英雄の僅かな異変
私はアロス。
エルフの人類学者、同時に戦士でもある。
エルフの里では名のある学者である。
人魔戦争より、300年。
人族の復興には目を見張るものがあった。
それを知る為に、仲間と共にエルフの里を出て来たのだ。
だが、不覚にも捕まってしまった。
まさか、食べ物に睡眠薬なる物が入っているなど。
想像もつかなかったのだ。
350年、生きているが睡眠薬など聞いた事が無かった。
人族の技術は恐ろしい。
確かに、私は美食家だ。
決して私の食い意地が張っているわけでは無い。
人族の食べ者が余りにも美味しすぎる。
私の聡明なイメージがぁぁぁ
そこらで、買い食いばかりしているからでしょ。
ぐっ、ルミローネ、酒癖の悪い貴様に言われたくないわ。
ムッキー!
剣で勝負ですね。
受けてたとう。
ぼか!ぼか!
おやめなさい。恥ずかしいですわ。
はい、すみません。
王宮内の戦いはアリストとバケモノを残すのみとなった。
アリューシュは大丈夫だったな。良かったぜ」
魔人に刺さった戦斧を引き抜くベイル。
「アリストの相手はバケモノだぜ」
「なに、アンタ。今気づいたの」
エルフの1人に、治癒魔法を受けているレイラが呆れた。
「ベイル。あなた、お腹に爪が刺さっているのよ」
ベイルは自分の腹を見る。
「なんじゃ、こりゃ~」
「誰の真似だ、それは」
レイラが呆れながら、爪を引き抜く。
「ウギャー」
「うるさいわよ」
クルーシが治癒魔法で回復させる。
レイラはそんな2人を尻目に、バケモノを睨む。
「先にアリストを助けに行くよ」
そんな3人を見ながら、エルフ達に治癒魔法をかけるアロス。
あの者達は何者なのだ。
アリューシュ様の仲間・・・か。
魔法の応酬が激しさを増す。
アリストの右手が上がり、周囲の瓦礫が宙に浮いた。
手を振る。
瓦礫がバケモノを襲う。
バケモノの週周囲に竜巻が起こり、瓦礫を吹き飛ばす。
バケモノが吠える。
竜巻が炎の渦に変わりアリストを襲う。
アリストの火炎魔法。
炎の渦がぶつり合い、荒れ狂う。
「アリューシュ」
レイラが駆け寄る。
「レイラ。これ以上、近づいてはいけませんのよ」
ベイルも駆け寄り、戦いを見上げた。
「これが魔法戦かよ」
肌が焼ける様な熱風が吹き荒れる。
壁や床が溶け落ちた。
アリューシュは荒れ狂う炎を見つめる。
まるで、300年前の光景ですわ。
炎の刃がバケモノの硬い外皮を傷つけ、アリストの頬から血を流させた。
炎の渦が消え、バケモノの目が光る。
無数の魔法陣が浮かび、魔力弾が乱射される。
「ブレイク・ショット」
アリストの魔力弾が迎え撃つ。
爆発が空間を埋め尽くす。
アリューシュとクルーシの複合障壁が皆を守った。
「すごい、こんなの見た事がないわ」
クルーシは高度な魔法戦に見とれてしまう。
アリストの頭上に暗黒球が浮かび上がり大気を収束させていく。
球体が大気爆発。衝撃波が王宮を破壊し、吹き飛とばす。
結界にヒビが入り、対地が揺れる。
「アリストさまー」
アリューシュが見つめた先、アリストは黄金と漆黒の覇気を纏っていた。
あの衝撃波を覇気で受け流した。凄い。
「インフェルノ」
天をも焼き尽くす巨大な炎の柱が、バケモノを襲う。
「ぎゃぁぁぁぁ」
「ファイア・ランス」
バケモノに10本の炎の槍が突き刺さる。
「がぁぁぁ」
バケモノの反撃。爪が伸び、アリストを襲う。
アリストは爪を斬り落とし、回避。
バケモノの身体は再生を始めている。
「凄まじい再生能力だ」
アリストの下方から黒炎が吹き上がる。
ヘル・フレア。
「力だけのバケモノでは、俺には届かない」
覇気が黒炎を寄せ付けない。
「グラビティ・ゾーン」
バケモノが大地に叩き付けられた。
「がぁぁぁぁぁ」
重力の重さに潰されていく。
アリューシュに不安な感情が沸き起こった。
アリスト様の覇気が・・・違う。
雷獣であるタマが怯えている。野生の本能か。
あれは・・・・
アリストの魔力が上がり、重力が荷重される。
「がぁぁぁっ、ぐぁぁ」
体中の骨が折れる音が響く。
「終わりだ。グラビティ・コンバージェス」
バケモノの周囲に、七色の魔法陣が乱立。バケモノの身体が収束し始めた。
「ぐぎゃぁぁぁ」
「クルーシ、しっかり見るのですよ」
アリューシュは不安を忘れ、興奮して指をさす。
「はい」
クルーシが凝視する。
「あれは滅多に見られない貴重な大魔法ですのよ」
2人が目を輝かせ食い入る。
バケモノが果実を握り潰す様に、潰れていく。
「ぎゃぁぁぁ・・・・」
アリストの開かれた手を握り締めた。
何かを潰した様な音がし、人の3倍程のバケモノが手のひらサイズに潰された。
「あ~なんと素晴らしい魔法ですの」
「ええ、感動しました」
アリューシュとクルーシは涙を流し感動している。
「なぁ、この2人大丈夫か」
呆れたベイルが振り向き、固まった。
エルフ達が全員泣いている。
「か、感激致しました」
「アレを見られるとは、生きてて良かった~」
「神、神ですわ~」
「おいおい。レイラ、なんなんだよ」
レイラも呆れてお手上げ状態だ。
見とれていたアリューシュは、我に返る。
はっ、アリスト様が。
「アリスト様」
駆け寄ったアリューシュを見る、冷酷な瞳。
「アリストさま~」
アリューシュはアリストの肩を持ち、揺さぶる。
「アリューシュ、なんだ、どうした」
アリストの覇気が消え、元の優しい瞳に戻っている。
「良かったですわ~アリスト様」
「どうした、アリューシュ。皆は無事なのか」
ああ、元のアリスト様ですわ。
「クセルセス殿下、ベイル達は無事ですわ」
アリューシュは瞳を伏せる。
「エルフの民が、数人命を落としてしまいましたわ」
「そうか。すまないな」
「魔族相手です。致し方の無い事ですわ」
「そうだな。しかし」
「ええ」
「王子があれでは」
アリストとアリューシュが見つめる先、クセルセスは白目を剥いて倒れている。
王宮も・・・・王宮が見当たらない。
見上げれば、満天の星々が輝いている。
周囲には、瓦礫の山。
どうしよう・・・・
おかしい。
バケモノを倒した時、自分ではない様だった。
俺の中に、何か別の者がいるかの様だ。
時空を超えた影響なのだろうか。
アリスト、俺の中にも違うモノがいたぞ。
アンタは腹に魔人の爪が刺さっていたのでしょ。
そうなんだよ。がっつり突き抜けてんだぜ。
顔が青くなっぜ。
俺のとは違うような・・・・




