ギルドマスターからのお願い
私は雷獣。
魔物の頂点に君臨する種族の一つだ。高貴な存在。
魔族すら倒し、死の山の支配者であった。
だが今は、可愛いペットとして甘んじている。
しかも、タマなどと可愛らしい名まで付けられた。
初めての敗北だ。
あの手に、負けたのだ。
私は高貴な存在。このままでいいのだろうか。
悩む今日この頃なのだ。
タマーおいでー
がるにゃー
タマはかわいいですわね。
なでなで、なでなで。
ごろごろごろ。ふにゃ
この手には逆らえない。タマであった。
やはり冒険者ギルドは情報を持っていたか。
この町のギルドマスターなら、詳しい事を聞けるかもしれない。
冒険者ギルドは町の北区画にある。
町ではイザール教団の神官が普及活動をしている。
冒険者ギルドに着いた。なかなか立派な建物だ。
ギルドの中は、閑散としていた。冒険者は数人しかいない。
受付嬢達も何処となく暗い顔をしている。
「冒険者ギルドにようこそ。御用は何でしょうか」
カウンターに行くと、受付嬢の一人が笑顔で迎えてくれた。
「アリストです。ギルドマスターに会いたいのですが」
「アリスト様ですね、少々お待ち下さい」
しばらくすると、奥から体格の良い戦士風の男が出て来た。
「おう、お前達がグライムの言っていた冒険者か」
「ラタールの翼、アリストです」
「ほう、お前がゴブリン・ロードをなぁ。ギルドマスターのレオトスだ」
「冒険者が余りいませんね」
「フン。バカな国王が戦争なんぞ始めようとするからだ。皆、違う町に行っちまったよ」
堂々と危ない発言をする人だ。国家反逆罪で捕まるぞ。
「まぁ執務室に来い。話はそれからだ。ナズリーン、お前も来てくれ」
「はい」
受付嬢の一人が付いて来た。
20才半ばのオレンジがかった長い髪の女性だ。
執務室。
「話はグライムから聞いている。ナズリーンあれを」
ナズリーンがギルドカードを持ってきた。
「どうぞ」
俺達、全員分のギルドカード。
国名と所属ギルド名がアジミールとアザードになっている。
「偽造カードですか」
「偽造だと。ただの所属変更だ。この国にいる間は使えばいい」
「私のカードは種族名が人族に変わっていますわ」
アリューシュがカードをヒラヒラさせている。
「ははははっ。それは偽造だな」
豪快にわらうレオトス。
「ギルドカードの複数持ちは規約違反だ。いらなくなったら燃やしてくれ」
なんだか、適当だな。このマスター。
「所で、そこのお嬢さんは信用できるのかしら」
アリューシュの問いに、レオトスは笑って答える。
「ん、こいつは大丈夫だ。俺の娘だからな」
全員が「はぁ」となる。
「何だ、おかしくあるまい。親子だ」
確かに年齢的にはおかしくはない。
「宜しくお願いします」
ナズリーンが笑顔でお辞儀をする。
しかし、だ。こんな、ごついオッサンから可憐な娘が生まれるのか。
全員がそう思っているだろう。
「余り、似ていませんわね」
アリューシュが本音を口にした。
「チィ、気にしている事を。娘は母親似だ」
「ほ~う」
全員が納得。
「まぁいい。それで、何から聞きたいのだ」
「ギルドマスター。エルフの民はどうなりましたか」
アリューシュが一番気がかりな事だ。
「エルフか。各ギルドでエルフは保護している」
「そうでしたか。ありがとう御座いますわ」
「この町では8人、保護は出来た。だが、大多数は捕まってしまった。すまない」
「いいえ。最善を尽くして下さたのでしょう。感謝ですわ」
「捕まったエルフ達は王都に送られた。軍事利用するのだろう」
「王都に・・・アリスト様」
「ああ、助けだそう」
「エルフを助けに行くのか。王国を相手にケンカを売るつもりか」
レオトスは驚いている。
「ケンカを売る?違う、ケンカを買いに行くのですよ」
「買うだと」
「先に手を出したのはこの国だ。アリューシュはエルフの王族ですよ」
「はぁ、王族」
レオニスは更に驚き、アリューシュを見た。
「そ、そうか。王族なら、エルフの民を放っておけないのは分かる。だが、余りにも危険だぞ」
「あなたは冒険者が危険な事態になっても、目を背けるのですか」
アリストの言葉に一瞬たじろぐレオトス。
「ぐっ。しかし、それとこれとは話が違うだろう」
「同じです」
レオトスは諦めて様だ。
「しかたない。各ギルドで、出来るだけ協力しよう。俺が連絡を入れておく」
「それは、ありがたいです」
「後は教団の情報だろう」
「そうですね。イザール教団と王族の関係。隷属の首輪の出どこを」
「情報は教えよう。ただ、ギルドの協力には条件を付けさせてくれ」
「条件ですか」
「王都に行く前に一つ依頼を受けて欲しい」
「依頼なら、他の冒険者でも」
「見たろう、このギルドを。冒険者が居ないのだ」
「はぁ」
「お前達は冒険者だろう。依頼を受ける義務がある」
「はぁ」
「俺達だけでは手が足らんのだ」
「はぁ」
「はぁ、ではない。半年程前、イザール教団に新しい司教が赴任した。それからだ。夜な夜な人が消えてしまう事件が起こる様になったのは」
受けるとは言っていないが、勝手に話し始めたな。
「現場では大量の血の跡が残っている。おそらく殺されているのだろう」
半年前か。
「だが、遺体は発見されていないのだ。もう、200人以上の犠牲が出ている」
「ここの兵士達はどうした。捜索や見回りはやってないのかい」
「ベイルと言ったか。勿論しているさ。犠牲者は兵士にも出ている」
「なんだよ、そんなにヤバいヤツか」
「若い兵士などは怖がってしまい、使い物にならん。そこで、お前達だ」
「なんで、俺達なんだ」
ベイルの問いにニヤリとするレオトス。
「聞いたぞ。お前ら、大量の魔物と魔族を倒したらしいな」
「なんで、知っているんだ」
「ギルドの情報網を甘く見て貰っては困るな」
国境の外の事を、もう知っているのか。いい情報収集力だ。
「民に被害が出ているのだ。冒険者ギルドが見過ごす訳にはいかない」
「で、俺達が捕まえるのか」
ベイルがどうする、と言う顔で皆を見る。
「俺はイザール教団が総てに関係していると思っている」
レオトスが力を込める。
「この町の領主、バーティス伯爵も熱心なイザール教信者になっちまった」
レオトスは深いため息を付いた。
「伯爵は入信してから人が変わった。税を上げ、声を上げる者に重罪を課す。いい領主だったのだが」
「もしかして、それも半年前からですか」
アリストの言葉に力強く頷くレオトス。
「そうだ。そして国王と、その取り巻きの貴族は教団と親密な関係だ。まともなのは第一王子だけだな。隷属の首輪も教団関係者が持ち込んだ」
すべてが同じ時期に始まったか。関係は明らかだな。
「何か証拠を掴めましたか」
「アリスト。残念ながら、証拠は掴めていない」
ギルドも公に動けない。情報収集にも限界があるか。
「この一連の事は、全て繋がっている。と思う」
「なるほど」
「この国の裏で何かが起こっている。この事件を解決すれば、エルフを救う為の情報が得られるかも知れないだろう」
なんか、必死だな。レオトス。
「ベイル。罪なき者を殺す殺人鬼は、放っておけないよな」
「そうだな。兵士も役立たずなんだろ。なぁ、みんな」
全員が頷く。
「頼んだぞ。この殺人者を捕まえてくれ。アザードの悪魔を」
またまた、変なのが出て来たな。
そうね、怪しい教団にアザードの悪魔とか、まいったね。
領主も怪しいのだろ。この町、だめじゃない。
仕方ないわ。世界が私達の力を望んでいるのです。
世界を救うのは私達なのです。
なんだか、クルーシは教祖の素質がありそうだな。
やだわ。私が可愛いからって。
あらあら、暴走癖が妄想癖に進化致しましたわ。
現実に帰ってこーい。




