国境の砦ベラジーン~温泉大作戦~
いよいよ国境だな。
ここを過ぎればアジミール王国だぜ。
でもさ、国境間は危険地帯だって聞いたよ。
ふふふ。私のレベル・アップした魔法をお見舞いして上げます。
毎日鍛錬したのです。成果を見せつけるのです。
(魔力操作の鍛錬を積んでいる)
また、暴走しないといいけどな。
あらあら、ここでゆっくり休養致しますのですわ。
襲撃から、翌日。
前方に見える岩山の合間に、大きな城壁が見えて来た。
「あれが国境か」
ベイルは身を乗り出し、眺めている。
「ええ、あれが国境の砦ベラジーンですわ」
アリューシュは大鎌の手入れをしながら答えた。
大きな谷間を塞ぐ様に、城壁が築かれている。
城壁は高く、かなり長い。
アジミール王国へ行くには、ここが唯一の通行可能な場所だ。
他は大きな川や断崖、険しい山々で隔てられている。
300年前、ここには商業都市があった。
近づくにつれ、都市の痕跡が見えて来る。
朽ち果て遺跡の様になった家屋や城壁跡。倒れた塔。
人魔大戦中は多くの民が避難していた町。
300年前か、俺には昨日の事の様だ。
「アリストさん」
エマルドが声をかけて来た。
馬を馬車に寄せる。
「念の為、髪の色を変えて下さい」
「はい。所でエルフのアリューシュは大丈夫ですか」
「ええ、この国ではエルフを余り見かけませんが、アジミールでは多いので問題ありません」
「了解しました」
アジミールではエルフが多いのか。
アリューシュの知り合いでもいるかな。
魔法で黒髪を茶色に変えた。
「茶色の髪もステキですわ」
アルテシアが身を乗り出し褒め称える。
侍女が落車しない様、アルテシアを必死に引っ張っていた。
「お、似合うじゃないか」
隣で馬を駆るレイラにも褒められた。
うん。恥ずかしい。
城壁に近づくと、重厚な門が現れた。
通行するのはカシミール商会の荷馬車だけの様だ。
門の左右に兵士の詰め所がある。
広い谷間の右側には家屋や店などが並び、左側には軍事施設が建ち並んでいる。
通常より、兵士の数は多い。
ちょっとした町程の規模だ。
兵士達が出迎えてくれた。
やはり、空気は張り詰めている。兵士達の表情も硬い。
戦争になればここは最前線。仕方の無い事だが。
「やぁ、エマルド。待ちくたびれたぞ」
「これはアトニス様。ご無沙汰しております」
アトニスは馬車から降りたエマルドと挨拶を交わす。
アトニスはこの砦の指揮官らしい。50才過ぎの精悍な顔と引き締まった体格。
強者の風格を纏っている。
「これはアルテシア嬢も御一緒か」
「ご無沙汰しておりますわ、アトニス様」
アトニスは笑顔で会釈をする。
見た目に寄らず、随分と気さくな指揮官だ。
務めて明るく振舞っているのだろう。
「では武具と食料を納めてくれ。ルーニウス、頼んだぞ」
ルーニウスと護衛団の半数が荷馬車と共に倉庫へ向かった。
「日が暮れて参りました。予定外もありましたし、出発は明日に致しましょう」
エマルドは暮れていく空を見上げた。
いらぬ襲撃で手間取った分、遅くなってしまったか。
「私は書類と手続きがありますので、夕食でお会い致しましょう」
エマルドは一礼すると執事やアルテシアを伴い、アトニスと兵舎に向って行った。
「アリスト、後でな」
クレイズが残った部下を連れてエマルドに着いて行く。
宿でくつろぐか。
そう思って振り向くと、アリューシュを先頭に女性3人が立っている。
「おっ、なんだ」
「アリスト様にお願いがあるのですわ」
「何だ、アリューシュ」
「うる覚えなのですけど、ここに温泉があったと思うのですが」
温泉・・・・ああ、あったな。
「その、場所が分からないのです」
「今は、埋まってしまったのだろう。諦めろ」
「アリスト~。身体拭いたり、川につかるのも飽きたよ」
「私も温泉に入りたいわ~」
レイラとクルーシもおねだりしてくる。
「俺も温泉、入りたいぜ」
ベイル、お前もか。
確かに、温泉は別格だ。風呂も王都を出てから入っていない。
気持ちは分かる。しかし、な~
「アリスト様~」
アリューシュがおねだりしてスリスリしてくる。
くっ。か、可愛いな・・・・チィ、俺とした事が。
「わかったよ、待っていろ。一応、アトニスさんに相談してくるから」
女性3人は大喜びだ。
だいたい湯につかるなど、貴族か富豪でもない限り出来ない事だぞ。
まぁ、アリューシュは王族だから仕方ないか。
アトニスに温泉を掘る為、敷地内での爆発系魔法の使用許可を取りに行った。
すると、アトニスに大賛成だと喜ばれた。
戦争の危険が高まる中、兵士達の疲労回復、精神的疲労を取る為に是非と言われた。
エマルドもアルテシアも大賛成だった。
クレイズ達護衛団も控えめに喜んでいる。
兵士を総動員して温泉掘削大作戦が開始された。
早くしないと日が暮れてしまう。
そして現場へ。
俺の記憶だけが頼りだ。
砦から不毛地帯方面は火山地帯だった。
この時代、山々は落ち着いている様だ。
だが山肌はむき出しになり、今も岩山地帯だ。
山に行けば温泉が湧いているだろうが、魔物が多く危険だ。
それに、熱すぎる。
しかし、300年前には町から温泉が湧いていた。
しかも、適温。
ここに温泉がある。いや、あった。
風化した都市の残骸を乗り越え山の方角へ進む。
ゾロゾロと付いて来る兵士達。
「たしか、この辺りだった」
大地に手を付け、魔力を一定の力で地中に流す。
それを繰り返す。
何度目か、魔力の波動が乱れる地点を発見。
「ここだー」
指を指した地点に、スコップを持った兵士達が群がる。
掘る、掘る、一心不乱に掘る。
瞬く間に穴が深くなる。
「アリストさん。地面から湯が染み出て来た~」
兵士の一人が叫んだ。
「よ~し。全員離れろー」
兵士達の中から、レイラの声が響く。
穴から飛び出す兵士達。その中に、つるはしを持ったレイラの姿を発見。
お前も掘っていたのか。レイラ。
ベイルに護衛団員も紛れている。
うん。お前達は当然だ。
全員が安全地帯まで離れる。
「では行くぞ」
目的は深く穴をあける事。
「アース・ブレイカー」
穴の底が振動し、爆発した。
爆音が響き、舞い上がる土砂や瓦礫。そして、大量の温水が噴き出した。
「でた~」
大歓声が起きる。
皆、汗だくだ。
こんな魔法の使い方なら、楽しいのにな。
一人、思いにふけるアリストだった。
アトニスには大いに感謝され、友好度は爆上がりだ。
温泉の周りを囲い、簡易的な仕切りを付ける。
エマルドが明かりの魔道具を無償で提供してくれた。
ありがたい。
夜、皆が押し寄せ温泉は大好評だ。
男性は大行列だ。女性も砦に大勢いるが、男性よりは列が短い。
女湯には不透明で真っ白な結界が張られている。
アリューシュのイヤイヤ魔法シリーズ。
見ちゃイヤ結界。
アイツは300年、何をしていたのだろう。
ただ、女性達は安心して温泉に入れている。
ん~役に立っている、のか。
アイツは天才なのか。そうなのか。
いや、落ち着け。もう直ぐ俺の順番だ。
薄明りの中、入る温泉は最高だ。
順番はクジで平等に決めた。
後ろにはわくわく顔のエマルドも並んでいる。
ベイルは俺より早く入りやがった。
何故か、イラッとする今日この頃。
しばらくして、俺の番が来た。
300と5年ぶりに温泉を堪能したのだった。
温泉っていいな。最高だぜ。
いいね、私も気に入ったよ。
もう、最高ね。毎日入りたいわね。
エルフの国に行けば毎日入れますわ。
天然炭酸温泉や、濁り湯などもありますの。
美白効果や、疲労回復、魔力回復、ケガなどの治癒効果もありますののよ。
(ドヤ顔)
すごーい。早く入りたいわ。
(美・白・効果・・・・いいわ)クルーシ談
まぁともあれ、いよいよ国をでるな。ベイル。
ああ、楽しみだぜ。
次回から三章突入だ。
俺達の冒険、楽しみにしてくれよ。




