王宮への侵入
私はタマ。
気高き雷獣だ。
だが、誘惑は不意にやって来る。
今度の谷間も居心地の良い場所だ。
出たくない。
しかし、仕事の時間が来てしまった。
もう少し、この谷間でゴロニャーンしていたいのだが。
あの男が睨む。
羨ましいのか。
魔王より恐ろしい。
タ~マ~
がるぅぅぅぅ
(ひぃ~)
は・や・く・しろ。
がう
(敬礼)
日が落ち、辺りが暗闇に包まれる。
「そろそろ、行くか」
「お、待っていたぜ」
ベイルがやる気満々だ。
「タマ、お願いね」
「がう」
レイラの胸の谷間からするすると出て来るタマ。
元の大きさに戻った。
魔力封じの手枷を噛み砕く。
「ん~すっきりしたぜ」
「ふぅ~肩凝ったよ}
「手が痛いわ~」
3人は腕を回したり伸びをした後、空間収納袋から武器を取り出した。
牢番は4人。交代したばかりだ。
キャンセルの魔法で牢のカギを開る。
「クルーシ、牢番には寝て貰おう」
「了解よ」
クルーシはスリープの魔法で牢番を眠らせた。
4人を眠らせ、牢の鍵を取る。
「全部の牢を開けていく間は、ないな」
牢の中からは「出せ」だの「鍵を渡せ」などの叫びが聞こえる。
うるさい。
幼子を抱えた若い女性を見つける。
牢から出し、鍵を渡した。
「牢番は朝まで起きない。貴方が良いと思う者を牢から出してあげて下さい」
「私が・・・」
「思いのままにして下さい。犯罪者を逃がしてしまっても、それは私のせいにすればいい」
「そんな・・・」
アリストは優しい笑顔を向ける。
「大丈夫。これから、王宮が騒がしくなります。離れる様に」
「分かりました。やって見ます」
女性は力強く答える。
「お願いします」
アリスト達は王宮へ向かった。
王宮の西門。
「オルオニス」
「お、来たな」
門兵は小さな入り口を開けた。
「エルフは右奥の建物だ。早く行け」
「あなたは、どうする」
「俺か、俺は大金貰ったからな。とんずらするよ。首が危ない」
「そうか。ご武運を」
王宮内は思いの他、警備兵が少ない。
戦争の為にアザード方面に兵士を送ったのだろうか。
それとも、魔族が邪魔な者を消したか。
暗がりに紛れ進んでいく。
警備が厳重な、高い塔が行く手に現れた。
物陰から、様子を見る。
「あそこだけ、警備が厳重だな」
「塔の上の方、明かりが漏れているわ」
クルーシが指を指した。
「誰か、いるな」
遠視の魔法で確認する。
「若い男、王族か。これは幽閉か?」
レオトスが言っていたな。まともなのは第一王子だけだ、と。
「なぁ、ベイル。あの男、助けてみるか」
「アリューシュを救い出す前に、騒ぎを起こす価値があるのか」
「あるかも知れないぞ」
「ま、ついでだしな。助けるか」
兵士が8人。
スリープの魔法では、魔族に感知されてしまうだろう。
タマの弱雷撃。よほど魔力感知に優れている者以外は気付かれない。
「タマ」
「がう」
「兵士全員を一度に気絶させられるか」
「がう」
「殺すなよ」
「がるる」
こいつ、絶対人語を理解しているよな。
もしかしたら、会話も出来るのでは。
などと考えている間にタマが動いた。
暗闇の中、音も立てずに疾走。
兵士達の目前で雷撃を放つ。
バリバリと青白い光を放ち、兵士達は沈黙した。
「タマ、上出来だ」
「がうがう」
2人と1匹に見張りを任せ、俺とレイラは塔を駈け上がる。
最上階、扉の向こうにいたのは高価な服を着た若い男。
栗色に髪に利発な顔立ちをしている。
「そなた達は何者だ」
「アリストと申します。第一王子殿下で御座いますか」
レイラは驚いている。
「ちょっと、王子様なの。聞いてないわよ」
「言ってないからな」
尻を蹴られた。痛い。
「私は第一王子のクセルセスです」
オルオニスに恩でも売っておくか。
「冒険者ギルドマスター、オルオニスの指示で助けに参りました」
「オルオニス殿に、感謝致します」
「では、行きましょう。殿下」
「はい」
塔を降り、2人と1匹に合流する。
「王子様だったとはな」
「ええ、驚きました」
2人は驚いたが、王子はもっと驚いている。
「これは魔物・・・・」
クルーシが笑顔で答える。
「この子はタマです」
「タマ?」
「はい。タマですよ。大切な仲間です」
「そ、そうですか。仲間でしたか。はははは」
「殿下、先を急ぎます。お付き合いを」
「アリスト殿。王と弟を救い出して下さるのか」
弟も居るのか。魔族を引き入れたのは弟の方か。
「先に、囚われたエルフの仲間を」
「エルフ。そうか、エルフを戦争に利用する。噂は本当だったのだな」
「はい」
「仲間は大切でしょう。そちらが優先ですね」
良い王子だな。
「殿下はなぜ、幽閉されていたのですか」
「ミルガルド王国を占領した後、私を戦争犯罪人として責任を取らせる為だ」
「それは・・・」
「宰相のナディアだ。あの者が父を狂わせたのだ」
「殿下。兵士の大半は敵でしょう。容赦はしません」
「そうか。兵士達まで。致し方ない、承諾する」
「では、クセルセス殿下。古い倉庫はご存じでしょうか」
「古い倉庫か。こっちだ」
王宮内。宰相ナディア自室。
「バリーゼ様。先ほど、魔力の放出を感知致しました。微弱でしたが」
「ロシタム公爵。今は人族。人族の名で呼びなさい」
「失礼致しました。ナディア様」
「貴方の監視を通りぬけた者がいると」
「はい。侵入者かと」
「魔力感知は兵士全てが反応してしまいます。そこを、つかれましたね」
「はい。申し訳御座いません」
「何処に向かっているのかしら」
「クセルセス王子を解放した様で御座います」
「狙いは王子殿ですか」
「いいえ、エルフの元の向かっている模様で御座います」
「狙いはエルフですか」
「ちょうど将軍が今宵の相手を求め、向かっております」
「フン。あの男も、懲りぬ者だ」
「いかが致しましょう。例の黒髪かも知れませぬ」
ナディアは葡萄酒を一口で飲み干した。
「人族のお酒は美味しいわね」
ナディアはグラスを叩き割り、苦々しい表情を浮かべた。
あの男一人の為に・・・・クッ。
「ミルガルドでも邪魔をし、ここでも邪魔をするのね。計画は中止します」
「では」
「この国の支配は放棄致します。王族は全て処分致しましょう」
「お任せを」
「今更、戦争は止められないでしょう。私は。次の計画に移ります。王子は任せました」
「王子だけでは無く、黒髪も私が始末致します。そうなれば、計画は元のままに」
「貴方が。無茶はおやめなさい。王子を殺す位は、貴方でも出来るでしょう」
「心外です。私では王子を殺す事で精一杯だと申されますか」
「お前、私に意見するのですか。殺しますよ」
「も、申し訳御座いません。決してその様な事は」
「いいでしょう。ですがエルフが解放せれれば、下位の者では勝てません」
「魔人の種を頂ければ、成し遂げて見せましょう」
頭の悪い部下は使えないわね。時間稼ぎにはなるかしら。
「良いでしょう。成果を期待していますよ」
ナディアは小さな黒い球を数粒渡した。
「必ずや」
ロシタム公爵は、一礼する。
この女、偉そうに。
黒髪を殺し、私は更なる高みへ行くのだ。そして、魔族の頂点に立つ。
部屋を出ていくナディアを、欲望に歪んだ眼差しで見送るロシタム。
ナディアはそんな男の内心を読み取っていた。
この男、魔王にでもなるつもりでしょうか。愚か者は使い捨てに限りますね。
今の私が加わっても、真正面からでは勝てませんよ。
あの男にはね。愚かなストラーダ。
ナディアは振り向き、最後の別れを告げる。
「魔人も下位魔族も好きに使うが良いでしょう。さようなら」
王宮内って迷路みたいだな。
王子様が居て良かったぜ。
中々、イケメンだしね。
でも、少し頼りなさそうよ。
男はもっと頼りがいが無いと。
俺の事だな。
クルーシ、良い事言うじゃねえか。
何を言っているの。早く、アリューシュを助けないとね
(ちょっと恥ずかしいくて赤面状態)
貴方、リーダーなのだから、しっかりしてよ。
おう。任せておけ。
何か、いい感じですね。
王子様もそう思うかい。
私達は最強パーティーになるのさ。
次、行くぞー。




