97.まじかテンノーン
席に着いてから、メイドさんが俺たちに店のシステムを説明してくれる。
ここまでの天王洲とのやり取りで興味が湧いたのか、彼女——名前は『はんぺん』というらしい——は明らかに天王洲に向けて話している。
まぁ、俺はアニメで大体のテンプレを理解しているし、二兎はコンカフェユーザー(仮)らしいし、それで正解だった。
「それじゃあ、注文はQRコードでお願いしまぁ〜す!」
はんぺんが去っていく。
「なんか、最近はどこもQRだよなぁ」
「ここは大丈夫ですけど、電波がザコザコなお店もありますし面倒ですよねぇ」
地下の店とかやめてほしいんだよな。
そんな話をしながら、俺はカメラアプリでQRコードを読み込み、注文ページを表示させる。
「二兎のおすすめは?」
「定番はオムライスですけど、ケチャップライスが硬い可能性もあるんですよねぇ。フードは基本的にレンチンじゃないですかぁ」
「夢のない話だな……」
内勤がいたとしても、誰がそこまで料理に集中するんだという話ではある。
もっとガールズバーに近い業態であればキャストが作るのかもしれないが。
とりあえず、俺はパフェを頼むことにした。
二兎も同じやつっぽいな。
あとは天王洲だが、彼女は何に——
「……天王洲」
「はい」
「えっと……何をしてるんだ?」
「何と言われても、調べているんです」
堂々と言ってくれた天王洲だが、スマホも取り出さず、QRコードの書かれた紙の表と裏を見つめているだけだ。
「もしかして、QRコードの読み方を知らないのか?」
「……目で見ることは、読むことでは……ないようですね」
なるほどね。何にも分からないということが分かった。
「あの、とりあえずスマホを出してもらえるか?」
「…………教えていただけるのですか?」
「だって、そうしないと注文できないだろ。ほら、早く出して」
「……分かりました」
彼女はスマホを取り出すと、なんの躊躇いもなく俺に差し出した。
「よろしくお願いします」
「えっと……単なる興味なんだけど、人にスマホを見せることに抵抗とかないのか?」
「抵抗ですか?」
「その、スマホだってプライバシーだろ? 自分が撮った写真とか、誰かとのメッセージとか……」
「そういうことですか。私は基本的にスマートフォンを使わないので、何もないです」
そう手渡されたスマホの電源を入れてみると、ロックすらかかっていない。
彼女のセキュリティはどうなっているのか。
「ま、まじかテンノーン……」
二兎が小さく漏らした。
テンノーンって誰だよ。結構語呂がいいな。
それはともかく、俺はスマホの画面を天王洲に見せる。
「……これがカメラアプリな。これを起動して、その紙に書かれてるQRコードを読み込むと、メニューが見れる」
「これは…………不思議ですね」
心なしか目が輝いている気がする。
「で、天王寺は何にするかって話だ」
「七里ヶ浜くんは何にしましたか?」
「俺はこの……ベリきゅんチョコレートパフェだな」
「ベリ、きゅん……どういう意味でしょう」
「特に意味はないよ。ただ、きゅるきゅるしながらチョコソースをかけてくれるだけで」
「きゅるきゅる……?」
こればかりは説明しても無駄だろう。
天王洲も結局、俺たちと同じくパフェにした。
しばらく待っていると、隣の席に座っていた客が立ち上がり、中央の広場でチェキを撮り始めた。
「二兎は可愛い子目当てで来たんだろ? チェキは撮らないんだな」
「うーん、撮っても良いんですけど、すぐに辞めちゃう子だったら嫌じゃないですか」
「そういうもんなのか」
「だって、もう二度と会えない子のチェキですよ? 半分、遺影みたいなもんです」
遺影って……。
ただ、彼女の言わんとしていることも理解できた。
「他のお店に転生してくれるなら良いんですけどねえ」
「……転生とは、どういう意味なのですか?」
天王洲が会話に参戦してきた。
「えーっと、たとえばここのお店を辞めちゃった子が、他のお店でメイドさんを始めることです」
「死んでしまうわけではないんですね」
「い、一応前のお店のことを前世とかって言いますし、死んじゃってるのかな……?」
なんだかちびっ子と話している気分だな。
受け答えをしていた二兎も困惑しているし。
彼女が庶民のことを学んで成長したら、一体どうなるのだろう。
まぁ、俺がそれを見ることはないだろう。
そうこうしているうちに、パフェが届いた。
見ることはないんでしょう、きっと
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