学生時代 その2
それから、また少し時は流れ、愛子ちゃんは大学生になりました。
親友の優ちゃんとは、学校が別々になってしまいましたが、愛子ちゃんは、大学生活を謳歌していました。
大学では、あまりたくさん勉強をする必要がなかったので、愛子ちゃんは、毎日友達と遊んでいました。
実家から離れて、一人暮らしをしていたので、門限は無く、愛子ちゃんは、朝な夕なと、遊び呆けていたのでした。
カラオケにコンパ、スキーや旅行にも、いっぱい行きました。
もちろん、男の子とも、何人かと付き合いましたが、彼らは、総じてお金が無く、それが愛子ちゃんには不満でした。
デートの時、割り勘だったり、たまに奢ってくれても、吉野家の牛丼だったり、100円マックだったからです。
そこで愛子ちゃんは、お金のある、年上の会社員のおじさんと、付き合う事にしました。
特に、大学3年の春に、インターネットで知り合った石田さんは、妻子持ちでしたが、大変、気前が良く、愛子ちゃんの好きなものを、なんでも買ってくれたので、彼女のお気に入りでした。
愛子ちゃんの、小さな部屋のタンスは、たちまち、ブランド品の服やバッグで、あふれかえりました。
そんなある日、愛子ちゃんが街角で、石田さんとデートの待ち合わせをしていると、近くで何人かの若い人が、街宣活動をしているのを目にしました。
彼らは、プラカードを掲げ、チラシを配って、道行く人々に、懸命に呼びかけていました。
「アフリカの、貧しい子供たちに給食を!」
「学校に通えない、子供がいます。どうか、寄付をお願いします!」
どうやら、途上国の貧しい子供たちの為に、寄付をつのる団体の様です。
愛子ちゃんは、彼らのその様子を見て、なんか変な事をしてるなーと思いました。
遠く離れた国の子供など、自分たちの幸せには、何の関係もありません。
その子たちが貧しいのは、こちらのせいではないし、第一、ちょっと寄付を集めたくらいで、問題が解決するとはとても思えません。
そんな無駄な事をするより、まず自分が一番幸せになる方法を、考えるべきなのです。
愛子ちゃんには、こんな風に、自らの貴重な時間とエネルギーを浪費している彼らが、すごく愚かで偽善的に見えました。
きっと自己満足して、優越感に浸りたいのだろうと、愛子ちゃんは思いました。
そんな風に、その団体を冷たい視線で見ていた愛子ちゃんでしたが、ふと彼等の中に、見知った人がいる事に気づきます。
それは、かって愛子ちゃんが、告白を断った、高校時代の同級生でした。
そう、あの良夫くんだったのです。
愛子ちゃんは、どうしようかなと思いましたが、石田さんとの待ち合わせ時間まで、少し間があったので、彼に、声をかけてみることにしました。
声を張り上げて寄付をつのる、良夫くんの背後に近づいて、そっと声をかけます。
「久しぶり。何してるの?」
良夫くんは、一瞬ビクッとなってから、後ろを振り返りました。
そして、すっかりギャルと化した、愛子ちゃんを見つめます。
良夫くんは、すぐに彼女が愛子ちゃんだと気付き、顔を赤くしながら、返事をしました。
「やぁ、ひ、久しぶり・・・。大学のサークル活動なんだ。恵まれない、外国の子供たちの為の。きょ、興味ある?」
愛子ちゃんは、フンッと鼻を鳴らして、言いました。
「全くないわ」
良夫くんは、オドオドと言いました。
「そうー。で、でも彼等にも、幸せになる権利があるはずだよ。そう思わない?」
愛子ちゅんは、肩をすくめます。
「それはそうかもしれないけど、わたし達には関係ないでしょ。なんで、他人にかまうの?そんなの偽善だわ。理解できない。そんな暇があったら、自分の楽しみの為に、時間を使うわ」
良夫くんは、悲しげに首を振ります。
そして今までとは違い、はっきりとした口調で、言いました。
「君には、ピンとこないかもしれないけど、地球の裏側にいる人だって、本当は僕らと等しい存在なんだ。関係ないようで、つながっている。同級生みたいなもんだ。昔の僕と君みたいにね。例え、ほとんどの生徒が幸せでも、もしたった一人でも、いじめで苦しんでる生徒がいるとしたら、果たして、その教室は、いいクラスだと言えるだろうか?」
大学で遊び呆けている愛子ちゃんと、様々な国際協力や海外活動を通じて、自分の視野を広げている良夫くんとでは、世界に対する認識に、大きなズレがありました。
愛子ちゃんは、押し黙ってしまいました。
「・・・」
その時、愛子ちゃんの背後から、クラクションの音が聞こえてきました。
愛子ちゃんが振り返ると、付近の車道に、石田さんの車が止まっていました。
車の中から、石田さんが手を振っています。
「あ、あたし行かなきゃ。それじゃね」
愛子ちゃんは、そそくさと良夫くんに背を向けて、その場を立ち去ります。
そして、ガードレール脇に止まっている、石田さんの車の方へ、スカートを翻しながら、走って行きました。
彼女が、一度だけ後ろを振り返ると、チラシの束を抱えた良夫くんが、こちらをじっと見ています。
なんだかもっさりして、「くまさん」みたいだなと、愛子ちゃんは思いました。
男性の運転する車に同乗した、愛子ちゃんを見送った良夫くんは、フウッと溜息をつきました。
そんな良夫くんに、背後から声をかける、女性がいました。
「ねぇ、今の愛子じゃない?」
それは、高校時代に愛子ちゃんの親友だった、優ちゃんでした。
彼女は、良夫くんと同じ大学に進学し、サークル活動も一緒だったのです。
今日も、良夫くんとは少し離れた場所で、寄付活動をしていたのですが、彼が愛子ちゃんと話しているのを見つけ、気になって近づいて来たのです。
もっとも、その時には、愛子ちゃんは、車で立ち去った後でしたが。
「もしかして、また振られたの?」
優ちゃんが、からかう様な口調で尋ねます。
「そうかもね」
愛子ちゃんを乗せた車が、走り去った方向を見つめながら、良夫くんは、ボソッとつぶやきました。
[続く]




