101.推理モノの犯人の気持ち
『僕の代わりに肉フェスに行ってきてほしいのっ!』
「ひ、一人で……?」
俺のような陰の者に、果たして単身突撃する勇気はあるのだろうか。
駒澤公園って言ったら、駒澤大学の隣にあるデカい公園だろう?
きっと大学生がたくさんいるだろうし、高校生がいたら浮きそうな気もする。
『もちろん僕だって、一人で行くようなところじゃないって分かってるよ? でも、悟くんが一緒に行くのが山室くんならまだしも、他の女の子だったら……』
これは困った。俺が温度計で、温度を測ることが生き甲斐なのだとしたら、今すぐ葉音の部屋に飛んでいく必要がある。
加工された声しか届かないはずなのに、心なしか俺の耳は冷えている。体感温度二度くらいた。
「わ、わかったよ……イベントは土日だったよな? 隆輝は練習があるって言ってたし、一人で行ってくるよ……」
『わぁありがとう! ちなみにだけど、お昼過ぎに行かないと売り切れちゃうらしいよ!』
「昼過ぎだな?」
『うんっ! 何が美味しかったとか、いっぱい教えてね!』
そういうわけで、俺の週末の予定は決まってしまった……のだが。
乾いた笑いが奥底から、勝手に飛び出てくる。
もはや笑うことしかできないだろう。
俺は人生で初めて、推理モノの犯人の気持ちが理解できた。
探偵の手のひらの上で転がされていることに気付かずに、まんまと策にハマってしまった。
「——ということで、僕たちがやってきたのは〜! 駒澤公園の肉フェスですっ!」
俺の目の前——というか俺たち野次馬の目の前——では、人気アイドルグループ「STAR BELL」のメンバーである巻島葉音さんが、最近テレビでそこそこ見るようになった芸人や俳優たちとロケに来ていた。
「葉音ちゃん、バスの中でもずっと肉フェスの話してたもんなぁ。どんだけ肉食いたかったん!」
よく分からん芸人が葉音に話を振る。
「ず〜っと来たいと思ってんですけど、お仕事が被っちゃうことが多くて……でも、今日やっと来れましたー!」
彼女がピースサインを作ると、俺を除いた野次馬たちが歓声を上げる。
高校生の葉音ばかり見ているから忘れがちだが、彼女はアイドルとして完璧な存在なのだ。
一挙手一投足で人々を笑顔にしている。
身体を張ることしかできない俺とは大違いだな。
まぁ、ここまでの流れで俺は理解した。
葉音はきっと、俺と同じ空間にいたかったのだ。
一緒に肉フェスを楽しむことはできないけど、少なくとも同じ場所で、同じ空気を吸いながら、運が良ければ同じものを食べることができる。
うん、やっぱり俺の理解力は大したことないな。
葉音は俺の予想を常に上回ってくる。
「ほんなら今日は、いっぱい肉食べんとな!」
「いや、葉音ちゃんはアイドルですし……」
「せやったな! 葉音ちゃんはなんかお目当てはあるん?」
「それなんですけど……どうせならみんなで違うものを食べた方が楽しいと思うんです!」
「確かに確かに!」
「で、このコーナーはお客さんと相席するのも魅力の一つですよね? だから、私たち三人が別れて、それぞれ相席してみませんか!?」
「なるほどなぁ! 面白そうやん! 乗った!」
面白そうやん、じゃないわ。
嘘だろ葉音。もしかして、もしかしてなのか?
「じゃあ僕はこのエリアで! 誰にしようかなぁ〜!」
彼女は番組のシステムを利用して、俺と肉フェスを楽しもうとしている?
(さ、さすがに許されないだろ……)
彼女は過去に「好きな人がいる」と発表してはいるが、それとこれとは話の質が違う。
(今のうちに逃げるしかない……!)
三十六計逃げるに如かずと聞いたことがあるし、まだ肉の一切れも食えていないが、撤退しよう。
「葉音ちゃ〜ん! 俺と食べてください!」
「私がお肉好きなだけ食べさせてあげるよー!」
「やっっっば可愛すぎるでしょ……」
幸いにも、人々が群がってくれるお陰で俺の姿は隠されている。
葉音の位置からは、まだ俺を見つけられていないはず。
俺は機を逃さぬように踵を返して——
「じゃあ——そこの“lot musician”のポロシャツ着てるお兄さん!」
悟が絡むと知力のパラメータに爆裂な補正がかかる女、巻島葉音
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