105.ザコザコというか、ガキですね…
「……で、用っていうのは?」
マキネーターの罠にまんまとハマってしまった翌週。
もはや恒例行事となった勉強会を終え、帰ろうとしていた俺のスマホが震えた。
確認してみると、二兎からのメッセージだった。
『今日は駅前で集合ですよぉ〜!』
ご丁寧にハートの絵文字までつけてくれたが、元々彼女とは約束をしていない。
しかし、『クラウドマン』四作目をレイトショーで観た俺に、二兎の誘いを断ってまでやることもなかった。
軽い気持ちで駅向かった俺を待ち受けていたのは二兎と——天王洲だ。
「……で、用っていうのは?」
短すぎる回想終わり。
戸惑う俺に答えをくれるのは二兎かと思いきや、天王洲の方である。
「本日は、漫画喫茶……というものに行ってみたいと思います」
「漫画喫茶ぁ?」
首を傾げると、二兎がぷっと笑う。
「セラちゃんは、漫画喫茶に行ったことがないらしいですよぉ〜。それどころか漫画も読んだことないって、さすがにヤバすぎますよねぇ?」
「…………セラちゃん?」
いや、もちろん漫画を読んだことがないというのは——天王洲の家柄を考えると妥当とも考えられるが——驚きに値する。
するのだが、それよりも「セラちゃん」という呼び方が気になってしまった。
二兎は俺から目を逸らし、話すら逸らそうという雰囲気だ。
「二人って、そんなに仲良かったのか?」
「そうなのです」
俺たちの会話に天王洲が入ってくる。
「この前のメイドカフェの帰りに、それはもうお話が合いまして。私は芽莉彩ちゃんと、芽莉彩ちゃんはセラちゃんと呼び合う仲になったのです」
「そ、そうですよぉ……とっっっっっても話が、合いまして……」
「なるほどねぇ」
二兎の反応には引っかかる部分もあるが、二人が仲を深めたというのは良いことだろう。
少なくとも、天王洲が友達と呼べそうな存在と一緒にいるのは初めて見る。
普段の取り巻きたちは、友達というよりは信奉者の集まりのようなものだからな。または海か土星の輪だ。
「では、行きましょうか」
天王洲が言うや否や、俺たちの目の前に黒い物体が滑り込んでくる。横に長く、無駄に黒光りしている鉄の塊。
そこから何者かが降りてきたと思うと——
(——じ、爺だッ!)
いつぞやに見かけた爺。
長身の細身だが、尋常でないオーラを放つ初老の男性が、リムジンの扉を開けて恭しく頭を下げている。
「ど、どうも……」
「お久しぶりでございます。その節は、本当にありがとうございました」
にこやかに笑いかけてくれる爺。
まさか、再び俺と彼の人生が交わる日が来るとは……。
俺が車に乗り込むと、続いて二兎が、最後に天王洲が入ってきた。
「どうぞお寛ぎください。お飲み物も用意しておりますので」
そう言って天王洲は、備え付けられている小さな冷蔵庫のような場所から、日本では売っていなさそうなビンの何かしらを取り出した。
「あのー……セラちゃん、それは……?」
「さくらんぼのジュースです。他のものが良かったですか?」
「い、いや……」
二兎ですら、この異様な状況に動揺しているようだ。
にしても、さくらんぼのジュースってなんだよ。絶対美味いじゃねぇか。
とはいえ、とはいえだ……俺の読みが正しければ、二兎と天王洲は友達になった。
二人の目的は……天王洲に庶民の生活を教えることなんじゃないだろうか。
そう考えれば、前回コンカフェについてきたのも、今日の漫喫も納得がいく。
近頃の俺は、だんだんと天王洲に対する嫌悪感が薄れてきている気がする。
彼女は俺が嫌いというより、人間に対する興味がなかったのだ。
プログラムされたことだけを実行する、機械のような性格。
それが最近、どんな理由かは分からないが、一般庶民に興味を持ち始めている。
二兎も友達が少なそうだし、二人が仲良くなれるのであれば、少しくらい手伝っても良い。俺も人助け成分が足りてなかったからな。
そうなれば、俺が今やるべきことは一つ。
「なぁ天王洲、飲み物は飲まない方がいいぞ?」
「……何故ですか?」
こてんと首を傾げる天王洲。
彼女が分からないのも無理はない。
これは、ファミレスや満喫といった、庶民の聖域に通ったことのある者の常識なのだから。
「これから俺たちは……科学の実験をするからさ」
「ザコザコというか、ガキですね……」
横からそんなツッコミを入れられてしまった。
現実世界のラブコメばっかり書いてると、デートで行く場所が被ったり、「この作品でここって行ったっけ?」ってなっちゃうんですよね。
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