アザードの悪魔
アザードの悪魔とか、物騒な名前だな。
早く解決して、次行こうぜ。
私もエルフの民が心配ですわ。
キモイ相手でなければ良いのですが。
でも、悪魔ですよ。見た目はキモそうね。
辞めた下さいまし。クルーシは意地悪ですわ。
もうタマに触らせてあげませんわ。
あ~それだけわやめて~
タマ~~~
がう
(人気者はつらいぜ)
夜になり、町には静寂が訪れる。
神殿には明かりが灯り、何人かの出入りがある。
{アリスト様。教団に目立った動きは有りませんわ。ただ、施設内に結界が張ってありますの。魔力感知が通りませんわ}
アザードの悪魔は教団と関係していると目星を付けたが、動きはないか。
{そうか。しかし、施設内に結界を張るなど、やはり怪しいな}
{はい。かなり怪しいですわね}
{町に出たベイル達からも、目立った連絡はない。もうしばらく監視を続けよう}
{了解ですわ}
俺は上空から町を見下ろしている。
町の中での魔力感知は、全ての人に反応してしまう。
そこで感知能力を、より大きい力だけに反応するように調整する。
この調整が難しい。かなりの鍛錬が必要だ。
その魔力感知にも怪しい反応はない。
町全体を、感知出来るわけでは無いが。
これまでアザードの悪魔が出没したのは、日没から日を越すまでの間だ。
カミール商会の支店はクレイズ達、護衛団が警備をしている。
町の人々も警戒して、夜の外出は控えている。
そんな中、教団の者は普通に出歩いていた。
神の加護があるそうだ。
偽りの神に、加護などある訳がない。
しばらくしてアリューシュから念話が入る。
{アリスト様。今日は動きが無い様ですわ}
{そうだな。今日は撤収しよう}
{了解ですわ}
{クルーシ。撤収しよう}
{はい。戻りますね}
毎晩、アザードの悪魔が出る訳でもないか。
そう思い帰路に着く。
魔力感知の一番端に、一瞬大きい反応が走知った。
くそっ。直ぐに反応が消えた。アザードの悪魔か。
全員に念話を送る。
{南だ。アザードの悪魔だ、急げ}
{私が一番近いですわ}
アリューシュが近いか。間に合うか。
アリストは、飛行魔法を加速させた。
前方で雷撃が放たれた。あそこか。
そこは下層民の住居区画。
黒煙が上がる中、アリューシュを見つけた。
「アリューシュ無事か」
「アリスト様」
「アザードの悪魔は」
「逃げられましたわ」
辺りには血が飛び散っている。だが、遺体は無い。
「2人殺られましたわ」
「姿を見たのか」
「黒い影しか見えませんでしたわ。ですが、大人2人を軽々と抱えていましたわ」
「アザードの悪魔か。逃げ足は速い様だ」
「とっさに雷撃を放ちましたが、黒煙に紛れて消えてしまいましたの」
「そうか。魔力感知にも反応はない、か」
ベイル達も駆けつけて来た。
「アリスト。捕まえたのか」
「ベイル、逃げられたよ」
「逃げたのか。兵士達がもう直ぐ来るぜ」
「兵士に見つかると面倒だよ。明日、調べに来よう」
確かに、レイラの言う通りだな。
それに、兵士の中にイザール教徒がいるかも知れない。
イザール教徒は警戒しないといけない。
「そうだな」
一瞬の反応は大きいものだった。その後、魔力感知に反応が無くなった。
どういうからくりだ。
兵士が来る前に、俺達はエマルドの店に戻る事にした。
翌日、エマルド達が帰郷する日だ。
「皆さん。何かあればカミール商会にお越し下さい。商人は横のつながりもあります。お助け出来ることもあるでしょう」
「はい。ありがとう御座います」
ベイルが代表して礼を述べた。
彼らに何も無くて良かった。無事、自国に戻れそうだ。
「アリスト様、しばしのお別れで御座います。ご無事でお戻り下さいませ」
アルテシアがアリストの手を握り締め、別れを惜しんでいる。
「ほら、アルテシア。時間だ。離れなさい」
エマルドに無理やり馬車に乗せられる、アルテシア。
「アリスト、俺達も行かなくてはならん。力になれず、すまない」
「クレイズさん。ありがとう。帰路の無事を祈っているよ」
「ああ。お互いに、な」
2人はしっかりと握手を交わす。
クレイズはベイル達とも握手を交わし、別れを惜しんだ。
それを、優しく見守るアリスト。
そんなアリストを見つめる女剣士。
「くぅ~私、向こうに行きたいわ」
そんな女剣士を見つめるアルテシア。
「あの女狐は、要注意人物確定ね」
全てを見ていたエマルド。
「はぁ~我が娘ながら、困ったものだ」
馬車は出発し、アルテシアは身を乗り出して手を振っている。
侍女が落ちない様に支えているのは言うまでもない。
昨夜の現場に来ている 。
路面の血痕は洗い流されている。
下層民の区画のせいか、昼間なのに人通りがない。
家の中からは反応がある。弱弱しい反応だが。
今は考えている場合ではないか。
エルフの件もある。早く片付けなければ、戦争が始まってしまうかも知れない。
一瞬反応した、大きな力。
必ず魔力残滓が残っているはずだ。
あの歪んだ殺気の反応は魔族の物だ。
アリューシュが放った雷撃の跡。
そこに、アリューシュとは別の魔力残滓を感じた。
それは、路地裏へと流れている。
路地に入るとゴミや害虫の死骸などで異臭が漂っている。
やせ細り粗末な服を着た人が、時折座り込んでいる。
動ない。生きているのだろうか。
これが300年前より平和だというのか。
複雑な心境だ。
進に連れ、魔力残滓は薄れていく。
「これ以上は感じられない」
「どうするよ、アリスト。何か手はないのか」
「ベイル、心配ご無用ですわ。タマがいるではありませんの」
アリューシュは得意満面だ。
「タマちゃんはそんな事も出来るのね」
クルーシはチビタマにスリスリしている。
「ちょっと、ズルいわよ。私も」
レイラまでスリルリだ。
「はいはい、先に行くぞ。アリューシュ、頼む」
「アリストがヤキモチ焼いているよ。ぷーくすくす」
レイラ・・・・相変わらず煽るのが得意だな。
「タマ、魔力残滓を追うのですよ」
「がう」
一声鳴くと、タマが元の姿に戻った。
「大きくなっても可愛いわ」
クルーシが抱き着く。
続いて、女性2人が抱き着いた。
気のせいか、タマ照れている様に見える。雷獣なのに。
タマが魔力残滓を追っていく。
朽ちかけた家屋にたどり着いた。
タマが家屋の中に入っていく。
「ここに、隠し通路でもあるのか」
タマがこちらを向いて、フッサフッサのシッポを立てた。
チィ、なぜか生意気な顔に見える。タマのくせに。
家屋の中は荒れ果てている。
タマが床の一か所で止まった。
「がう」
ここだ、感謝しろ。と聞こえるのは俺だけか。
アリューシュが床を調べる。
「アリスト様、扉が」
床に扉があり、地下通路へと繋がっていた。
あ~アリスト様とお別れだわ。
私も一緒に行きたいわ。
お嬢様では足手まといですよ。ふふ
きぃー。この女狐は、少し胸が大きいと思って。
あと2年もすれば追い抜いてあげますのに。
ふふ、私の剣であの方のハートを貫いてみせます。
負けませんわ。オバサン。
ムッキー。まだ24才よ。
やれやれ、困ったものだ。
さ、商売、商売。
ため息を付く、父だった。




