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「え~、宴もたけなわではございますが、最後に新郎新婦から一言ご挨拶を頂きたいと存じます。
まずアゼル様、どうぞ」
アゼル兄がこちらを見てくるので、頷くとジーピン家当主として恥ずかしくない挨拶を行った。
……よかった、ここでヘタレられたらジーピン家が低く見られるからなぁ。
「ありがとうございます、では次にカールラ様、どうぞ」
僕はこの時「もう大丈夫だろう」と思っていた。
後はカールラ姉様がアゼル兄にお持ち帰りされてた~っぷり可愛がってもらう。
……まぁ、アゼル兄を可愛がる可能性もあるけど。
なら呼んだ客に礼を失することのない程度に簡略した挨拶をして終わりだと思っていた。
甘 か っ た
ラーミルさんと最初にデートした時のケーキより甘かった。
「ジャーヴィン侯爵家長女としての――」
右拳をギュッと握りしめ、
「――我が生涯に一片の悔いなし!!!」
そのまま天高く拳を掲げて宣言する。
なぜか覇気にも似たものが天に向かって飛んでいった気がする。
覇気ではなく理性とか正気とかかもしれないが。
そしてそれを見て涙を流し、頷き、祈る女性陣。
不安になってざっと周りを見ると、母上はサプル侯爵夫人と共に静かに涙を流し、アニス・チアゼム侯爵夫人とジル嬢は憧憬の視線を送っている。
並行して理解が追い付かずポカンとする男性陣。
ナ ニ コ レ ?
ラーミルさんに聞いてみようかと視線を送ったが、困惑しているようだ。
(理解できます?)
(いえ、全く)
目と目で通じ合ってしまった。
そう言えばフィブリラ嬢は……あぁ、あなたもカールラ姉様側か。
ナットとルーシーは……まだアッチに言ってなさそうだが……微妙に雰囲気にのまれてないかい?
唖然とした男性陣、涙を流す女性陣を置いてアゼル兄を連れて部屋に下がっていくカールラ姉様。
司会担当の侍従も頭が回っていないのか止めもしない。
あ~!、も~!
こっそりジャーヴィン侯爵の所に急ぐ。
「何ボッとしてるんですか!
あなた位しかこの変な空気を払えないでしょうに!
皆を落ち着かせるなりしてくださいよ!」
「あ、あぁ、だがどうやって?」
「まだこの夕食会を続けるのであれば『主賓は下がりましたが、まだ食事は出ますのでどうぞごゆっくり』とか、その辺りは侯爵の方が経験豊かでしょ?!」
「わ、分かった、急ぎ対処する!」
二人でコソコソ話し合ってケツ叩いて、やっと侯爵は事態の収拾に動き始めた。
なぜだろう、主催者側より疲れた気がする。
「ニフェールさん、お疲れ様です」
「あぁ、ラーミルさん、ありがとうございます」
左腕に抱きついてくださった。
柔らかなものが当たって……あぁ、癒される。
ヤバい、蕩けそう……。
「そう言えば、兄は大丈夫でしょうか?」
「ティアーニ先生がお持ち帰りしてなければ……」
「……」
念の為様子を見に行きました。
いや、ひやかしとかじゃないですからね?
「ベルハルト様、もしよろしければ今度ご一緒に食事でもいかがですか?」
ピクッ!
サッ!
ラーミルさんと一緒になって物陰に隠れ、ベル兄様が捕食されるのを……改め、ベル兄様の恋愛事情を調査する。
僕らと少し離れたところにいたオーミュ先生も似たような行動を取っていたようで、同様に結果を見守るつもりのようだ。
でも、ぼっちな性格のベル兄様に対してティアーニ先生押し強すぎのような気がするんだよなぁ。
「その……ごめんな――」
「はい、そこまで!」
……え?
ラーミルさん、突然どうした……ってまさか?
「ニフェールさん、そちらのティアーニさんの方お願いできますか?
私はこちらのボケナスの脳みそ叩き直しておきますんで」
「は、はい!」
ラーミルさん、本気で怒ってた……。
まぁ、このチャンス逃したら冗談抜きでノヴェール家養子迎えるしかなくなるしなぁ。
まぁ、とりあえずティアーニ先生と話し合いか。
「ちょっとティアーニ!
あれ、どう考えてもアンタの大失敗よ!」
あれ?
オーミュ先生が説教してる……。
「あのベルハルトって人、対人関係不得意そうじゃない!」
ええ、その通りですね。
アゼル兄と同じでぼっち系な方です。
「そんな相手に肉食獣みたいな行動取ったら引かれるのが当然でしょ!」
ええ、その通りですね。
ガチで引いてましたし。
「アンタ、学園で教鞭取ってるんだから、似たような子たちを何人も見たことあるでしょ?
そんな時に喰らいつくすかのように近づくのがアンタの教育?」
何も言い返せませんね、ティアーニ先生。
ちょっと割り込みますか。
「オーミュ先生、協力ありがとうございます。
ティアーニ先生、オーミュ先生の発言が全てです。
ベル兄様、かなりビビってましたよ」
ショックを受けるティアーニ先生。
「先生は学園で対人関係苦手な子に少しづつ近づいて、相手に信用されるように動いていたじゃないですか?
それと同じことをベル兄様にやりゃあいいんです。
教師としての経験を生かしてお近づきになってください」
「ティアーニ……アンタ教師としてニフェール君に負けてるわよ?
正直教師と生徒の立場が逆転してるように見えたもの」
ちょ、ちょっとオーミュ先生、追い打ちし過ぎはダメ!
立ち直れなくなるから!
ったく、一応フォローしておくか。
「ちなみに、ベル兄様の妹であるラーミルさんはティアーニ先生が彼女になることは認めてますよ?
だからこそ拒絶の言葉を言う途中で割り込んだんだし」
「え、それって家族公認ってこと?
ティアーニ、アンタの教師人生で培ったものすべて全力で出しきれ!
それが幸せを掴む最短の道よ!!」
オーミュ先生、なぜあなたがティアーニ先生より本気の目をしているの?
いや、その熱き思いを述べるのは止めませんけど。
「そう、そうね。
私が間違っていたわ」
なんかティアーニ先生やる気出しちゃったんだけど、大丈夫ですか?
「私がベルハルト様の対人能力を底上げしてあげないと!」
それ当人に言わないでくださいね?
言われた側ガチで泣きますよ?
チラッとベル兄様の方を見ると、ラーミルさんが全力で叱っていた。
今声かけるのはできない、流石に怖いし。
「ティアーニ先生、ラーミルさんの説教が終わったら再チャレンジしてみてください。
今は……巻き込まれるのは得策とは思えませんし」
「そうね、今は待ちの時だと思うわ、怖いし」
「その程度の判断ができるほどには心が落ち着いてきたのね、ティアーニ。
先程までのアンタじゃ確実に突撃していたのに」
「私だって身の危険位は分かるわよ!」
そこまで言う?
そんなことを話しているとラーミルさんが落ち着いてきたようなので、ちょっと割り込んでみる。
「ラーミルさん、そっちは終わりました?」
「あ、はい。
こちらは大体大丈夫かと」
「……一応確認ですが、感触的に良し? 悪し?」
「当人曰く好感度は高いようなのですが、いきなり食事に誘われて怯えてしまったようで……」
乙女かよ!
どこまで清らかなんだよ!
相手はかなり濁っているタイプなのに!
「どのレベルなら受け入れられました?」
「喫茶店でお茶を嗜む程度を想定していたようです」
学園生位の彼氏彼女の関係でも普通に食事してるだろ?
……僕とラーミルさんでも行ってるぞ?
金銭面気にしなければ。
「……まさかとは思いますが、手を握ったら子供ができるとか言いませんよね?」
「流石にそこまでは……多分」
多分かよ!
「とりあえず、ティアーニ先生に――」
「話は聞かせてもらったわ!」
「――は?」
ティアーニ先生、大丈夫なの?
なんなの、その自信は?
「ベルハルト様、先ほどの提案変更させていただきます。
今度の休日にお茶しませんか?」
おぉ、ティアーニ先生!
ちゃんと話聞いてたんですね!
さて、ベル兄様。
ちゃんと答えてあげてくださいね?
そうじゃないと、ラーミルさんが……ボディーブローの準備を始めてますよ?
「俺でよろしければ」
Yes! Yes!! Ye~s!!!
よかった……まともなやり取りになった!
ティアーニ先生も笑顔を見せてくれたし、こちらは落ち着いたと思っていいかな。
後はオーミュ先生にお願いしてラーミルさんと移動すると、両親とマーニ兄、そしてチアゼム侯爵が見えた。
「おぉ、ニフェールちょっと来てくれ」
「はぁ……」
なんだろうと考えていると母上の説明が始まった。
「夕食会前に暗殺者ギルドの四名について今後どうするか事前にアタシたちで話し合った。
マーニたちは悩んだようだがカルース家の方からロッティに仕えていた者たちが入るようなので気にしなくてよくなった」
あぁ、それなら大丈夫か。
……ロッティ姉様止められる人だったらいいんだけど?
「で、うちで面倒見ようかと思ってたんだが、チアゼム家の方で受け入れたいと言われてな」
「あぁ、どうせフェーリオが婿入りするのに合わせてニフェールはうちの寄り子になるんだから、今のうちから接点があった方がいいだろうと思ってな」
チアゼム侯爵の言い分は理解できる。
自分で言うのもなんだが、フェーリオ(領主科)・ジル嬢(淑女科)・僕(騎士科)は同世代では結構な実力を持っているメンバーだ。
これに加えて文官系の側近たちを含めると全科の一位を国王派が占めていることになる。
それがこの後フェーリオがチアゼム家に婿入りしたら、国王派文官貴族の力が急激に高まるだろう。
追加で、武官貴族の秘蔵っ子といってもいいジーピン家の関係者も引き込める。
それを考えるとあの四人をチアゼム家で面倒見ても安いものだろう。
当然僕からしてみれば侯爵家レベルの仕事をあの四人に経験させることができる。
男爵になったときに五里霧中の状態で始めるのと事前に方向性を決められるのではフットワークの軽さが違いすぎる。
このチャンスを使ってキッチリラーミルさんを頂点とした体制を認識させられるのも高評価だ。
「そうですね、チアゼム侯爵、うちの四名を侍従・侍女の見習いとして使っていただけませんか?」
「あぁ、任せろ」
「ただ、アゼル兄の領地での結婚報告が終わってからでよろしいですか?
その時には四人とも領地に連れて行くつもりなので」
キョトンとする侯爵。
そんな驚くようなことか?
「そりゃ構わんが、連れてって何するんだ?」
「まず、ジーピン家の面々との面通し。
マーニ兄や僕は最終的にジーピン家から抜けますが、接点はあった方がいいので。
それと移動中、少し鍛えることもできますしね」
「鍛える?」
「先代の暗殺者ギルドマスター、それを壊滅させた夫婦、そして今の暗殺者ギルドを壊滅させた一家。
これで鍛えられないとお思いで?」
「……ないな」
「でしょ?
とはいえ、ズタボロにする気はありませんので、軽く動けるように教えるだけですけどね」
流石に暗殺者養成領なんて言われるのは困るし。
「軽くとは?」
「走る、ジャンプ、投擲、素手格闘、ナイフの使い方あたりでしょうか?
父上に頼んで捕縛術の基礎を教えてもらうのもいいですね。
いきなりうちの兄弟のような強者を作るつもりは無いですし、そんなの無理ですよ」
時間かければともかく、すぐは無理。
「まぁ訓練の仕方を教えるというのが近いかな。
数日でいきなり強くなるなんてありえませんし。
王都でもやり方覚えれば自主訓練できるでしょ?」
「確かに……ならラーミルと一緒に戻ってきたらうちで働いてもらおう」
「よろしくお願いします」
アイツらの未来も決まったことだし……伝えとくか。
かなり放置していたからなぁ……拗ねてないといいけど。
なんて思ってたら、マギーのおっちゃんを含め五人で全力で食べていた。
まだ食べるの?
「やぁ、いっぱい食べれたかな?」
「あぁ、十分喰えたよ」
「ちょっと相談なんだが良いか?」
「なんだ、今更?」
深呼吸して一言。
「四名の行先が決まりました。
チアゼム侯爵の所で侍従・侍女の仕事を学んでもらいます。
ちなみに、カルとルーシーには正式に挨拶してなかったね。
こちら、僕の婚約者のラーミル・ノヴェールさん。
チアゼム家で侍女として働いてます」
「よろしくね、カルさん、ルーシーさん」
「は、はい(照)」
カル、即刻堕ちんなよ。
僕のだぞ!
ルーシーにつま先を踏まれても気づかないとは……。
「あ、あたしを使いこなせるか見せてもらうわ!」
カルを奪われるとでも思ったのか?
それともツン?
後日デレ入る?
「ええ、よく見ておいてね?」
おぉ、あっさり受け流しましたね、ラーミルさん。
まぁ【才媛】の名が伊達じゃないこと見せてやってくださいよ。
そんなことをしゃべりつつ夕食会は過ぎて行った。
……当然夜はとある二名がやかましかったことをここに記しておく。
9話から始まった結婚式の一日はこれにて終わりです。
なお、この日のこの後の話(深夜の部)はR18なのでここでは書けぬことご了承願います。
この後も長男の結婚式の章は継続する予定。
残りは大きく分けて
・ジーピン家爵位授与
・領地移動しての祝宴
となります。
一応爵位授与はもう少しで書ききれそうなので、このまま投稿続けさせていただきます。
ではまた明日。




