追撃
盗賊共、許さん。
アルテシア嬢、今助けてやるぞ。
「アリストさん」
エマルドが駆け寄って来た。
「ポーションをお持ちでしょうか。荷が奪われてしまい、ポーションが足りません」
「エマルドさんはご無事ですか」
「わ、私は大丈夫です。しかし、他の者が。早くしなければ助かりません」
空間収納からポーションを取り出す。
「おお、この数なら」
念の為ポーションを多く買いだめしておいて良かった。
「さ、早く。軽傷の者は私が治癒魔法で治します」
「はい」
動けるもので、怪我人を治癒していった。
ポーションや俺の低級ヒールでは、重症者の完治までは出来ない。
だが、何名かの命は取り留める事は出来た。
生存者は12人か。動ける者は5人。
盗賊も2人、息があったので生かしておく。
バミューダから情報は得たので必要が無くなったが、次いでなので回復させ縛り上げた。
少し落ち着いた所でエマルドが震える声で頭を下げて来た。
「アリストさん。娘が、娘と侍女がさらわれました。お助け下さい」
エマルドは不安な心境を押し殺し、護衛達の命を救っていたのだな。
「頭をお上げください。娘さんと侍女で2人ですか」
「はい」
「必ず助けます」
「ありがとうございます」
エマルドは涙を浮かべ頭を下げた。
「アリスト」
「クレイズさん、大丈夫ですか」
「ああ、俺は軽傷だ。危ない所、助かった、ありがとう」
「いや、俺がもう少し早ければ、すまない」
「アリストが気にする事ではない」
「そうですか」
「俺達が不甲斐ないせいで、お嬢様がさらわれてしまった」
「クレイズさん達が苦戦するほど盗賊は手練れだったのですか」
「それが、魔力探知に反応が無かったのだ。気付いた時には奇襲を受けていた」
「やはりそうか」
この世界の生物は、多かれ少なかれ魔力を持っている。
反応しない者は完全に魔力を消せるか死人だけだ。
魔力を完全に消すには高度な魔力制御が必要だ。そうそういる者ではない。
賊の死体を調べてみるか。
倒された賊、全てが魔石の着いた首飾を下げていた。
この首飾りが怪しいか。
調べると、魔石に魔力探知を阻害する術式が施されている。
「こんな物、無かったぞ」
この魔道具のせいで・・・いや、俺の油断だ。
魔道具から感じる魔力を解析し、それを魔力感知に組み込めば追えるだろう。
{グライムさん}
{うお、アリストか}
{どうしました}
{すまん、念話をする者は余りいないのでな、驚いた。何かあったか}
{ギアの峠で商人隊が襲撃されました。例の盗賊集団でしょう}
{また犠牲が出たか。生存者は}
{12人です。7人は何とか生きている状態です。騎士団と治癒士の手配も頼みます}
{了解した。直ぐ向かわせる}
{女性が2人さらわれました。救出に向かいます。ここには魔物避けの結界を張っておきました。後はお願いします}
{おい。救出ってお前、無茶はやめ} プッ
面倒だから切ってしまった。まぁ、いいか。とりあえず結界を張る。
「エマルドさん。娘さんは必ず助けます。しばらくすれば騎士と治癒士が来るので待っていて下さい」
エマルドに買い込んだ食料と飲み物を渡した。
「一人で行かれるのですか。もう少しで騎士団が来るのですよね」
「大丈夫です。それに早い方が良いでしょう」
「助けて欲しいとお願いしましたが、一人では貴方が危険です」
「心配でしょうが、エマルドさんは怪我人の介護をお願いします。娘さんと侍女は必ず助けます」
不安な表情を浮かべるエマルドの肩を力強く掴み、笑顔を向ける。
「私は強いので、安心して待っていて下さい」
エマルドは頷いた。
部下を心配そうに介護するクライズに話しかける。
「クライズさん。この首飾りが魔法探知を阻害していた様です」
「これが」
クライズに首飾りを手渡した。
「騎士団に渡し、解析してもらって下さい。それと一応、結界は張りました。魔物は入れませんが、人は入れます。助けが来るまでお願いします」
「アリスト、お前は」
「賊の後を追います。お嬢様と侍女は必ず助けます」
「アリスト。俺も行くぞ」
「クライズさんは、残ってエマルドさんや仲間を守って下さい」
「だが、あの森は高ランクの魔物が・・・」
俺の顔を見て言葉を止めた
「足手まといか」
「すみません」
「・・・無理はしないでくれ」
{おい、アリスト}
チィ、念話か。
「大丈夫ですよ。無理はしないので」
{おい、返事しろよ}
イラッ
{お前、無視してんじゃねー}ブツ。
うるさい。グライムとの念話は遮断しておこう。
解析に少々時間を要したが、上手く反応してくれた。
だが、通常の魔力感知と併用が出来ない。時間がある時に術式の組み直しだな。
賊は足手まといを2人連れている。おかげで探知範囲ギリギリで反応を捕らえた。
城跡の場所は分かるが、他に拠点が無いとも限らない。
魔力探知を時折切り替えれば魔物も問題ない。
賊から手に入れた首飾りを俺も利用させて貰おう。
山岳地帯を抜け、木々の深い山に入った。
「随分と奥地まできたな」
途中魔物と遭遇した。なかなか強い魔物が多い山だ。並みの冒険者では立ち入れないな。
不意を突いたとはいえ、クレイズ達を追い込んだ集団だ。アジトを作るには丁度良かったのだろう。
途中で2組に分かれたな。5人が更に奥へ向かっている。
2人はさらった女か。残った反応は動かない。
やはり拠点は複数あったか。賊は10人。潰しておくか。
日が傾きかけた頃、小高く盛り上がった斜面に扉が見えた。
斜面にある洞窟を根城にしていたか。
魔力感知はしていない様だな。油断しすぎだ。
「門番が2人」
「バミューダさん達遅いな。まさか殺られたんじゃないよな」
「まさか。あの人が負けるはずが無いだろう」
「だよな、実力は5本指に入る程の人だからな」
「ん」
「どうした」
「今、何か動かなかったか」
「小動物だろ。こんな所に人が来るかよ」
「そうか・・・うお」
「おい、外から物音が聞こえなかったか」
全員が武器を取り身構える。
「エド、見てこい。慎重に、な」
エドと呼ばれた男が慎重に扉に近づき、そっと扉に耳を近づける。
その瞬間、扉がけ破られた。
「ぐわっ」
エドは吹き飛んだ。
「よう、盗賊共。地獄から迎えに来たぜ」
「だれだ、門番はどうした」
「先に行ったぞ。地獄へ」
「クッ。貴様、何者だ」
「死神」
神速の動きで剣を一振りする。
「がはぁ」
盗賊の1人が血しぶきを撒き散らし倒れた。
「殺せ」
リーダーらしい男の号令と同時に左右から斬りかかる盗賊。
上体をそらして剣をかわし、一瞬で2人を斬り捨てた。
声を出す事も出来ず、崩れ落ちる。
そのまま、盗賊の中心に飛び込む。
「ぐわー」
「げはぁ」
「ぐおぉ」
神速の剣が次々に盗賊を斬り裂いていく。
辺りは一瞬で血の海が広がった。
「残りはお前だけだぞ」
「バカな・・・」
リーダーらしき男は狼狽える。
「キ、キサマー」
男が斬りかかって来た。
襲い来る剣を避け、両腕を斬り上げた。
「ぐあー」
握り締めた剣と両腕が舞い上がる。
「俺の腕が、腕が」
膝を付き座り込む男に剣を突き付ける。
「おい、さらった女はどうするつもりだ」
「貴様に言う事はない」
「そうか」
足に剣を突き刺す。
「ぎゃぁぁぁ」
「仲間の人数は」
「・・・・」
「なんだ、もう片方の足も刺されたいのか。いや、片目を抉ろうか」
アリストの氷の様な冷たい目に男は震え上がった。
「や、やめてくれ」
「女はどうする。答えろ」
「ああ・・・女は奴隷商に売る」
「仲間の人数は」
「300以上いるぜ」
「ほう。なかなか大きい組織だな」
「ボスは狂気のサガラス様だ。貴様が強かろうが騎士団だろうが勝てるわけないぜ」
サガラス・・・ああ、冒険者ギルドの賞金首欄に手配書が張ってあったな。
「それは、楽しみだ」
「しゃべったぞ。早く腕を付けてくれよ」
「ゴミは目障りだ」
「はぁ」
剣を一閃。男の胴から首が落ちる。
さあ、山越えか。明日になればさらった者を移動させる可能性が強い。
今晩中に片を付ける。
「急ぐか」
身体強化を使い、山を駆け抜ける。
夜の帳が覆う森を抜け、山を越えると開けた平地が広がっていた。
暗闇の中、薄明りを灯した古城が見える。
魔力感知の反応も多数。
やはりこの城か。
盗賊共、今の内いい夢見ておけ。
アリストは体の底から湧き上がる、黒い感情を感じた。
ん~
どうも300年前より、冷酷になった様な気がするぞ。
気のせいなのかな。
なぁ、どう思う。
そうですわね、良くわかりませんわ。
そうか・・・・だから誰だよ。




