死の淵からの生還
私は銀翼の大剣、リーダーのラフェス。
公爵家の次男なのだ。
家は兄が継ぐ。
私は堅苦しい貴族より、自由と剣を選んだのだ。
私は剣の才能があった。
15の時には王国騎士団長と互角であった。
冒険者になり、頂点を極めるのも時間の問題のハズだった。
しか~し!
何なのだ。あのアリストとアリューシュとは。
明らかに、私より強いではないか。
まぁ、アリューシュはエルフ。何百年も生きている。
仕方がないと思う事にしよう。
だが、アリストは何なのだ。
私より若いのに、遥かに強い。
ズルい。ズルいぞ!
王国最強の剣士は私のハズなのだ。
仕方ないな。あの男は別次元だぞ。
ローゼル。お前・・・
諦めななさい。あの剣を越えるのは、
難しいわよ。
アルティア。お前まで。
・・・・師匠と仰ぎ、教えを乞うのか・・・
私のプライドが・・・・・
アリストーーーーーー
お前の剣を、教えてくれーーーーーーー
何だ、いきなり
・・・・・・・・イヤだ。めんどくさい。
がーーーーーーーん
アリューシュの呼吸は浅い。
焼かれた左肩から、黒い線が亀裂の様に身体に広がっている。
雷撃では焼き尽くせなかった。身体の感覚が無くなって来たわ。
魔力を巡らせ、防ぐ事も出来ないわね。
「もう・・・終わりかしら」
視界の端に、アリストのアブソリュート・ゼロが見えた。
美しい魔法ですわ。
もう、見られなくなるのは寂しいですわね。
視界が薄れていく中、頬に温かい物を感じた。
「た・・・ま」
視界にタマが飛び込んで来た。次いで、クルーシの叫び声が聞こえる。
「アリューシュ!しっかりして」
「クルーシ・・・来てくれ・・た・・のね」
「喋ってはだめよ。今、治癒魔法を」
クルーシの治癒魔法が無効化された。
「なに、これ。魔法が無効化された。タマ!どうしたらいいの」
タマがアリューシュの傷口を咥え、微弱の雷撃を流し始めた。
アリューシュの身体に広がっていく、黒い亀裂が止まった。
「タマ、凄いわ。頑張って」
クルーシはタマに自身の魔力を流し込む。
「私の魔力も使って。もう少し頑張るのよ。アリスト来れば何とかしてくれるわ、タマ」
アリューシュの苦し気な表情は、幾分か和らぐ。
私もタマも、それほど魔力は残っていないわ。
アリスト。早く、助けて。
アリストの視界の端に、瀕死のアリューシュが映った。
タマとクルーシが必死の表情で魔力を放出している。
その時、魂を覆っていた黒い何かが消えていく。
無くしていた感情が戻る。
「アリューシュ!」
アリューシュの元に駆け寄ると、クルーシが半べその顔で叫ぶ。
「アリスト、早く。アリューシュが死んでしまうわ」
アリューシュの命の火が消えかけている。
アドラーズは呪詛魔法だと言った。
残る魔力を魔法に集中させる。
「ディ・スペル」
アリューシュの身体が光輝き、悪霊の様な黒い影が抜けていった。
身体の黒い亀裂の様な線も消えていく。
「クルーシ、タマ・・・アリスト様・・・」
アリューシュの呪詛は解除され、苦痛から解放された。
タマはアリューシュに寄り添い、ゴロゴロと喉を鳴らし始めた。
「アリューシュ。よく頑張ったな。しばらく休んでいろ」
「でも・・・」
「大丈夫だ。後はベイル達がやってくれるさ。な、クルーシ」
「ええ。私達、仲間にまかせなさい」
クルーシは涙を浮かべ、満面の笑みで答えた。
「レイラ、アリューシュはどうだ」
「わからないわよ。目の前の魔族で、手一杯よ」
「だよな」
ベイルもレイラも、魔族との激闘の最中だ。
「だいたいよ、騎士も兵士も・・・おっと」
魔族の魔力弾がベイルの顔をかすめる。
「弱すぎだろうが。それとも魔族が強すぎるのか」
ベイルの戦斧が魔族の腕を斬り落とす。
「文句を言わない。きっと両方だよ」
レイラの剣が魔族に突き刺さる。
「クソ、あと何体いるのさ」
魔族が兵士を振り回し投げつけた。レイラに衝突し、覆い被さる。
「あっ」
衝撃で右腕が折れ、剣が飛ばされた。
「レイラ!」
駆け寄るベイルより先に、魔族の手がレイラに迫る。
兵士の重みで動けない。
まずい、殺られる。
そう覚悟した時、眼前の魔族が切り裂かれた。
「大丈夫か、レイラ」
「アリスト・・・」
「遅くなった。間一髪だったな」
「助かったよ。アリスト」
「お前、腕が。俺は魔力切れだ。腕は治癒魔法士に頼もう」
ベリルが駆け寄り、魔族の攻撃を防ぐ。
「アリスト、おせーよ。アリューシュは助かったのか」
「安心しろ、ベイル。アリューシュは大丈夫だ」
喜ぶベイル。
「じゃ、早く魔族を片付けようぜ」
「ああ、そうしよう」
レイラがふらつきながら起き上がる。
「アリスト、魔力切れで良く動けるわね」
「そういう修練を積んで来たのでな」
「普通は動けなくなるか、下手したら死ぬのよ」
「そうらしいいな」
「フフッ。アリストだしね。それが普通なのね」
「何言っている。治癒魔法士の所に行くぞ」
「まだ、戦えるよ」
レイラはふらついた身体で剣を拾う。
「レイラ、俺達に任せろ。仲間だろ」
「アリスト、だけど」
「任せろ、レイラ。リーダの俺に」
ベイルがドヤ顔で言った。
「分かったよ、リーダー」
「リーダー、しばらく頼むぞ」
「お、おう。任された」
ベイルは照れていた。
戦闘中だぞ、リーダー。
レイラを治癒魔法士に預け戦場に戻ると、遅れて来た冒険者達が戦線に加わっていた。
銀翼の大剣、氷の刃、白亜の剣の活躍は目を引く物が在った。
騎士や兵士の士気が上がり、戦況が好転する。
特にラフェスと、それに張り合うベイル。2人の活躍は、飛びぬけていた。
騎士団長や兵士長に引けを取らない。
魔族は討ち減らされ、勝敗は決しようとしている。
しかし、残っている魔族の抵抗は激しさを増す。
魔族の巨大な腕がラフェスを襲う。
かろうじて防いだラフェスは弾かれ、体制を崩した。
そこに、ダーク・ブラストが放たれた。
ディーナが叫ぶ。
「ラフェス!」
体制の崩れた体が反応しない。
しまった。
そう思った刹那、アリストが目の前に現れた。
アリストの剣が魔力砲を斬り裂く。
大地を蹴り、瞬足で魔族の首を跳ねた。
「アリスト。助かった。だが、あの魔法も斬れるのか」
ラフェスは安堵し、驚いた。
「なんだ、斬れないのですか」
からかう様な笑みを浮かべる、アリスト。
「フン、相変わらず常識外なヤツだ」
ラフェスは軽い笑みを浮かべ、剣を握り締めた。
「流石、私のライバルだ。疾風光斬!」
光の線が魔族を斬り刻む。
「誰の事ですか」
「気にするな。独り言だ」
アリストに並び、魔族に向かって走るラフェス。
「お~い。俺を忘れているぞ」
ベイルが割り込んで来た。
思わず笑うアリスト。
「だよな」
3人が魔族をなぎ倒していく。
城壁中央城砦の戦いは、人族の勝利で幕を閉じる。
多くの犠牲を出して。
城砦の東西に迫っていた魔族も撃退され、ドランの脅威は去った。
アジニールとの国境、ベラジーンの砦。
ミルガルド軍は砦から打って出た。
指揮系統を失っているアジミール軍の崩壊は、時間の問題だった。
数時間で雌雄は決した。
「ロニエス殿下、ご無事ですか」
「セルギス、お前も無事で何よりだね」
「しかし、部下に多大な犠牲が・・・」
「そうか。犠牲は大きいけど、魔族2体は倒しせたね」
ロニエスは周囲を見渡す。
ミルガルド軍は、陣形を組み直している。
「予定通り、このまま進軍するよ」
「ロニエス殿下、魔族の脅威も考慮しませんと」
「大丈夫さ。魔族はもういないよ」
ロニエスは考える。
魔族は人族同士を争わせ、弱らせるつもりだろう。
ならば、アジミール国内に進軍して・・・どこまで攻める。
侵攻軍を排除して、そこで手打ちするのか。
それとも王都を包囲、陥落させる。アジミールを滅ぼすか。
だが、アジミール友好国のキルディア帝国。
今の皇帝は、好戦的な野心家だ。
我が王国の進軍を黙って見ている訳が無い。
帝国とも戦うのか。
魔族はどう動く。
自軍を見つめ、ロニエスは呟いた。
「どうするのだ、兄上」
次回、第四章 突入の予定。
混乱する人族国家。
怪しい教団。
魔族の陰謀。
沈黙のエルフ王国。
奴隷と化した獣人族。
魔王は復活するのか。
アリストの秘密は。
続く、物語。




