帝都
アジミール王国との開戦から3ヶ月。
季節は廻り、冬になる。
雪が降る中、ミルガルド軍の侵攻は続いた。
この3ヶ月で、ミルガルド軍はアザードを占領。
更に北上し、王都に次ぐ大都市バサルーダを攻略。占領下に置く。
この時、すでにクセルセスが新国王を宣言。停戦命令を発していた。
しかし、指揮系統の取れない前線に命令は行き届かなかった。
そして、ミルガルド軍は王都イスファンに向け進軍を開始。
アジミール軍はここまでに、6割の兵力を失っていた。
ミルガルド軍6万が迫る中、王都を守るアジミール軍は1万5千。
指揮を取るのは、将軍カルサス。
「ミルガルド軍が侵攻を開始しました。王都まで3日の距離です」
「カルサス、私の停戦命令が行き届かなかった。最悪の状況だ」
「前線の部隊は魔族の策謀に乗せられ、ミルガルド軍に攻め込んでしまいました。申し訳御座いません」
「カルサス。お前の責任ではない」
「この王都でミルガルド軍を撃退し、停戦交渉に持ち込む事が出来れば」
「カルサス。本心で言っているのか。相手は帝国さえ躊躇する強国だ。意気込みだけでは勝てぬ」
「しかし、このままでは」
「そうだ。このままでは王都を守り切れん。王都が落ちれば、もう反撃は無理だ。我が王国は崩壊する」
「帝国が援軍を申し出て来ていると、お聞き致しました。帝国の手を借り得れば、ミルガルド軍を押し返す事も可能かと」
「そして、帝国の支配されるのか」
「そ、そんな」
「ミルガルドを追い出し、我が王国を手に入れるつもりだ」
「しかし・・・」
「あの欲深い皇帝の事だ。適当な理由を付けて軍を動かす。我が領土を拠点に、あわよくばミルガルドをも奪い取るつもりであろう」
「そんな・・・」
「ミルガルドに滅ぼされるか、帝国に支配されるか。どちらにしても我が王国は滅亡する」
「しかし、帝国がそこまでするのでしょうか」
「する。あの皇帝はそういう男だ。防ぐには速やかな停戦とミルガルドとの交渉しかない。しかし・・・」
クセルセスは頭を抱える。
「我が王家はミルガルド王家と長年争っていた。王都まで攻め込まれた今、対等な交渉などに応じてはもらえん。どうすればよいのだ、私は・・・」
苦悩する、クセルセス国王であった。
その頃、アリスト達はキルディア帝国帝都ベオグラードにいた。
「今日は、ここまでにしよう」
「すみません、アリスト様」
「アリューシュ、仕方ないさ。転移魔法は、魔力も精神力も負担が大きい」
「そうだぜ、無理はダメだぜ。俺達は色んな町に滞在出来て、楽しんでいるからよ」
「ベイル。ありがとう」
ドランの戦後処理で時間を要したが、転移魔法でエルフの国を目指す事にした。
やはり不毛地帯は魔素と瘴気が濃い為、転移魔法が上手く発動しない。
王国内の転移魔法も地形的に、長い転移は不毛地帯の影響を受けてしまう。
短い転移を繰り返し、アジミールの王都まではたどり着いた。
俺の転移魔法なら全員一度に転移出来る。
だが、転移は自身が行った事のある場所にしか行けない。
その為、俺を連れアリューシュが転移する。
戻り、俺の転移魔法で全員転移する。
この繰り返しで帝国まで来た。
しかし、この方法はアリューシュの負担が大きい。
なので、一日で多くは使いたくはない。
徒歩や馬車で移動できる時は、極力使う事にしている。
「さすが人族一の大国だ。デカい建物ばかりだな」
「凄いな。私もこんな町、初めてだよ」
ベイルとレイラは大はしゃぎだ。
「クルーシ、あの店のドレス、綺麗だよ」
「まぁ~本当だわ。見たことの無いデザインね。きれ~い」
クルーシも大はしゃぎだった。
「それにしてもよ、お前の銅像がないな。アリスト」
「本当ね。今まではどの町にもあったのに」
「ベイル、クルーシ。それは、皇帝一族がアリスト様を嫌うクズだからですわ」
おい、アリューシュ。帝都のど真ん中で皇帝をクズ呼ばわりとは。
「お~、なるほどな。アリストを嫌うなんて、クズだな」
「なんだ、クズの国か。はしゃいで損したね、クルーシ」
「ホント、クズの国らしく品の無い町だわ」
何だ、この変わりようは。
まぁ、嬉しくなくもない。
「なぁ。今、戦争しようとしている国の中心にいるんだぞ。緊張感を持てよ」
「アリスト様。冷たい様ですが私、人族の争いには興味がありませんの」
アリューシュは涼しい顔で、町を眺めている。
「国同士の事は、俺達じゃどうにもならない。戦争は悲しい事だけどよ」
「だよね、ベイル。私達で戦争を止める、なんて出来ないしね」
「レイラの言う通りだわ。だけど、魔族の仕業だとギルドから報告しているのでしょ。それを利用するなんて、酷い話だわ」
確かに、その通りだが。
「帝国は長年、ミルガルドを敵視していましたわ。帝国にとっては、絶好の機会なのでしょう。10年前は帝国が参戦する前に、終わってしまいましたから」
「アリューシュ、詳しいのね」
「クルーシ。私、エルフですのよ」
「そうだったわね。流石、長寿の種族ね」
「年齢は聞かないで下さいまし。これでも気にしているのですよ」
アリューシュは恥ずかしそうにはにかんだ。
「私達には目的がありますのよ。それに、敵は魔族と魔物ですわ」
「そうだな、アリューシュ。俺達は冒険者だからな」
「その通りだぜ、アリスト。先ずは腹ごしらえだ」
ベイルが一軒の店を指さす。
「皇帝はクズだが、食い物は別だな。美味そうな物が沢山あるぜ」
ベイルに引かれて、見た目の立派な飲食店で帝国料理を満喫した。
翌日、情報を得る為、冒険者ギルドに行くことにした。
この帝都には、冒険者ギルドの本部がある。
アジミールの町で貰った冒険者証なら、帝国でも怪しまれない。
まぁ、オルオニスかグライム辺りが連絡しているだろう。
帝都の中心街の一画に、冒険者ギルド本部がある。
流石に本部だけあって、立派な建物だ。
中も広く、多くの冒険者で賑わっている。
人族同士の争いなど魔物には関係無い様だ。
掲示板には多くの討伐依頼が張り出されている。
「賑わっているな。強そうなのが結構いるぜ」
「あら、ベイル。あなた達より強い方は、ここにはいませんわ」
「アリューシュ、褒めすぎだぜ」
嬉しそうな顔で照れるベイル。
「まずは、近況の情報が欲しいな」
「私に任せなよ、アリスト」
レイラはニコっと微笑んだ。
「受付嬢は口が堅いからね。アイツ等がいいかも」
レイラがベテランらしい冒険者に近づいていく。
「ハーイ。お兄さん達、景気良さそうね。もしかして高ランク冒険者かい」
髪をかき上げながら声をかけるレイラ。
「ねぇちゃん、新顔かい」
「帝都には来たばかりでさ、色々教えてくれないかしら。うふっ」
「なんだよ。俺達で良ければ、色々教えてやるぜ」
「あ~ん。ありがとう」
レイラの破壊力抜群の笑顔が炸裂。
冒険者達は、あっという間に鼻の下が伸びた。
凄い。完璧な魅了攻撃(色仕掛け)
「さすがレイラね。見事だわ」
クルーシは当然と言う顔で、頷いている。
しばらくして、レイラが戻って来た。
冒険者達は残念そうにレイラを見て「くそ、男入りのパーティーか」とか「仲間にしたかったな」などと言っている。
「ホント、単純な男が多い事」
レイラは涼しい顔だ。
アリューシュも深く頷いている。
レイラの聞いた情報によれば、帝国は戦争の介入を決定した様だ。
近日中にアジミール王国に援軍と称して、進軍を開始する。
狙いはアジミール王国の実質支配だと、噂になっているらしい。
ただ、帝国の西に隣接する王国が不穏な動きをしているそうで、西側の町々は警戒を強めている。
強国ミルガルドに対するため、アジミール国境周辺の町々から多くの兵士が徴収された。
そうした事情があり、町の防衛が手薄になり魔物討伐が追い付かないと言う事だ。
しかも最近、帰らずの森の中央にそびえる魔の山に大物が現れた。
魔物が活性化し、被害が増えている。
討伐隊が組まれ向かったが、帰ってこないと言う事だった。
「まぁ、戦争が起きると魔物が活性化する。昔から言われる事だな」
「そうなのか、ベイル」
「ああ、10年前もそうだったしな」
戦争と言う狂気と、屍から生じる瘴気が魔物を刺激するのだろうか。
「それに、ボス的な魔物が現れたのでしょう。二つ重なれば、そうなるね」
レイラも納得している。
アリューシュも頷いた。
そこに、男が飛び込んで来た。
「おい!グランドマスターはいるか!討伐隊が一人戻って来たぞ」
ギルド内は騒然となり、受付嬢が慌てて奥に駆け込んで行った。
なんだか、日が悪かった様な気がして来た。




