18
「カリム、ナット、話がある」
「な、なひ?」
「ナット、口に入っているものを飲み込んでから答えて。
禿の偽名ってトリーで合ってるか?」
……何、その不味い物無理矢理飲み込まされたような反応は?
「なぜ知っているの?
ニフェール様の前では一言だって話したこと無いのに」
「先ほどジャーヴィン侯爵から一つ情報を貰った。
本日の夕食会の余興でトリー、ジド、チアの三人がジャグリングとナイフ投げをすると聞いたんだが?」
「はぁ?!」
「そんなの聞いてねぇよ!!」
だろうなぁ……。
「僕も今聞いて驚いている。
ちなみに、以前広場で大道芸やってたのって、事前にスケジュール調整してやってたのか?」
「……確かに、言われてみれば当日いきなりだったなぁ」
「デートに行こうと思った時に割り込みで来るんで迷惑だったわ」
……デート?
……カリムと?
「ラーミルさんとのデートのネタとして検討したいので、後日デートの情報提供を求めます。
それはさておき、今いきなりこの話を聞いてジャグリングなりナイフ投げなりできる?」
「必要な物――ナイフとか――持ってきてないので無理だ」
だよなぁ……。
「例えば、食事用のナイフとか包丁とか、この家にある器具でジャグリングってできる?」
「まぁ、余程大きなものじゃなければ何とかなるぞ。
ただ、ナイフ投げはどちらにしても的が無いから無理だけど」
だよなぁ。
「それと、ジャグリングで三人とか四人とかでやったことは?」
「禿を入れて三人までなら……おい、まさか」
「僕が参加しても何とかなるかな?」
唖然とするカリムとナット。
事態について行けてないカルとルーシー。
なんとなくやることが想像ついてしまって呆れるマギーのおっちゃん。
参加したくて指くわえて見ているアムル。
「何とかなるかと言われれば、ニフェールの事だ、ジャグリング位やっちまうのかもしれないが、俺たちと合わせるのはまず無理だ。
ニフェールの実力が低いという意味ではなく、俺たちがついて行けない」
僕もそこまで実力あるわけでは無いからなぁ。
単純にナイフ投げや投擲されたナイフを素手で取る技の延長線でジャグリングっぽい事しようかと思っただけだから。
「ねぇ兄さま、何やっていいのか決まっていないの?」
「元々はジャグリングとナイフ投げだと聞いてるけど、無関係な僕らが対応するんだから、そこは適当に変えていいと思うよ」
「なら、僕たちが訓練でやっているやつは?」
あ、あれ?
確かに大道芸っぽい事やってるしな。
「……アリかな。
アムル、良く思いついた!
ちょっと確認してみようか。
カリム、ナットは二人でジャグリング。
ナイフはジャーヴィン侯爵に頼んで食器貸してもらう。
動けるように準備しておいて。
ナイフ十本くらいあればいいよね?」
「あぁ、その位で十分だ。
ったく、いきなりだが仕方ねぇ、やるか」
いや、僕にしてもいきなりなんだけどね。
もう少し落ち着いた人生送りたいよ。
ラーミルさんにフィブリラ嬢をお願いして、ジャーヴィン侯爵と話しに行く。
そこに両親とマーニ兄、ロッティ姉様までいたのは誤算だったが。
「……本気か?」
「あの二人のジャグリングだけで時間持つとは思えないんですよ。
となると、何かしらの時間稼ぎが必要でしょ?」
「いや、そうだが……」
「人がいない以上やむなしですよ」
悩んでいるジャーヴィン侯爵をよそに、マーニ兄が何か考えてるようだ。
あの表情は昔見たことがある。
悪戯するときによくしていた表情だ。
その後母上に叱られて飯抜きになるまでが一連の流れだったが。
「訓練のアレって、俺も参加できそうだな。
アゼル兄の為にもいっちょやってみるか?」
「三兄弟でってこと?
それはそれで面白そうだけど、いいの?
具体的に言うとロッティ姉様放置して?」
チラッと姉様を見ると、ヨダレ垂らしてこちらをガン見している。
もしかしてマッチョ趣味もあったの?
「大丈夫そうだね。
なら、三人でやろうか?」
「だな、久しぶりに……って、乱入して来ねぇよな?」
「アゼル兄のこと?
流石にカールラ姉様放置して参加するほどじゃないでしょ?
可能性があるとしたら、カールラ姉様から命令が飛んだ場合位でしょ」
一応、両親に情報を伝え、許可をもらったうえで準備を始める。
と言っても大道芸人たちの方に挨拶し、ジャグリング予定の人物が来てないこと。
代わりに我々がその時間を使って代理をすることを説明する。
また、似たような芸をする人がいないか確認したが、力技を使う芸人はいないと聞いてホッとする。
ちなみに、禿は報酬を事前に受け取っていたと言っていた。
……どうせ襲撃後だから、芸を披露する相手が居ないと判断して依頼受けたな?
だから二人に連絡しなかったのか、報酬丸々自分のものにするために。
カリムとナットにも確認したが、予想以上にいいナイフを使わせてもらえそうだ。
「侯爵ともなると、こうも簡単にいいナイフを用意できるんだねぇ……」とカリムが呟いていたのが印象的だった。
済まないねぇ、大して金やれなくて。
さて、準備も整ったし、仕事を始めますか!
◇◇◇◇
俺アゼルは今までの人生の中でもトップクラスに無茶苦茶な一日を過ごしていると思う。
結婚式で暗殺者と反逆者に乱入される。
暗殺者ギルドに殴り込みに行く。
最近色々やらかしていた禿と呼ばれる暗殺者、そしてその師匠を叩きのめす。
それに加えてカールラが……。
誓いのキスを顔を喰らいつくすんじゃないかという位にキスしまくる。
ギルドの殴り込みの後、延々と絡みついてきた。
ニフェールがフォロー入れてきたと思ったら二度目の誓いのキスをされてしまった。
今日一日で何分キスしているんだろう?
感覚的には何時間と言ってもいい位していると思うんだがなぁ。
そんな俺に追い打ちをかけてくる奴らがいた。
マーニ、ニフェール、アムル。
後、確かカリムとナットだったか?
お前ら何してんの?
「え~、本来このタイミングでナイフ投げとジャグリングを担当する大道芸人の方が来られる予定でしたが、体調を崩されまして只今一人で立ち上がることもできない状態と聞いております」
ニフェール、なぜそこまで元の芸人の情報を知っている?
まさか、この芸人ってあの禿か?
それを俺に教えるためにわざわざ言ったのか?
そりゃあ、お前が手首と足首を切り落としたからだろう、ニフェール?
立ち上がるなんて無茶だろうに。
「そこで、代理として私どもの芸でこの時間を皆さまの慰めとなれば幸いにございます」
慰めどころか胃痛が激しくなってきたんだが?
「ねぇ、何なのこれ?」
カールラ、いくら聞かれても答えようがないんだ。
全く何も知らないんだから。
「俺に聞かないでくれ、今とてつもなく混乱しているんだ」
「誰か情報持っている人いないかしら」
「義父上は?」
「知ってそうだけど、場所的に行きづらいところにいるわね。
そっちのご両親もロッティ、ラーミル、フィブリラもちょっと離れているわ。
終わってから聞くべきね」
後で義父上をボコるのかもしれない。
顔が変形する前に止めるべきか……。
「ちなみに、本来このタイミングで芸をするのは禿だったようだな」
「え?
冗談でしょ?」
「ニフェールがわざわざ説明したろ?
一人で立ち上がることもできないって。
手首足首切り落としたらそりゃ無理だ」
呆れた表情のカールラ。
気持ちは分かる。
「となると、あの子達の善意と考えた方がよさそうね」
「多分義父上が泣き付いて、三人が善意でってところかな?」
「あぁ、納得だわ」
ニフェールの口上も終わり、まずはナイフのジャグリングから。
カリムとナットの出番か。
片手でジャグリングしたり、投げて一回転してキャッチしたり、背中から投げて前でキャッチしたり、一人での技を見せてもらった。
正直予想以上だ。
次に二人で投げ合う形でのジャグリング。
高速で投げたり、高低を付けて投げたりと、これもまた驚くべき技量だった。
本気で、ジャグリング一本で生きていけるんじゃないのか、こいつら?
客からの拍手も頂戴し、次は……弟たち。
何するつもりなんだ?
「さて、次は私共の身体を使ったパフォーマンスとまいりましょうか。
まずはマーニ兄、前に出て両手を横に。
アムル、演技お願い」
その言葉と共にマーニが手を広げて待つ。
そこにアムルがジャンプしてマーニの頭の上で逆立ちした。
カールラは驚いているが、これって訓練の一環でやってみた奴だよなぁ。
となると続きは……やっぱり。
マーニの頭の上で旋回し始めた。
次に旋回をやめ、マーニの頭上に手を置き床と並行に身体を維持し始めた。
そして徐々に逆立ちの体勢になるよう脚を上げていく。
完全に逆立ちになったところで腕の力だけで飛び上がりマーニの前に着地。
うん、訓練でやった奴そのままだね。
父上も母上も苦笑している。
でも皆は大喜びで拍手していた。
まぁ、真実は言わない方がよさそうだ。
その後もニフェールが逆立ち、その上でニフェールの足を掴みつつマーニが同じく逆立ちし、二人同時に逆立ち腕立てするとか。
アムルが両手をVの字になるように広げるとマーニとニフェールが逆立ちで左右の掌に乗り、そこでポーズをきめるとか。
カールラだけでなく客も笑顔だったので成功なのだろう。
ただ、一番ウケたのがマーニの上に立ったアムルが宙返りしながらニフェールの腕の中に飛び込んだ――お姫様抱っこで受け止められた――時だった。
あの女性陣の黄色い声には会場の男性諸氏が目の色変えて驚いていた。
やはりこの場にはカールラタイプの女性が大集合しているのか。
◇◇◇◇
なぜかアムルとの仲に女性陣の熱い視線が集まっているニフェールです。
……一応、アムルは弟だからね?
……むしろ弟だからいい?
……僕、婚約者いるからね?
……三角関係とかいうな!
ジャーヴィン侯爵は大道芸人の穴を埋めれてホクホク。
芸人側からは「うちで一緒に!」と声を掛けられるがお断りしておいた。
いや、いちおう貴族なんですけど?
さて、芸人役も終わり、軽くあいさつ回りをし、ロッティ姉様のご実家の方ともご挨拶しておいた。
とても真面目過ぎて本物なのか聞きたくなってしまった。
……なぜあのご両親やお兄さんの血からロッティ姉様のような危険物が出てきたのかはなはだ疑問だ。
まだカールラ姉様は母親であるサプル様が少々……やんちゃする方だったが。
とはいえ会話が成立しないとかではなく諧謔も解した上での真面目さのようだ。
個人的に親族としては安心できる相手だった。
またベル兄様の様子を見に行ったが、ティアーニ先生が積極的に追い詰めに行ってたので邪魔せずに回避した。
ベル兄様の助けを求める声が聞こえたが、ラーミルさんの一言――
「ティアーニなら大丈夫です。
性格はロッティ側ですが、ともかく信用できます」
――で関わらないようにした。
……ベル兄様、ゴメン。
そんなこんなで夕食会は盛り上がっていたが、終わりに近づくに連れてカールラ姉様の挙動がおかしくなっているように見えた。
何と言えばいいのか、反応がワンテンポ遅れるというか……。
合間合間にヨダレ垂らしているということは、この後のこと考えてる?
夜のポワソン(正常位)、メインディッシュ(騎乗位)、デザート(後背位)を喰らい尽くす――喰らい尽くしてもらう?――のを考えてる?
アゼル兄に視線を送ると「助けて!!」としか理解できない視線が送られてくる。
いや、もっと意味あるんだろうけど、表情が固まってて目だけが無駄に元気よくギョロギョロと周囲を見回し、助けを求めている。
キョロキョロなんてかわいい擬音じゃない。
【魔王】が居城に入り込んだ勇者を見つけようとするかのように、目を血走らせて見回している。
会話の合間を見て二人と話してみると、予想通りというか、カールラ姉様が結構限界だったようだ。
とりあえずジャーヴィン侯爵と相談してくるからもう少し耐えてと言い残して侯爵を探す。
「侯爵、お話しが」
「おぉ、どうしたんだ?」
微妙にほろ酔いなのか、顔が赤いようですねぇ。
ほとんどやること終わったからかな?
「カールラ姉様の暴走が抑えられない位になりかけてます。
早急に二人をここからベッドへ」
おやぁ?
顔が真っ青になってますけど?
「じょ、冗談だろ?」
「冗談なら侯爵と話す時間をラーミルさんと話す時間に当てますよ!」
静かに、でも語気を荒く言うとこれが真実だと理解してくれる。
「ど、どうすれば?」
「まず、予定としてこの後なにする予定です?」
「あぁ、後はアゼルたちが最後に一言参加者へ挨拶して新婚夫婦は退出することになる」
「それ以降は自由解散?」
「その通りだ」
「ならさっさと一言終わらせてしまいましょう。
ここで暴走するとどうなるか侯爵でも分かるでしょ?」
「……教会の誓いのキスのような感じか?」
はぁ、冗談言わないでくださいよ?
何甘っちょろいこと言ってるんですか!
「……この場をサカリ場に変えるってことですよ!」
小声だが怒りも混ぜて吐き捨てると侯爵もやっと事態を理解したのか、急ぎ最後の挨拶をさせるべく動き出す。
侯爵、頭いいはずなのに娘の事はダメダメすぎやしないか?




