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次の日、学園はこれでお休み。
最後の授業が終わり次第、皆大急ぎで帰っていく。
建国祭に合わせてパーティとかに参加するんだろうなぁ。
「お、ニフェールちょうどよかった。
ちょっと相談があるんだ」
「え、また何か問題追加されたの、ホルター?
勘弁してよ……」
「そうじゃねえよ!
うちの親との件、何時にするかの確認だ!」
既存ネタか。
なら安心だ。
「そんなこと言われても、そっちの親はいつ到着するんだよ?
それ分からないと何もできないぞ?
まず、何時話し合いにするかそっちで幾つか提案してくれ。
こちらも都合のいい時に参加するから」
「どうやって連絡とる?
休み中ずっと学園にいるわけじゃねえんだろ?」
「ペスメー殿経由でうちのマーニ兄に伝えればいいじゃん」
「……あっ!」
忘れてたのか?
お互いの兄が近しい立場にいるってのに……。
「そんなわけで、サッサとスケジュール決めてくれ。
僕もそちら次第だから何か言われても正直困る」
「確かにな。
ちなみにお前の両親はどこに泊まるんだ?」
「泊まるんだというか、ジャーヴィン侯爵家に泊まってる。
上の兄の奥さんが元侯爵家だからねぇ」
「え゛?」
あれ?
知らなかった?
「今言った通りだよ。
だから、両親と上の兄夫婦は侯爵家に泊ってるよ。
そっちに連絡くれてもいいし、マーニ兄でもいいよ。
多分両侯爵家か王宮か寮か。
そのどれかにいると思うし」
「分かった、改めて連絡する」
そうして皆クラスから出て行ったところで、僕は職員室に行く。
「ティアーニ先生、今いいです?」
「あら、どうしたの? 珍しいわね♪」
なんかウキウキなんですけど?
どうしたの?
「あれ?
ニフェール君にはまだ連絡来て無いの?
明日ジャーヴィン家に集合って連絡受けたけど?」
ジャーヴィン家?
……アレのこと?
やっぱりこの人呼んだの?
「つまりあの拷問がまた始まると……」
「拷問って何よ?
最高のエンターテイメントじゃない!」
「そりゃ先生のご趣味に直撃しているからでしょ?
この手のことに関心ない人からしたら苦行の時間じゃないの?」
アゼル兄辺りは本気で泣きそうな気がする。
マーニ兄は苦笑で済む位か?
アムルは……フィブリラ嬢いたら気にもしないだろうな。
「で、本来の目的は何かしら?」
「試験の時、問題の複写ってどこにお願いしてます?
ちょっとお願いしたいのがあって……」
「ん~、まぁ教えるのは構わないけど、それってあの子達を教えるための奴?」
「ええ、正直アイツら全員分の複写を自分でやるのは無理があるんで。
休み明けに試験してやろうかなって思ってまして……」
「……優しいわねぇ。
その気持ちがあの子達に届けばいいのだけど……」
あぁ、分かってくださるのですね。
ベル兄様に襲い掛かるだけのケダモノでは無いのですね!
でも、あいつらの大半には届いてないと思いますよ。
「多分、届く奴らには既に届いてます。
そして、届かない奴らには今後もあまり期待できません。
余程の……命に係わるとか人生ぶち壊しになるとか。
そんなレベルの経験が無ければ知ったこっちゃないとか言いそうですね」
まぁ、その場合は見捨てますけど。
「あまり財布にキツいことはしないようにしなさいね?」
「ええ、気を付けます。
あ、ちなみに……明日のイベントですが、お金用意しておいてくださいね」
「……ナニ考えてるの?」
「ちょっと思いついたんで、お小遣い稼ぎです。
何かは説明しません。
明日、その場で説明します。
ちょっと今のところは僕の頭の中にだけでしか整理付いてないんで」
その怪しい人物見るような視線は止めて欲しいなぁ。
明日不審者になるのはそっちなのに。
複写をしてくれる店を教えてもらい、ついでにお値段も教えてもらう。
……やっぱりそれなりにお値段掛かるんだよなぁ。
まぁ、仕方ないか。
◇◇◇◇
「よぅ、久しぶりだなポズ」
「……っ!
ティッキィ、生きてたのか!」
昔王都の暗殺者ギルドで仲間だった奴、ポズに会う。
元々毒使いで俺も状況によっては協力を願うときがあった。
実力は十分あるが、実際動くより毒を含めた薬を作って仕込む方が好きらしい。
当時も仲良くしていたからか、今会っても嫌そうな顔はされなかった。
「なんとかな。
東部の方に逃げて生活してたんだが、最近王都に戻って来てな。
お前の方はどうなんだ?」
「今はとある店持ち薬師のところで働いてるよ。
一応店持てるように少しづつ金貯めてるんだけどな。
まぁ、難しいもんだ」
「そりゃそうだな。
簡単に店持てる金が出てきたらそっちの方が不安だ。
ちなみにどこの店なんだ?
今度薬が必要となったらそこから買うようにするよ」
「そりゃ嬉しいねぇ、北西部にある『薬師ヴェムの店』ってところだ。
店長の名がそのまま店の名になっているってのがちっとダサいんだがな」
まぁ、それは少々時代遅れというか懐古主義というか……。
そこは個人の考えだから全否定はしないがね。
「なら今度胃薬でも買いに行くよ。
どうも今の上司が周囲の者たちの胃を攻撃するのが得意らしくてなぁ」
「……なんだそいつ?
いきなり殴りかかるのか?」
「いや、物理では無い。
今の上司が仕事の報告したらその上の立場の奴らが皆胃を抑えるんだ。
理由は……聞かない方がいい」
大体合ってるよな?
「ふむ、まぁ俺も胃薬作ってるから今度来たら売ってやるよ。
結構効くんだぜ?」
「ほぅ、なら頼むとするか。
事前に上の立場の奴らにプレゼントしてやれば喜ぶだろうよ」
「……お前、それ、胃袋攻撃する宣言にしか聞こえんぞ?」
「知らんよ、俺が喰らう訳じゃない」
なんだったか……「胃袋を捧げよ!」だったか?
侯爵方やその部下たちもあのポーズをとる奴らは痛みが緩和されるだろう。
……ポズをうちに引き込んで店やらせればもしかして儲かる?
侯爵方がダメージ受けて、ポズの店に胃薬買いに行く。
なんだったか……自作自演だったか?
まぁ、うちらが儲かるならそれでもいいか。
胃袋痛める奴が悪いんだし。
もっと図太く生きた方がいいと思うんだがね。
◇◇◇◇
学園からチアゼム家に向かうと、皆から連絡を受けた。
明日ジャーヴィン家にケダモノたちが集まるそうだ。
「……あまり若い僕らには毒としか言いようのない集まりだね。
帰っていい?」
「諦めなさい。
ニフェール様が逃げようとしたら捕獲部隊が編成されるわよ?
確実にアゼル様やマーニ様まで動員されるわね。
王都を阿鼻叫喚の地獄絵図にするつもり?」
ルーシー、的確過ぎて涙が止まらないよ……。
「そうだねぇ……王都で若かりし頃を思い出して鬼ごっこしてもいいんだけど。
確実に皆が怯えるからねぇ。
だって【魔王】と【死神】が【狂犬】を捕まえに来るんだよ?
そんなことなったら王都民が心に傷を負っちゃうよ?」
「……その言葉だけで恐ろしく思ってしまうのは知り過ぎたからなのかしら?」
うちの考え方に慣れ過ぎたんじゃないかな?
まぁ、個人的には怯えられるよりかは慣れてくれた方がいいけどね。
「あぁ、ニフェール様。
以前暗殺者だった奴のうち、薬師になった毒使いと会ったよ。
ポズって言うんだが、今は他の店で薬師としてやっている」
ティッキィ、頼んだこと動いてくれたんだね、アリガト。
「ほぅ、元気そうだった?」
「あぁ、特に体調崩したりもしてないようだ。
今は『薬師ヴェムの店』ってところで働いているらしい。
ちなみにポズは胃薬作っているらしくて」
ん?
「胃薬?
まさか両侯爵が頼りにしているとこかな?
店の名前までは聞いたこと無いからちょっと分からないんだけど」
「流石に俺も知らん。
とは言え、同じことは思った。
アイツを仲間にして両侯爵に処方してやれば儲けになりそうだと思ったんだが」
「バレたらむしろ怒られそうな気がする。
僕たちが狙って追い詰めてるとか言われるかもね。
まぁ、冗談だろうけど」
冗談……であってほしいんだけどね?
「まぁ、僕としては仲間になってくれると嬉しいかな。
でも、今の話通りならば無事に暮らしているようだ。
なら無理してもそのポズに悪いだろうね。
たまに顔見せて相手の様子見しておこうか。
何かあって仲間にできそうなら検討してみてもいいかな」
「あぁ分かった。
そっちは何か変化あったら教える」
そんな感じで今後の予定を整理して寮に戻る。
明日はアレな日だから明後日にでも複写の店にみるかな。
そうして、次の日。
ケダモノ共の宴の日。
ティアーニ先生がいつも通り……いや、ベル兄様まで連れて見に来てやがる。
オーミュ先生も来てたが、アパームのあんちゃんは連れてないようだ。
それと、パァン先生まで来てらっしゃる。
……何で?
ラーミルさんと先生のヒリついた会話を聞くと、懸念をクリアできそうって?
なんだろ?
なんかヤバい懸念なんてあったっけ?
他にも……あれ?
両侯爵にうちの両親まで。
奥方が強制的に連れて来たようだ。
カールラ姉様が今日の予定を説明して宴の始まり。
まずはラーミルさんの男装と僕の冬用ドレスでの女装。
その後ラーミルさん(男装)とダンス。
で、まずはラーミルさんが着替えることになった。
ちなみに、僕はこの場で皆さんに見られながら着替えることになる。
ラーミルさんが離席すると、質疑応答の時間になった。
だが、聞いてくる内容が……。
「ラーミルとシタの?」
「あの胸揉んだ?」
「一晩で何回?」
アンタら、一応淑女だろ?
もう学園卒業したら忘れちまったのか?
というか現役教師共、一緒になってウハウハになってんじゃねえよ!
ベル兄様、止めてくれて助かりました!
そのまま身体張って捕獲しておいて!
それとポモナさん!
アンタ王宮で働いてるんでしょ?
そんな人が何で暴走してんだよ!
「ポモナさん、一応確認なんだけど……王妃様絡み?」
「いえ、個人的な楽しみよ?
前回来なかったのが悔やまれるわね。
でも、今日その失敗を取り戻すわ!!」
「普通に戻れなかった時点で失敗じゃね?」
「普通?
そんなもの期待してないわよ。
楽しめればいいじゃない」
「何と言う刹那的な生き様……」
これで王宮侍女って言うんだから恐ろしい。
まぁ、王妃様がアレだからなぁ。
類は友を呼ぶ?
そんなことを話していると、ラーミルさんが男装して戻ってきた。
軽く情報共有してから一つ提案をする。
そう、お小遣い稼ぎ。
ラーミルさんと話し合い、カル達に連絡。
呆れているのもいるが、金に反応しているのも三名ほど。
ルーシー・カリム・ナット、分かるな?
あそこには金ある欲望駄々洩れな奴らが蠢いているんだぞ?
僕が脱ぎ着するだけで金出しそうなブレーキ壊れた面々が待っているぞ?
これはチャンスだ。
キッチリ稼げ!
カルとティッキィはケツ叩いてでも動かせ!
ここが稼ぎ時だぞ!!!
カル達に適当に袋を六人分持ってきてもらう。
カル達+ラーミルさんだね。
そうして、カールラ姉様の宣言とともにボタンを外し少しづつ脱いでいく。
服を脱ぐ合間に、艶めかしい表情や妖しい笑顔を見せる。
ピィーピィー!
ひゅーひゅー!
いいわ~! もっと脱いで~!!
予想通り、ケダモノ共が大喜び。
期待通りではあるんだけど、やっぱりこの人たち淑女科やり直しじゃね?
学問的には卒業かも知れないけど、中身が終わってる気がする。
ラーミルさんたちが周回して投げ銭の説明をすると飛び交う金銭。
……女性陣だけじゃなくフェーリオまで財布を探しているのは……どうすべ?
ジル嬢、そっちでどうにかしてね、僕知らない。
金貨払ってシチュエーションの希望を提案する人も出て来た。
まぁ、姉様方やティアーニ先生あたりだね。
他にも複数人が目の色変えて金貨投げてきている。
これ、下手な仕事より金にならないか?
うちで金無くなったらこの人たち呼んで金回収するとか?
でもやり過ぎるとこの人たちの家庭が崩壊しそう……。
ストップ掛けずに暴走しそうなのが数人いるからなぁ。
それも、うちの姉様たちが一番ヤバいと言うのが……。
化粧を終え、ウィッグを付け、女装化完了。
チラッと見たけど、かなり稼げたようだな。
皆の小遣いが増えるのはよい事だ。
アゼル兄にマーニ兄、愕然としている暇があったら姉様達抑える方法考えたら?
そうじゃないと、あの二人は簡単に投げ銭に使っちゃうよ?
パァン先生に念の為チェックしてもらって文句なしとの回答を貰った。
努力の成果が実ったのは嬉しい事だ……それが女装や化粧であっても。
その後パァン先生の演奏で僕たちとフェーリオ達がダンスを行う。
見物客を魅了できたようで、惜しみない拍手を受ける。
だが、その後にパァン先生から衝撃の事実を告げられる。
母上が使う戦闘用歩法を応用して両侯爵の奥方たちがダンスに組み込んだこと。
ただし、女性用パートが未完成版、男性用パートは作ってもいないこと。
一通り説明された。
「……つまり僕らに、というか僕に母上の歩法を元に女性用ステップの完成。
それと男性用ステップの構築をしろと?」
「そうです。
先ほどの『技術的に指導可能な人』。
誰だかわかるでしょ?」
「王妃様ですね?
カールラ姉様やラーミルさんが知らないとなると、その位しか思いつきません」
うわっ、面倒……。
とは言え、これって王妃様案件になっちゃうんだろうなぁ。
やむなく母上に教えた戦闘用歩法のイメージを教えてもらい、検討。
いや、まぁ、このステップならそれっぽく出来るだろうけどさ。
よく思いついたよな、これ。
よっぽどダンス苦手だったんだろう。
そうじゃなきゃ、こんな無茶苦茶なこと考えないでしょ。
指摘を受けつつ数回踊り女性パート完成。
男性パートも何度かトライアンドエラーをした結果、完成。
なんとか形になったところでその日は終了。
また生着換えを行いオーミュ先生とポモナさんが暴走していた。
あ、フェーリオもまたやらかしてたな。
まぁ、アイツの投げた金貨は僕らのお小遣いとして有効利用させた頂きます。
その後、ダンスの訓練日にチアゼム家に集合して先日のステップを説明。
結果……足に痛みを覚える人が続出。
なぜかパァン先生が苦しんで無いのか良く分からないのだが。
「そりゃダンスの教師でもありますからねぇ。
この程度で痛がるようではお話になりませんよ。
ちゃんと日々ストレッチは欠かしてませんしね。
日々の積み重ねってやつですよ」
それ言われちゃうとどうしようもないですね。
流石教師としか言いようがない。
とは言え、パァン先生の想定よりも皆の身体が固いことに悩まれている。
いや、これでもよくなったんですけどねぇ。
「ん~、それは少し想定外ですねぇ。
ニフェール君、皆さんに何かできることありませんか?」
「何という無茶ぶりを……やれることは既に終わってます。
日々のストレッチ、運動後のマッサージ。
後は痛みを感じたら、そのダンスを止めることでしょうか。
日々の積み重ね以外にはないですよ」
いや、本当に身体を柔らかくするのは一朝一夕にはできませんって。
「となると、すぐにこのステップを利用することは難しいですね」
「……正直、このステップを無理に使う必要は無いかと思いますよ?
おっしゃる通り、これのお陰でステップの簡易化は出来ました。
でも、同時に身体がついていけないという至難化がなされております。
むしろ難易度としては大して変わっていないかと。
それなら身体の負担が軽い動きの方が踊る側としては楽なのでは?」
そこは納得していただけるようですね。
「後は母上の歩法に近くて、かつ負担の少ないステップパターンを考える?
正直そんな時間あるのなら三科試験の勉強に使いたい。
国の厄介事にも巻き込まれてるから時間が絶対的に足りないし……」
「あ……」
僕が三科試験のために勉強時間捻りだしているの忘れているようですね。
大変なんですよ、これでも。
このまま僕への負担が増えるのは避けたいので、最低でも今年度はやらない。
足とか筋とか痛めたら最悪ですし。
「そうですね、学園生潰すためのステップでは意味がありません。
……ただ、今年度は諦めて、来年度末に踊れないかと言われそうですね」
「そこは先生の交渉能力に期待します。
個人的には時間的余裕があるのか甚だ疑問ですけど」
「厄介事が無ければニフェール君もこちらに注力できます?」
「ハァ?」
……センセイ、イキナリナニイッチャッテンノ?
ボクガヤッカイゴトフリマイテルワケジャナイノニ?
その後、結構本音をぶちまけまくった気がする。
王妃様に文句言えやとか尻拭いしているこっちに言われても困るとか。
久しぶりに言いたい放題言ってしまった。
その後、先生から負担を求め過ぎた謝罪を貰い、こちらも言い過ぎを謝罪する。
はぁ……最近学園も犯罪者ギルドも王宮も色々あり過ぎだよなぁ。
もう少しゆっくり身体を休めたいもんだ。
そんなことを考えていたが、まさか本当に身体を休めることになるとは。
というか、アレは身体を休めると言っていいのか?
――――――――
学園、ギルド、王宮。
色々関わり苦労するニフェール(十章)&ラーミル(九章)。
とは言え、この後は建国祭。
学園も休みでデートする時間も用意できるだろう。
学園の無い短期間ではあるがゆっくり休むがいい……休めるのならな。
十章「東奔西走」、これにて完了となります。
なんとか八十話超えずに終わった……。
九章の十九話というのはどうしたのやら。
次の十一章は建国祭あたりのイベントをぶち込みます
当然章名も「建国祭」。
久しぶりにあっさり章名を決められました。
次の投稿日等、詳細は活動報告にて。
【元王都暗殺者ギルド員】
ポズ:元暗殺者ギルド員、今は店持ち薬師の所で働く。本業は毒使い。
→ 毒 (ポイズン)から
【商業ギルド員】
ヴェム:店持ちの薬師。ヴェムの働き先。現時点で店の名前だけ。
→ 毒 (ヴェノム)から




