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【3章開始】距離を置きたい女子たちを助けてしまった結果、正体バレして迫られる  作者: 歩く魚
二兎芽莉彩/天王洲セラ

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91.平和の終わり

 それからも俺たちは毎日のように勉強会を開き、メキメキと学力を上げていった。


「ねぇ悟くん、今日は勉強おやすみの日にして、一緒にデートしない? 僕、そろそろ悟くんと二人きりにならないとおかしくなっちゃうなぁ」

「悟の学力より自分の欲を優先させるなんて、葉音もまだまだね」


 め、メキメキと学力を……。


「じゃあ涼は悟くんと触れ合わなくて平気なんだ?」

「平気なわけないでしょう。ほら見てごらんなさい。手なんてこんなに震えているんだから」


 学力を……。


「その分、試験が終われば悟を思う存分摂取できるじゃない? 我慢に我慢を重ねた末の悟よ……キクわよ絶対」

「なるほどねぇ……一理あるかもしれない」


 学力……。


「はぁ〜い雑魚先輩たち〜? 今日も勉強頑張りますよ〜」

「後輩ちゃんのおかげで最近は思考がクリアだぜ! 今日も頑張ろうな、悟!」

「お、おお……」


 もはや葉音や涼よりも二兎が先生になっていた。

 彼女の教え方は不思議と分かりやすく、血肉になっている実感がある。


「この調子なら悟先輩は脱平均できそうですねぇ」

「二十位は上げられそうな気がしてきた」

「ふふっ、年下に順位を上げてもらって恥ずかしくないんですかぁ?」


 心臓に鋭い棘が刺さるような感覚。

 情けなくないと言えば嘘になるが、レベルアップしているのは事実なのだ。

 

「俺も五位くらいは上がっちゃうぜぇ?」

「せんともさんは元々低いんだからもっと頑張ってください」

「なんか俺の時だけ容赦なくない!?」


 こればっかりは二兎に同意せざるを得ない。

 まぁ、この調子なら隆輝も最下層を抜け出せるだろう。

 むしろ、いきなり成績が上がったことでカンニングを疑われないか心配だ。


「悟〜助けてくれよぉ〜。後輩ちゃんが俺をいじめるよぉ〜」

「でも、こういうの好きだろ?」

「まぁね」


 即答である。


「…………気持ち悪いです」


 ガチ目に引いている二兎に苦笑しつつ、俺は勉強に戻る。

 どこかのアイドルとモデルの戦いを無視すれば、シャーペンを走らせる音だけが響く平和な時間。


 涼に喧嘩を売った日から、ようやく平穏が訪れた気がする。

 わけもわからないまま葉音のアプローチに戸惑うこともなく、涼に振り回されるでもなく、知ったものに溢れた日々。


 素晴らしいじゃないか。

 俺はこのまま緩やかで、ちょっとだけ刺激のある学生生活を送っていきたい——と、思ってしまったのが良くなかったのだろう。


 神様というのは、きっと曲解が好きな生き物なのだ。


 俺の欲しい刺激はポジティブなものというか、不安で心臓が鳴りだすようなものじゃない。

 だけど、これからちょうど一分後に、俺は神の悪戯に巻き込まれることになってしまうのだ。


「——なら、悟くんの周りの空気をビンに詰めるのはどうかな?」

「それなら悟成分が濃い日を選んだ方が良いわよね。具体的な数値を出さないと——」


 アホ二人の平和。


「そういえば後輩ちゃんってバイトとかしてるの?」

「あぁ……接客業的な感じですかねぇ。先輩たちみたいな豚さんが多くて困っちゃいますっ」

「へへ、そう呼ばれるのもアリですな……」


 変な二人の平和。


 そんな平和は、図書館の扉を開いた存在によって壊されることになった。


「…………こんにちは」


 デジャヴだ。前回と同じように天王洲が入ってきた。

 いや、前回と違うところがある。俺たちに挨拶をしてきたのだ。


 どういう風の吹き回しだ?

 そう考えていたのは俺だけではなかったようで、葉音が席を立ち、彼女の元へ歩いていく。その背中は戦士のそれだ。


「天王洲さん、昨日は本借りてなかったよね。何しに来たのかな?」

「別に、この学校の生徒として私がどこへ来ようと自由ではないですか?」


「うんうん、確かに自由だね。でも、今日のこの時間の図書室は、僕たちが使えるように先生に話を通してあるんだよ。だから天王洲さんには、用がないなら出て行ってほしいなぁ、って」

「それは天王洲に断りがあったわけではありません」


「……なに?」

「天王洲に断りがあったわけではないと言っているんです。そんな約束は意味を持ちません。いま、私が一本電話をかけるだけで覆せるのですから」


 葉音はにこやかな笑みを浮かべているし、天王洲は敬語を崩さないが、二人の間にはとデカい火花が散っていた。


 それに両者の言い分もぶっ飛びすぎている。

 

 まず、そもそも一生徒に図書館の貸し切りができるのかということだ。

 実際に俺たち以外の生徒はいないし、借りられているのだろう。どうやってるんだよ。


 続いて天王洲の言葉だ。おそらく彼女は、自分がその気になれば教師を買収したり、なんなら学校ごと買い取れると言っているのだ。神と神の戦いかよ。


 二人の戦いは埒が明かないだろう。

 

天王洲のターン!

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