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アキュム殿に問いかけると黙ったまま視線を逸らし続けている。
……ったく、今度はだんまりかよ。
「アキュム殿、あなたは何を言いたいの?
お答えくださいな」
「……」
「黙るのなら邪魔しないでくださいね。
さて両侯爵、これで話進められない?」
「十分だ。
先ほどまでの話が事実と仮定して行動することとする。
まずは――」
その後、一気に話が進んで三十分もかからずに話が終わった。
早っ!
というか、アキュム殿本気で邪魔だったんだな。
その後、各自退出していくが……アキュム殿が睨みつけて来た。
ふ~ん、そういうことするんだ。
ギ ン ッ !
バ タ ッ !
イラっとしたんで殺気ぶつけてあげたらあっさり倒れられてしまった。
何やってんだよ、アンタは!
「ニフェール……」
「睨みつけて来たから殺気ぶつけてあげただけなのに……。
まぁ、これで睨んだら反撃されることを理解できるでしょ」
「どうだかなぁ、理解できるならさっきの様なくだらない邪魔しないだろ」
マーニ兄からの正論パンチを喰らい僕も何も言い返せなくなってしまった。
そうだよなぁ、出来るのならもっと早く行動取るだろうし。
ちなみに軽く脇腹を蹴るとピョンと置き出して怯えて逃げて行ってしまった。
そう言う足の速さだけは達者なのね。
「あ、ついでだから両侯爵にも伝えておくね。
ジャーヴィン侯爵家で話し合った後の話」
そう言って、あだ名の情報を展開すると……両侯爵がモジモジし始めた。
「両侯爵、いい歳してその行動は流石に恥ずかしいと思うよ」
「お前も儂ら位の歳になって同じ話を振られたらとても恥ずかしくなるだろうよ。
学園生時代の黒歴史をほじくり返されてまともではいられんよ」
まぁ、気持ちは分からないでもない。
僕だって小さい頃に寝小便したことを学園で言われたとかなったら……。
言った奴殴るかな。
あれ、恥ずかしさより先に手が出てしまうんだけど?
「というか、母上が夜の緊縛も受け入れていたとはなぁ……」
「一応言っとくけどそれ当人に言わないでよ?
僕らも聞こえた時点で撤退してるんだから。
下手に教えたら……マーニ兄の頭がもげちゃうよ?」
「まぁ、母上の拳だからなぁ……。
本気で死んでしまいそうだし黙っとくよ」
お願いね、家庭内殺人なんて望んで無いんだから。
「とりあえず後はどうする?
現時点では一通りの指示は終えたんだろ?」
「うん、なので襲撃担当者が来るのを待つくらい?
来た時点でどう動くのかでこちらも判断するしかないかな」
「なら、今のうちに休んどけ。
どうせ襲撃の有無に関わらず建国祭のパーティ前後は大忙しだろ?
ジーピン家総出でお褒めの言葉を賜ることになるんだし」
「だねぇ。
この平和なうちにやれることやっとくかな」
複写の依頼の件はさっさとやっとくか。
ホルターの件は連絡待ちだし。
あ、個人的に伝えたいことがあったんだ。
「ちなみに今どんなイベント持ってるんだ?」
「学園関係で休暇後にクラスの奴らを試験する。
算術の物凄い簡単な奴を解かせる予定。
後ホルターの親御さんが王都に来たらセリナ様の事説明と説得に協力。
これはペスメー殿からラーミルさんと一緒に来てくれと言われている。
最後、これは個人的になんだけど……バッロ家を訪問しようかと」
「バッロ……あぁ、薬物調査の時の……」
マーニ兄に両侯爵、そんな悲痛な顔しないで。
「あいつを殺した禿を僕が処刑する予定。
でも、国としてそのあたりバッロ家の人たちに説明した?」
「……事件のあった時に儂等の方で色々と支援や協力をしておいた。
だが、今回の処刑については何もしておらん。
単純に向こうがあの時以降のサポートを断ってきたからだ」
「……思い出したくないのかな?」
「そう言う訳ではないが辛そうなところはあった。
なので、お前が禿を殺すことは一切止めん。遠慮なく処刑するがいい。
だが、バッロ家を巻き込むのは止めておけ。
向こうからしてみれば有難迷惑の可能性がある」
「……息子を殺した者が処刑されても良くて安堵って感じかな?」
「そんな感じだ。
まぁ……全ての人間がジーピン家の様な血に飢えた獣ではないってことだ」
「酷っ!」
微妙に笑いながら言われるとなぁ……。
とはいえまぁ、考え方は理解できる。
禿に憎しみを抱いていないとは言わないだろう。
けど、その憎しみを血を見ることで解決しようとは思わないのだろう。
まぁ、親御さんの想いを踏みにじることはしないでおくか。
とは言え、禿をボッコボコにするのは変わらないんだけどね。
「まぁ、そういう事情があるのでしたらバッロ家へのご挨拶は止めておきます。
僕としても親御さんを追い詰めたい訳じゃないので」
「まぁ、お前が追い詰めたがっているのは禿なんだろうがな。
そんな訳でそれ以外だと後は無いな?
ならどこかでディーマス家と禿の処刑について話し合いたいんだが?」
「へ?
何かやることあったっけ?」
ほぼ全てやること終わっているはずだけど?
「あぁ、新しい話があるわけではない。
裁判の流れと処刑の順序の確認だな」
「ん~、まず裁判では禿を最初に。
既に手足を切り捨ててますから、牢から出てもまともに生きられないでしょう。
性格的にも依頼主を守るようなことはしないでしょうし。
勝手に情報を提供してくれそうですね」
禿の事を提案すると一緒に来ていたカルが補足説明してきた。
「禿については大体今のニフェール様の認識で合っている。
アイツなら確実にディーマス侯爵を見捨てるだろうな」
「ふむ……なら、ディーマス侯爵を潰す情報を提供できないか当日話してみるか。
こちらで知らなかった情報提供出来たら罪を軽くしてやろうとか言ってさ」
「おいっ、流石に罪の軽減は――」
「――まぁまぁ、ジャーヴィン侯爵落ち着いて。
ニフェール、まだ続きあるんだろ?
お前がこんな程度で終わらせるつもりは無いだろうしな」
マーニ兄、信じてくれるのは嬉しいけど言い回し!
「酷いなマーニ兄、弟をそんな極悪非道な扱いするなんて……。
話を進めますが、罪の軽減はしても他の罪が大量にある。
なので少しくらい減らしても処刑自体は変わらない。
それだけですよ」
「……やっぱりろくでもねえじゃねえか」
「マーニ兄、ステイ!
えっと、第一ディーマス家からの依頼は今たっぷり調べてますよね?
それニ・三件見逃してあげても死刑以外の選択肢ってあります?」
「……無いな。
死刑何回分になるか分からん位の罪を犯しているからなぁ」
「なら、数件分見逃す条件にしても禿は処刑です。
少し希望が見えるようなことを囁いてあげるけど、実際は何も変わらない。
仮に気づかなかったら大喜びでディーマス家の悪事を喧伝してくれますよ」
「禿が気づいたらどうする?」
「どうすると言うか……それはそれでいいのでは?
『お前だけ死んでアイツらは生き残るなんて嫌じゃないか?
貴族を引きずり落とすチャンスだが?』とか言おうかな。
禿も寂しがり屋っぽいし、冥界に行く連れがいた方が楽しいでしょうし」
……あれ?
カルたち、なんでそんなに黙ってるの?
「ニフェール様すげぇ!」とか褒めてくれてもいいのよ?
何となくラーミルさんくらいしか言ってくれなさそうだけど。
「……やべぇ、人生で初めて禿がかわいそうに思ったわ」
「ですよね、でも一歩間違えれば俺たちも……」
「最初の選択肢を間違えなかったご褒美と思っとくべきね」
上からカル、カリム、ルーシー。
お前等、後で泣かす。
ティッキィは呆れ……ナットは無反応?
「ねぇ、皆何ブツブツ言ってるの?
ニフェール様だよ?
今更この位普通じゃないの?
今までだって色々ぶっ飛んだことしてんじゃん」
「いや、そうだけど……」
カリム、そこは否定するとこじゃないか?
「だって、スホルムのアンドリエ商会襲撃で血塗れにしてるんだよ?
閲兵場で『葡萄踏み』とか言って騎士たちの頭砕いてるんだよ?
今更禿にどんなことやっても、過去に比べれば可愛いもんじゃない?」
ナット、僕としてはもう少し優しさが欲しいなぁ。
余程酷い人に思われているのだろうか?
「そうね……普通に考えちゃダメよね。
ニフェール様が今まで普通の範疇で済むような行動なんてしてないじゃない。
確かに今更だわ」
ルーシー、僕は普通のつもりだったんだけど?
異常の太鼓判はいりません!
あぁ、ラーミルさん苦笑しないで!
「ニフェール、部下からどう見られているのか理解したか?」
「おかしいですねぇ、普通の学園生として生きていたはずなのですが……」
「ジーピン家では普通という言葉をちゃんと教えるべきだな」
「失礼な!
両親も兄弟もやんちゃかもしれないけど普通でしょ?」
ねぇ、ジャーヴィン侯爵。
そこで視線逸らさないでよ。
マーニ兄、ちゃんと「自分たちは普通ですよ!」とか言ったら?
ジッと視線を送ると、ヤレヤレといった感じでマーニ兄が一言。
「諦めろ、ニフェール。
いくら普通っぽく生活しても誰も俺たちを普通とは見てはくれない。
擬態して生きるしかないんだよ……」
「早く人間になりた~い……」
そこ、チアゼム侯爵、笑い過ぎ!
各自呆れたり笑ったりが落ち着いた所で話を続ける。
とは言え、最初に禿の話をしたら、次は……。
「次はあの兄弟ですね。
兄は違法薬物製造の護衛をしていたこと。
弟も犯罪者ギルドに所属していたこと。
学園での愚かな行動も纏めて説明して処刑でしょうね」
「まぁ、メインディッシュは最後だろうなぁ。
で、ディーマス家を含めた東部の貴族派を壊滅させると」
「ええ、そこは十分情報集まっているんでしょ?
文句言い出しても先日ディーマス家から持ってきた書類を見せればいい。
恐喝・暗殺・誘拐等のオンパレードでしょうから言い訳しても無駄でしょ」
「だな、これで処分できなかったら王国はどの国からも信用されん。
この国をチーズの様に穴だらけにした奴らを消さないとな」
まぁ、今までの苦労を考えると侯爵たちがこう言うのも分かる。
なんとなくだけど、両侯爵+宰相でも抑えるので精いっぱいだったのかな?
均衡を保っていたのを僕がきっかけで天秤のバランスが崩れた?
「ちなみに、裁判やって、次の日とかに処刑かな?
それと、今回東部の貴族派で捕まらない人っているの?
今回協力した二人は除いてだけど」
「いることはいる。
貴族派だが淡々と東部の領主をしていたとかな。
とは言えかなり少ない。
正直、領主科経験者をどんどん領主代理とかにして送らんと面倒なことになる」
まぁそうでしょうねぇ。
とは言え、むしろ貴族の次男三男とかのケツ叩いて領主知識叩き込まんと。
むしろ、現在の文官たちで領主できそうな奴を送るか?
騎士では……ペスメー殿連れて行かれるのは厳しいなぁ……。
「頭痛そうですね、これ」
「だろう?
でも放置するわけにもいかんしなぁ。
ニフェールレベルとは言わんが、各科の上位者レベルの奴らを派遣するか……」
「でも、その人たち派遣したら王都がボロボロじゃない?
というか、その条件付けたら騎士たち終わらない?
マーニ兄も騎士科上位者だよ?
それにペスメー殿連れて行かれると本気でマーニ兄が泣くと思うし」
「そうだそうだ!
一人でどうにかするのは無理ですよ!
誤字脱字に計算間違い、アレ全部チェックするの大変なんですから!」
「そうなんだよなぁ……そこなんだよなぁ」
マーニ兄も駄々こね始めてしまい、ジャーヴィン侯爵も頭を抱える。
出来る奴らは引っ張りだこってことだよなぁ。
「とりあえず未来の対応は横に置いておいて、近場の方を検討しましょう。
とは言え、裁判の流れは今の感じでしょうね。
ちなみに裁判の後は即処刑?」
「次の日位には実施することになるだろうな。
通常の建国祭の流れに割り込む以上、この件で時間かける訳にはいかん」
「あぁ、通常の建国祭のスケジュールもあるのか。
そこらはチアゼム侯爵が苦労しているってとこ?」
「宰相と一緒にな。
とは言え、裁判と処刑で一日半は確保した。
十分だろ?」
頷く僕。
後は……。
「パーティは建国祭最終日だっけ?」
「最終日ではないが、終わり間際だな」
「となると、暗殺終えて混乱した王都から一斉に逃げ出しやすいんだね?」
貴族たちの混乱に合わせて動けるしね。
「そうだな。
とは言え、王宮は騎士たちに……いや、無理だな。
第一、第四、第七が使えないのか。
第三も今日の雰囲気だと信用に足らん。
……使える騎士が半分以下?
冗談だろ?」
「冗談だったらさっきの打ち合わせの苦労は無かったんじゃない?
まずは第一は一部のまともな奴らを動員するしかないんじゃない?
ヤバい奴らは修道院に行かせればいい。
第四と第七は……まだ情報得てないからなぁ。
パン爺さんも調査で忙しいだろうし」
「結構苦労掛けているからなぁ。
無茶を求める気はないぞ」
まぁ、パン爺さんは別に王宮に仕えているわけではないからねぇ。
文句言われても困るだろうよ。
「んじゃ、王宮の一部にだけ問題ない部隊を張り付けるしかないね。
陛下たちの傍。
調理場と食事の運ぶルート。
パーティ会場。
後は王宮と王都に入る門。
これくらいかな?」
「最低限という訳か……確かに回せる人員も少ないし仕方ないか」
「一応、以前こき使った兵站チームも使えそうなら使ったら?
ただ、あれ誰の指揮に入るのかにもよるけど。
団長直轄?」
「大体その認識で合っている。
というか、兵站の奴らを使うという考えを思いつかなかったからなぁ。
なので、とりあえず団長につけているだけだ」
一番頭回る奴らなのにねぇ。
「んじゃ、そのイメージで配置を皆で考えておいてよ。
何となく、第三・第四・第七が邪魔してくると思うけど、そこは適当に。
どうせ第一の問題児は修道院から離れないだろうしね」
「面倒だな……とはいえ、それ以上はどうしようもないな。
分かった、状況纏まったら教える」
一通り話も終えたし帰りますか。
カルディアの件が触れない方向になったから、やること減ったな。
明日にでも複写をお願いしてくるかな。




