7
その日はここまでにしてティッキィと別れ、寮に戻る。
普段通り食堂で夕食を取っているとホルターがやってきた。
「ニフェール、ちょうどよかった。
うちの親が領地から到着したんだが、いつ会える?」
「ラーミルさん次第かな。
明日聞いてみるけど、そっちはいつがいいの?」
「いつでもいいそうだ。
というか、そろそろここで会うのも終わりじゃないか?」
あぁ、学園で働いてくださってるおば……お姉さま方もそろそろ休みに入るな。
何時だっけ?
食堂の掲示板を見てみると……ヤベッ! 明日の朝までじゃん!
「ホルター、明日ラーミルさんと話した後にペスメー殿に伝える。
一応明後日の午前中に顔合わせる方向で調整しておけ。
明日以降学園入れねえからそれ以外で連絡取れない」
「あ……忘れてた。
もう少し居られるもんだと思ってた」
「僕もだよ。
そんな訳で一応明後日の方向で進めておく。
お前の家族は今どこに泊まってるんだ?」
「兄貴の家に泊まってるよ」
あ、そうなんだ。
なら明日急いで連絡とれば明後日顔合わせるのは十分可能だな。
話を終え、就寝。
次の日、朝食取って荷物を纏め、まずはチアゼム侯爵家へ。
「おぅ、ニフェ……あれ?
どうしたんだ、その荷物は?」
「学園に入れるのが今日で終わりだって忘れてて……。
とりあえず必要な物だけ持って出てきたんだ。
この後ジャーヴィン家に荷を置きに行く予定。
ただ、その前にラーミルさんと調整したくって」
「デートか?」
「ちょっと違うかな?
以前スホルム関連でドタバタのあった方について協力をお願いする予定なんだ」
「……変な面倒事を引き受けるのが得意なのか?」
「そう言う訳じゃないんだけどね」
門番の面々と軽く話してラーミルさんと合流。
「明日ですね、構いませんよ。
ん~、なら朝にカル辺りに御者してもらってジャーヴィン家で合流。
そこからバルサイン家に向かうと言うことで」
「そうですね。
それでお願いします。
……これで建国祭パーティ前にやっておくことは暗殺者対応だけになりますよ」
「出来るならそっちだけに集中してほしい所ですけどね。
まぁ、ニフェールさんに余裕ができるとこちらもありがたいですが♡」
そんなことを言いながらしな垂れかかってくるラーミルさん。
あの……かなり我慢しているんですけど、そんなに暴走させたいですか?
母親倒せる気がしないんですけど?
その後、カルへの連絡は任せてジャーヴィン家に移動。
皆に一通り説明すると、「そういやそうだったなぁ」と納得される。
「チアゼム家に居座ってラーミルとイチャつくとか……」
「それやったら首から上が吹っ飛ぶから無理!」
フェーリオに揶揄われたが、僕も命は惜しい。
人生「いのちをだいじに」だよ。
「で、明日ホルターの親御さんの説得を行うと」
「そうだね。
まぁ、まともな親ならそこまで拒否反応は起こさないでしょ。
陛下が認めている人物なんだし。
むしろ、ホルターがちゃんと説明できるか……そこが一番不安」
「それはなぁ……」
そこだけはどうしようもないからねぇ。
「まぁ、そんな訳でこれからペスメー殿に報告と相談してくる」
「いってら」
サクサクっと王宮に入り、第二部隊の執務室に入るとマーニ兄と二人で仕事中。
「……ニフェール」
マーニ兄の悲しそうな瞳で見て来るのをぶった切る。
「マーニ兄、ちょっと後回しにさせて。
ペスメー殿、ホルターの件なんだけど」
「あぁ、明日で大丈夫か?」
「うん、ラーミルさんも大丈夫だって。
なんで、朝食後二人でそちらに向かいます」
「分かった、こちらも明日は午前中は休みを取っておいたから対応は可能だ」
二人で話を進めていると、マーニ兄が寂しそうに端っこで拗ねていた。
全く何考えてるんだか。
「で、マーニ兄、こっちの話は終わったよ。
どうしたの?」
「ちょっと明日の午前中の分、事前に仕事頼めないか?」
話を聞いてみると、年末だからか書類仕事が一斉にやってきたそうだ。
どうにか捌くよう努力しているが、明日の午前中はペスメー殿がいなくなる。
このままだと明日以降に響くからちょっと手伝えってことみたいだ。
「……あの二人は?」
「前よりかは良くなった。
だが、安心して任せると言うのは……」
「……無理なのね」
ったく仕方ない、手伝ってあげますか。
「分かったよ、で、どれやればいい?」
「そこの紙束のうち、右三つを頼む。
見られても困らない程度の内容なのと……」
「なのと?」
「枚数が多いから処理速度早い奴に頼みたい」
あ、そう言うことね。
「はいはい、んじゃこの机借りるよ」
そう言って書類仕事を手伝う。
内容は簡単なんだけど量が結構多かったので、夕方まで時間かかってしまった。
「……ふぅ、終わったよ」
「おぉ!
よくやったニフェール!!」
「ちなみに、これで一日分なの?」
「いや、本来この十分の一もない。
今回は他部隊から上がってきた分をうちで取り纏める必要が出てきてな。
まぁ、この取り纏め自体は部隊で順番に担当しているんで問題はないんだ。
だが、出すのが遅い部隊が幾つかあってな。
うちらはもっと前に終わっているんだが」
あぁ、そういうこと?
「追加で提出遅れた奴らがもっと前に提出しなくてはいけない書類を出してきた。
結果、こんなに枚数が増えたってわけ」
「そいつら、どこの部隊?」
「第三と第四がダメダメだったな。
後第一と第七も少し遅れて出て来た。
後者は何でも一部の奴らが提出遅れまくっているとか……」
は?
え、いや、まさか?
「……ねぇ、マーニ兄。
今の四つの部隊って……マズい所ばかりじゃない?
第一・第四・第七は部下たちが不味すぎるとこでしょ?
第三は先日僕が精神的にボコったとこ」
「え゛……確かに状況的にまずい部隊だけだな。
とは言え、こんな程度の低い嫌がらせして何になる?
くだらな過ぎてやるだけ時間の無駄だろ?」
それなんだよなぁ。
単なる偶然かもしれないし。
「正直、偶然なのか狙ってやったのか分からない。
普段はこの四つの部隊って提出遅れることって無いの?」
そう聞くと、ペスメー殿と顔合わせて首をかしげる。
「第一は遅れるのはほぼ無いな。
第七も第一ほどでは無いけど同じくほぼ遅れない。
第三と第四はよく遅れている感じがする。
だが、今回俺たちの部隊に取り纏め役が変わってからだな。
第一と第七の遅延頻度が一気に増した」
「……第四はともかく第三も遅れの常連?
それって本当?
以前別の所から情報を得た『上昇志向』と噛み合わない気がして。
提出物を遅れて出すような輩が上に行けるはずないし」
パン爺さんから教えてもらった情報と噛み合わないのが気になるな。
「マーニ兄、ちょっとラクナ殿と第七の隊長さんに確認してもらえる?
まずは最近の遅延の原因。
次に第三はマーニ兄が隊長になる前からこんな感じだったのか?
ちなみに第七に聞く時は言い方気を付けてね?
ラクナ殿は修道院の事ご存じだけど第七には知らせたくないから」
「あぁ、第七の場合はそっちもあったな。
分かった、そのあたり確認しておく」
「お願いね。
明日の午後、ホルターの件終わらせたらこっちに来るからさ」
「その位なら構わんよ。
とは言え、そんな下らない嫌がらせするとは思えないんだがなぁ」
まぁ、ねぇ。
「正直僕も同意見なんだけど、念の為かな。
外れていればそれはそれでいい。
例えばマーニ兄が騎士になった頃から提出遅れ始めたとか?
そんな結果が出たらちょっと気を付けた方がいいかも」
「……あぁ、言いたいことは理解した。
何もないことを祈るがね。
そういえばペスメーは……ってまだその頃は役職無いから情報も無いか」
「あぁ、この件は過去の情報を持って無いな。
すまんが隊長たちに聞いてみてくれ」
そんな話をして僕は王宮を出てジャーヴィン家に戻る。
「お帰り、ニフェール」
「ただいま母上」
母上から声を掛けられる……が、先日のアレが思い出されて反応に困る。
なお、誰もアレがバレたことを教えていない。
まぁ、親のソウイウ話を報告できるほどの豪の者は我が家にはいない……はず。
大丈夫だよね、マーニ兄?
「まだ落ち着かないのかい?」
「明日お話したら後は建国祭のパーティだけだよ。
僕としても早めに終わらせたいね」
「それなら良し。
暗殺者待ちってのは正直面倒だよ。
サッサとかかってくるのならすぐ殴れるのに、時待ちってのは好かないねぇ」
脳き……いや、何でも無いですよ、母上。
だからその疑惑の視線は止めてください、お願いします!
その後、問い質したがる母上をいなして割り当てられた部屋に移動。
明日に備え、サッサと眠っておく。
そして次の日。
ラーミルさんと合流してペスメー殿の屋敷に向かう。
御者はカリムでナットもついてきた。
「カルはどうしたの?」
「ちょっと情報待ちだって。
立ち位置的にカルが暗殺者の代表として動かなきゃダメでしょ?
だから暗殺騒動が落ち着くまではお留守番になった」
「あぁ、なるほどね。
なら仕方ないか」
確かにその通りだね。
いくらヘタレであってもカルが暗殺者の代表。
多分東部の奴らが顔出しに来たときにはカルが顔出さなきゃいけない。
「この話が終わったら僕も暗殺者対応の方に注力するからね。
まぁ、引いてくれたらありがたいんだけど」
「無理じゃないかな?
金に目が眩みそうなタイプなんでしょ?
特にジーピン家の方々を知らないなら、かなり甘い見積もりで来るんじゃない?
王都の暴動止めた人って説明しても、大したことないとか言いそう……」
「多分そうだろうね。
正直こちらも面倒なんだけどね。
でもどうしようもないよ」
まぁ、事前に婆さんが東部の娼館ギルドに連絡してあるはず。
なので、この件を受けるのが問題なのは向こうにも伝わる。
だから、こちらが悪いということは言われないだろう。
後は説得して、こっちに来た暗殺者を止め……られればいいなぁ。
そんなことを考えているとペスメー殿の屋敷に到着。
「すまんなぁ、来てくれて助かるよ」
「こちらとしてもセリナ様を悲しませたくないですからね。
それなりの努力はしますよ。
まぁ、最終的にはホルターがどれだけご両親を納得させられるかだけど……。
多分、今カタくなってるんだろうなぁ」
「その通り、既にガッチガチだ。
緊張し過ぎて物凄いことになってる。
今のあいつのなら拳で釘ぐらい打てそうな気がするよ」
そこまで?!
「……気持ちは分かるんだけど、大丈夫かな?」
「ホルターについては正直分からん。
ちなみに、両親と兄夫婦には事前に何話すか伝えておいた。
彼女ができたと聞いて皆大喜びしているが、どんな女性かは言ってない。
そこはニフェール殿の話術に期待しているぞ?」
「期待し過ぎですって!
とは言え、親御さんとお兄さん夫婦が否定的意見を持って無いのは安心ですね。
初手否定だとかなりキツイですから」
まぁ、皆肯定しているから後はホルターの発言だけだな。
そこが一番危険なんだけど。
ペスメー殿に案内され応接室に入ると……ホルターが彫像と化していた。
ちょ、これ、想像の範疇外なんだけど?!
ペスメー殿以下、バルサイン家の皆さんを見ると皆頭を抱えていた。
「えっと……初めまして。
ホルターのクラスメートのニフェール・ジーピンと申します。
こちらは婚約者のラーミル・ノヴェール。
後ろは僕の部下たちです。
で、このホルターの状態は何でこうなったんです?」
「あ、あぁ、自己紹介痛み入る。
タキカ・バルサイン、ホルターの父親でバルサイン家当主をやっている。
で、これなんだが……彼女ができたという説明を求めたんだが固まった。
正直、我々も理解が追い付いておらん。
そんな所にちょうど君が来てくれたんだ」
ホルター~!
何やってんだよ、お前は!!
頭痛に苛まれつつもこの状況を打開する方法を考える。
「一応確認です。
ホルターが緊張すると訳の分からない行動をとるってご存じです?」
「は?
いや、聞いたこと無いが……ペスメー、分かるか?」
「親父、例えば、隣の領地に家族で遊びに行ったこと覚えているか?」
「小さい頃の話だな?
何か所か行ったな。
覚えているぞ」
「あの時、初めていくところだとかなりの確率で慌てていたぞ。
ニ・三回行ったら流石に落ち着いてきたがな。
実は、王宮に来たときもそれに近い事をやらかしている」
あれは……ねぇ?
そのまま先日起きた件をペスメー殿の方で説明してくれた。
ご両親にお兄さんは再び頭を抱え出す。
「冗談であってほしいんだが……冗談じゃないんだよな?」
「わざわざこんなところで冗談なんて言わねえよ。
ちなみにそのやらかしのフォローもニフェール殿が対応してくれた。
正直、頭が上がらんよ」
なんか顔真っ青なんですけど……。
【バルサイン家:国王派武官貴族:男爵家】
・タキカ・バルサイン:男爵家当主。
→ 頻脈 (タキカルディア)から




