28
「……ラーミル様の義娘って、そんな凄いの?」
墓からの帰り道でナットが思わずと言った感じで聞いてきた。
あれは凄かったからなぁ。
「当時は伯爵令嬢だったんだけど……。
初手で僕とアムルを間違えて婚約破棄を学園食堂で言い出す。
自分の責任を放り出して当時男爵家のジーピン家への謝罪を放棄。
実は婚約者として物を贈ったり手紙書いたりを一切してなかった。
贈り物にかかる経費をネコババする。
かなりひどかったよ」
「そんなんで令嬢名乗れるのならアタシでもできそう……」
「最低でも嘘つかないとかネコババしないとか……。
謝罪できるとか考えると可能じゃないかな。
でも、正直それって貴族平民関わらず必要なことだからなぁ……。
加えて、ナットの場合は礼儀作法キッチリ覚えないとなあ」
「あ~、そっちは難しいなぁ……」
まぁ、義娘の方は礼儀も怪しかったからなぁ。
実はナットならアレの代理位ならできそうなんだよなぁ……。
ラーミルさんも同じことを思ったようだ。
「ナットちゃんは常時伯爵令嬢になるのは厳しいかも知れないわね。
でも、あの娘はもっとダメダメだったのよ。
礼儀も含めてね。
そう考えると数日間の代理とかなら、ナットちゃんの方がちゃんとできるかも」
「でも、アレの代理させたら代理の方がまともに見られるのでは?」
僕の容赦ないツッコミに黙ってしまうラーミルさん。
否定できませんよねぇ。
アレはアレ過ぎたもの。
「……学園って行く意味あるのかな?
アタシより駄目な貴族子女集めて何してるんだろ?
勉強も実技も、多分一部の人以外はダメそうな気がするんだけど……」
あぁ、実際その通りだね。
「そうなんだよねぇ。
実際、大人になっても貴族の立場を続けたい者たちのための場所。
その後の仕事については……ちゃんと考えている奴はかなり少ないかな」
「やっぱそうなんだ……」
「まぁ、ねぇ。
その結果が今の王宮。
騎士なら王家見捨てて北部に尻尾振ってる奴らとか?
文官ならダイナ家とかラング家とか?
領主持ちならディーマス家やテュモラー家とか?」
「……最悪」
「まぁ、まともに学ぶ奴らも一部存在する。
ラーミルさんや僕とか……フェーリオ達とかね」
「そこ断言し辛いのはやっぱり女装?」
カル、爆笑すんな!
「そこは追及しないで!
ともかく、今の存在価値はまともにやる気のある奴らを見つけること。
そして王宮のまともな部署に引き渡して一部でも正常化させること。
そのあたりかな?」
ふんふんと話を聞くナット。
まぁ、そこまでうまくいくわきゃ無いんだけどね。
「とはいえ、学園にろくでもない教師が送り込まれるとかあるからねぇ。
今回二人程教師が処刑されたでしょ?
あれ、多分テュモラー家が伝手使って送り込んだみたいだよ?
チラチラと侯爵に視線送ってたし」
「あ、それはこっちからも見えた!
視線でバレバレだったね。
もしかしてあれでバレてないと思ってるのかな?」
「処刑された二人はそう思ってそうだけど?
まぁ、あいつ等があんな視線送ってくれたおかげで黒幕分かってよかったよ。
後は学園長や侯爵たちに調べさせて教師入れ替えして行けばいいと思う」
両親の頃はこれよりひどいんだろうなぁ……。
今の陛下と王妃様になるまでろくでもなかったみたいだし。
「まぁ、そこらは王宮の面々に任せて、僕らは帰ろうか。
あ、カル。
念の為ラーミルさんたちを侯爵家に戻した後に婆さんに報告お願い。
禿の事とディーマス家当主潰したこと位かな。
ついでに何か情報無いか確認しておいて」
「あぁ、何かあったらそっちに伝えに行く」
「お願い。
それと、ティッキィは僕と一緒にジャーヴィン侯爵家に。
一人で帰ったら本気で怒られそうだから付き合って」
「まぁ心配されてたからなぁ、従うしかなかろう。
とりあえず送るだけでいいんだな?」
「うん、一応ちゃんと誰か連れて帰ってきたのを確認してもらったら解散」
「なら、帰りにでも他の奴らに禿が処刑されたこと伝えておくか。
アイツらも知っといていいだろう」
あぁ、確かになぁ。
「そこはお願い。
後、念の為パーティの日に厄介事発生する可能性があること周知しておいて。
何も教えないのも可哀想だし。
あ、これは僕が知らない元暗殺者達にも周知して」
「分かった。
一応ニフェール様からの情報ってのは教えていいか?」
「構わないよ」
そろそろばらしてもいいでしょ。
その後、ジャーヴィン侯爵家に戻り、正直に報告。
両親から無言で頭撫でられてしまった。
……うん、気を使ってもらってるね。
その後、アゼル兄も戻ってきて情報を貰う。
とは言え、特に何も無く大人しく話聞いて終わりだったようだ。
それと、どうも西側貴族の一部が北部に靡いた雰囲気があるそうだ。
裁判の時に侯爵たちも感づいていたらしい。
今日の会議でも妙に北部側の提案に乗った奴らがいた様だ。
まぁ、東部・北部の貴族は結構処分されてるのでかなり人数減らしている。
その為、票を取れず提案は却下されたらしい。
……今回この寝返ってる奴らがパーティ時に何かしでかすかなぁ?
いや、そこまでする実力は無いか?
「アゼル兄、裏切ってる奴らで危険そうなのいた?」
「いや、皆弱すぎるし何かしてくると言う感じも無かった。
多分、陛下を暗殺した後に裏切り者達を自分の味方とするのではないかな?
例えば、次の王を選ぶときの為に味方にしとくとか?」
「……というと、確実に現王家を消すつもりなのかな?
まぁ、暗殺失敗してもバレないようにしてるし、色々考えたんだろうね」
ご苦労だけど、僕らが守るから失敗して帰ってもらおうか。
出来ればやらかしたこと見つかって消せればいいんだけどね。
流石にそこまでは無理か。
「ニフェール、この後はパーティ当日までは何も無いな?」
「アゼル兄が王宮に行くくらいで僕らは待ち状態だね。
一応今日カルに婆さんから情報を貰ってくるようお願いしたからそれ次第かな?
まぁ、何も無いことを祈るよ」
その後、カルが報告に来たが何も状況は変わっていないそうだ。
「ちなみにノスカは?」
「完治とは言わんが普通に歩けるようにはなったぞ?
とはいえ東部に戻るのはもう少し掛かりそうだがな」
あぁ、それはそうだろうねぇ。
まぁ東部に帰れるのは来年頭かな?
「後は……特に無いな。
んじゃ、ラーミルさんの護衛の方を頼む」
「ニフェール様は来ないのか?」
「行きたいのはやまやまだけど、一応暗殺者に狙われている設定だからねぇ。
積極的にチアゼム侯爵家に行くと、有象無象が襲撃してきそうで」
「……そういうことか。
ジジイに念の為の調査頼んどくか?」
そうだなぁ、手が空くならお願いしたいかな?
「可能そうならお願いしてもらえる?
現時点での僕の一番の弱点だから、相手が何かして来たら……」
「【狂犬】が覚醒しちまうか?」
「うん、多分国もまとめて滅ぼしそう……」
ヒ ク ッ !
なにヒクついてんだよ?
その位想像してなかったのか?
「ちなみに姉様達やフィブリラ嬢が巻き込まれたら同じこと起こるぞ?
【魔王】に【死神】、未だあだ名のついてない危険人物。
これらが暴発したら?」
「本気で世界が滅ぶじゃねえか!」
「そうなんだよねぇ。
だからこそ暗殺失敗するように、暴走させなくてもどうにかなるように。
この辺り頭使ってどうにかしようとしてるんだよ?」
「……暗殺してくる馬鹿どもに言ってやりてぇ。
『世界滅ぼすつもりか?』ってな」
「それ言っても理解できないよ。
だって相手は皆、想像力貧困なんだもの」
「むしろ想像できたら敵対しようとしないだろ?」
カル、ちゃんと理解できたね、エライエライ。
部下に成り立ての頃は反抗してたのにねぇ。
「まぁ、そんなわけで済まないけど連絡頼むよ。
僕は残りの日々は策に漏れが無いか考えるから出歩くことはほぼ無いと思って?
当然、何かあったら連絡くれれば動くけどさ」
「了解、まぁ、何となく当日まで向こうも動かないだろうがな」
「まぁ、これ以上手駒を減らしたくないだろうしね。
でも、今日の処刑を見て相手がどう思うかなんだよなぁ……」
逃げてくれれば万々歳なんだけどねぇ。
「まぁ、相手がどう判断するかはパン爺さんの調査に期待しましょうかね」
その後カルは戻っていったが……何も調査にひっから無かったそうだ。
テュモラー侯爵側は静かだった、静かすぎる位に。
◇◇◇◇
屋敷に戻り、誰も執務室に近づけないようにして一人の時間を作る。
椅子に座り、執務机に肘をつき、頭を抱える。
……なんだ?
……なんなんだ?
あんなのがいて、どうやって暗殺する?
ジーピン家の兄弟は化け物か?!
あの子爵がやっていた「犯罪者のたたき」を作る作業。
アレからまともに見ることができなかった。
これでも色々な場面を見たこともあるが、そんなのがお遊びの様に思える。
あんなのまともに見てられん!
その後も骨を折る音とかなぜか地震が起きたりしてたな。
どうせあの子爵だろう?
あんなぶっ飛んだのは多分アイツだ。
どう考えてもこちら戦力では敵うはずがない。
多分暗殺者共や騎士たちでは瞬殺だろう。
むしろ、あの場所では手加減しまくっていたのではないか?
多分武器無くても戦えるだろう。
その状態でもあの者たちならあっさり敵を潰すだろう。
……王を狙うのは変わらんが、近づかせるわけにはいかんな。
あっさり捕縛、そして拷問されて終わってしまうだろう。
なら……遠距離からの攻撃に特化させるか。
それなら確実に逃走できるだろう。
今回は王の命を取れずとも仕方ないな。
無茶して手下を消すわけにはいかん。
ジーピン家と関わらな……いや、ニフェールだけは出来れば潰しておきたい。
あの剣を振るいまくった化け物に色々指示していたのはニフェールだ。
多分あ奴は作戦立案担当なのでは無いか?
もしくは遠隔武器を使うとか?
確か処刑時もクロスボウを使っていたな。
ならあまり近接は得意じゃない?
双剣を装備していたが飾りとか?
ならこちらが遠距離攻撃した場合に守る術がないのでは?
とりあえず遠距離からの攻撃だけは実行させるか。
そしてあの双剣が飾りかどうか確認しておこう。
仮に暗殺失敗しても実力の一端でも見れれば次回の方針も検討しやすかろう。
どうせわしまで繋がりを見つけることは出来んだろうしな。
「あなた?」
ん? リンフォーマか?
「どうした?
何か急ぎか?」
「ある意味そうね。
王宮から急ぎ戻ってきたら執務室に籠りっぱなし。
悲壮な顔して誰とも会おうとしない。
そりゃあ何があったか確認するのはおかしなことでもないでしょう?
それにもう夕食の時間よ?
煮詰まっているのでしょうけど、食事位とったらいかが?」
もうそんな時間か……。
考え事に時間がかかり過ぎていたようだ。
「分かった、では食堂に向かうとしようか」
「ええ、皆心配しているわよ?
何悩んでいるか知りませんが、周囲には普段通りに見せるのも当主の実力よ?」
「流石当時の淑女科首席、言うものよのぅ?」
「いえいえ、当時の領主科首席にはかないませんわ♪」
二人で軽口を叩きながら食堂に向かう。
そのまま夕食を堪能し、リンフォーマにも今日の処刑について説明する。
予想通りではあるが、一気に顔色が真っ青に変わっていった。
「ねぇ、あなた?
ジーピン家ってそんな人外しかいないの?」
「それをわしに聞くな。
こっちだって困惑しているのだよ」
妻よ、世界の全てを知っているわけでは無いのだよ?
そして全てを知っていたとしてもあの家の異常さを理解はできないだろうよ。
知ると理解するのは別物だからな。
妻も困惑しているのだろう。
正直、わしもどうすればいいか分からん。
もうここまで来たら次回に向けて情報収集とするか?
「あなた、一応確認だけど諦めるわけでは無いのよね?」
「諦めたくはない。
とは言え、このままやっても成功は難しいだろう。
今回は少しちょっかい出して終わりにするしかないかと悩んでおるよ」
「なら、未来を潰してあげたら?」
はっ?
未来を?
「今の王家の次代は王太子と第二王子よね?
で、王太子妃が妊娠していて第二王子は来年度から学園入学。
なら、王太子妃に攻撃したら王家の未来は?」
「……妃が亡くなるのなら一時的だが未来は無くなるな」
「加えて、第二王子との繋がりをより強化したらいかがかしら?
特に賢いわけじゃないでしょ?
なら味方にできない?
それに、年齢的にはうちのオヴェリアちゃんがちょうど同い年よ?」
「……その手もあるか。
なら確実に王太子一家を潰す方向にしておけば第二王子が次の王となる。
そして孫が嫁げばわしらはその曽祖父母。
今回王太子を消せないかもしれないが、胎の子が亡くなれば……」
オヴェリアが王家に入り込み、現王太子を別ルートで処分。
これで第二王子と我が孫の子供が王家に入る。
現王はいくら何でも数十年も王を続けることはすまい。
流石にわしは墓の下だろうが、メシロマの頃には王家を乗っ取れる。
「素晴らしい提案だ。
だが……一つ懸念点がある。
騎士にもジーピン家の者が入り込んでおる。
今回のパーティ会場はその者が護衛として王家の傍にいるそうだ」
「……あなたの言っていた人外と同じくらいかしら?」
「差があっても誤差レベルだろうよ。
即刻隊長職に就く時点で騎士団の誰も勝てないのではないかな?」
あの家の者だ、どう考えても戦闘能力は国一番だろう。
加えて積極的に騎士団に入った以上、今の子爵と同様に戦闘系なのではないか?
なら、戦うのは不味すぎる。
やはり、ジーピン家が邪魔過ぎる……。
「一応、王太子妃を狙えるのなら狙う。
無理なら後日別の手を考える。
最低でもジーピン家関係者が守っている状態で暗殺者の攻撃が届くとは思えん。
それならまだ兄達より戦闘能力の低そうなニフェールを消した方がいい。
多分あいつは作戦立案担当のようだからな。
今回は失敗になるかもしれんが、今後その頭を使われなくなるのは有利になる」
「本当にその子は作戦立案担当なの?
他の兄弟の様に人外とかじゃない?」
「正直確証は無い。
とは言え、周囲が人外で当人が頭を使う。
周囲と同等の人外で、加えて頭も使える。
どちらが現実的にありそうだ?」
「……前者ね。
戦闘能力と作戦立案能力ともに人外なんて想像もつかないわよ……」
だろ?
わしもそう思った。
「同意見じゃよ。
だからこそ、相手の頭脳を殺す。
小賢しい頭が無ければ次回にでも王家を消す可能性が高まるだろうよ」
「本気でその子が作戦立案能力あるのなら……。
どこまでこちらの策を読んでいるかしら?」
「分からん。
昨年の時点で名も聞いたこと無い輩だからな。
直接対峙するのも初めてだ。
だからこそ消せると思ったのだが、ジーピン家の戦闘能力を甘く見ていた。
王を弑すという目標を大幅に後退させて、こちらの有利な状況の構築。
そこまではやっておこう。
でないと、メシロマに苦労を掛けてしまうからなぁ」
「そうね……でも、この異常さが分かった時点で意味はあるわ。
ちなみに、あの子に手紙書いたら?
早めに送って、あちらからも情報収集を密にしてもらった方がいいわよ?」
……なるほど、情報収集させる部隊を用意して王都で動かすか。
「分かった、明日にでも送れるように準備しておこう。
リンフォーマ、ありがとうな」
「あらあら旦那様。
あ、では、一つお願いが……」
なんだ?
ネックレスか? 指輪か?
「今回のパーティ、成功不成功にせよ生きて帰りましょうね?」
……そう来たか。
そんなこと言われたら、こう返すしかないじゃないか。
「安心しろ、必ず成功して帰るぞ。
人外がうろつく王宮なんぞに負ける訳にはいかん!」
そのままリンフォーマを押し倒してしまったが……。
まぁ、久しぶりに燃えたとだけ言っておく。




