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【連載版】狂犬の……  作者: いずみあおば
10:東奔西走
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「ちなみに算術の基礎って何やるんだ?」


「単純に簡単な計算を繰り返し解く。

 二十問程度の計算を五分でやって全問正答出来ること。

 複数種類用意しておくので、全てのパターンでクリアできればOK。

 ちなみに学園入学前位の理解度ならクリアできるはず」



 ただの一桁とか二桁の四則演算だからなぁ。

 とは言え、怯えている奴らが……えっ、四割位いるの?

 脅かし過ぎという訳ではなさそうだけど。



「……なぁ、そこまで怯えるような問題じゃないと思うんだけど?

 ミスを減らし、計算で時間を取らない為の宿題だからな?

 四則演算に不安があるならこの機会に自信を取り戻せ」



 発破かけてみたが……何でそんなに不安がるんだ?



「そんな簡単なのか?」


「僕的には片手間で終わるレベル。

 多分怯えて無さげな奴らからすれば、ミス撲滅と計算速度向上ってところだな」


「……音読と同じか?」


「目的はそんな感じだ。

 基本的には計算ミスしやすい奴らはこの訓練でミスを減らせるように。

 計算が遅い奴らは速度を上げるように。

 というか、この程度の計算がちゃんとできなきゃ三年に上がれるはずないしな。

 計算が関わる科目が全滅になっちまうよ」



 このタイミングで大半は落ち着いたようだが……まだ一割ほど不安視してるな。



「……そこの怯えてる面々。

 何が不安だ? 説明してみてくれないか?」


「不安というか……計算とてつもなく苦手なんだよ……」


「ん~、どのパターンが苦手なんだ?

 加減乗除、二桁程度の計算、計算の順序性。

 今回の宿題ではこの辺りまでなんだが?」


「……加減乗除。

 特に掛け算と割り算かな」


「え゛?

 ……3かける6は?」


「18だな。

 その辺りはまだギリ大丈夫なんだが……7の段が……」



 そのあたりなの?!

 他の怯えてた奴らを見ると、想いっきり頷いているし!


 クラスの面々が予想以上に低レベルで頭抱えてしまう。

 だが、そんなところで躓いていてはこいつらの生贄計画が頓挫してしまう!



「一応確認だが、もっとヤバい奴っている?」


「できれば念の為3の段のフォローも頼みたい。

 さっきもあいつがギリって言ったろ?

 確実性に乏しいんだよ」



 冗談……じゃないんだよな。

 よくそんなんで二年に上がれたな?



「偶数、それと奇数でも5の段と9の段は大丈夫なんだな?」


「ああ、偶数と5は覚えやすかったからなぁ。

 9も何となく分かった。

 それと割り算は何となく掛け算できればできそうな気がするんだが……。

 実際、偶数の割り算とか問題ないし。

 あ、でも余りがでるとちょっと……」


「まぁ、そこはね。

 こっちの予想以上に計算弱いんだなぁ……」



 凹む奴らが結構出てきたが……本当にどうしよう?



「単純に丸暗記は出来ないのか?

 むしろ、一桁の掛け算だけでも暗記しちまえば後々楽だぞ?」


「できたらこんなに悩まねぇよ……偶数や5の段はパターン化できたけどなぁ。

 3と7がパターン化できなくって……」



 へ?

 パターン化って言われてもなぁ。




「多分お前らが悩んでいるのってもう少し細かく出来そうな気がするぞ?

 3と7で、かつ奇数との掛け算がダメなんじゃないのか?

 だって、一方が偶数のパターンは理解できるだろ?

 で、奇数でも5と9は分かるだろ?

 なら3と7が関わる所だけじゃねえの?

 3×3、3×7、7×3、7×7。

 この四つだけ頭に叩き込めばクリアできない?」


「……あっ!」




 お前等そのくらい気づけ!




「これでお前等の不安は解消できたか分からん。

 だが、二桁は一桁出来て桁上がりが理解できればサクッとできる。

 順序性は乗除が先、加減が後、カッコで括られていたらそっちが先。

 これだけだぞ?」


「……なんかできそうな気がしてきた」



 いや、できてもらわないとこっちも困るんだけど?!



「だったらいいんだけどな。

 まぁ、最初に言った通り宿題作っておくから冬期休暇中に勉強しておけ。

 基本出来てないのに難しい事教える訳にはいかないからな。

 これ冬期休暇中に終わらせて、来年ちゃんと理解できたか試験。

 それで合格した者のみ各科目の指導を始める。

 とは言え、どれから始めるかは決めてないんだけどね」


「……試験落ちたら?」


「少し間をおいて再度試験してもらう。

 その間繰り返し宿題やり直せ。

 その程度できずして他の科目理解すんの無理だろ」


「えっ! その間教えてもらえないのか?!」



 はぁ……何言ってんだか。



「四則演算理解していない状態で他の科目聞いても分からんだろ?

 具体的に言うと兵站聞いても理解できんだろうに。

 まぁ、算術使わない教科を教えると言う手もあるけどな」



 なんでしょぼんとするんだ?

 お前等実体験として算術分かってないから点数取れてないだろう?



「現実的に計算できない奴が他の科目の計算を正しく出来るとは思えん。

 なら、冬期休暇のタイミングで確実に算術の基本を覚えろ。

 それと、この程度で厳しいだの泣き言言うのならやらんでいいぞ?」


「ちょ、何だよ、見捨てるのかよ?!」



 ホルター、お前なんで……。



「見捨てると言うか……やる気ない奴に使う時間は無いぞ?

 お前等が諦めるのなら遠慮なく騎士科最下位への道を突き進めばいい。

 諦めないのなら少しは成績上がるように協力してやるよ。

 諦めた奴らを踏みつけて中位から上位を目指せるように教えてやる」



 こう言うと半数以上の面々はやる気を出してくれたようだ。

 とは言え、残り……三割から四割の面々はまだ怯えがあるな。


 算術に不安ある組だけじゃないな。

 不安な組でもやる気出した奴はいるみたいだし。

 というか、ホルターが怯え組に入ってるってのが訳分かんねぇ……。



「ホルター、お前なんでそんなに怯えているんだ?」


「……正直、お前の指導について行けるか不安で仕方ない」



 いや、それ言っちゃったら誰もが不安だろうに。



「そんなの今言われても僕も困るよ。

 そこは自分で克服するしかないんだから。

 第一、今後お前が騎士になったとして、書類仕事できないままでいいの?

 なら諦めてもいいんだよ?」





「嫌だ!

 絶対(ぜってぇ)まともな騎士になってセリナ様と――」


「――馬鹿っ!!!」





 僕が大声で叫んだ結果、クラス全員の動きが止まった。

 その後三つの行動に分かれた。

 すなわち頭を抱える、理解できずにキョトンとする、そして……絶叫する。




「嘘だっ!」

「何でホルターに!」


「彼女が!!」

「出来るんだよ!!!」


「ニフェールじゃなかったのかよ!!」

「二股か?!」




 ちなみに、頭を抱えたのは僕とスロム。

 理解が追い付いてないのはホルター。

 絶叫は他のクラスメート。

 後半二つの叫びはいつものローズストリート疑惑のある学生。


 あぁ……スロムもちゃんと黙ってくれてたのに……お前がバラすのかよ……。



 僕とスロムから凍り付くような視線を送ると少しづつ事態を理解し始める。



 顔を真っ青にして右往左往するホルター。

 顔を真っ赤にして問いただそうとするクラスメート。


 これ、どうしろって言うんだよ……。



「ニフェール、これ……」


「どうしようもないよ、これ。

 何で自発的にバラすかなぁ……」



 一緒に頭を抱え、どうやって鎮静化しようか悩む首席&次席。

 その間も元凶のホルターは追及にアワアワしている。



 仕方ない、ある程度落ち着かせてみるか。




 パ ン ッ !




 大きな音を立てるように手を叩くと、全員僕の方を向いてくれた。



「あ~、お前らが大騒ぎしている通り、ホルターに彼女ができた。

 ただし、この件はあまりにも言えないことが多すぎる。

 というか、お前等に情報を流すこと自体止めてたのに、ホルター……」


「えっと、俺、やらかしちゃった?」


「自分で名前バラしておいてその発言何なの?

 どれだけ僕が苦労していると思ってるの?

 その苦労全てぶち壊しにして何が楽しいの?」


「あ……いや、その……」



 言い訳にもなってねえよ!



「全員に告げる。

 ホルターの彼女になった人は結構訳アリの人だ。

 当人が悪いわけじゃなくて巻き込まれたって感じ?

 なので、追及は勘弁してくれ」


「なら、顔見てみたい!」

「そうだ!」



 だからダメだっての!



「無理、それは出来ない。

 ホルターも約一年顔合わせることができないんだ。

 なのにお前等に顔見せなんて無理!」


「なんだよ、それ。

 そんな事情って……」


「だから言ったろ、訳アリって。

 その辺りの詳細を話すことはダメなんだ。

 それともお前等、王家に喧嘩売る?」



 この一言で全員が一斉に顔を青ざめる。



「……冗談、じゃないんだよな?」


「当たり前だろ?

 何で僕が色々フォローしていると思ってるんだよ。

 単純にホルターに彼女ができただけなら僕は関わらないよ?

 知ったこっちゃないもん。

 色々と巻き込まれた被害者で手を尽くさなきゃいけないから動いてるの!」



 勘のいい奴はこの時点ででっかい面倒事であることに気づいたようだ。

 まだ愚痴っている奴もいるようだけど。



「冬季試験前にホルターが浮かれてたり悲しんでたりとかあったでしょ?

 あれも全てこの件。

 で……ホルター。

 もうバレたから今更だけど、その理由があって頑張らなきゃいけないんだろ?

 ならヘタレてるんじゃない!」


「……うん」


「で、他の面々。

 下手なことは言えないのは分かったな?

 色々聞きたいのは分かるが、この件については文句は言わせない。

 とは言え、来年の今頃になったらホルターを取り調べするのは認める」


「おいっ!」



 なんだよホルター?



「お前の尻拭いしてるだけなんだがなぁ。

 とりあえずバレちまったのはどうしようもない。

 とは言え、これ以上クラスの面々に黙ってろというのは正直キツい。

 なら、来年の今頃に取り調べされる位なら受け入れとけ?

 まぁ、その頃にお前がまともな頭をしているかは知らんがな」


「なんだよそれっ!」


「お前が浮かれまくって人の話を聞かない状態だろうと想像しているんだが?

 手紙見ただけでアレだろ?

 どう考えても頭の中がピンクになるだろ?

 お前だって想像つくんじゃないのか?

 初めて会った時のこと思い出せ?」


「……」



 自覚できたようだな。



「そんなわけで、皆済まんが今は追及を見逃してもらえると助かる。

 あ、出会ってからのデート先位は聞いていいぞ。

 そこは止めない」


「止めろよ!」



 ホルター、お前のトーク術でクラスメートを納得させろ?

 そこまで俺面倒見たくないよ?



「あ、それとスロムにちゃんと謝罪しておけよ?

 今までちゃんと黙っていてくれてたのに、お前がバラしたんだからな?」


「あっ!

 ……スロム、マジですまん」



 呆れつつもスロムは許した。

 優しいねぇ、僕なら……いや、言わんでおこう。

 本気で拳が出そうだ。



「えっと、本来の話に戻るぞ。

 算術についてはさっき言った通り。

 なんとか宿題準備しとくから勉強しておいて。

 では、後はホルターへの取り調べに時間を使っておくれ。

 じゃ!」



 皆を置いて逃走する僕。

 ほぼ全員がホルターへの取り調べに参加した。


 参加しなかったのは僕とスロム。



「いいのか、助けなくて?」


「自業自得だからね。

 そこまで面倒見切れないよ」


「まぁ、俺たちの努力をぶち壊しにしたんだもんなぁ。

 これで済むならマシなほうか」


「そうそう」



 あ、ペスメー殿に連絡しとくか。



「んじゃ、僕は王宮に行くんでここで」


「あぁ、じゃあな」



 大急ぎで王宮に行き、ペスメー殿に報告。

 愕然とした表情をさせてしまった。


 気持ちは分かるけどね。

 マーニ兄、笑い過ぎ!



「あんの馬鹿は……。

 ニフェール殿、すまん!」



 地に頭を擦り付けるレベルで謝罪してくるペスメー殿。



「とりあえずバレてしまったものは仕方ないです。

 修道院の事までは言ってないので、それだけがマシかと」


「だな。

 アイツももう少し考えて発言してくれないとマズいぞ?

 騎士が口が軽いのはダメすぎだろ」



 マーニ兄の追撃に再度ダメージを喰らうペスメー殿。

 なんか、めっちゃ哀れなんだけど。

 ……僕もマーニ兄にこんな思いさせないようにしないとな。


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― 新着の感想 ―
まぁホルターがやらかさないなんて無理だよなぁ(^_^;) クラスメイトからの追求を受けて更にやらかさないか不安でも有るけど…… この一連の経験を経て将来「騎士団壱、口の固い漢」と呼ばれるように……成ら…
ホルターやらかしちまったな…… 他のモブ連中もこんな事情想像もできんだろうが、なおのこと暴走するバカが出そうで頭痛いな。 ところでこの騎士課の学力は男塾並みか?
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