103.ナンノコトカナ?
(……なぁ! これはやりすぎじゃないか!?)
(だってぇ、悟くんとの思い出が作りたかったんだもん〜)
マイクを手で塞ぎながら、さらに聞き取りにくいように小声で話しかけるが、彼女は全く悪びれる様子がない。
(い、今からでも別の人にした方が……)
(そんな事したら怪しまれちゃうかもよ? それに僕、悟くん以外と食べる事になったら美味しく感じなくて、番組が成立しないかもなぁ)
ニコニコしながら圧をかけてくる葉音。これでは断れない。
(……わかった。わかったから、これ以上はダメだからな? 俺と葉音の関係がバレるような事をしたり、ただでさえ涼ちゃんがどんな顔するか……)
情報の早い彼女のことだ。俺や葉音か何も言わなくても、SNSにアップされる切り抜きなどで気付いてしまうはず。
その時に割を食う——というか食われる——のは俺なのだ。
それに、隆輝や二兎には揶揄われるだろうし、学校にいる葉音のファンに殺されるかもしれない。
(あ、それは大丈夫だよ)
(……それはって?)
(クラスの人のこと。最終的に、悟くんは顔出しNGって事にしてモザイクかけてもらうから!)
俺は涼の話はしたが、それ以外は心の中で考えていただけだ。
それなのに、葉音には綺麗にバレてしまっている。
そして、モザイクがかかっていたとしても涼の目は誤魔化せないと暗に言われているようで、思わず乾いた笑いが漏れ——
『あら悟、私というものがありながら、葉音とテレビデートしたらしいじゃない?』
『い、いや……あれは誤解というかなんというか……テレビデートって何?』
『まさか葉音に先を越されるなんてね……でも安心してちょうだい。私は悟を観衆の前に出したりしないわ』
『お、おぉ……それは嬉し——』
『ほら見て? 出店してたお店、全部の商品を集めてきたの。どれでも好きなものを食べましょう? その後は二人でゆっくり……ね?』
『あ、はい……』
——ありもしない未来の記憶まで生まれてしまった。
(っていうか、顔出しNGだったらお蔵入りするんじゃないのか? あんまりテレビで見たことないぞ……?)
(お蔵はダメだよ。だって、悟くんとの初テレビが録画できなくなっちゃうよ!?)
信じられないことを! という目で見られているが、それはこちらのセリフだ。
次などあってたまるかという感じだし、そもそも一度すら勘弁してほしい。
(まぁ、いいじゃんいいじゃん! こういうデ——思い出は多い方がいいって!)
(……もしかして葉音、良からぬことを考えてないか?)
彗星のように脳に舞い降りた仮説。
(確か、前にテレビで“好きな人がいる”って言ってたよな。ただ、俺と再会できたってテレビの前の人たちは知らない……それを、今回のロケで“偶然再会できた”事にして、既成事実みたいにしようとしてないよな? なんなら、これからも収録に何度も巻き込んで、特集とか組ませたら逃げられないな……とか考えてないよな?)
(………………………………ナンノコトカナ?)
完全にクロだ。黒を通り越してブラックホール並みに俺を吸い込もうとしている。
吸い込まれれば最期、俺は二度と逃げることができない。
しかし、この段階で見抜くことができてよかった。
これで今後の罠から逃げることが……できるのか?
俺は今回、もう逃げられないという段階で、初めて葉音の意図を読み取ることができた。
こと俺が絡む事になると、彼女のIQは五十三億ぐらいにブチ上がるのだ。
俺がヒーロー映画を観て胸を躍らせている間にも、彼女は俺を貶めるヴィランとして知略を巡らせている。
果たして、そんな相手に勝つことができるのか?
現実を見るのが怖くなってきて目を逸らそうとした時、逸さざるを得ない状況がやってくる。
「——確認終わりましたー! あと少しでお肉が到着しまーす!」
「はーい! ありがとうございます!」
スタッフが撮影の再開を宣言したからである。
彼らはわちゃわちゃと動き出し、それを見てギャラリーも活気付いていく。
二分と経たないうちに収録が始まった。
ギャラリーのスマホ?
葉音がサイコなパワーで消すんじゃないですか?
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