メリッサが練りっさ
過去最大級の戦果を胸に、二兎芽莉彩は帰宅した。
親への挨拶もほどほどに自室へと戻ると、壁際に寄せてある横長の大きな机――の窪みに収まっていたゲーミングチェアを引き、どしっと腰を下ろす。
「ふぅーー……」
大きく息を吐きながら、数時間前の大一番を思い返す。
上々どころの騒ぎじゃない。よく頑張ったと自分を褒めてあげたい。
しかし、余韻には帰り道で浸りまくった。
「そろそろ時間だった」
芽莉彩は机上にあるゲーミングPCを起動しつつ、傍に置いておいたヘッドフォンを装着。
二十四時間ぶりに目を覚ましたそれを慣れた手つきで操作しながら、軽く咳払いして喉の調子を確認する。
一通りのチェックが終わると、彼女は一度ヘッドフォンを外して部屋を出ていく。
三分後に戻ってきた芽莉彩の手には水の入ったグラス。
これで準備は整った。
芽莉彩は頭から猫耳型の機器を生やし、マウスをクリックした。
モニターに映し出されているのは動画配信サイトだ。
現代を生きるものなら老若男女問わず知っているであろう大手プラットフォーム。
その中でも、彼女は「受け取る側」ではなく「発信する側」の立場にいた。
配信を開始して、視聴者の数が一桁だったのはほんの一瞬。
一分も経つ頃には数千人の視聴者が集まっていた。
「豚さんたちー! こんばんはー!」
満面の笑みで告げると、画面の中の芽莉彩――を二次元に落とし込んだようなキャラクターがそっくり動きを真似る。
『メリッサ様ー!』
『今日も容赦ない豚呼び……たまんねぇ』
『待ってましたあああああ』
間違いなく赤の他人に、たとえ既知の仲であっても言うべきでない言葉。
しかし、彼女の「リスナー」は大喜びだった。
「まだ一日しか経ってないのにがっつき過ぎ〜! 我慢のできない雑魚ばっかだねぇ?」
『俺たちの扉は開かれてしまっているんだよね』
『今日もせいぶつの島の実況してほしい』
「そうだねぇ。昨日でザコザコ島の開拓も進んだし、整えていこっか」
芽莉彩には高校生の他にVtuberという、もう一つの顔があった。
活動を開始したのは今年に入ってから。つまりまだまだ新参者なのだが、既にチャンネル登録者は五万人を突破している。
もちろん人気の一端を担っているのは、彼女の独特な喋り方というか、煽り方だ。
聞けば十中八九が「可愛い」という声から炸裂する罵倒によって、これまで知らなかった性癖が開花した人も少なくない。
だが、真に視聴者を魅了するのには別の理由がある。
『メリッサ今日はどうだったん?』
『そうじゃん例の先輩にアタックする日でしょ?』
「それがねぇ……めっちゃいい感じだったのっ!」
『うおおおおおお!』
『メリッサにアプローチしてもらえるなんて羨ましい……けど俺じゃ勝てないのも事実』
『俺たちはメリッサの幸せな姿が見れれば満足なのさ』
クソ生意気な女子が恋をしているという構図。
これこそが人気に直結していた。
クソガキがどうしてクソガキになったのか。芽莉彩ことメリッサが詳しく語ったことで、リスナー達は「先輩」のことを信頼に足る存在と認め、日夜作戦会議を開いているのである。
「先輩の好みにも寄ってると思うし、反応的にも悪くないんだけど、次はなにがいいかなぁ。豚さん達はどう思う?」
言いながらメリッサはせいぶつの島のプレイし始める。
『押して押して押しまくるしかない』
『逆に先輩の方から誘わせるのはどう?』
『メリッサなら色仕掛けしたらイチコロよ』
『どうしてメリッサさんはお相手のことを運命の相手だと思ったのですか?』
『おっと初見さんかい? メリッサは先輩に危ないところを助けられたんだよ。それで落ちない女は……いないのさ』
「ハイパーチャットありがとう〜! えっとねぇ……あとは直感だよねぇ。豚さん達は彼女なんていたことないかもしれないけどぉ、ビビってくることがあるの!」
メリッサはこう言っているが、リスナーが恋に悩んでいる時には彼女自身が相談に乗ることもある。
所々から透けて見える優しさも好かれるワケだ。
『でも先輩を狙うライバルがいるんだよね』
チェンソーで木を切り倒していたキャラクターが動きを止める。
「……それは、そうなんだよね。正直、かなり強敵」
『メリッサがそこまで言うなんてどんな化物だよ』
『人気アイドルとかモデルレベルじゃないと想像つかん』
『もしそうだったら先輩の前世はなんなんだよ』
『五回くらい世界救ったんじゃね?』
『それは世界のシステムを見直すべき』
当たらずとも……どころかドンピシャで的中させられて苦笑するメリッサ。
『ま、相手がいくら強かろうと、メリッサには俺たち豚がついてるからな』
『豚って賢いしな』
『とりあえず迷ったら実行あるのみよ』
「みんな……ブヒブヒ鳴くだけじゃなくて、たまには良いことも言えるんだね」
『その通りですブヒィィィィィィ!』
『罵倒が足りねえよぉ!』
『おおおおおんママぁぁぁぁぁぁぁ!』
「さすがにママはキツイんだけど……」
その後もメリッサは島の整備をしつつ、今後の行動についてリスナーと練っていった。
時には突然設定を生やすことも大切だと思います^_^
評価ポイントをいただけるととても嬉しいので、お手数ですがよろしくお願いいたします!
作品作りにご協力いただけると幸いです!




