身の程
「――やめてください!」
奥ゆかしい女子が辛うじて搾り出した声。
渋谷のどこかから響いた声が、二人の少年の耳に届いた。
「なぁ……なんか聞こえたよな?」
「女の子の声だったと思う」
二人の高校生は周囲に目を向ける。
都会の喧騒の中とはいえ、それほど離れた場所ではない。
大通りから一本裏に入ったところに、声の主はいた。
「は、話してください……!」
夕陽の視線を一身に受けて輝く金髪。
男子たちと同じ制服を着ているだけではなく、どこかで見たことのある女子だった。
「もしかして……天王洲さんじゃないか!?」
クラスが違うとしても、同じ二年生の彼らが分からないはずがない。
高校内でもトップクラスの美少女として知られている天王洲セラ。
そんな彼女が数人の男に言い寄られている。
「これ、助けないとヤバいよな?」
「そ、そうだな……」
どちらともなく生唾を飲む。
身の程も知らず「その後」を考えてしまったからだ。
『あの、助けてくださって本当にありがとうございます。その、私……あなたに恋をしてしまいました』
具体的な場所まで抜き出せた者はいないが、セラは北欧のハーフだと噂されている。
髪も、瞳も、肌も。全てが透き通る彼女から熱のこもった視線を送られて落ちない男はいないだろう。
『私の家族もお礼を、ぜひあなたに後を継いでほしいと言っていました。私も家も全部……好きにしてくださいね?』
将来の心配もいらない。その上でセラの身体も好き勝手にできる。
胸の膨らみこそ控えめだが、彼女のスタイルは東堂涼とは違う魅力を持っていた。
細いが骨格は強い。小ぶりでも尻の形は日本人離れした丸さを備えていて、そこから緩急のあるくびれを形成している。
人工的な肉体美でなく、遺伝子的な肉体美。
これを味わえる日本人は無に等しい。
千載一遇のチャンス。少し男を見せるだけで夢に飛び込める。だが――
「なぁ〜俺たちと遊ぼうぜぇ?」
「そうそう。気持ちよくしてやっからさぁ」
「お姉ちゃんだって強い男が好きだろ?」
セラに声をかける男たちは見るからに「強者」だ。
鍛えられて隆起する肉体に、心底女を舐め腐った口ぶり。
数多の雌を手に入れてきた証を香水のように振り撒いている。
うぅ、と二人は小さく呻いた。
自分たちが出ていったところで瞬殺。
ボコボコにされるのは目に見えている。
互いに何も言わなかった。
しかし、「見なかったことにしよう」という暗黙の了解のもと、重い足取りで去っていく。
遠ざかる足音。しばらくセラに詰め寄っていた男の一人が言った。
「あの〜……行っちゃいましたよ?」
これまでの「捕食者」としての態度が一変。
他の男たちも同様だった。
「かれこれ五回はやってると思うんですけど……まだやるんですか?」
「そろそろ警察とか呼ばれそうで怖いっす……」
セラは空気を吸い込み、吐く。
「……終わりでいいです。みなさんありがとうございました。こちらは報酬になります」
一人一人に封筒を手渡すと、内一人が中身を確認して「マジかよ!」と歓声を挙げる。
続いて残りの雄たちが札の枚数を数える。
「こんなに貰っていいんですか!?」
「あ、後で殺されないっすよね……」
「安心してください。こちらは正当な報酬ですから。ですが――」
キョトンとした顔の男たちに向けてセラは言う。
「――他の方に迷惑をかけないでくださいね?」
天使のような笑顔だったが、その背後には漆黒の翼が広がっている。男たちにはそう見えた。
触らぬ神になんとやら。男たちはそそくさと去っていく。
「………………はぁ」
路地裏の静寂に包まれたセラは、再びため息を吐いた。
次回、試験勉強
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