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「さて、ニコライ先生……いや、元先生か?
あなたは何か言いたいことありますか?
貴族子弟に薬売ってカーフ殿に引き渡す。
教師なんて名乗って欲しくないようなクズっぷりは驚きでしたけど」
「お、お前、それもまさか……」
「犯罪者ギルド側から情報を得ましたよ?
こちらの場合は、カーフ殿を捕まえた後にティアーニ先生が気づきました。
親族か兄弟か知らないけど、姓が同じだってね。
そんな話聞いたら大慌てで伝手使って情報を調べましたよ」
「ふっ、ふざけんな!
お前、お前のせいで……」
え?
僕のせいで何かあったっけ?
「えっと、僕のせいで何かありました?
バレたのは僕というより、過去のやらかしの結果でしょ?
そこはあなたのせいでしょうに」
「うるせぇ!
学園でお前にボコられてから誰も彼も憐みの視線でしか見てこねぇ!
裏では『ゲロ教師』とか呼ばれるし!」
……まぁ、実際『ゲロ教師』ではあるけどね。
とは言え、それ言われた原因はあなたでしょうに。
「それを僕に言われてもねぇ。
第一、何で僕と戦おうとしたんです?
元々戦う理由なんて一切ないのに」
わざわざ僕と戦うなんて言わなければよかったのに。
「え……?」
「いや、だからあなたが僕と戦うなんて言い出さなければよかったんですよ。
あなたの過去のやらかしで捕まるのはどうしようもないですよ?
カーフ殿からの繋がりなんで隠しようが無いですしね。
でも、『ゲロ教師』呼ばわりされるのはそっちのミスでしょうに。
他の先生だって止めてたでしょ?」
「いや……そりゃ止められたけどよぉ……」
「わざわざ止めてもらえたのに自発的に戦いを求めたのはなんで?
正直、自業自得と言うか自殺行為というか……」
僕が呆れているのが分かったのか、文句言おうとしているようだ。
もう少し話を続けるか。
「気づいてないかもしれないけどさ。
学園長や僕と接点が多い先生はあの日僕が勝つのを確信してたよ?
だからこそ、皆殺さないようにしてくれと言ってきたんだ」
「え?」
「分かる?
あなたが自滅しようとしたのを皆が色々止めようと頑張っておられたのに。
それを無視して勝手に暴走して何やってんの?
周囲の方々の優しさを踏みにじって何したいのか僕には理解できないよ」
「……」
僕の指摘に周囲の貴族たちも呆れた視線を送っている。
だよねぇ、皆止めてくれなのに人の事聞かないんだから……。
「学園にどうやって潜り込んだか知らないけどさ。
同僚の先生たちの優しさを踏みにじるようなことして恥ずかしく無いの?」
「う、うるせぇ!
何が分かる!」
「何も分からないよ?
分かりたいとも思わないしね。
なんせ、人にヤバい薬飲ませて心と体を壊そうだなんて理解できないよ」
というか、理解出来たら怖いよ。
「はんっ!
飲ませてというが、飲みたがったのはアイツらだぜ!
それをこちらのせいにすんじゃねえよ!!」
「それって、もしかしてトリスもかな?」
「あぁ、確かそんな名の奴もいたなぁ。
兄貴に引き渡したけど、その後死んだらしいな。
最後の仕事だから覚えてるぜぇ」
「あぁ、僕に手足斬られて動けなくした後に頭に矢が刺さって即死だったよ。
暗殺者がクロスボウで撃ちやがってね」
「ほぅ、学園で一番危険なお前でも守れもせず殺せもせずってか!
お前も役に立たねぇなぁ? あぁ?!」
「守る理由は無いしね」
「は?」
何驚いてんだよ。
「僕はトリスを守らなければいけない理由は無いよ?
元々あいつは僕の邪魔しかしてなかったからなぁ。
僕が殺さなくても別に困らないしね。
誰かが殺してくれるのならこちらとしてもありがたい」
「お、お前、クラスメートが死ぬの構わないとでもいうのかよ!」
「そんなこと言われてもなぁ……。
僕の左頬に傷つけた諸悪の根源は犯罪者として鉱山奴隷になってるし。
秋にあった暴動に関わった奴は殺してるし。
別にクラスメートだからって殺さないはずないでしょ?」
……なにヒいてんだよ?
「ねぇ、そんなことより聞きたいことあるんだけどさ。
二人ともどうやって教師として潜り込めたの?
どう考えても実力無さすぎだし?
学園生を指導できるほどまともな人格してないし?
どういう伝手使って入ったのかなって……」
ビ ク ッ !
いや~、そんなに反応してもらえると助かるねぇ。
さぁ、僕に教えて欲しいな♪。
「は、はっ、教師になったのは実力だ!
伝手なんてねえよ!!」
「そうだ! 俺たちの実力なら簡単だったぜ!」
「いや、領主科にボコられる騎士科なんて愚かな環境作ったとか?
学園生から実力無いからって見捨てられかけている教師共にそんな……。
お前等に実力あるなんて言ったら一兵卒だって剣聖とか言われちゃうよ。
で、教えてくれない?」
重ねて聞くと、顔の向きは変えず目だけキョロキョロ動かしている。
誰探してるのかな?
少し待つと、目の動きが止まった。
視線の先には……ジジイが一人。
結構上質な布使った服だな、あれ。
滅茶苦茶睨んでるし、もしかして、テュモラー侯爵?
ふぅん?
そういうこと?
「ねぇ、教えてくれないの?」
「誰が言うか!」
「そうだ!
言うわけないだろうが!」
……えっと、アンタら馬鹿すぎない?
チラッと数名の顔を見ると、想定テュモラー侯爵は頭を抱えている。
うちの両侯爵やアゼル兄たちも同じく。
そりゃそうだよね。
聞かれて「誰が言うか」なんて言っちゃったら……ねぇ。
言えてしまう相手がいるってことになっちゃうし。
ちょっと両侯爵にも注意しておくか。
「ねぇ両侯爵、よく今まで見逃しまくってたね。
学園の教師になれる人物ちゃんとチェックしないとマズくない?
本気でどうにかした方がいいよ?
ここまで愚かな人物を教師にした時点でダメでしょ」
「確かにな……学園長とも話し合ってみる」
「お願いしますね?
本気でこれ以上教師に適さない人物入れられても学園生として困ります」
両侯爵に文句言うと、まともな回答が返ってきた。
本当にお願いしますね?
「お前、何言ってんだ!
今の会話でどうして――」
「――あなた方の発言が既におかしいんだよ。
後ろに誰かがいるから『誰が言うか』なんて単語を使ったんでしょ?
いないのならそんな言い回ししないもの」
「「あっ……」」
やっと気づいたか。
「で、ジャーヴィン侯爵。
ちょっと彼らの身体に色々と聞いていい?」
「……何するんだ?」
「ちょっと抓るだけだけど?」
……何、その「嘘つけ!」って視線は?
「一応言っとくけど、抓る以外の事もしていいならやるよ?」
「いや、いい。
抓るだけだな?」
「うん、僕なりに抓るだけ」
あ、諦め顔になってるけど、感づいたっぽい?
「……分かった、殺すなよ?」
「抓られて死ぬような人って見たこと無いけど?」
「お前の人生初の抓られて死ぬ奴が見られると思ったんだが?」
「いやいや、この二人まで面倒見る気はないよ?
今回については僕は一人のことしか頭に無いしね」
ええ、禿をボコることしか興味ありませんし。
「あまり時間かけるなよ?」
「かしこまりました。
では、お二人とも、再度聞きます。
あなた方が教師になった際に後ろ盾になった人物は?」
「知らねえなぁ……」
あ、先ほどの指摘を理解してちゃんと発言修正してる。
その程度の頭あったんだ……。
「教えてくれたら抓らないであげるよ?」
「はっ!
抓られない程度でベラベラ喋ると思うな!」
はぁ……ならやっちゃいますか。
「じゃあ、抓っちゃいますね。
まずはカーフ殿、先にしますね」
そう言って、カーフ殿の後ろに回って左の肩甲骨を摘まむ。
親指は骨の外側に、人差し指は内側に。
そうして、ギュッと抓る!
ビ チ ッ !
ミ シ ミ シ …… バ キ ッ !
「ギャアアアアァァァァ!!!」
う~ん、ちょっと声が大きすぎじゃね?
ほら、周囲の貴族の方々が怯えちゃうじゃないですか。
「だめですよ、カーフ殿。
もっと声小さくしてくださいね?
では次にニコライ元先生、やりましょうか」
「ちょ、ちょっと待て!
それのどこが抓るだよ?!」
「親指と人差し指でギュッと摘まんだだけですよ?
一般的に言って抓ると呼ばれる動作と違いはないはずですが?」
「言葉で似ていても実際違い過ぎんだろ!」
「そんな細かいこと気にしてたらモテませんよ?
さ、時間も押してるらしいし、さっさとやりましょうね」
そう言って背中に回り、同じように処置を施す。
同じく皮膚が破れ、骨が折れ、悲鳴の声が響く。
「で、お二人さん。
誰が後ろ盾だったの?」
「い、言えるわけねえだろ!
言ったら俺たちは殺されるんだ!!」
「言わなきゃ他の人に殺される予定だけど?」
何キョトンとしているの?
あなた方は既に犯罪者として処刑される身の上なのに。
「誰が俺たちを殺すってんだよ!
罪を認めてないのに!!」
「認めるかどうかじゃなくて、罪を犯したことを国の方で把握している。
いくら誤魔化そうとしても貴族子弟に違法薬物を渡したこと。
その薬を過剰摂取させ、精神と身体を壊して狂戦士としたこと。
それはお前等の罪だよ」
「嘘だっ!!」
何で嘘だと思ったんだろうねぇ?
「ん~と、陛下。
僕の言い分を認める発言をお願いできますか?
多分僕が何言っても信じてもらえそうにないので」
「ふむ……カーフ・コトロフとニコライ・コトロフとやら。
そこのニフェールの発言が事実であることを認める。
そなたらは処刑が確定しておる。
この場では追加の情報を得ようとしているにすぎんのだ」
チラッと僕の方を見られたので、話を引き取る。
「お二人とも、最後のチャンスだと思って聞いてくださいね?
あなた方の後ろ盾となった輩を教えて?
言わないと、二人とも処刑されて元凶は被害無しになっちゃうよ?
それでもいいのなら止めないけど?」
「……」
「ちなみに現時点でお二人を処刑するのはうちの家族でジーピン家次男。
現第二部隊のマーニ・ジドロ隊長だよ?
ぶっちゃけて言うと、僕と一緒に王都の暴動を制圧した人物。
切り刻まれる覚悟できてる?」
「ひぃ……」
「済まんがちょっと待ってくれ、ニフェール」
……え?
アゼル兄、どうしたの?
僕が止められた理由を色々考えてると、アゼル兄がマーニ兄と交渉し始めた。
「マーニ、済まんのだが……」
「やっぱりか……仕方ない、こいつらもそっちで殺ってくれ。
ニフェール、今回俺はお休みとさせてもらうよ」
……えっと?
「あぁ、いきなりすまないニフェール。
お前が来るまでのこいつらの暴言がどうにも許せなくてな。
こいつらの処分も受け持とうと思った。
元々の担当であるマーニとは今交渉を済ませた。
俺にこいつらを処刑させてほしい」
「……つまり僕とカールラ姉様が来るまでに言われたことが許せない。
だから処刑を担当したい?」
「そうだ。
あ、お前の担当はいらん。
そっちは遠慮なく殺ればいい。
その他はこちらで消す。
それと順序とかはお前が勝手に決めろ」
あ~、殺気ちゃんと消せてないよ?
近くの貴族たちが顔真っ青になってんじゃん。
「……ちなみにカールラ姉様も一緒にいた方がいい?
具体的に言うと喋りは姉様、斬るのはアゼル兄」
「それでいい」
「ええ、構わないわ」
あ、さいですか。
チラッと侯爵方を見ると、勝手にしろとばかりに手を振り始めた。
「分かりました。
えっとお二人さん?
処刑担当変わりました。
カーフ殿が罵っていた当時領主科の生徒、アゼル・ジーピンが担当となります。
マーニ兄だったら二人への感情は無いからあっさり処刑してくれたと思う。
でも、アゼル兄に変わっちゃったから……僕にはもうフォローできません。
特にカーフ殿。
あなたが覚醒させた【魔王】の怒り、遠慮無くその身体で体験してください」
「おい! 待てニフェール!!
なんだよ、その危険すぎる単語は!!!」
ニコライ元先生、もしかして知らないの?
「詳細はカーフ殿に聞いてください。
あの年代で一番ヤバい人を、何とか普通の人の範囲で生きようとしてた人を。
わざわざ覚醒させて恐怖を撒き散らすように求めたのはあなたの兄君です」
「ニフェール……もう少し言い回しを……」
アゼル兄、別に僕は間違ったこと言ってないよ?
「違う所があれば、適宜修正願います。
でも、僕も今現在似たような立場にいるので、説明としては間違って無いかと」
「間違っては無いけど、言われるとキッツいんだがなぁ……」
「諦めて、現在進行形で僕はキッツい思いしかしてないからねぇ。
最近まで味方と思っていた奴も別方面での危険人物になってるし」
女装方面でフェーリオとかジル嬢とか?
別方面では反抗期真っ盛りのホルターとか?
「……頑張れ」
「……うん」
チラッとカールラ姉様を見たアゼル兄。
何となく感づいてくれたようで、消極的応援をしてくれた。
うん、それ以上は言えないよね。
両侯爵に喧嘩売ることになっちゃうし。




