売却しなければならないほど追い詰められており、ついに、社員のリストラに踏み切ったのでした。
上司から、その通告を受けた愛子ちゃんは、目の前が真っ暗になりました。
まったく、なんという世の中でしょう。
一寸先は闇とは、この事です。
こんな不安定な世の中で、本当に幸せになれる人がいるのでしょうか?
ともあれ愛子ちゃんは、僅かな退職金を手にして、会社を去らねばなりませんでした。
その後、彼女はすぐに、また就職活動を始めたのですが、中々、上手くいきませんでした。
世の中全体が不況でしたし、中途採用に対して企業は、あまり乗り気では無かったのです。
とりあえず、失業保険とコンビニの臨時バイトで、糊口をしのいだものの、このままでは、就職時に調子に乗って買った、マンションのローンも支払えなくなってしまいます。
追い詰められた愛子ちゃんは、いっそのこと、しばらく連絡を取っていない実家に、帰ろうかと思いました。
そんなおり、意外な人物から、一本の電話がかかってきたのです。
それは大学進学後、疎遠になっていた、高校時代の親友、優ちゃんからでした。
彼女は、友人経由で、愛子ちゃんが失業したのを聞きつけ、電話して来たのです。
優ちゃんは愛子ちゃんに、良かったら、自分の作った会社で働かないかと、提案してきました。
優ちゃんは大学卒業後、在学中に入っていたサークル仲間数人と一緒に、小さな有限会社を、立ち上げたといいます。
その会社は、様々なクリエイターや有志の企業と協力し、独自の商品を開発して、その利益の一部を、途上国の恵まれない子供達に還元するという、ちょっと特殊な目的の為に、作られていました。
愛子ちゃんは、どうしようかと迷いましたが、その会社は労働条件も良く、お給料も、前の会社ほどではありませんでしたが、そこそこ、もらえるようでした。
とりあえず彼女は、優ちゃんの会社で、働いてみる事にしたのです。
[続く]




