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「……ホルターがすまなかったな」


「いえ、いつものことですし」


「え、いつもなの?」


「ええ、最近は結構あんな感じですね。

 教え始める前――夏頃ですかね――まではあそこまでじゃ無かったので。

 まぁ、だからこそ反抗期の可能性を考え始めたんですけどね」



 ペスメー殿と馬車の中でお喋りしていると予想よりショックを受けてるようだ。



「あいつ、どうしてくれようか……」


「無理に押し付けても駄目とは書物に書かれてましたけどねぇ。

 だからといって宿題バックレるとか手抜きと化されても困るんで。

 実際、年明けに算術の試験やらせて結果出せなければ切るつもりだし」


「……勉強的な意味だよな?」


「流石に勉強如きで首落とすとかはしませんよ?

 見捨てて指導しないってだけですから」



 え、何で唖然とするの?



「……マジで?」


「ええ。

 というか僕一人しかいないんで、やる気ない奴らまで率いることは無理です。

 アイツらがそこ理解せずにちゃんと勉強した奴としなかった奴。

 並行して教えろと言われても無理ですよ。

 ちなみに以前情報流した『不動の構え』。

 あれも正直最終手段一歩手前位だったんですよね……」



 あれは流石にショックがデカかったからなぁ……。



「ちなみにやらせているのはどんな勉強なんだ?」


「一桁の四則演算、二桁の四則演算、カッコとかが入った計算順序の理解。

 この辺りだけですよ?

 単純な計算ミスを減らすことを目的にしているから難しいことはしません。

 代わりに宿題として二十問×五十パターンの問題を用意してます。

 それを一パターン一分程度で計算できるようになって欲しいなと」



 溜息を吐くペスメー殿。

 まぁ、こんな低レベルな計算でハマっている時点で大問題なんですけどね。



「いや、昔からだが騎士科は脳筋の吹き溜まりになっちゃってるよなぁ……」


「学園生側のやる気次第ですからねぇ。

 自分らのやってる勉強が騎士になった後にどれだけ必要なのか。

 そこ教えても信じてもらえてなさそうですし。

 今のままだと僕に煽られて奮闘する奴は使えるでしょうけど。

 手抜きする奴は突撃用の駒か肉壁か……。

 いい未来が想像できませんね」


「あぁ、もう、的確過ぎて涙が出て来るぜ……」



 でも、推測だけどこれでも他の代よりまともな奴が増えるんだと思うけどね。

 多分、実力が極端に開く代になるんじゃないかな?

 他の代より役職持ちは増えるかもしれないけど、最下層レベルもそれなり。

 ホルターが前者になるためには勉強あるのみなんだがなぁ……。



 そんなことを考えてると王宮に到着。

 まっすぐマーニ兄の所に向かう。



「おぅ、どうだった?

 ちゃんとセリナ様は受け入れてもらえそうか?」


「そっちは何とかなったよ。

 親御さんも結構いい人だったし」



 まぁ、ホルターのいつもの暴走があったけど、そこは言わんでいいでしょ。



「で、昨日の話だけど……どうだった?」


「……第一と第七はお前の想定通り北部出身の奴らが書類提出遅かったらしい。

 それ故、第一・第七とも提出が遅れてしまったそうだ。

 第四は元々まともにできてないから判断付かん。

 で、第三は……俺が隊長になる前は遅れること無かったと言ってた」


「うわぁ……ちなみに、この取り纏めの順番って月毎に交代?」


「大体二ヶ月交代だな。

 今年までは第二で来年からは第三が担当する」


「となると、十月までは第三もちゃんと出してたけど十一・十二月は駄目。

 絶対狙ってるよね、これ」


「だよなぁ、ラクナ殿も同じ考えのようだ。

 下らん事するもんだ……とは言え、嫌がらせとしては中々だな。

 俺とペスメーだけではキツいのは事実だし」


「やっぱり下が育たないと無理だねぇ。

 ビーティ殿あたりはまだ期待できるかな?」



 メリッス殿はちょっと難しそうだしなぁ……。

 どっちか一人と言われたらあビーティ殿だよなぁ。



「そうだな、メリッスは現時点で期待するのは無理だなぁ……」


「……ニフェール殿、うちのホルターに算術学ばせようとしてたよな?」



 何、ペスメー殿?

 まさかアレやらせろと?



「ええ、ちなみにアレを複写するならホルターから借りてくださいね。

 半分借りて複写、次の日残り半分借りて複写って感じでお願いします」


「助かる!

 今月は何とか乗り切るにしても今後を考えると育てる必要があるのは事実。

 ここでビーティには覚醒してもらおうか」



 強制的にね。

 あれ? もしかしてなんだけど、その強制覚醒に僕も付き合うの?


 ちらっと二人を見ると、なぜかネットリとした視線で僕を見ている。

 やめてね? ラーミルさんが誤解するから。



「ニフェール?」



 マーニ兄、そんな猫なで声で呼びかけるのは勘弁してほしい。

 ロッティ姉様にやってあげなよ。

 喜ぶと同時に襲ってくると思うよ?



「……すぐは無理。

 ほら、アレがあるから」


「あぁ……すまんが、ペスメーを仲間に入れてもいいか?」



 ……まぁ、いいんじゃないかな?



「ホルターを含めたバルサイン家に情報を流さないことが条件。

 それ守れるのなら教えて構わないよ」


「ちょ、ちょっと待て!

 お前ら何隠してやがる!!」



 あぁ、ペスメー殿。

 その普通の人って感じの反応を見ると安心しますよ。

 周りはぶっ飛んだ人しかいないからいまいち普通が分からなくて。


 は? お前も同じくイカれてるだろって?

 その通りだよ!



 マーニ兄の方で僕が暗殺対象になったこと。

 実は囮じゃないかと思っていて、王家の方々が狙われている可能性があること。

 本当に一部の人たちしか知らないこと。

 北部の裏事情も含めて内輪含めての情報を一通り話してくれた。



「……なんで、こんなにぶっ飛んだ話が湧いて出てくるんだろうなぁ」


「そこは僕も知りたいよ」



 愛されてるのかねぇ?

 ラーミルさんと家族や部下からだけで充分なのに。

 浮気を勘繰られたらどうしてくれるんだ!



「ちなみに両侯爵までか?」


「いや、そこから陛下たちや大公様、宰相様、騎士団長と副団長辺り。

 その辺りまでは連絡済みのはずだ。

 隊長たちは……正直不安で裏事情は説明できん。

 一応暗殺対象と王家が狙われている可能性を示唆したがな」


「あぁ、北部が絡んでいる以上第一・第四・第七が使えないしな。

 第三は……最近の嫌がらせから味方と見なせないな。

 第二・第五・第六がメインか」



 そうなんだよねぇ。

 流石にこれ情報流したら面倒事になるのは確定だし。



「一応、第一のラクナ殿には伝えてあるんだろ?」


「あぁ、だが第七は正直言うかどうか迷ってる」



 ん~、どうしよう。

 隊長さんが染まっていたら教える訳にはいかない。

 染まってなければ教えた上で下手な行動を抑制できればラッキー。

 確かパン爺さんは第七の隊長はまともだって言ってたはず。

 なら、今からでも仲間に引き入れるか?



「マーニ兄、侯爵方含めて話し合いしよ?

 ここで悩んでも仕方ない。

 ついでにそろそろビーティ殿とメリッス殿も巻き込みますか。

 ペスメー殿だけ苦労するのも違うと思うし」


「あぁ、苦しむのなら仲間と一緒に苦しめてと言うことだな?」


「正しいけどそれ言っちゃうとあの二人が嫌がるよ?」


「それは慣れてもらわんとなぁ……」



 取り合えずここでの話し合いはここで止めておく。

 そのまま二人を捕まえジャーヴィン侯爵の執務室に向かう。

 その時、ちょうどチアゼム侯爵が執務室に。




「 い た ぁ ♪ 」


「やめて!

 また胃を殴りに来たのね!」




 オッサンの甲高い声って結構キモイ……。



「え~、チアゼム侯爵のちょっと妖しい声は横に置いておいて。

 すみませんがご両人に相談が……」


「ハァ……覚悟はできた、言ってみろ」



 覚悟しないといけない位の会話か?

 ……会話かも知れないなぁ。



 マーニ兄と一緒に先ほど把握した情報を共有する。

 すなわち、騎士団内部でのくだらない嫌がらせ。

 それと第七の隊長をこちらに巻き込むこと。



「……前者はとりあえず北部を潰せば大半は終わるな?

 アキュムの方は……もう少し情報が欲しい。

 偶然にしては出来過ぎな気がするが、証拠と言われるとなぁ……」


「まぁ、個人的にはアキュム殿が信じられないというのがあります。

 なんで、これから呼ぶメンバーから外したいです。

 呼ぶ面々は団長・副団長。

 第一からはラクナ殿にヘンミー殿。

 第二はここにいるので、第五からペティック殿とアパーム殿。

 後は第六と第七の隊長」


「……分かった。

 話の内容は暗殺の件の続きとしておく。

 また、情報を他に漏らさぬよう指示もしておこう。

 少し待ってろ」



 そう言ってジャーヴィン侯爵は一通りメンバーを呼ぶよう指示を出す。

 その間、軽いお喋りをしていたらホルターの話に……。



「……反抗期か。

 確かに年齢的にありそうだな。

 そして立ち位置的にニフェールが親とかの立場になるのも理解できるが……。

 ペスメー、アイツ大丈夫なのか?」


「正直、不安ではあります。

 ですが、父がこっちに来ているので一緒に説得しようかと」



 ん~……。



「ジャーヴィン侯爵のところでは反抗期ありませんでした?」


「ん?

 上の二人は少しはあったが困るほどでは無かったな。

 フェーリオは……どうなんだ?」


「いや、それを僕に聞かれても……。

 領主科と騎士科で授業時の接点も無いし、普段会うのは昼食時くらいですし」



 あえて言うのなら、僕を見てストレス発散してるかも?

 特に女装。



 そんな話をしていた所、皆が集まってきた。

 アパームのあんちゃんが途轍もなく嫌な表情をしているのが印象的だった。

 まぁ、納得の表情でもあるけど。



「お前、また面倒事持ってきたのか?!」


「僕のせいにしないでよ!

 こっちは被害者なの!!」



 あんちゃん、発言酷すぎ!



 皆さん着席されたので、各自自己紹介説明を始める。

 あ、今回名を知った方は以下の通り。

 第六部隊隊長、レッティ・ノーパス。

 第七部隊隊長、アミル・ドヴェータ。


 あれ? 副団長、何で顔色悪いの?

 もしかしてまだビビられてる?



「まず、初めて聞く副隊長方がおられるので再度説明します。

 最近僕、ニフェール・ジーピンを標的にした暗殺が行われるそうです。

 ですが、正直僕を狙うには理由が弱すぎる。

 別に建国祭を狙う必要が無いこと。

 加えてむしろジーピン家総動員できることから悪手でしかないこと。

 これらから僕を囮にして実際は重要人物を狙うと想定してます。

 一番可能性が高いのは王家の方々。

 これを昨日の午後にマーニ兄経由で隊長以上の上位者に情報展開しております」


「ちょ、ちょっと待て!

 情報量が多い、多すぎだ!!」



 あんちゃん、ツッコミ役をわざわざ引き受けてくれるなんて……アリガトね。



「申し訳ないですがまだ続きます。

 これらの暗殺者についてですが、少々面倒な構造になってます。

 実行部隊は東部、ディーマス家の領地の暗殺者ギルド。

 そこに依頼したのは北部、テュモラー家の領地の暗殺者ギルド。

 そして北部暗殺者に依頼したのは……推測ですがテュモラー家」


「……それは確証は無いのか?」



 あんちゃん、そんな確証はあったとしても北部の暗殺者ギルド。

 もしくは依頼したテュモラー家の隠し部屋じゃないかな。



「確証は無いですね。

 ですが、僕は過去にテュモラー家の手下であるラング家を叩きのめしてます。

 加えて、ちょっと前にセリナ元ダイナ家夫人が襲撃されてます。

 その指示を受けたのは北部の暗殺者達」



 この辺り、セリナ様が襲撃されたのは知っている。

 だが、襲撃したのが誰かは知らないようだ。



「そして、その件で王都側の同様な立場の者たちが北部に厳重注意してます。

 ぶっちゃけて言えば、許可出して無いのに勝手に仕事するなって感じです。

 その結果、北部の暗殺者は王都での行動が禁止された。

 でも仕事の依頼が来たようで動かざるを得ない。

 結果、無関係な東部を巻き込んで王都にちょっかい出しに来た。

 現状この辺りまでは把握しております」


「……その暗殺者達の行動は事実か?」


「情報源から聞いた限りでは事実だそうです。

 ついでにそこに幾つか調査を依頼しております」



 あんちゃん……なぜそこでビクつくの?

 あんちゃん狙いじゃないんだけどなぁ。



「この騎士団の中で北部の人間が多くいる部隊がどこか?

 そしてその部隊は北部に情報流したりして無いか?

 もしくは犯罪に手を染めているとかも情報求めました」


「おいおい、いくら何でも犯罪に手を染めてるのは無いでしょ」



 えっと、第六のレッティ隊長かな?

 下手な発言したらマーニ兄とお喋りすることになっちゃうよ?



「結構いましたよ?

 現状北部の人間が重点的に所属しているのが第一、第四、第七。

 把握している所では第一は今回の暗殺とは別の犯罪に手を染めてます」


「……え?」



 レッティ殿?

 わざわざ言ったのには理由があるんだよ?



「ついでに言うと、既にそれは把握していて壊滅準備を進めております。

 とは言え、今回の建国祭にはあまり関係ないですね。

 で、もう一つ。

 第七部隊が王都の犯罪者共を北部の方と手を組ませるよう動いてました」


「嘘だっ!

 いくら何でもあいつらがそんなことするはずがないっ!」



 第七のアミル隊長?

 いくら騒いでも現実は変わらないよ?



「してますよ?

 ちなみにアミル隊長、そちらの部隊にメラムという騎士はおりませんか?

 そいつ、元強盗ギルドの長と夜中にこっそり話してましたよ?

『王都の犯罪者ギルドを掌握したければ指示に従え』とか言ってましたし」



 ぽっか~んと大口空けてしまったアミル隊長。

 ごめんね、ショックだったと思うけどこれが現実なんだ。



「ちなみにこの会話は僕が直接聞いてしまったのでよく覚えております。

 ちょうどこの強盗ギルドを壊滅させようとしてたので」


「……暴動の事か?」


「いえ、あれはまた別の話です。

 その後、一通りの裁判等も終えた後に再度壊滅させました。

 ちなみに知らなくて当然です、一部の人しか知らない作戦なので。

 騎士側は第二部隊に動いていただきました」



 ギョロッとマーニ兄を睨むアミル殿。

 軽く頷くのを見て、またこちらに反論をしようとする。



「なぜそんなことをした?!

 盗み聞きが趣味とかじゃないよな?」


「順番としては暴動後の強盗ギルドの長がかなりの馬鹿だったみたい。

 このまま生かしておいたら確実に第二の暴動が起こる。

 そう王都の元締めとも言える人物から聞いております」



 まぁ、ぶっちゃけ婆さんなんですが。



「誰だそいつは!」


「そこはナイショで。

 というか、そこちょっかい出したら王都の情報が入って来なくなりますよ?

 副団長の情報源が完全に止まるけど大丈夫?」


「勘弁してくれ……」



 リノル副団長が(かす)かな声で泣き言を言い出す。

 でも、現実問題としてそうなると思うんだよね。



「話を戻しますが、再度の暴動は起こって欲しくない。

 なので、サッサと処分してほしいと話が僕の所に来ました。

 両侯爵と相談の上、周囲に知られないように壊滅させてます。

 ちなみに先ほどのメラムの発言を聞いたのは偶然ですね。

 元々襲撃前に何か情報無いかと思って調べたら二人で話し合ってました。

 正直、マーニ兄にも呆れられましたけど」


「いや、だからなんで貴様の所にそんな話が来るんだ?!」


「王都の暴動を鎮圧したうちの一人だから。

 そして、先ほど言った王都の元締めから不戦協定を提案されてます」


「はぁ?!」



 まぁ、驚くのは分かる。

 僕も困惑はしたけど実際似たような状態だしねぇ。

 裏の暗殺者ギルドの長と娼館ギルドの長の交渉ってだけだし。



「実際僕が暴れたら暴動どころの被害じゃすまないということなのでしょう。

 個人的には正しい判断だと思いますよ?」


「あ……あ……」



 あれ? もしかして思考が追い付いてない?

 チラッとジャーヴィン侯爵を見ると、聞きたくない発言をされてしまった。



「ニフェール、アミルは……ガルブ団長ほどじゃないが……」



 ……脳筋系なのですね?



「侯爵、今この場で一番聞きたくない単語だったよ」


「諦めろニフェール、現実はいつも厳しいもんだ」



 何イイ感じで纏めようとしてんの!

【ノーパス家:中立派貴族:騎士爵家】

 ・レッティ・ノーパス:騎士爵家当主。第六部隊隊長

  → 網膜症(Retinopathy)から



【ドヴェータ家:中立派貴族:騎士爵家】

 ・アミル・ドヴェータ:騎士爵家当主。第七部隊隊長

  → アミロイドベータから

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