89.東堂涼の日常
「——はーいすみません! 次のセット確認があるので、少し休憩でお願いします!」
スタッフさんの言葉で、スタジオ内に雑音が溢れ出す。
「…………はぁ」
自然と出てしまうため息。
今日は学校を休むことになった。
テレビ番組の収録——モニターに映る可愛らしい動物の動画を見て、それに反応するというありがちなもの。
葉音ほどではないが、そこそこ名の売れたアイドルやモデルを集めていることもあり、一種の緊張感が漂っている。
私はそれで満足のいく演技をすることができずに落ち込んで——いたわけではなく、単に悟や葉音に会えないからだ。
悟成分に関しては不足も不足。そろそろ禁断症状が出てもおかしくない。
どうにかして二人きりの状況を作らなければ。
そんなことを考えている私の横で、人が立ち止まる気配があった。
「やっほー涼ちゃん!」
「東堂さん、久しぶり」
そこにいたのは、モデル仲間の渋谷美奈と浅川由美だった。
二人は同じ事務所。私とは違うけれど、何度かファッション誌の撮影で一緒になることがあり、話す機会が増えて今は友人と言える仲。
「二人とも、一ヶ月ぶりくらいよね。ごめんなさい、一緒の現場だって気付かなくて……」
「ううん、私も美奈さんに教えてもらうまで気付かなかったから」
フォローしてくれた浅川さんは私の一つ上で、何かと似ているところがある。
二人とも黒髪ロングだし、性格もどちらかと言えばクール。
ただ、芸歴的には私の方が長く、タメ口ではあるもののお互いに苗字で呼び合うという独特の状況。
「いや、ちょっと動画見るのにも飽きたっていうか……眠いなぁって思ってる時にキョロキョロしたら、ちょうど涼ちゃんが目に入ったの!」
美奈さんは私とは正反対の人だ。
社交的で、美人ではあるが親しみが持てる。東南アジア系のハーフだからかもしれない。
ちなみに、彼女との関係性も少し複雑だ。
美奈さんは大学生だが、芸歴は少しだけ私の方は長い。
だけど明らかに人間的にできているのは彼女の方であり、お互いタメ口で話すことにした。
「ずっと可愛くても疲れてしまうものね」
眠いのは私も同意だ。
少し気分転換がしたかったところだし、二人が見つけてくれたのは幸運だった。
「うーん。でも涼ちゃんさ、なんだか別のことに意識がいってない?」
「……そうかしら?」
「確かに、去年の修学旅行前の私と同じような感じがする」
修学旅行。そういえば、浅川さんには好きな相手がいて、修学旅行で距離を縮めようとしていると言っていた気がする。
「その時は……上手くいったの?」
「うん。京都駅で二人きりになる機会があって」
「なになにっ! もしかして涼ちゃんにも好きな男の子ができたわけ!?」
「……実はそうなんです」
私の言葉を聞いて、二人の顔が恋愛モードに入る。
「ついにモデル仲間から恋愛同盟に進化する日がきたみたいだね……まぁ私は相手がいないんだけど」
「私もまだ復縁できてないんだけどね」
「ずいぶん幸先の悪い同盟じゃないですか……?」
とはいえ、恋愛相談ができる友達が欲しかったのは事実だ。
葉音は一応ライバルだし、同じ芸能人なら流出の心配は少ない。
悟との出会いの部分はかなりボカして、二人にこれまでの説明をすることにした。
「——ということなのよね」
「かなり強敵だね。話を聞く限り、他の子たちも東堂さんに並ぶくらい魅力的な人みたいだし」
「ねぇ……今の若い子たちってみんな肉食系なの? 私の周りはなに?」
共感してくれている浅川さんと驚愕している美奈さん。
「逆に、二人のライバルはどんな感じの人なの?」
「私は……彼が推してたコンカフェの子と、彼の後輩」
「そもそも私は好きな人いないんだけど……仲良い男友達は私の親友といい感じで、ライバルなんていないかな」
美奈さんは、おそらく自分に向けられる好意に気付かないタイプだ。
一方で浅川さんのライバルは手強そう。私にとっての葉音と二兎さんみたいなものだ。
「ま、私にはよく分からないけどさ、とりあえず勉強会はした方がいいと思うよ」
「東堂さんって頭いいんだし、そこで好感度上げたいですよね」
「そうそう。あとは……もうすぐ夏じゃん?」
「夏……確かにそうだけど、それがどうしたの?」
私が首を傾げると、美奈さんは自信満々に指を立てた。
「MINEで二人きりのデートに誘って、海とか行っちゃえばいいんだよ!」
「……アリかもしれないわね!」
夏休みは、毎日のように顔を合わせることはできない。
しかしそれは葉音たちも同じ。
いつ、どのタイミングで悟と会っているか分からないのだ。心理戦に近いものを感じる。
「もう行ったことあるかもだけど、夏の水族館もいいよ」
「半袖……触れ合う二人の肌……水族館もいただくわ!」
またまた良い案をもらってしまった。
無難に品川に行ってもいいし、少し遠出して江ノ島まで足を伸ばすのも悪くないと思う。
「あと、これは演劇サークルの人から聞いた話なんだけど——」
美奈さんが更なる有益情報を授けてくれようとした時、スタッフさんが収録再開を告げた。
「あちゃあ……また後で話そうね!」
「私も参考にしたいから、東堂さんよろしくね」
二人は自分の席へ去っていく。
それにしても、期末試験の先にある夏休みを利用するなんて、良い事を知れた。
当たり前だけど、他の二人も同じチャンスを狙っている可能性はある。
それでも負けるわけにはいかない。特に危険そうな二兎さんには。
……と、一回このことは忘れないといけない。
このままだと、愛らしい動物を見ているとは思えない顔になってしまうからだ。
今作ではなく歩く魚ファンの方なら、今回の話は喜んでくれるかもしれません。違う人はぜんぜん、今日からなってくださって構いませんよ^ ^
評価ポイントをいただけるととても嬉しいので、お手数ですがよろしくお願いいたします!
作品作りにご協力いただけると幸いです!




