17
「ニフェール君、今大丈夫かしら?」
おや、オーミュ先生にティアーニ先生。
「大丈夫ですよ。
やっぱりカールラ姉様に呼ばれていたんですね」
「あの日に参加した面々は皆来ているわ。
カールラったらとても幸せそうで私たちもホッとしているわ」
つい先ほどまで色々暴走していたとは言えない。
優しい義弟として黙っておこう。
「あぁ、ご紹介が遅れました。
アムルはご存じでしょうから、いいとして……。
ラーミルさんご存じでしたっけ?」
正直、あの日どこまで説明したか覚えてなくて……。
「ティアーニが同期だって言ってたけど……」
「ならここからか。
僕の婚約者のラーミル・ノヴェール嬢です」
「ラーミルと申します。
確か、夏季休暇の時期にお見かけした記憶が……」
「あぁ、あの時に見られましたか。
ニフェール君のクラスの歴史を担当しておりますオーミュ・ルーオンと申します。
こちらが法律担当のティアーニ……って、あれ?」
ティアーニ先生どこ行った?
皆でキョロキョロしていると……ベル兄様に標的を定めていた。
雌狼って感じでベル兄様タジタジなんですけど?
「ラーミルさん、オーミュ先生、あれどうしよう……」
「……ニフェールさん、あちらの先生は信用できますか?」
「……カールラ姉様的な暴走があるかもしれませんが、教師としてはちゃんと仕事されてますよ」
「同僚として、学園での態度はまともであると明言させていただきます」
アムルとフィブリラ嬢が少々顔赤くしている。
君たちも最近近い事やってたよね?
それとオーミュ先生、学園の態度以外はどうなの?
「ラーミルさん、ベル兄様って……」
「浮いた噂一つないわ。
当人に聞いた限りでは男色でもなさそうだけど」
そこまで不安視されていたの?
「取り合えず、自己紹介の続きはティアーニ先生止めてからでいいですか?」
「構わないわ、というか、あちらの男性も落ち着かせないと……」
「兄がご迷惑を……」
皆でベル兄様とティアーニ先生を抑えに回る。
「ティアーニ先生、落ち着きなさい!
自己紹介中にいきなり消えて何かと思いましたよ」
「あ、あはは、ちょっと……」
獲物を見つけたんですね、分かります。
「え~っと、紹介しますね。
ベル兄様、こちらのお二人はカールラ姉様のお友達で僕の受けている授業の教師をしております。
歴史のオーミュ・ルーオン先生と法律のティアーニ・二ータ先生です」
二人とも普通に挨拶してくれる。
最初っからそうしてよ!
「で、こちら側、僕の婚約者のラーミル・ノヴェールさん。
ラーミルさんのお兄さんで、未来の僕の義理の兄のベルハルト・ノヴェールさん。
こちらが僕の弟――実弟ですよ――のアムル・ジーピン。
最後に弟の友人のフィブリラ・アリテミア」
オーミュ先生はフィブリラ嬢に反応を示し、ティアーニ先生はベル兄様にしか反応を見せない。
……大丈夫か?
「ニフェール君、もしかしてこちらのお嬢さんは……」
「大公様の長女です。
アムルととても仲良くして頂いております」
「うっわぁ……」
まぁ、気持ちは分かるんですけど。
「ちなみに、ベル兄様お任せしても構いませんか?
一応あいさつ回り済ませておきたいので」
「任せるも何も、ティアーニはてこでも動かないわよ。
義理のお姉様が増えちゃったわね♪」
「ん~……」
いや、普通にベル兄様には幸せになって欲しいし、僕の厄介事に巻き込まないようにしないと。
「何よ、煮え切らない反応ね」
「いや、ベル兄様も含めて、あまり厄介事に巻き込みたくないなと思って」
「……そんなに色々あるの?」
「多分、オーミュ先生の想像した物を一万倍くらいに大きくしたら少しは事実に近づくかと……」
「そんなに?!」
そりゃあねぇ、今日一日だけでも結婚式当日に暗殺者ギルドと騎士共に襲われるとか?
暗殺者ギルド潰したとか?
端の方で新旧暗殺者ギルドマスターが飯かっ喰らってるとか?
誰が信じるというのでしょう?
「まぁ、色々あるのですよ」
「……まぁ、聞かないでおいてあげるわ」
「ありがとうございます」
その場でお別れして(ベル兄様は生贄として捧げておいた)、陛下やジャーヴィン侯爵のいるあたりに向かう。
「おぅ、ニフェール!
ちょっととある方々がお呼びだ。
こっちに来てくれ」
陛下ですね?
王妃様もですか?
「はい、何でございましょうか?」
「そこまで気を遣わんでよい。
ここに来る前に騎士ラクナから個別で報告を受けた。
暗殺者ギルドは壊滅、ディーマス家のやらかしの情報をたっぷり確保。
十分以上な成果をだしたな、よくやった」
「ありがたき幸せ」
「で、だ。
今回の件を含めてお前を評価すると伯爵家、それも上位伯爵家くらいにはなれるぞ?」
「いきなりそんな地位になったら嫉妬で殺されそうですね。
まぁ暗殺者ギルドは無くなりましたけど」
左頬の傷の次は右の頬かな?
「個人的には学園卒業時点で男爵位を賜れれば十分です。
余剰分については別のタイミングで陞爵という形で頂ければ……」
「気持ちは分かるが正直難しい。
卒業時に男爵にしてくれは受け入れられる。
実際に事件があったからな」
そうですね、あの事件をなかったことにされたら僕も文句言ったでしょうね。
「ただ卒業後に男爵となった場合、その後爵位を上げるのは並大抵のことではできない。
お前がどれだけ色々なことを成し遂げたかは、皆成し遂げた直後しか覚えていない。
後日あの実績はこいつがやったと言っても陞爵するほどではないという意見しか出てこない。
これは、想像ではなく実績としてあるのだ」
実績?
過去に似たようなことがあったってこと?
「あぁ、そうだ。
後日評価して爵位を……と言った後、後付けでそれほどの価値が無いと周りが騒ぎ、結果陞爵できなかったという家があってな。
その家は……我ら王家を恨んで自殺したよ」
はぁ?
冗談でしょ?
「爵位を与えることを決めたのは王家ですよね?
それを否定するとはよほど立場の強い家だったのですか?」
「……貴族派の者たちが色々と言ってきてな」
「で、それを飲まざるを得ない状況になってしまったと?」
頷く陛下。
そりゃ恨んで自殺もするでしょうよ。
「ちなみに、その家が成し遂げたこととは?」
「……とあるベリーが女性の生理前の精神と身体の不調に効果あるという。
実際に王妃が試して症状が緩和されたし、今では他の薬師たちも処方しているものだ」
「え、そこまで広まるレベルなら爵位賜ってもおかしくないのでは?」
「そうなのだが、何故か貴族派がごり押ししてきてな」
え、なぜ?
困惑していると、王妃様が補足説明をし始めた。
「推測ではあるが、王家派の力を削ぎたいからわざわざ嫌がらせしたと考えている。
なんせ、爵位はやらんが研究成果はよこせとか抜かしてたからな」
「そんなことしてたらこの国から研究してくれる人たちがいなくなるだけでしょうに」
「その通りだ。
だからこそ陛下も含めて爵位を与えようとしたのだが、その頃に王家派と中立派から数名暗殺されてな、それに加え脅されたのか貴族派に移る者たちもいて……」
「瓦解してしまったと?」
頷く王妃様。
溜息を付く陛下。
まぁ、気持ちは分かるんだけど……それって解決できるというか、解決してるよね?
「陛下、王妃様。
その件の貴族派の中心人物ってディーマス家ですか?」
「あぁ、コロクタ・ディーマスが中心となって大騒ぎしていた」
「今回の件で暗殺者ギルドは壊滅したし、ディーマス家は瓦解しますよね?」
「あっ!」
お~い、陛下に王妃様。
ジーピン家で成し遂げたことは王家にとってもチャンスなんですよ?
たっぷり今までの仕返ししないでどうするんです?
「ついでに、貴族派も反逆した騎士たちの実家もまとめて罰を与えたら、誰が嫌がらせできます?」
「……」
「今まで貴族派がやらかした分のツケを返してもらったらいかがでしょ?」
「……本当に吾の部下にならんか?」
「私も含めてジーピン家を下手に動かそうとすると、二人の侯爵に本気で泣かれそうなので勘弁してください」
おっさん二人が涙目ですり寄ってこられても面倒なので。
「そうか……」
まだ引きずってるんですかね、以前お断りしたはずなんですがねぇ?
「ちなみに、薬の件の表彰の際に僕を呼ぶのはアリですよ?
『学園生ゆえ今は授与せぬが卒業時に今までの分とまとめて授与しよう』とか言っていただいても?
それなら卒業時に爵位を賜っても問題ないでしょ?」
「まぁ、そうだが……」
「それに加えて卒業式の際には『数点褒章を与えねばならぬことがある。
だが、今回はここまでとした。
改めて別の日に追加で褒美を与える』みたいな感じでやってみては?」
今回の陛下をお守りした件、暗殺者ギルドの壊滅、王宮に侵入した禿の確保等について褒章を一括で求めると確実に面倒になるんですよね……。
一人に渡すにはデカすぎる褒章と取られかねないし。
それに、今こっそり動いている騎士団改変の話が成功したら、もっと褒美貰うことになるしね。
「とりあえずニフェールの言った手口を後日使わせてもらうとしよう」
「どうぞ、お好きにお使いください」
陛下もホッとした感じだし、ここは大丈夫かな。
あ、そういえば……。
「そう言えば、ジャーヴィン侯爵。
この夕食会で芸人呼んでなんかするらしいですけど?
何するんです?」
「ん、ああ、大道芸人を呼んでいるんだが?」
「ちゃんとメンバー集まっているんです?」
キッツい目つきで僕を睨む侯爵。
気持ちは分かるけど、ちょっと聞いていてほしい。
「……何を言いたい?」
「ちょっと気になったのですが、禿も大道芸人として小銭稼いでいましたよ?
うちの新人がジャグリングとかナイフ投げに付き合ってました。
もしかして、今日の芸人に禿入ったりしてません?
その場合、人手不足して穴空くとかありません?」
ヒクッ!
「おい、今の聞いたな?
大道芸人の代表者に全員集合しているのか確認してきてくれ」
「ハッ!」
急ぎ大道芸人たちに確認しに行くジャーヴィン侯爵家の侍従さん。
「よく気づいたな」
「いや、気づいたわけではなく、ただの妄想に近い推測ですよ。
確認が無駄であればそれでよし、当たってしまったら対処策を考えないと」
「ニフェール兄様、当たった場合どうするつもりですか?」
アムルが興味津々で聞いてくるが……正直そこまで考えてないんだよなぁ。
「手っ取り早いのはカリムとナットにジャグリングさせるか?
それ以外は残りの時間によって考えるしかないな」
そんな簡単にネタは思いつかないよ(笑)。
「というか、アゼル兄の結婚お披露目なんだし、できればのんびり――」
「――失礼します、芸人たちから一組まだ来ていないとのこと!」
「その一組って?」
「三人でエントリーしてまして、代表者がトリー、他二人がジドとチアとなってますね。
ジャグリングとナイフ投げを予定しておりました」
ジドとチアってカリムとナットの事だよな?
「おい、まさか?」
ジャーヴィン侯爵が引きつった顔で僕を見る。
いや、僕のせいじゃないんだけど?
「当たりですね。
トリーとやらは知りませんが、ジドとチアは教会襲撃を教えてくれたあの二人の偽名です。
となると、トリーはあの禿かな?」
「……二人にやってもらうことはできるか?」
「なにも用意していないはずなので……。
ダメそうなら諦めて頂くということで、相談だけはしてきます」
流石に準備無しで何かやれとは言わんだろう。
「分かった。
……カールラの結婚お披露目の場だ。
できることなら笑顔で送ってやりたい」
「お互いさまです。
僕たちから見ればアゼル兄の結婚お披露目です。
一生の思い出になるようにしてあげたい。
そこは認識同じだと思ってますよ」
互いに頷き僕はラーミルさんたちとマギーのおっちゃんたちがいる席に急ぐ。
ったく、こんなくだらない最後の悪あがきをやらかすとは……。
後日会ったときに〆ないとな。
【暗殺者】
トリー:あだ名:禿
→ トリカブトから




