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その後、禿は「ふざけるな!」とか「ちゃんと調べやがれ!」と騒ぎ出す。
馬鹿だねぇ……。
お前らがやらかしたことは陛下に……あれ?
そういや、こいつに伝えてたっけ?
……
…………
………………
あぁ、伝えてねえや。
自分の恨みだけぶつけてたからなぁ。
いかんいかん。
「あぁ、禿よ。
一つ大事なことを言うのを忘れてた。
本来一番最初に言わなければならなかったんだがね。
個人的な理由を優先してしまったよ。
済まなかったな」
「は? なんの話だ?」
「お前の罪についてだよ。
あの日、結婚式の日に襲撃してきたろ?
あれって襲撃時点で死刑確定なんだ」
「は? マジで何言ってんだ?
もっとわかりやすく言えよ」
「お前らは陛下を弑そうとした。
だからどんな言い訳も聞かない。
襲撃者も依頼者も一緒に処刑だ」
……あれ? 無反応?
お~い、禿?
聞いてるか?
「……そういやディーマスの豚がそんなこと言ってたな。
当時は嘘だと思っていたが」
「むしろなんで嘘だと思ったんだ?
ジャーヴィン侯爵家の長女の結婚式、王家派の重鎮だぞ?
今回は陛下と王妃様だったけど、王太子殿下の可能性もあった。
というか、よほどのことが無い限り王族の誰かが参加するんじゃないの?」
「……長女如きで参加するのか?」
「如きというか……当時違法薬物製造拠点の壊滅に関わった人物。
それと王家派の重鎮の娘の結婚式。
当然参加して今後も王家の為に働いて欲しいと言う話に持って行くんじゃない?
むしろこのチャンス逃す方がおかしいし」
そこらは貴族政治が分かればすぐに答えが出ると思うんだがなぁ。
「なぁ、お前が分かるとは思えないけどさ。
お前の後ろにディーマス侯爵がいたんじゃないのか?
なら一応貴族派の重鎮だし、そのあたりの政治的判断は出来んじゃないの?
……まさかお前、自分の欲望のために侯爵の判断を曲げさせた?」
ギ ク ッ !
その反応、やっぱりお前がやらかしたか。
馬鹿だねぇ、あの襲撃で一番考えなきゃいけない所じゃねえか!
下手に国に喧嘩売る形にしたら、当然国がお前らを滅ぼそうとするだろうに。
「まぁ、そこまでやらかしてくれたから問答無用で死刑になるんだけどな。
というか、相手側があんな程度の実力しかなくてこっちも楽だったよ。
ありがとうな」
笑顔で伝えると、なぜか暴れ始めた。
何故だろう? これだけ善意で礼を言ったのに?
「ニフェール、分かって言ったんだろ?」
「まぁ、こちらもワザとやったしね。
でも本音でもあるんだよ?
アイツが常識的なことやり始めたらこちらも苦労していただろうし。
イカれてたから対応も考えやすかったってのもある」
「あぁ、確かになぁ」
アゼル兄と駄弁っていると、禿は宰相権限で追い出された。
もう充分と判断したのかな?
「後はディーマス侯爵か。
禿とは別の方向で苦労しそうだがな」
「まぁ、家の方針がまともな奴はいらない的な考え方だからなぁ……。
禿並に何言い出すか分からない。
会話が成立すればいいけど」
アゼル兄とこの後の裁判がどうなるか話し合う。
だが、面倒なことになる想像しかできないな。
「では次の裁判を始める。
連れて来なさい」
その宣言の後、ディーマス侯爵とその取り巻きが連れてこられた。
ルドルフの父親、ルキミア伯爵も一緒だ。
貴族派の東部の連中は家族に騎士がいる家はほぼ壊滅している。
追加でサバラ殿達が文官の方もお掃除(意味深)してる。
多分だけど、ディーマス侯爵の取り巻きも末端部はほぼ消えたんじゃないかな?
「コロクタ・ディーマス。
貴様は王都で違法薬物の製造を行い、貴族子弟にその薬をバラまく。
そこを壊滅された恨みから ジーピン家とジャーヴィン家の結婚式を襲撃。
その手口としては暗殺者に依頼。
加えて、貴族派の騎士に一緒に襲撃するよう指示。
これを認めるか?」
「いや、どれも認めん!
誰が指示をしたというのだ?
指示受けた騎士は今どこにいると言うのだ?」
余裕ぶったコロクタの発言に宰相はあっさりと答える。
「全員墓の下だな。
襲撃場所が教会だったからそこに纏めて埋めさせてもらったよ」
……いや、その位の回答想像しておけよ。
間抜け顔晒さなくて済むぞ?
「……暗殺者を依頼したという証拠はどこにある!」
「禿と呼称される暗殺者がつい先ほど証言しているな。
なお、その時に捕縛の為に襲撃した所で暗殺者ギルドの契約も見つかってる。
貴様の依頼が多すぎて驚いておるよ」
カック~ンと言った感じで開いた口が塞がらないようだ。
まぁ、暗殺者ギルドが襲撃され情報が流出することは想定外だろうね。
というか、あれはカル達がわざわざ纏めておいてくれたからなぁ……。
「な、なら違法薬物の件は――」
「これも書類があるな。
貴様の屋敷に調査の為に入ったところ、隠し部屋が見つかった。
そこに色々と書類がたっぷりと纏められていたよ」
あぁ、眩暈でもしたのかな?
足がガクガク震えているよ?
「ちょ、ちょっと待て!
我が屋敷に勝手に入ったのか?!」
「犯罪者を捕縛し、隠してある書類を家宅捜索で見つけた。
別におかしい所は無いが?」
「い、いや、待て!
当主の許可も得ずに何勝手気ままにやってんだよ!」
「次期当主には許可を貰ったが?」
「はぁ?」
ストマが裏切るとは一切考えてもいなかったんだろうなぁ。
まぁ、あいつからしたらこんな親と一緒に滅ぶのはありえないんだろうが。
「う、嘘を吐くな!
ならストマを出せ!」
「ああ、呼んでやろう。
すまんが彼らを連れてきて欲しい」
急ぎ侍従が走り去っていく。
その間コロクタは真っ青な顔で「嘘だ……嘘だ……」と呟いている。
よっぽど信用していたのかもしれんが、自分自身が信用無いの分かってるか?
ストマとルドルフがこの場に連れてこられた。
二人は親の事を汚物を見るかのように睨みつけている。
コロクタやルドルフの父親は逆に「俺を助けろ!」という視線を送っている。
「お呼びによりストマ・ディーマス参上いたしました」
「ルドルフ・ルキミア参上しました」
「よく来てくれた。
そなたらの親が事実を受け入れられないようでな。
彼らに現実を理解させてもらえるかな?」
「かしこまりました」
そう言って、ストマたちはコロクタたちの方を見る。
「で、貴様等何が不明なんだ?
犯罪犯して捕まってるだけだろうに何が分からんのだ?」
「お、お前は我らの家を潰すつもりか!」
「いや、貴様らが潰そうとしたんだろうに。
そっちが愚かなことをしたから貴族派は壊滅する。
我々は巻き込まれたくないから貴様らを見捨てる。
それだけのことだろう?」
……コロクタの顔が青から赤に早変わり。
気を付けないと血管に負担かかり過ぎて倒れるよ?
「だ、第一隠してある書類なんてどうやって見つけた?!
ストマ、お前には何も教えてないはずだ!」
「まぁ、そうだな。我々は知らん。
だがこちらにいるニフェール・ジーピンが隠し通路を見つけた。
そこを調べるとたっぷりと書類があったな。
全て国に引き渡してあるぞ」
ギョロっと僕の方を見るコロクタ。
お~お~、睨みつけてきてるけど……もう少し怖くなりそうな顔しようよ?
例えば、隣にいるアゼル兄みたいにさ?
未だ周囲の面々が視線を合わせない位だからかなり効果的だと思うけど。
「あ~、あなた方のやらかした情報ですが、別ルートから既に確保済みでした。
先程宰相様が言っていた暗殺者ギルドから見つかった書類の山ですね。
それを補完するためにあなた方の屋敷から情報を探そうとしてました。
そこでストマ殿やルドルフ殿にご協力いただき、調査を行っております」
すっげぇ……そこまで顔が歪むか……。
まぁ、ここで息子への嫌がらせに動かれるより僕を狙ってくれた方がいい。
そのまま標的を変えるなよ?
「まぁ、こちらとしても父親の犯罪行為を拒絶しようとするお二人のお気持ち。
これを踏みにじりたくはないと言うのもあります。
それ故、『父親と一緒に死にたくなければ協力を』と提案してます。
お二人とも喜んで協力して頂きましたよ」
「まぁ、流石に死ぬのが分かってて無視するのは自殺行為だからな」
ストマのフォロー? もあって周囲は理解できたようだ。
「で、どうやって領主の執務室から情報を得られたかなんですが……。
以前、スホルムという街を掌握していた商人の屋敷を調べたことがあります。
その時に見つけた隠し扉と似た仕組みでした。
まぁ、少し改善されていたようで少し悩みましたがね。
うちの次兄に協力頂きサクッと隠し通路を見つけました」
マーニ兄、ニヤニヤすんな!
確かに手助けかなり助かったけど!
「そう言えば、あまりにも似通ったカラクリでしたね。
確か、ルキミア家も同じ感じでしたし。
東部の建築家は皆あのパターンで部屋や通路を隠すんでしょうか?」
そう言うと、予想してなかったがコロクタが面白いことを言いだした。
「……テュモラーめ!
素人でも解除できるような仕組みを売りつけおって!!
……こんな学園生如きが解除できるとは、手抜きでもしたのか?」
え?
テュモラー侯爵の所の建築家がやったの?
当人を見てみても表情は変わって……いや、少し雰囲気に怒りを感じるな。
ディーマス侯爵をガン見しているし、この情報バレたこと気にしているな?
でも、北部か東部に行かない限り僕らが有効利用でき……あっ!
二番手三人組の実家!
加えて、修道院!
この二つはほぼ確定でテュモラー侯爵の方で手を貸してるだろう!
後でマーニ兄と相談しておかないとな。
「そんなわけで、あの屋敷にあった書類は一通り王宮に運ばせていただきました。
まぁ、ざっと見た限りでも数十回死刑になるかと」
ザ ワ ッ
なんでそんなに驚いているんでしょ?
別に驚く話じゃないと思うんだけどなぁ……。
今までディーマス家が悪いことしてると聞いたこと無いわけじゃないでしょ?
そんなこと考えていると、初めて見るオッサンが騒ぎ始めた。
「き、貴様!
侯爵に向かってなんて口の利き方だ!」
「ただ事実を述べただけですが?
侯爵だから犯罪を犯しても許されるとか言いませんよね?」
まだまだ僕に何か言い出そうとしていたようだ。
だが、想像もしない人物からの横槍が入った。
「ケタシドス伯、そなたは裁判を邪魔したいのか?」
「メルミン!
父に向かって何という言い草だ!」
へ? メルミンって、確か王妃様の名前だよな?
何呼び捨てにしてんのこいつ?
それに父?
えっと……王妃様の父親がこのケタシドス伯爵?
そして自分の立場を理解せずに王妃様に親として文句言った?
こいつもしかしてディーマス侯爵系の貴族派か?
いや……確か王妃様は中立派だったはず。
「ケタシドス伯、今は王妃としてそなたに問うておる。
答えよ!」
わざわざ「王妃として」と明言して発言の訂正を求める王妃。
大変ですねぇ、父親がアレだとご苦労されたでしょうに。
というか、王妃と娘の切り分けができてないのか?
まさか、王妃の父だからと言って馬鹿なことしてないだろうな?
チラッと陛下を見ると、ちょうどこちらを見ていたようだ。
「(もしかして、いつもこんな感じ?)」
「(あぁ、その通りだ。
何度も注意しているのだが……)」
「(ご愁傷さまです……)」
陛下とのアイコンタクトでケタシドス伯爵がロクデナシなのは分かった。
とは言え、どうしようかなぁ……。
今も王妃様が注意しておられるが、止まる気配がないなぁ。
アゼル兄の方を向き、どうしようか考える。
「アゼル兄、これ、このままあの伯爵に喋らせるのも厄介なことにならない?」
「そうなんだが……止めようがないだろ?
流石に殴り倒しに行くわけにもいかないし」
「だよねぇ……。
あ、そうだ!
気絶させてみようか?」
……アゼル兄?
何その変顔は?
「どうやってだ?
まさか後ろに回って……」
「ザクッとはしないよ。
僕とケタシドス伯を結ぶ線上に誰もいなければ殺気ぶつけて気絶させられる。
ただ、この位置だと無関係な貴族まで影響を受けるから……」
「……直線上だな?
であれば、俺の右隣辺りならちょうどいい気がする。
移動して見てみろ」
どれどれ?
確かに……いや、一人騎士が邪魔してる。
「難しいね。
騎士が一人、伯爵より奥の位置にいる。
あの騎士を気絶させずに手前の伯爵を気絶させるか……。
とは言え、時間ももったいないし……。
弱めでやってみるね」
いつものように自分中心で角度付けてばら撒くようなことはしない。
自分から真っ直ぐ、直線的に。
ついでに左右だけじゃなく高さも制限かけてみるか。
自分の頭から胸辺りまでの高さで、左右の幅は僕一人分くらい。
普段より弱めで、せ~のっ!
ブ ワ ッ !
伯爵がグラグラと身体を揺らし、膝を付く。
周囲の貴族が慌てて支えようとするが、そのまま意識を失ったようだ。
陛下が別室に連れて行くよう指示し、周囲の貴族や騎士が動き出す。
ちなみに、直線上にいた騎士も膝をガクガク言わせているようだ。
だが、それでも何とか意識を保ち伯爵を別室に運ぶのを手伝っている。
僕が殺気を出したのは気づいていないようだ。
「ニフェール、大成功だな」
「まだまだだね。
騎士には影響ないように、かつ伯爵は確実に気絶させたかったけどねぇ。
やはり微調整は難しいなぁ」
「とは言いつつ、かなり凄い事したと思うんだがなぁ。
母上でもできるか分からんし。
誇っていいと思うぞ?」
「誇る前にもうちょっと訓練してからかな。
というか、マーニ兄がこっち見てニヤニヤしてるし」
なに、あのいやらしい表情は。
「あのアホ、ニヤニヤする前に自分が出来るか考えてみろっての。
アイツ、まだ範囲指定できないだろ?」
「確かほぼ全周囲だけど、真後ろだけ安全地帯になったとか……」
「全然ダメじゃねえか……」
マーニ兄は兄弟の中で一番この手のこと下手だしねぇ。
「まぁ、とりあえずあの伯爵が消えるから、話が進むだろ」
「というか、後何話すんだっけ?
言うべきことは言ったから後は陛下が一言宣言して終わりだねぇ」
全く、あの伯爵が邪魔しなければ終わってたはずなのに。
【ケタシドス伯爵家:中立派】
:クスマ・ケタシドス:伯爵家当主、王妃の父親
→ 家名はケトアシドーシスから
名前はクスマウル呼吸から
【王家】
:メルミン・フォン・サイナス:王妃、元メルミン・ケタシドス。
クスマの長女
→ 経口糖尿病治療薬のメトホルミンから




