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本日より十一章開始します。
さて、今回はニフェールをどれだけ苦労させようかな?
王都は沸いていた。
大人も子供も浮かれ騒ぎ、酒と食い物を喰らう。
恋人たちはイチャつき、彼氏彼女がいない奴らは探し出す為にうろつきまわる。
探すのを諦めた輩は男女とも娼館に集まり娼婦、もしくは男娼を買う。
そんな娼館街のとある部屋で誰にも気づかれず厄介な話が持ち上がる。
◇◇◇◇
「ふむ……手紙は受け取った。
ギルドへのナリアの献身ありがたく思う。
とは言え……これはかなり不味いのぅ」
「不味いとは?
話を聞いた限りでは学園生一人を暗殺するということでしたが?」
東部から来たメッセンジャーたちが困惑の表情を浮かべる。
まぁ、それはそうじゃのぅ。
現実を知らねばその反応は正しい。
「そなたらの言う学園生は数か月前に王都の暴動を力づくで止めた輩じゃ。
正確に言うと兄弟でじゃがな」
「はぁ?!」
分かる!
お主らがそのように驚くのはよ~く分かる!!
「事実じゃよ。
冗談抜きに王都を制圧できる人物に暗殺者を送るとは……。
この依頼主はよほど死にたいようじゃな」
これ、確実にテュモラー侯爵とこの前やらかした北部の暗殺者。
この二つが組んでいるのじゃよなぁ……。
「もう一つ。
この手紙からすると北部の暗殺者ギルドの部下が王都で暴れたとあるな?」
「ええ、北部の長も驚いたそうで。
若手の暴走と聞いております」
「それ違うぞ?」
「はぁ?!」
全く、ここまで嘘をつき通すか。
北部の暗殺者は完全に敵に回るつもりかのぅ。
「王都で暴れたのは北部暗殺者ギルドの部下と云ったが、正確にはちと違う。
北部強盗ギルドの若いのを暗殺者ギルドの輩が率いて来たのじゃよ。
当然、王都に許可も得ずにな。
ついでにその北部の者たちは毒を飲んで自殺した」
無言になってしまったのぅ。
まぁ、無理もない。
「そして、多分補佐要員として連れてこられた奴をこちらで捕まえた。
説明を聞く限り、許可を得ると言うこと自体知らなかったそうだ。
長からも何も説明されずに派遣されたそうじゃよ」
「そ、そんなことあるのですか?!」
まぁ、普通ならそう言う反応をするじゃろうのぅ。
「あったのじゃよ。
そして、この件では王都から北部に詰問の為に人を送っておる。
その時の回答では暗殺・強盗両方の長自身が気にもしてなかったようじゃの。
それ故、北部の娼館の長クリーがこちらに謝罪文を送ってきたくらいじゃよ。
結果、北部の暗殺者と強盗は他領地での仕事禁止。
これが真相じゃよ」
溜息を吐き、東部の者たちに続いて説明する。
「話通りであれば一人は東部に。
もう一人は王都の商業ギルドを介して北部に向かうのじゃな?
であれば東部の方は今の話を伝えておくれ。
そして北部は許されぬことをした。
王都に迷惑をかけ、東部を騙し、自分らの手を汚そうともしない。
正直に言うがの?
東部の暗殺者は標的の学園生に皆殺しにされるな」
「……学園生如きがですか?」
本当に……学園生という身分は変な方向に有効活用されるのぅ。
あの化け物レベルの実力者を弱者と認識させてしまうのだからなぁ。
「学園生如きがじゃよ。
だからこそソイツと妾の間で戦わぬよう話をしてある。
小難しく言えば不戦協定とでも言おうかの?」
「はぁ?!」
まぁ、真実を言う訳にはいかんからのぅ。
一番誤解の起こりづらい言い訳をでっち上げてみたのじゃが……。
「簡単に言えば、妾と娼館ギルドはニフェール・ジーピンと争わぬ。
とは言え、個人間の話じゃから妾の目の届かぬ所でちょっかい出す輩もいよう。
それ故、その場合は遠慮なく滅ぼして構わんと伝えてある。
それと、こちらからも何か怪しい情報を聞き出したら協力して事に当たる。
そこまでは協力体制を作ってある」
「……(はっ!)。
それって、もしかして……」
「ほぅ、感づいたかの?
東部の暗殺者が来た場合、大人しく妾の説明を聞き帰るのなら良し。
無視して王都で暴れると言うのであれば……」
これ以上は言わんでも分かるじゃろ?
王都が血の色で真っ赤に染まるんじゃよ。
メッセンジャーもある程度は理解したようで、激しく首肯している。
そんなに動かすと首痛めるぞ?
「あ、ちなみに王都のギルドのうち暗殺者・商業・生産も同様の協定を結んどる。
強盗の一部もじゃな。
それ故、王都で愚かなことをするのなら全面戦争を免れぬと心得よ。
とは言え、そちらが事態を理解し退くのならそれで終わりなのじゃがなぁ」
そう言うと、メッセンジャーの二人は頷き合って宣言した。
「王都の状況は了解いたしました。
私どもは東部と北部へ急ぎ伝えようと思います。
また、東部暗殺者の一団がやってまいりますが、説得お願いできますか?
私どもも可能な限り移動中に合流して説得したいと思います。
ですが、どのルートを通るか不明なため、会えるとは限らないので」
まぁ、そうじゃの。
安全のために別ルートを選ぶ可能性も否定できんしな。
「まぁ、構わんよ。
だが、金に目が眩むようであれば――」
「――その時は王都の方で処刑して頂いて結構です。
これを野放ししては東部が信用できないと思われてしまいます。
ナリア様は王都とこれからも仲良くやっていきたいと考えておられます。
それ故、波風立てるのであればギルドの長と云えども……」
まぁ、消すしかないわな。
そこらは……当人に任せるとしようかの。
ウキウキしながら処分しそうじゃが。
「それと、北部に行く者は暫し向かうのを待っては貰えぬか?
こちらの商業ギルドで北部に向かう者がいないか確認しよう。
その者たちと一緒に動けば、最低でも狙われづらくなるであろう?
それと東部に戻る時も一緒に王都に戻って来てから東部に帰るがよい。
命あっての物種だからのぅ」
「ピロヘース様、色々とありがとうございます。
お言葉に甘えて一緒に向かわさせていただきます」
まぁ、当然の選択じゃのぅ。
「まず今日は身体を休めよ、そして東部は明日にでも向かえばよろしい。
それと、今日中に東部と北部への手紙を用意する。
一緒に持って行ってもらえんかの?」
「お任せください」
これで話し合いは終わり、解散となった。
とは言え、これは関係者全員集めての話し合いかねぇ。
……いや、今建国祭の時期だね?
となると……まさかジーピン家大集合中かい?
これはちゃんと親御さんにも筋通した方がいいねぇ。
「トレマ、アンタはチアゼム侯爵家に行って欲しい。
多分カルあたりがいるはずだから、ニフェールの居場所を確認するんだ。
それと、もし他のジーピン家の者が王都に来ているのなら顔合わせしときたい。
場所はチアゼム家でもジャーヴィン家でもいいから都合を聞いてきて欲しい」
「……かしこまりました」
いや、そこまで悲壮な表情しないでおくれよ。
「シフィル、アンタは商業・生産、それとパンを呼んできておくれ。
ニフェールについての緊急の話し合いだと。
黒服たち使って構わん」
「かしこまりました。
ついでに北部に向かう商会が無いか調べるようリシアシス様に伝えておきます」
「そうだね、それも頼むよ」
こちらは普段通りだねぇ。
そんなにニフェールが怖いのかねぇ?
二人は急ぎ連絡のために動き始めた。
さて、今のうちに手紙を書けるところまで書いてしまうか。
◇◇◇◇
「失礼、こちらにカルという者はおられますか?
ピロヘース様からの伝言を届けに来たのですが」
「あぁ、ちょっと待ってくれ。
今呼んでくる」
すぐにカルがやってきた。
何とも貴族の侍従に染まってきたな。
いや、それがダメとは言わんが。
「どうした、珍しいなお前が来るなんて。
いつも通り黒服共が来ると思っていたんだが」
「最緊急だ。
ニフェール殿はどこにいる?
それとジーピン家の方々は王都に来られたのか?」
「今日はこちらにいらっしゃるな。
それと皆様はジャーヴィン家に逗留されてるが……何があった?」
チラッと周りを見ると、カルは苦笑して
「今更ここの門番たちにバレても構わねえよ。
既に俺たちが暗殺者であることも知られているしな。
で、本気で何なんだ?」
「……ニフェール殿が暗殺対象となった」
この言葉を発した後、カルから表情が消えた。
ここ数ヶ月見ることのなかった暗殺者としての顔。
まだ忘れたわけでは無かったのか。
「冗談……という訳じゃ無さそうだな。
だが、それなら娼館に呼べば済む話じゃないか?」
「ピロヘース様はもっと面倒事を想定してらっしゃる。
そこでジーピン家の皆様に説明すべきだとお考えだ。
今、ニフェール殿の事を知る者たちを集合させている。
その後そちらの皆様と話し合う様だ。
で、ジャーヴィン家でもチアゼム家でも構わないが関係者を集められるか?」
「ジャーヴィン家に集合だろうな。
一緒に来い、ニフェール様に会わせる」
そのままズンズンと屋敷内に連れられて行きすぐにニフェール殿と面会する。
「は~……そんなことがあったんですか。
なんかお手数おかけしてすいません」
礼を言われるとは思っても見なかったな。
こっちが唖然としていると、そのまま話が進んでいく。
「カリム、ジャーヴィン家に向かって。
うちの家族に『面倒事発生、ジャーヴィン家で話し合いしたい』と伝えて。
多分マーニ兄以外は皆いるはずだから」
「はい!」
そのまま大急ぎで走っていくカリム。
「トレマ殿、一旦婆さんの所に長を集めるんだよね?
ならカリムの戻りを待ってくれるかな?」
「ええ、こちらもその方が助かります」
順調に話が進んでいるように感じるが、もしかしてこれも想定内なのか?
あまりにも早すぎる気が……。
「トレマ殿、どうされました?」
おっと、困惑しているのがバレたか?
そう考えていると、カルがフォロー? いや、ツッコミを入れて来た。
「ニフェール様、トレマは困惑しているんだと思うぞ?
トレマ、お前の立ち位置は俺がギルド壊滅に追い込まれた直後位の状態だ。
多分、なんでそんなに落ち着いてられるんだってところか?」
「そ、そうだ。
普通、暗殺者に狙われたなんて情報入ったらいくら何でも驚くだろう?
そして怯えの表情も出て来るのではないか?
それが一切感じられないんだ」
正直に答えると、ポリポリと頭を掻きながら答えてくれた。
「ん~、まぁ、いくら暗殺者と云えども母上よりかは弱いですし。
数が増えても怯える要素がありません。
加えて狙われているのが僕と分かっているんで。
他の方が狙われていて護衛しなきゃいけないとなるともっと悩みますよ?」
……こんな回答が普通に出てくるとか、その時点で違うだろ!
あぁ、シフィルに任せたかった!
でも、多分なんやかんや言って俺になるんだろうしなぁ……。
◇◇◇◇
さて、カリムから連絡が入り、予想通りジャーヴィン家に集合となった。
トレマ殿はさっさと娼館に戻っていった。
「もしかして……怯えられてる?」
「何を今さら。
アイツらの目の前で何人殺したか思い出してみろ」
「そんなに殺してないと思うんだけどなぁ。
王都の殺伐とした感じからしたらかなり少ないと思うよ?」
「ちょっと常識を覚えた方が良くないか?」
なんかカルが冷たい……。
皆で移動し、少し待つと婆さんたちも集合。
ついでに言うと、両侯爵とマーニ兄、ラクナ殿まで来ていた。
婆さんが犯罪者ギルドを代表して謝罪と説明を始める。
「なんか大事になってるねぇ?」
「どう考えても大事だろ?
お前の命がかかってるのに!」
ラクナ殿、落ち着いて。
また胃が痛くなるよ?
「どこで襲ってくるかにもよりますよ?
周りへの被害を気にしなければ負ける要素は無いと思いますし。
いくら強くてもティッキィ並でしょ?」
「なぜ俺を比較対象にするのか問い詰めたいが……。
まぁ、そうだな。
東部にいた頃も俺より強そうな奴はいなかった。
近い奴はいたが、そいつも別件で死んでいるからなぁ」
「へ、誰、そいつ?」
ティッキィ並がいるんだ……。
「東部の暗殺者ギルドの前の長だな。
声かけられたんだが、当時はギルドと無関係になりたかったんでな。
断らせてもらった。
あちらに迷惑かけないように説明しておいたから殺し合いはしてないがね」
「……なら、今の長って知ってる?」
「まぁ、代替わりしたと聞いたから挨拶位はしておいたな。
オピエって奴で、弱くはないが俺でも確実に勝てるな。
……カリムなら勝率五分か? ナットは四分、カルは無理だな」
ふむ、そんな程度か。
「ちなみにそのオピエより強い部下とかはいなかったんだよね?
なら問題は……一つは周囲の被害を無視して襲ってきた場合。
もう一つは本当に僕を狙っているのか」
「……坊を襲うのは囮ってことか?」
微妙に違うんだよなぁ。
「パン爺さん、そうじゃない。
この件、多分依頼主はテュモラー侯爵だと思う。
というか、僕を名指しで襲いたがる輩ってアレしか思いつかない。
元ラング伯を消したの聞いたんじゃないかな?」
「そこは分かる。
だが、坊を囮にして誰を狙……おい、まさか?」
流石パン爺さん、乞食部隊の長なだけある。
「勘づいたみたいだけど、その通りだと思うよ。
陛下を含めた王家の方々じゃないのかなぁ」




