27
なぜか変に共感を得てしまったが、話を続けるか。
クロスボウを右手に持ち、禿に話しかける。
「さて、禿よ。
お前の処刑前に見てもらいたいものがある。
あちらの騎士を見て欲しい。
ビーティ殿とメリッス殿、すいませんが手を振ってもらえませんか?」
「こうっすかね?」
そう言ってお二人とも手を振ってくださった。
「禿よ、あのお二方の方を見てくれ。
あそこに見せたいものがある。
拗ねて見ないと言うのなら止めないが、見ておいた方がいいとだけ言っておく」
「……どんな面倒事を仕込んだんだよ」
「そりゃ、お前の心をへし折るために色々と……。
まぁ、楽しんでほしいな。
では、ビーティ殿、メリッス殿、後ろを見せてあげてください」
そう合図すると、お二人は場所をずらしてカル達が見えるようにする。
禿は……唖然として声も出せないようだ。
そのままカル達は何か色々指を動かしている。
内容は全く分からないが……表情からして侮蔑しているんだろうなぁ……。
一通り動かし終えたようで、最後に親指で首を掻っ切る仕草で終えたようだ。
さて、僕も追加で幾つか追加しておくか。
「禿よ、お前に付き合わされた二人はお前と会ったあの夜の後、すぐに。
そして他の二人はお前が僕に捕まった日に同じく部下になった。
お前はアイツらから嫌われているようだな。
この提案をしたら大喜びで乗ってくれたよ。
どうだ?
都合のイイ奴らと思っていたら裏切られていた気分は?」
「う……あ……あああぁぁぁ!!!」
さて、と。
バ ス ッ !
「ゴッ……ガハッ!」
大体心臓近く、でも直撃じゃない。
失血死確定だけど、少し時間ある位。
カルディアがこいつに殺された時とほぼ同じ状態。
「覚えてないかもしれないが、お前がカルディアを殺した時と同じようにした。
とは言え、お前みたいに放置なんてしない。
最後は僕の恨みをぶつけないとね」
そう言ってクロスボウを投げ捨て、禿を持つのを止めて地面に転がす。
何か言おうとしているようだが、声にもならないようだ。
とは言え、視線はまだこちらに抗う意志を残しているようだ。
まぁ、その位のやる気を出してもらわないとこちらも困るのだが。
最後の僕の憂さ晴らしまでに絶望されてもねぇ。
僕は右手を握り、特殊な呼吸をしながら力を籠める。
事前に腕捲りをしておいて正解だったね。
母上や兄達程ではないけれど、それなりに筋肉はある。
それが呼吸のお陰で普段よりも腕が太くなっていく。
ルーシー、「ぶっとい……」とか言わないで。
ナットやラーミルさんならともかく、お前の場合は経験者だから。
別の意味に聞こえちゃうから!
ほら、カルが妙に落ち込んでるからぁ!!
ちょっと部下の発言に集中力を乱されてしまったが、禿の方に意識を向ける。
死にかけではあるが、それでもまだこちらを睨みつけている。
僕を呪い殺す位に。
「待たせたね、禿。
最期に一言、何かあるかい?」
「こ……んの、化け……もの……が……」
「なんだ、僕の事何も知らないのか?
【狂犬】なんてあだ名までついているのに。
パン爺さん辺りはすぐに気づいたぞ?
化け物だなんてつまらない言葉で纏めようとするなよ」
何か言い返したそうだが、そろそろ無理そうか?
なら最期にこちらから一言言って終わらせようか。
「禿よ、最後に僕の恨みを晴らさせてもらおうか」
「……」
「カルディアの敵、思い――」
右腕を振りかぶる。
「――知――」
そのまま、力づくで……。
「――れ!!」
禿の頭に拳を叩きこむ!
ズ ズ ン !
グ ラ グ ラ ッ !
禿の頭は完膚無きまでに砕けた。
……ちょっと力入れ過ぎたようで、処刑場周辺で少し揺れてしまったようだ。
まぁ、見物客が慌てたがそっちはどうでもいいか。
禿の頭蓋骨の残骸から離れ、手を禿の死体の衣服で拭き、陛下の元に向かう。
アゼル兄たちも同様に向かい、一緒に跪く。
「アゼル・ジーピン、カールラ・ジーピン、ニフェール・ジーピン。
ご苦労だった」
まぁ、本当に色々あったからねぇ。
とは言え、ホッとしていますよ。
「本件の褒美については後日、爵位変更の通達時に纏めて執り行う。
とは言え、まずは違法薬物の蔓延を防ぎ王家の者の命を守ったこと礼を言う。
ありがとう、そなたらのお陰で助かった」
「いえ、むしろ結婚式にお越し頂いたのに危険な目に会わせ申し訳ありません」
まぁ、偉そうにふんぞり返るのもおかしいし、こんなところかな?
アゼル兄、ちゃんと返答できてるから落ち着いて!
ガチガチになってるよ!
「ははっ、そなたらなら確実に守ってくれると思ったからな。
安心して王妃と共に式にも出れたというものだ。
ニフェールも苦労を……」
あれ?
どうしたんです?
陛下の方を見ると……あれ? 驚いている?
何があったの?
アゼル兄達の方をチラッと見ると、困惑した表情をしてこちらを……あれ?
こちらを見た途端に慌て始めた?
ちょっと待って、どうしたの?
アゼル兄はマーニ兄と視線を交わして……なんか頷いてるし。
なぜかカールラ姉様が陛下に向けて手首をクルクルと回して……何してんの?
陛下もそれに感づいたようで、大急ぎでこの話を終わらせていった。
クルクル……巻き?
話をさっさと進めろって?
いや、学園でクッソ長え話をする来賓とかいるけどさ。
流石に陛下にそれは……。
すぐに話は終わり、僕たちは控室に移動する。
その間、アゼル兄もカールラ姉様もとても心配そうにこちらを見る。
……なんで?
控室に移動中もすれ違う人たちが皆驚きながらこちらをジロジロと見ていく。
……そんな驚かすような顔はしてないはずなんだがなぁ。
「ねぇ、アゼル兄。
なんで皆慌てたり驚いたりしてんの?」
「……気づいてないのか?」
「……気づくって?
何かあった?」
……ねぇ、このタイミングでそんな大きなため息されると悲しいんだけど?
なんだろ?
言いづらい?
「……もう少し待てばいい?」
「分かってないのならそれで頼む。
……説明は関係者が来たら纏めてしてやる。
とは言え、何となくだが説明しなくても分かりそうな気がするが」
……なぞなぞ?
そのまま少し待つと、マーニ兄がやってきた。
でも、誰も何も言わない。
僕を見て悲痛な表情をして
なんだろ、この状況。
このメンバー来て動かないってことは……ラーミルさんか両親?
その後、数分してラーミルさん達が到着。
カル達もこっちを見て何も言えなくなっているようだ。
原因は僕にありそうだけど……。
「ラーミル……」
「はい、この件は私の方で……」
「すまん、頼む。
全員、部屋を出てくれ。
ニフェールとラーミルのみにしたい」
……流石にベッドインの許可じゃないだろう?
となると……後はなんだ?
皆が出て行ったところで、ラーミルさんが僕の隣に座る。
心配そうな表情されて、僕としては悲しいんですけど……原因多分僕ですよね?
「ラーミルさん……」
「ニフェールさん、多分何でこうなってるのか分からないんですよね?」
「ええ、正直何が起こっているのか分からず……」
「……これが理由ですわ」
そう言って、僕の頬を指で拭う。
え……僕、泣いてたの?
というか、陛下たちも驚いていたってことはその頃から今まで泣きっぱなし?
それも自分自身では全く気付かず?
うっわ、恥ずかしい……。
とは言え、気づかずに泣いていた理由は……?
いや、可能性として思い当たるのは一つ。
でも、先ほどケリ付けたぞ?
禿処刑して終わったはずなんだが……。
「ニフェールさん、多分さっきの処刑で終わらせたと思っているんでしょ?
でも、終わってないんですよ」
「終わってない?」
「ええ、禿の処分は済ませましたが、大事なことが抜けてます。
まぁ、あの場所ではできないことですので仕方ないんですけどね」
なんだろ?
そう考えていると、「ふにゅっ」っという音と一緒に抱きしめられた。
ほわぁ……♡
胸の弾力が優しく頬に当たって……幸せですぅ♡
「ニフェールさん、いいんですよ?
カルディアさんのことを悲しんでも。
今まで彼のために頑張ってきたんですから。
他の人には見せられないかもしれませんけど、今だけは……」
あぁ、そうか。
以前は初めて友が死んだことに対して悲しさだけで泣いた。
けど今回は……敵討ちを完結させた安堵感。
そしてもうカルディアが戻ってこないことを嫌という程理解させられた喪失感。
あぁ、そうか。
以前は禿を殺すという目的が生まれた。
大義名分ともいうけど。
けど今回は……全て終えてしまった以上カルディア関連は何も残っていない。
後はこのまま時が過ぎ、あいつのことを徐々に忘れる。
いや、今のクラスメートたちと同じように数日もしたら忘れるんだろう。
それを嫌がるつもりは無い。
いつまでもカルディアに拘泥する気はないし、してはいけない。
生者が死者に囚わても誰も喜ばない。
だからこそ……どこかで踏ん切りをつけないと。
でも……。
寂しいなぁ……。
◇◇◇◇
「アゼル、あいつは落ち着いたか?」
俺、アゼルはジャーヴィン侯爵からニフェールの様子を問われる。
「もう少し掛かりそうですね。
……まだ泣き声がかすかに聞こえてますから」
「流石のニフェールでも簡単には落ち着けんか……。
とは言え、できれば今日中にでも元に戻ってもらわんとなぁ」
「えぇ、そうなんですが……」
禿を処刑するために頑張ってたからなぁ。
気持ちの切り替えは簡単には出来ないだろう。
学園生にそこまで求めること自体が無茶ってもんだ。
とは言え、今後もこういうことは何度も起こる。
今すぐ慣れろとは言わないが、切り替えられるようにならんとなぁ。
「アラーニ、そろそろ次の会議の方に向かわなくては。
アゼル、お前もだ。
それとマーニ、お前は騎士としてやることあるんじゃないのか?」
チアゼム侯爵からの指摘もあり、俺たちは会議に向かおうとする。
その時、扉が開いた。
「ニフェール!
……大丈夫か?」
俺の問いにまだ踏ん切りを付けられてなさそうだが、それでも……。
それでも答えてくれる。
笑顔がまだ硬く、本調子では無いのは十分すぎるほど分かる。
でも……前を向いて進んでくれる。
兄として誇らしく、申し訳無く思う。
「うん、正直もう少し泣いていたかったけど、あまりのんびりできないしね。
とりあえず今日は僕の担当は終わりでしょ?
このまま……いや、ちょっと寄り道してから帰るよ」
「分かった、俺たちはまだ仕事があるから王宮に居る。
あまり遅くならないうちに戻るんだぞ?」
「うん、今日はちょっとカルディアの墓に報告だけしとこうかと……」
……そっか。
そうだな、その方がいい。
「分かった、一応言っておくが、今日のお前は普段とは違う。
墓参りもカル達を連れて行け。
今日だけでいい、一人で動こうとするな」
なぜ驚くニフェール?
精神的に今のお前は普通じゃないんだから、無茶しない!
「ラーミル、済まんがこいつが勝手に動こうとしたら止めてくれ。
誰が言っても止まらないかもしれない。
だが、母上を除いて一番可能性があるのが……」
「ええ、理解してます。
ニフェールさん?
私を置いて行っちゃダメですよ?」
「はい……」
シュンと落ち込むニフェール。
仕方あるまい。
今日は、今日だけはお前をフリーにする気はない!
◇◇◇◇
アゼル兄達と別れ、ラーミルさん達と移動する。
途中で供える花を買って墓に向かう。
カル達も流石に墓地周辺では大人しくしていた。
……一番チャチャ入れて来そうなナットまで大人しいのも驚きだが。
以前教えてもらったバッロ家の墓に到着。
花を供え、墓に向かって報告する。
「カルディア……久しぶりだな。
今日、お前を殺した奴を犯罪者として処刑したよ」
まぁ、後ろに僕にナイフ投げてきた奴らがいるけど、そこは気にしない!
「それと、以前言ってた記憶があるんだが……。
お前、僕の婚約者知りたがってたな?
確か卒業パーティの時には色々バラすって言った記憶がある。
今日はちょっと早いが連れて来た」
そして、ラーミルさんを呼んで隣に立ってもらう。
「こちら、僕の婚約者でラーミル・ノヴェールさん。
正直僕にはもったいない位の女性だけど、受け入れてくれたんだ」
そう言うと、ラーミルさんが墓に向かってカーテシーをし始めた。
「初めまして、ラーミル・ノヴェールと申します。
ニフェールさんから色々とお聞きしてます」
ここまでは想定通りだったんだけど……。
「あなたがニフェールさんにどのような想いを持たれているか存じません。
ですが、どこの世界であってもこの方は私のです!
貴方には渡しません!!」
「ちょ、ちょっと待ってラーミルさん!!」
カル達も一斉に噴き出して大笑いしてやがる!
お前等、ラーミルさんの暴走止めろよ!
「落ち着いて!
僕は薔薇な世界には関心ないから!」
「ですが、フェーリオ様の行動を考えると少々不安要素が……。
あぁ、ジル様もですね」
あぁ、もう!
こんなところで未来の上司夫妻の暴走が!!
「それにホルター様の、少々周囲を見ない発言とか?
加えて、うちの義娘の行動とか?
これらを考えると、正直今の学園生は危険要素が強いと判断しました」
「……その発言を否定しきれるネタが無いですぅ」
それ言われたら全面敗北するしかないでしょうに!




