104.輝く笑顔
「これが八番の味噌ハラミ丼! 個人的に、味噌で食べるのって大人なイメージがあるから楽しみですー!」
俺は口を半開きにしながら、葉音がテレビ用の動きをするのを見ていた。
彼女は箸で米を、その上に肉を器用に乗せると、高校生とは思えない上品さで口に運んだ。
「んん〜っ! ハラミってあっさりしてると思うんですけど、それにコクのある味噌が絡んでご飯が進みます!」
俺の前では年相応——一部は人間を超越——なところしか見せない葉音だ。
しっかり仕事をしているのが面白くもあり、自分よりも遥かに経験を積んでいると尊敬の念も抱いてしまう。
仮に俺が同じことをしようとしても「美味い」しか出てこない。
「遠慮しないで、悟くんも食べてくださいね!」
「ありがとう、ございます……」
まぁ、俺に高度な技術が求められているわけでもない。
素人の感想を素直に言えばいいだけだし、普通に食べて「美味しいです」と言っておいた。
本心を言えば……こんなに大勢の人やカメラに囲まれて、味など分かるわけがない。
だが、そんな俺を、葉音は幸せそうな顔で見つめている。
「次は二十四番——」
「——ということで肉フェス、めちゃくちゃ堪能できました〜!」
牛タンまで堪能し、収録はひとまず終わりを迎えるらしい。
ようやく解放されるのかと思っていると、葉音がこちらへ歩いてくる。
「今回は久しぶりに呼んでもらえたということで、一緒に肉フェスを楽しんでくれた悟くんには、僕のサイン入りチェキをプレゼントしたいと思いま〜す!」
「いや、いらな——」
言いかけて、葉音の目が笑っていないのに気がつく。
「すみませ〜ん! もう少し嬉しそうにお願いしま〜す!」
「あ、分かりました!」
撮影の許可を取っているとしても、こいつらに俺の反応を指定する権利はない。
テレビ番組を作るからという、虎の威を借る狐のようなスタッフにムカつかないかと問われれば否だが、目の前にはもっと怖い相手がいる。
俺は精一杯の笑顔と動揺を作り——
「ま、マジですか!? 嬉しいです! 家宝にします!」
涼たちには見られたくないと、一段と思うのだった。
「最後にエンディング撮りますので、皆さん揃うまで待機で〜す!」
そういえば、芸人とか俳優とかもいたな。
自分のことでいっぱいいっぱいで記憶から消してしまっていた。
周囲に目を向けると、彼らも相席相手に何かを手渡している。
もうすぐこちらへ合流するということだろう。
(ねぇ悟くん?)
そろそろ帰ってもいいだろうと思っていたのだが、またもや葉音に呼び止められてしまう。もちろんマイクを塞いで。
(どうした? 流石にいま喋るのは怪しいと思うけど……)
(大丈夫だよ。いざとなったら、悟くんを僕の大ファンってことにしちゃえばいいんだし)
(いや、それは……)
難しいだろ。適当に装うことはできるだろうが、面白がって葉音のクイズでも出されれば簡単にボロが出てしまう。
俺が彼女のことで答えられるのは、誰でも分かるようなことか、誰にも分からないようなことしかないのだから。
(でも、悟くんが僕のファンって以上に、僕は悟くんの大ファンだからね! あんなふうに助けられて、何も言わないで去っていくなんて、今思い出してもカッコよすぎるよ……)
突然過去を思い出し、恍惚の笑みを浮かべる葉音。
俺は一歩後退りながら苦笑した。
(今度はどこ行きたい?)
(葉音と一緒ならどこでも楽しいけど、今回みたいなのは勘弁かな)
こんなのドッキリと大差ない。
何度も続けられるようなら、外に出るたびに葉音襲来を疑ってしまいそうだ。
(うーん……悟くんの負担になるようなことはしたくないし、僕がアイドルを卒業したら、こういうのはやめるね?)
(うんうん、そうしてくれると——)
……ん?
葉音がアイドルを卒業したら辞めるってことは、それまではやり続けるってことだよな?
そもそも卒業したら、前より外を気にする必要はないわけだし。
結局、何も変わっていないじゃないか。
そう思って葉音を睨んでみるも、輝くような笑顔を向けられてしまった。
次回から本筋に戻るぜ!
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