マッサージ
彼女はそのまま俺の近くへ来た――かと思うと座り直し、痛めていた俺の足を手に取った。
そして、それを自分の太ももの上へ置くと、優しく撫でた。
くるぶしにツルツルとした肌が触れる。
同じ年の男子からは決して感じることができない陶器のような感触。
「……なにやってんの?」
「なにって、マッサージしてあげるんですよ? 先輩みたいな雑魚おじさんには優しくしなさいって、おばあちゃんに言われてますからぁ」
「一個しか変わらないんだけどね」
その一年で身につけられるものはデカいし、そういう意味ではおじさん扱いも納得できる……かもしれないが。
言葉では煽るような態度だった二兎だが、思いのほか丁寧だった。
足首を優しく、痛くないか確認しながら回してくれ、そのままふくらはぎ、太ももへと手を移動させていく。
「さ、次はうつ伏せに寝てください」
このままやってくれるのか。その本心を聞きたい気持ちもあるが、黙って従うことにする。
「乗りますねぇ〜。重いって言ったら先輩のこと、殺してあげますっ!」
「優しく殺してくれよな」
「言わなきゃいいんですよぉ〜?」
尻のあたりに重量が加わる。
だが、彼女の言葉とは正反対に重さはほとんど感じない。
二兎はもともと身長はあまり高くないし、スカートから覗く足も細い。存在感のある胸が邪魔をしているのかもしれないが、それでもだいぶ軽い方だろう。
何も言わないでいると二兎はマッサージを始める。
彼女の細い指が肩の骨に沿うように沈んでいく。
女子にしては力が強く、しっかりとした刺激。
「おお……」
「ふふっ、先輩声が漏れちゃってますよ? きもちいですか?」
「き、気持ちいい……です」
ただマッサージをされているだけだ。
それなのに、彼女の言葉がやけに色っぽく聞こえる。
「……それに、んっ、しても……先輩たちに、マッサージしてもらったり、しないんですか?」
的確にツボを押しながら二兎が聞いてくる。
「まぁ……してもらったことはあるけど、二兎ほど気持ち良くなかったかな」
彼女のマッサージは単なる力の強さではなく、動きそのものが違う気がする。学んだことがあるのだろうか。
伝えると彼女は「そうなんですね〜」と流したが、声色は仄かにに嬉しそうだった。
「他の部位もしっかりやってあげますね。一時間後には悟先輩、空を飛べちゃうかもしれませんよ」
「……絞め殺したりしないでな?」
ちゃんと肉体を保持した上で飛ばせてもらいたい。
二兎の言った通りマッサージは続いたが、みるみるうちに身体が軽くなっていくのが分かる。
たまに肩や腰が痛いと思うことはあったが、日頃の筋トレによるものだろうし、凝っているわけではないだろうと感じていた。
しかし、右半身をほぐされた時点で明らかに違う。
ダメージを受けている状態で慣れてしまっていたから、それが普通になっていたのだ。
「二兎ってこんな特技があったんだな」
「知らなかったんですかぁ? 私ってぇ、なんでもできるんです!」
「なるほどな……」
女子に限った話ではない。
人間は誰しも、様々な面を持っている。
隆輝や葉音、涼と同じように、二兎も多くの引き出しを持っているということだ。
俺が知っている「生意気な後輩」以外の面も持っているのだろうか。
または、彼女は俺にどのような面を感じているのだろうか。
何か大切なことを忘れている気がするが、身体に伝わる快感が思考を溶かしていく。
「二兎が疲れたら元も子もないし、いつでも終わっていいんだぞ」
「うーん、そうですねぇ。それじゃあ終わりますか」
こんなに労ってくれたわけだし、俺も何か返してやらないと。
ちょっと高いチョコが冷蔵庫に入っていた気がする、なんて考えていたが、俺に乗っている二兎が動く様子がない。
「……二兎? ぜんぜん重くはないけど、どいてくれないと起き上がれないぞ」
そう言うと、二兎は体勢を変えてくれた。
しかし、それは移動するためのものではなく――
「仕上げしますねぇ〜」
俺の上に、重なるように身体を預けてきたのだ。
私の作品にマッサージ展開が多い理由がわかりますか?
私の肩がバキバキだからです。
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