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3

 とりあえず話は終わり、婆さんたちは自分たちのギルドに戻っていった。

 また、両侯爵たちも王宮に戻っていった。

 残ったのはマーニ兄を除くジーピン家関係者。



「父上、ちょっとお教えいただきたいのですが?」



 ビ ク ッ !



 いや、何でそこまで怯える?

 アムルの婚約教えなかった時を彷彿とさせるように感じるんだけど?



「な、なんだ?」


「父上は学園の頃からあだ名付いてたととある方からお聞きしたのですけど?」


「あ、あぁ。

【緊縛】は三年、いや二年の秋位についたはずだな」



 ふむふむ。




「そうですか、ではその前のあだ名は?」




 ギ ク ッ ! !




 父上の表情が一気に変わる。

 先ほどまでの怯えから愕然とした表情に。

 絶対知られないはずだと思ったのだろうか?

 今の僕の情報源から考えればいつかはバレるだろうに。



「だ、誰から聞いた?!」


「あだ名があったことだけは何人かから。

 とは言え、そのあだ名までは教えてもらえませんでしたが。

 で、どんなあだ名だったのです?」


「……(プイッ)」



 ……オッサンがやっても可愛げないよ?



「なんか勘違いしているのかもしれませんが……。

 今回僕が暗殺者に狙われることになりました。

 ジーピン家としては国の重要人物を守るために配置が必要です。

 で、他の面々は戦い方分かるんです。

 けど、父上だけ捕縛術以外の戦い方知らないんですよ。

 なんで、あだ名とそのついた経緯と一緒に教えていただきたいです」



 おっ?

 悩んでる悩んでる♪

 ちゃんとまともな理由も加えているから文句も言えまい。


 さぁ、今更【緊縛】なんてこっぱずかしいあだ名が付いているんだ。

 それよかまだマシなあだ名でしょ?

 サッサと吐け♡


 ちなみに、兄弟も女性陣もワクワクしながら聞いている。

 母上は……呆れつつも放置しているようだ。

 父上からの「援護求む!」的な視線はガン無視してやがる。



「言わなきゃ……ダメ?」


「いい年して可愛く言っても母上位しかキュンときませんよ?

 正直に話してください。

 仮に使える技術とかあるのならこちらも知っておきたいんですから」



 結構悩んだようだが、渋々答えたそのあだ名は……。




「……【嵐鏢】だ」


「ランヒョウ?

 何それ?」


「あ~……嵐の時に降る雨の様に投擲武器が降り注ぐ様を言いたかったらしい。

 ちなみにそのあだ名を言い出したのはアラーニだ」



 ……ジャーヴィン侯爵ってそう言う方面に心惹かれるタイプ?



「ちなみに、ヘルベスも一緒になってウハウハ言ってたな」



 チアゼム侯爵もかよ!



 そんなツッコミを心の中でしていると、母上からの指摘が。



「アダラー、お前、自分は違うとか言うなよ?

 アラーニからそれ言われて一緒になってキャッキャと喜んでただろうが。

 サプルやアニス、そしてアタシはどんだけ自意識過剰なんだって呆れてたよ」



 あ~、痛々しいと思われるタイプの発言って奴ね。



「その状態が続いてしまったから、女性陣で指摘したのさ。

『いい歳していつまでガキのままでいるつもりだ?』ってね。

 当然こいつらは反抗して来たんでアタシがボコった」



 あ……。



 アゼル兄以下、他見物メンバーが視線を逸らす。

 かなりボコられたんだろうなぁ……。



「そして新しいあだ名を考えろと命じて、結果今の【緊縛】になった」


「え゛……考えたのは男性陣で許可は女性陣が出したの?」


「ん? まぁ、そうだが、何かあったか?」



 ……この時点で見物メンバーの間で視線が縦横無尽に行き来する。

 そして僕を除く全員の視線が一点……僕に集中する。



 仕方ない、覚悟を決めるか。



「父上、母上。

 今の【緊縛】は確かに学園生時代の自意識過剰な考えから離れたと思います。

 ですが、別の大きな問題が……」


「……なんだい?」



 息を整え、最悪殴られることも覚悟して発言する。





「【緊縛】の単語が夜のプレイの様に聞こえるんですよ。

 初めて聞いたときどれだけ困惑したことやら……」




 ボ ッ !

 ボ ッ ! !




 一つ目の「ボッ」が母上の顔が真っ赤に染まる音。

 二つ目の「ボッ」が拳が飛んでくる音。


 なんとかギリギリ躱すが……死ぬかと思った。

 利き手側ってことは、当たったら暗殺者より先に母上の拳で死んでたな。



「母上、殴るのは無しでしょ!」


「ニ、ニフェール!

 お前はなんて恥ずかしい事言い出すんだい!!」


「いや、【緊縛】なんて単語使う時点でそっちの方が恥ずかしいでしょ!

 加えて父上の捕縛技ってどう考えても恥ずかしいタイプの技が多いんですよ!

 ティッキィが過去に縛られた技も最近僕が縛った技も怪しすぎ!」



 ……あれ?

 なぜ母上はキョトンとしているの?

 なぜ父上は怯えているの?



 え、まさか?



「母上、もしかして父上の捕縛術がどんな感じなのか知らない?」


「あ、あぁ、技を盗む気はないしね。

 お前等にアダラーが教えている時は席を外すようにしていた」


「それは学園生の頃や暗殺者ギルド叩きのめした時も?」


「前者は別に変なのは無かったと思う。

 後者は叩き潰すのに集中していたからアダラーの方は特に見てないな」



 ……父上?



「父上、まさか怪しげな縛り方は母上の前では見せてない?」


「……そりゃ、あんな縛り方積極的に外でやったらキャルに叱られるだろ?」




 お い ?




「なら、息子に教えるときになぜその情報をよこさないの?!

 ティッキィに『時雨茶臼』とか使っちゃったじゃないか!!」


「はぁ?

 何で使うんだよ、あんな技!」


「スホルムで制圧するときに都合が良かったからだよ!

 マジかよ……嫌な予感はしていたけどさぁ……。

 ってことは、二人が学園生時代に暗殺者ギルドで『松葉崩し』使ったそうだね。

 それもアッチ系の技だよね?」


「当たり前だろ……」



 落ち込む僕、流れ弾でダメージ喰らうティッキィ。

 憐れむアゼル兄たち見物メンバー。



「父上、まさかアッチ系の捕縛術、母上に使ってないよね?」


「お、おま、何言ってやがる!!」


「一番使いそうな相手って他にいるの?」





「いるわけないだろ!

 キャルだけだ!!」





 この言葉の直後、母上から過去最速の拳が父上に届いた。

 ……僕でも攻撃が見えなかった。

 鼻血拭いてぶっ倒れる父上に恥ずかしそうな、蔑むような視線を向ける母上。



「アダラー……何か最後に言いたいことはあるかい?」


「ま、待て、話し合おう!

 まだやり直せるはずだ!」


「言いたいことはそれで終わりだね?

 アダラー以外全員出てお行き。

 ついでにサプルあたりに人をこの辺りに近寄らせるなと伝えておくれ」


「分かった。

 だが母上、モノ壊すのは止めてくれよ?

 知ってると思うが領地に金は無いからな。

 では総員、退避!!」



 アゼル兄の号令一下、一斉に部屋から出て行く僕ら。

 扉が閉まった直後から物凄い音が響いてくる。



「なぁ、ニフェール。

 アレ、どうする?」


「夫婦間の諍いは興味ない。

 縛りプレイしているからって何か言わなきゃいけないこともないしね。

 父上が十分働けそうなんでホッとしている位かな。

 とは言え、【嵐鏢】だっけ?

 母上たちは何を恥ずかしがったんだろ?」


「分からん。

 単純に話を聞くだけならそこまで恥ずかしがることは無さそうなんだが……。

 第一、名称だけなら俺たちも結構恥ずかしいしなぁ」


「だよねぇ、【魔王】【死神】【狂犬】。

 どれもこれも自分が名付けたとかなったら恥ずか死ぬね。

 とは言え、それだけだとは思えないんだよなぁ」



 兄弟でウンウン唸っているとジャーヴィン家の執事殿がやってきた。



「失礼します、その……あちらの方から聞こえる名状しがたい音は……」


「母が父を折檻している音です。

 二次被害に遭わないためにもあちらに近づかないよう周知願います。

 それと、サプル夫人はおられますか?

 こちらから説明させて頂こうかと」


「かしこまりました。

 皆様をお連れした後、あの辺りを危険地域と周知いたします。

 では、こちらへ」



 そう言って急ぎサプル様の所へ連れて行かれる。

 すぐ部屋に入れてもらえたが……視線がキッツいんですけど?!



「ねぇ、何が起こってるの?」



 睨みつけられて、大人しく一通り説明する……僕が。

 まぁ、今回の発端は僕だから仕方ないけどね。


 一通り説明したところなぜかサプル様に呆れられてしまった。



「いや……確かに複数のあだ名は持ってるわよ?

 そして【嵐鏢】はやめろとも言ったし【緊縛】を許可は出したわよ?

 だからってそんな特殊な縛り方を自分の息子たちに教えてるなんて!

 ……キャルは怒っているわよね?」


「まぁ、説明し辛い撲殺音が聞こえてきているので」


「ちょっと、殺しは待ってよ!」



 でもなぁ、あれで生きて……父上なら生きてるか?



「普通の成人男性なら撲殺になるでしょうけど、父上ですからねぇ。

 何となくですが、明日の昼くらいにはピンピンしてそうな気が……」


「あぁ……」



 納得されてしまった。

 もしかして学園生時代もそんな感じなの?

 もう一つくらいあだ名持ってない?

 例えば【物理無効(スライム)】とか?



「ちなみに質問なのですが、なぜ【嵐鏢】を禁じたのです?

 聞く限りでは別に禁じるほどの話では無さそうでしたが?

 むしろ【緊縛】の方が僕らにはヤバすぎる気がするのですけど」


「え゛……話を聞いてその判断?

 なz……ねぇ、もしかして?

 アダラーが学園生の頃どういう行動を取ったか知らないの?」



 へ? なんですそれ?

 また、訳の分からない厄介事があるの?



「何も知りません。

 というか、先ほどの説明が僕たちの知り得ることですが?

 母上からも特に補足説明はされてないです」


「あちゃ~……」



 そこまで頭抱えることなの?!



「まず、ワザとじゃないと思いたいけど説明が不足しているわ。

 あの【嵐鏢】の名だけならこちらだって別に何も言わなかったわよ。

 自称って時点で恥ずかしいとは思うけどね」


「あぁ、基本あだ名は他人が付けるものですからねぇ」



 誰が好き好んで【狂犬】なんてあだ名を自分でつけるかっての!



「そうね。

 だけど、アダラーの場合はアラーニ・ヘルベスと手を組んであだ名にしてたの。

 追加で……当時、奇抜な格好をしてたのよね」


「奇抜?

 ……え、どんな?」



 まさか僕に匹敵する女装?!



 姉様方、僕と同じこと考えたでしょ?

 鼻の穴広げてフンスフンスしてますよ?



「カールラ、勘違いしてるわね?

 アダラーが女装して本気で似合うと思ってるの?

 ニフェールやアムルが特別なの。

 分かりやすく言えば……アゼルを女装させてごらんなさい?」


「成程、無理ですわね」



 ……加減なくざっくり斬り捨てましたね。

 まぁ、アゼル兄自体は嫌がってたからいいか。



「話を戻すわね。

 奇抜な格好というのは、制服に黒いマント付けていたの

 そして裏地にナイフ大量に用意してたわ。

 どれだけ怪しい格好になっているか学園生経験者なら分かるでしょ?」




「はぁ?!!」

「え、嘘ですよね?!!」




 アゼル兄と一緒にびっくりする僕。

 他の見物組も唖然としている。


 何それ、恥ずかしくなかったのかな?

 というか、そりゃ自意識過剰とか言われちゃいますよねぇ。



「確かにナイフを大量に持ち運ばないと【嵐鏢】とは言えませんね。

 ただ、常識的にはお話になりませんけど」


「ええ、そこは私たちも同じ考えですわ。

 なので、全力で止めたのですが……その代替案がこんなことになろうとは」



 まぁ、母上が堕ちていたとは予想もできなかったでしょうねぇ。

 僕たち子供側も想像もつかなかったけど。



「とりあえず状況は理解しました。

 確かに【嵐鏢】の黒歴史は消して欲しくなりますね」


「でしょ?

 ……ちなみにどこから【緊縛】の前にあだ名があったこと知ったの?」


「まぁ、複数ですね。

 犯罪者ギルドに長年所属している情報担当とか?

 皆さんが学園生の頃から現役でしたからねぇ。

 とは言え、あることは聞きましたがその名称は自分で聞けと言われてます」



 パン爺さんの情報は頼りになるからなぁ。



「その情報源は他の人に喋りそう?」


「それは無いですね。

 というか、僕以外の人にそこまで話すとは思えないけど」



 カル、視界の片隅で頷いてるんじゃない!



「まぁ、とりあえず認識の違いは理解できました。

 ……そろそろ終わったかな?」


「多分、ここで処刑はしないだろ。

 ちょっと様子見に行くか」



 アゼル兄も賛同してくれて、皆で母上が一線を越えてないか確認しに行く。

 超えてたら……死体の処分も考えないとな。




「ニフェール、何か物凄いこと考えてないか?」


「母上が加減できるか懸念していたくらいだよ?」




 笑顔で返事すると、微妙に怪しい視線を送られた。

 う~ん、信用されてないな?


 そんなことを考えながら先ほどの部屋に近づくと……妖しい気配が。

 ついでに、かすかな声だけどちょっとマズそうな声が……。


 僕より年上の面々が何となく感づいたようだ。

 これ……マズいタイミングじゃね?




「(小声で)全員後退」


「(小声で)了解」




 全員コソコソと逃げだしていく。

 アムルも何となく理解してしまったようだ。

 顔赤いぞ?



 そのままこちらの声が聞こえないであろう辺りまで戻る。

 皆、先ほどの内容を言うべきか言わざるべきか困惑しているようだ。

 アゼル兄も言い辛そうだし……仕方ない、泥被るか。




「えっと、サカリ場に入らずに済んだことを喜ぶべきじゃない?

 もしかして参加したかった?」


「んなわきゃ無いでしょ!」




 ルーシー、素早いツッコミありがとう。



「まぁ、個人的にはアムルにはまだ早いかなと思うのでホッとしたんだけど。

 とりあえず、あちらの二人に内容は追及しないであげて欲しいな。

 とてつもなく居心地悪くなるだろうしねぇ。

 夫と緊縛プレイしている最中に息子や侍従侍女に見られたなんて」


「だから言うなっての!

 ……って、緊縛確定なの?」


「聞こえた声からは多分……。

 アゼル兄、どうだった?」


「多分当たりだろうな。

 父上の声でこの縄を引っ張ったらどうとか……。

 詳細は言えないがどう考えても縛ってるんだろう」



 皆、表情が真っ赤になっていく。

 流石になぁ……親のそんな場面知りたくなかったよ。



「とりあえず、今日は解散でよくないです?

 あちらのサカリ場に付き合う理由も無いですし。

 僕としては、王宮行ってマーニ兄と情報共有したいです……サカリ場以外を」


「あぁ、そっちは頼む……サカリ場以外な。

 後、明日以降やることあるか?」


「現時点では婆さんからの情報待ちだから普通に過ごしていいと思う。

 連絡あったら周知するからその時はよろしく。

 僕も幾つかやっておきたいことがあるからねぇ」



 ホルターの件とか、冬期休暇後の試験準備とか。

 それ以外にも一件。



「分かった、んじゃマーニの事任せる」


「任されました。

 ラーミルさんた――」


「――全員一緒に行きます!!」



 カル達も頷いてくれる。

 いい婚約者と部下を持ったよ、本当に。


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