110.マーク5とマーク50ぐらい違う
「——やりましたね、七里ヶ浜くん。前回は出来なかった問題です」
問題を解いた俺のノートを見ながら天王洲が言った。
「次の問題も頑張りましょう」
ノートを手渡すと、天王洲も自分の問題に戻った。
チラリと目をやれば、俺よりも何段階も進んだ内容をやっているようだ。
俺も続きをやろうと思ったが……隆輝と涼がこちらに注目している。
今日の勉強会は、かつてない組み合わせになっていた。
葉音はアイドルとしての仕事があるらしく休み。
メッセージで「この前抜け駆けしたバチが当たったかも」と言っていたのを思い出す。
さらに二兎も休み。彼女は廊下ですれ違った時に「今日頑張らないとテンノーンが手に負えなくなるんです」と焦っていた。どういうことだよ。
なので、今日のメンバーは俺と隆輝、涼、そして天王洲の四人なのだ。
隆輝は俺としかマトモに話せず……というか圧に勝てないようで、涼は隆輝と天王洲に興味がなく、天王洲は辛うじて俺と言葉を交わしてくれるくらい。
いつにも増して盛り上がらないパーティではあるが、俺と天王洲のやり取りに何を思ったのか、残りの二人が反応しているのだった。
「……なんだよ」
声を抑えながら隆輝に聞いてみると、彼はこちらに身を乗り出し、俺の肩をガッチリとホールドする。
「なぁおい、一体何があったんだよ」
「何って?」
「いやいやお前……天王洲さん、めちゃくちゃ喋るようになってるじゃねぇか」
「……そうかぁ?」
「もう別物だよ。シルバーマンのマーク5とマーク50ぐらい違う」
「次元が違うじゃんかそれ」
ナノマシンとか使い始めてちゃってるよ。
「マジで、それぐらい違うんだって。悟、一体どんなイベントをこなしたんだよ」
「何にもしてないんだけどなぁ……なんだよ、その顔は」
「いつものように呆れた顔だが?」
「般若の面のモノマネかと思った」
「ぬかすぜ」
隆輝はふっと笑うと「だったら証拠を見せてやるよ」と告げて、俺から離れた。
「なぁ天王洲さん。俺の名前って分かる?」
「すみません。興味がなくて」
彼は「な?」という顔で俺を見た。何も納得できないんだが。
「じゃあさ、この問題教えてもらってもいい?」
「…………しょうがないですね。一度しか言いませんよ」
「ありがとうございますッ!」
今度はめちゃくちゃドヤ顔だ。
(……言われてみれば、前回は隆輝が聞いても教えてもらえなかったか……?)
俺の記憶違いかもしれないが、少しだけ天王洲の態度が軟化しているのか。
二兎という友達ができたお陰だろう。
俺が彼の代わりに聞く必要がなくなったわけだし、良いことだ。
さて、俺も勉強に戻るとするか。
なんだって? 涼の様子を確認しなくていいかって?
無理だ。目がマジすぎて怖い。
「——今日はこのくらいで終わりにするかぁ」
「ふぃー疲れたァ! 脳みそはち切れそうだから走ってくるわ!」
隆輝はいの一番に図書室を飛び出して行った。
「あの、七里ヶ浜くん」
鞄に教科書をしまい終えた俺に、天王洲が声をかけてきた。
「どうした?」
「あの……今日の放課後は、何か予定が?」
「今日かぁ」
今月は面白そうな映画が多く公開されていて、あと二回くらいは映画館に行きたいところだ。
だから、これから行ってもいいのだが……少しだけ気分が乗らない。
「いや、特に予定はないけど……どうした?」
「重要な用があるというわけではないのですが、もし良ければこれから——」
「悟は予定があるわよ」
横から言葉の槍が飛んできた。涼だ。
彼女の声はあまりに冷たくて、本当に槍が飛んできたと思ってしまいそうになる。
「悟はこれから私とデートなの。有無は言わせないわ」
「予定というのは両者の合意が——」
「もう一度言うわ。有無は、言わせないわ」
取りつく島もなく、涼は俺の腕を掴んで歩き出した。
有無を言わせないというのは誰に向けた言葉なのか。
俺になのか、天王洲になのか。おそらく両者にだ。
俺は涼にされるがままだったが、一度だけ振り返った。
天王洲は何も言わずに立ったままだ。
以前なら、こういう状況でも容赦なく反論していたはず。
戦わない理由を考えたが、思いつかなかった。
本当は涼回はなかったのですが、心の中の涼が書けと叫ぶため書くことにしました
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