84.白昼夢
「……つまり、こういうことか? 光源氏はちびっ子だった若紫を引き取って、自分の理想の女性として育て上げて妻にしたと?」
「そうなるわね。実際には正式な結婚をしたわけではなかったけど、世間からは正妻扱いされていたらしいわ」
まずは涼に古文を教えてもらうことになり、授業で読んだ範囲を開設してもらっていたが……。
「マジかよ……とんでもねぇ変態じゃねぇか」
「ま、まぁ、今と昔じゃ常識も違うから……」
隆輝がビビってるのも納得ではある。
光源氏と若紫の年齢差は十歳ほどらしく、彼はJCくらいの彼女に手を出したことになる。今だったら手錠確定である。
「でもぉ〜、魅力的な人は誰かに取られちゃうかもしれないですしぃ、マーキングしておく必要があるのは今でも変わりませんよねぇ……」
隣に座っている二兎の言葉。
何故か納得と後悔が同居しているような響きだ。
「僕は過去よりこれからが大切だと思うな。だって、ライバルを全員倒して奪っちゃえばいいんだし」
「そんな戦闘狂みたいな……」
アイドルとして売れるまでに熾烈な戦いがあったのだろう。
彼女は基本的には平和主義だが、競うことへの抵抗が全然ない。
「私も葉音と同じ考えだけど……悟を自分好みに育て上げられると思えば悪くないわね」
「おい悟、この人なんかヤバい思想に目覚めてないか?」
「あぁいや、もちろん今の悟への不満は欠片も無いわよ? でも色々な貴方が見たいじゃない」
「それは僕も賛成、大賛成! 年下の悟くんを甘やかしたいっ!」
巻島さん、捕まりますよ。
「先輩が同じクラスになるのは良いですねぇ〜。もっと情けない姿が見れそうですしぃ」
「今よりも俺をいじめるつもりか? 胃に穴が――」
その時、俺の脳裏に「あり得ない現実」が差し込まれる。
本をパラパラと捲っていたら、見覚えのない栞を見つけたような感覚。
『あれぇ〜? 悟くん、今日も課題忘れたのぉ〜?』
「アニメの一挙放送があって、気付いたら朝だったんだよ……」
『だからクマが酷いんだ? はぁ……ほーんとダメだねぇ悟くんは』
俺の前の席に座る二兎――芽莉彩はクスクスと笑う。
「頼む! 写させてくれ!」
『えぇー、どうしよっかなぁ〜。この前も見せてあげたしなぁ〜』
「そこをなんとか!」
両手を合わせて頼み込む。
『じゃあ……今日の放課後は悟くんの奢りでパフェね? その後はゲームやりに行こっかなぁ〜』
「ぐっ……金欠だが背に腹はかえられない!」
そういえば、先週も芽莉彩は俺の家に来てゲームをしていた。
「――――い――――で――か――」
そして、俺たちは流れで――
「……先輩!」
「おおおっ!?」
勢いよく肩を揺らされてようやく、自分が白昼夢の中にいたことに気が付いた。
「どうしたんですか?」
「い、いや……ちょっと時間旅行をな」
「……ボケ始めたんですか?」
「まだ大丈夫だわ!」
俺は向こう数十年は現役でいるつもりだ。
ヒーロー制度とかできたら志願するし。
それにしても妙に現実味があるというか、まるで俺が昔から二兎のことを知っていたかのような安心感。
しかも、夢の中の二兎は間違いなく俺に気がある。
好意という背景があるなら生意気さも可愛いというか、新たな扉が開きかけてしまう。
「先輩のちっちゃい脳みそが疲れちゃったみたいなんでぇ〜、一回休憩にしましょうかぁ。飲み物買ってきますねぇ」
二兎は一人で図書室から出ていってしまう。
「古文の範囲は一通り終わったし、あの子の言う通り休憩にしましょうか」
「そうしよー! 僕はマネージャーへの連絡を思い出したから、ちょっと電話してくるね。十分ぐらいで戻ってくるから!」
女子たちは日頃から勉強に慣れ親しんでいるため、特に疲れている様子もない。
「隆輝、まだまだいけるか?」
「おうよ! どんとこいだぜ!」
先生よりも身近な存在に教えてもらえたからか、隆輝も魂を保持していられる。
白昼夢にさえ注意すれば勉強会は上手くいきそうだ。
「ナントカ活用はさっぱりだけど、光源氏はジャパンってことだよな!」
……不安かもしれない。
あり得ない現実と称してssをぶち込めば良いことに気が付いた。
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