73
◇◇◇◇
オピエと北部から来たヘリンという暗殺者が出て行った。
歩く音も聞こえなくなったところで執務机に倒れ込む。
「あんのクズ野郎!
何考えてんのよ!
国内を犯罪者ギルドの戦場に変えたいの?!」
冗談じゃない!
噂ではピロヘース様がまだ長になられる前からあった各地の争い。
少しづつ規則を定め、互いに殺し合うことも無くなったってのに!
このままだと昔に戻っちゃうじゃない!
取り合えずオピエ達が到着する前にピロヘース様に情報をお渡ししないと!
それと、北部のクリーに今回の依頼について何か知っているか確認。
ついでにヘリンとやらがどんな感じの奴かも確認しないと。
状況によっては南と西にも情報流して北部の制圧も考えておかないと……。
大急ぎで手紙を書き、呼び鈴を鳴らす。
「ナリア様、何か御用でしょうか?」
「乗馬が得意な人物を二人用意して。
一人は王都へ。
もう一人は北部へ。
どちらも娼館ギルドの長へ手紙を渡して欲しいの。
最緊急よ!」
「かしこまりました。
明日の朝、門が開いたと同時に出立できるようにしておきます。
他には?」
「無いわ……いや、もう一つ指示があるわ」
そう言って、すこし説明しておく。
アタシの予想が当たっていたら……確実にまずいわね。
説明を終え、最後に用意した手紙を渡して椅子にもたれ一息つく。
いきなり面倒なことが起こるわね、本当に。
ここの街も領主が王都で捕まったとかいう未確認情報もあるし。
何か国を揺るがすような厄介事が起きそうな気がするわ。
というか、クリーはなんであのヘリンとやらがやらかすの見逃しているの?
あの娘の好みからは外れているわよね?
確か小さい子が好みだったし。
以前こっちに顔見せに来たときも一番小さい男の子で楽しんでたはず。
……まさか、今回の件は本当に何も知らない?
そうなると、ヘリンとやらの勝手な行動?
どうせアイツの依頼主はテュモラー侯爵だろう。
そりゃ何も文句は言えないだろうけど、おかしいとは思わないのかしら?
たかが学園生一人を、それもなぜか王都の暗殺者じゃなく他に頼む?
それも北部から他経由して王都で処分って……。
絶対何かあるわよね?
むしろ、これで本当に学園生一人狙えとか言われたら驚きだけど。
というか、侯爵家が怯えてんの?
その時点でおかしいと何故思わないの?
◇◇◇◇
「なぁ、ヘリン。
そろそろ娼館ギルドからも離れたし、正直に何するのか教えてくれや」
宿に向かう所でオピエが聞いてきた。
少々驚きだが、長になる程度の実力があるんだから分かっちまうか。
「教えてやりたいところだが、全ては知らんよ。
依頼主がどこまで俺に教えているのかも知らんしな」
「構わん、事実と推測だけちゃんと切り分けて説明してくれればいい」
ふむ……んじゃ予測だけでも話すか。
そうして、学園生を狙うのは囮である可能性が高い事。
本命は貴族、もしくは王の暗殺と推測されることを伝える。
「……それ、成功失敗に関わらず俺たちが矢面に立つことになるんだが?」
「だからこそ、断るのなら断ればいい。
俺の仕事はお前等に依頼すること。
王都で依頼主と会うわせるように話を持って行くこと。
それだけだ。
正直、ダメならそれでも構わん」
多分、こいつの頭の中は成功率と報酬でいっぱいなのだろう。
自分らが失敗する可能性は一切考えてないのだろうな。
「……ふん、俺たちならどうにかなるだろ。
取り合えずは分かった。
ナリアには言わないでおいてやるよ。
アイツ、心配性だからなぁ」
心配性というより、あちらは現実が見えてるだけじゃねえの?
罠に嵌めようとしている俺が言うんだ、間違いない。
「んじゃ、後はそっちに任せたよ。
こちらとしても金ヅルからの依頼だったから対応してくれて助かる」
「はっ、この位なら軽いもんさ。
んじゃな」
あっさりいなくなってしまった。
もっと粘着されるとか、もしくは消しに来るかと思ったんだがなぁ。
ま、いっか。
……待てよ?
ナリアとやらが現実を理解していると仮定して……。
そうなると、今すぐにでもうちのクリーに連絡するかもしれねえな。
……消すか。
とはいえ、この街で殺すのは不味すぎる。
北部と東部で戦争になっちまう。
となると、北に帰る途中で消すのがベストだな。
出来れば東部の勢力範囲から離れたところで消さないと。
……多分、朝一でメッセンジャーをここから出発させるんだろう。
なら、俺も同じくらいに出発して追跡するか。
見逃したら探すの大変だし、急ぎ戻って常時監視ってのも嫌だしな……寒いし。
そうと決まれば、宿に戻りサッサと就寝。
朝日が昇る前に移動の準備を終わらせ……多分北部に行くんだから北門だよな?
まさか東門じゃねえよな?
面倒だ、急ぎ娼館ギルドの傍で確認す……あれ?
なんか二人程馬に乗った輩が東門に向かってやがる。
二人ってことは……王都と北部?
ある意味予想は当たったが……二人とも消すのは無理だな。
これは見つけただけでも良しとしよう。
王都は諦めて、北部側だけでも消しとくか。
街を出る者たちの列に並び時を待つ。
日の出と共に東門が開き、門番に順番に確認され旅人が次の目的地に向かう。
数組先に先ほどの二人がいるが、何と言うか……ペアルックか?
もう少しこう……服装変えな?
男同士でそこまで同じ格好だと俺たちみたいな非合法の人物にしか見えんぞ?
そんなことを思っていると俺の番が回ってきた。
「おはようございます。
ご旅行ですか?」
「仕事を終わらせて帰る所だ。
元々北部に住んでてな」
「どちらでお仕事を?」
「娼館ギルドの長と面会したんだ。
確認したいならナリアに聞いてみな」
「……いえ、そこまでは致しません。
では、よい旅を」
許可を得てさっさと街を出る。
既にあの二人は先行して行ったし、追い付けるかどうかは運に任せるか。
姿格好は覚えているから後は追いつくだけだしな。
そう考えてかなり急いで馬を走らせた……はずなんだが。
いや、全然見当たらねえんでやんの。
どんだけいい馬使ってんだよ。
それとも俺があの列に並んでいたの気づかれたか?
いや、それでも……。
……まさか!
まさか先程の二人がどちらも王都に行った?
そして王都から北部に来る?
ぐぁっ、それは予想外なんだが?!
それも王都経由で行かれたら……。
例えば商人や王都のメッセンジャーと一緒になって動くとか?
そうなると手を出せねぇ!
仮に手を出したら確実に王都が東部と手を組んでこっちを攻めて来る!
ただのメッセンジャー共にそこまで頭は回らないだろう。
となると、ナリアが手を打ったのは確実だな。
ちっ、予想より頭回るじゃねえか……。
まぁ、東部の暗殺者が馬鹿なのは助かったが。
最低でも侯爵の依頼はクリアできたんだから文句は言わんでおくか。
◇◇◇◇
さて、三科試験が始まり初日の昼休み。
僕の前にはへたばっているレルカとクレイがいる。
「一応聞いておくが、大丈夫か?」
「きつ過ぎです、勘弁してください!!」
「何なのこの試験!
三人ともこんなの受けてたの?
どう考えても勉強より精神力が全てになってない?!」
まぁ、クレイの気持ちは分かる。
勉強の成果よりも根性チェックになってるのは事実だな。
「ちなみにお前らは僕と同じで今日領主科と淑女科だろ?
どんな感じだ?」
「基本的な知識は文官の方が難しいから苦労はしてないな。
むしろ楽だった。
だが、午後から専門的な部分に入るからそこでどうなるかだな」
「まぁ、そこは予想通りだな。
遠慮なくこの後苦しんでくれ。
ちなみにフェーリオとジル嬢は?」
「まぁ、こっちは順調だな。
前半は順調だ。
まぁ、それでも専門的な部分が出てきたらどこでハマるか分からんからな。
んでニフェール、お前は?」
「特に問題無し。
今回は目標である五位は何とかなりそう。
出来れば三位に入れればと思うけどな」
そう言えば最近女装してないなぁ。
いや、したい訳じゃないけどさ。
パァン先生の指導もダンスの訓練しかしてない。
でも、そろそろカールラ姉様のご機嫌を取るために装う必要がある。
多分、かなりイロイロ面白可笑しいイベントにしとかないと。
カールラ姉様めっちゃ拗ねるだろうしなぁ。
「……ニフェール、何考えてる?」
「そろそろ王都にジーピン家大集合だなって」
うん、嘘は言ってない。
集合した時点で何が起こるかは多分気づかないだろうけどな。
何となくこちらの意図に気づいた奴は……ジル嬢、分かっちゃった?
ロッティ姉様が女装に気づいたときにいたもんね。
「……大騒ぎになりそうですね」
「えぇ、大人しくしているはずがありませんからねぇ」
ジル嬢と僕の間に変な感情が降りてきた。
そう、とてつもなく大変なとある人物を御さなければならないこと。
フェーリオは役に立たないだろう。
というかジャーヴィン家でこの状態で止められる人いないだろうし。
むしろ煽る人がいるしね、サプル様とか。
「まぁ、とりあえず全ては冬季試験終わらせてからですね」
「ですわね。
そろそろ教室に戻りますか」
そう言って皆で教室に戻り午後の試験を行う。
まぁ想像通りではあったが、初日終了時点でレルカとクレイは青色吐息だった。
……桃色じゃないよ?
ちゃんと明日も試験受けに来いよ?
そして三科試験二日目。
「二人とも、生きてるか?」
「なぁ、何で俺たち生きているんだ?」
「なんだ? 死にたいのか? 手を貸すか?」
「お前に殴られたい訳じゃねえよ!」
少し握り拳を見せてやると本気でビビられてしまった。
とりあえず落ち着け?
「勉強で苦しんだという雰囲気じゃねえな?
体力的精神的にキツいってところか?」
「あぁ、昨日の午後の試験のダメージがデカすぎだ。
流石に専門的な部分はお手上げだったな。
というか、今日騎士科だろ?
午前中は一般教科だからまだ気楽だけど、体力温存できるか……」
「そこは慣れだとしか言いようがない。
とは言え、昨日なんとか乗り切ったんだからある程度コツは掴んだろ?」
「なんとかな」
なら今日何とか乗り切れると思うぞ。
そんなこと話していると先生たちが入ってきた。
スティーヴン先生が皆に声を掛けて来る。
「皆さん登校できて……レルカ君、クレイ君。
体調悪いと思ったら声かけてくださいね」
「そこまで顔色悪いですか?」
「かなり……ニフェール君に追い詰められた時のとある先生の様です」
あ、ニコライ元先生のことですね。
「……気を付けます」
「よろしい、では二日目の試験開始です」
そうしレルカたちは騎士科、僕たちは文官科の試験が始まった。
前回と違って試験に余裕があり、結構いいペースで進めている。
昼前最後に算術の試験をしたが、前回から比べれば出来がいい。
この調子なら目的の十位は十分クリアできそうかもしれないな。
そして、昼休み。
レルカのツッコミから始まった。
「ニフェール、何なんだあの試験は?」
「どの科目だ?」
「とりあえ午前中でハマりかけたのは地理だけどよ。
文官側で学ぶ内容とあまりにも違うんだよ……」
ん……あぁ、そう言うことか。
「文官側で学んだのは地理要素と経済要素をくっつけた奴だよな?
騎士側でやるのは地理要素と戦術要素をくっつけてるんだよ。
お互い本来の地理の知識と実作業に関わる知識を組み合わせてるんだ」
「そう言うことぉ?
ちょっと想定してなかったなぁ」
「気持ちは分かる。
僕も最初に文官科の試験受けてちょっと困惑したから。
でも、領主科や淑女科は地理要素に各領地の要素をくっつけるからねぇ。
だから昨日の試験ではどの貴族の領地かって試験なかった?」
「あった……あれもそう言うことか。
同じ名称の科目でも科によって意味合いが変わるのが厄介だな」
「わかる、名称変えて欲しいとは思うけどね。
とは言え、三科試験受ける奴自体はほぼいないから面倒臭がってるんじゃね?」
多分その可能性高そうなんだよなぁ。
「この後はもっと面倒な試験が続くんでしょ?」
「クレイ、そこは諦めろ。
どの科でも面倒なのは変わらんよ」
そこさっさと慣れないと大変じゃね?
午後になり、残りの試験を進めていく。
苦悩の声が教室の色々な所から聞こえてくる。
当然、僕も一緒になって苦しみの声を出してしまう。
本当に面倒だぞ、この問題。
僕の場合は外国語だったけど人によっては管理業務だったり薬草学だったり。
専門分野はどうしても面倒だからなぁ。
そんなこんなで試験終了。
先生方はこの後僕たちの採点をされるのでもう少しお仕事されます。
ご面倒お掛けして申し訳ない。
「おつかれ~……」
「お疲れ様です……」
フェーリオもジル嬢も流石にヘトヘトのようだ。
まぁ、僕も疲れたから早く寮に帰って眠りたい。
その後、授業で試験結果が返される。
いつも通り騎士科は首席。
クラスの面々は音読した者たちは皆点数アップしていた。
とは言え、五点から四十点と点差は幅広い。
バドが最高の四十点アップ。
スロムが三十点アップ。
ホルターが十点アップ。
僕とホルターの仲を邪推する奴らは五点から十点程度。
一通り帰ってきたところで放課後にクラスメートを集める。
「僕をどれだけ信用しているかが点数差になったのかな?」
「いや、俺たちだって信用してるって!」
ホルターが異議ありとばかりに文句言ってくるが、忘れちまったのか?
「『不動の構え』なんてでっち上げないと武器落としクリアできない奴らが?」
「ぐっ……」
ホルターを始め当時クリアできなかった奴らが一斉に視線を逸らす。
いや、お前等あの時人の言うことまともに聞いて無かったろうに。
「まぁ、事前に音読していた面々は皆点数上がったと思っていいな?」
「そうだな、これだけで点数上がれば十分すぎる成果じゃないか?」
スロムはそうだろうけど、やらなかった奴はやる気になっているのかな?
「スロムはともかく、音読やらなかった面々としてはどうなんだ?」
「……これだけ成果出して、指導受けない選択肢はないだろ」
他のやらなかった奴らも受け入れてくれるようだ。
なら、こっちは次の指導方針を考えるか。
「とりあえず冬期休暇の前までにお前等に宿題を用意する。
休暇明けにその確認試験を行うからきっちり学んでおけ。
それと、全員分の宿題を僕が手書きで書くのはちょっと無理。
なので、そこは協力してほしい」
一斉に「え~!」とか言われてしまった。
少し考えて文句言えよ、こっちはそこまでやってやる理由は無いんだぞ?
「まさかと思うが、クラス全員用の宿題を僕一人で複写しろとでもいうのか?」
「「「「あ……」」」」
こ、こいつら……そんぐらい想像つけろよ!
「僕だって暇じゃない。
宿題の問題と答え、これはこちらで考える。
でも、それを個々で学べるように複写するのはお前等だ。
それが嫌なら勉強教えることはできない」
「……絶対ダメか?」
ホルター、お前、何考えてる?
僕がそこまで暇だとでも思ってるのか?
「ダメだ。
この休み中にさっさと算術の基礎を覚えてもらいたいんだが?
僕が全て複写したらいつまでたっても終わらんぞ?」
「どこか複写屋とかに頼めばいいんじゃねえの?」
「確かにやってくれるだろうし、学園の試験で使うのは頼んでるんだろうさ。
で、誰が複写の金を出すんだ?
ホルター、お前が出すんで良いのならそれでも構わんが?」
「……無理だ」
「他に金出せる奴いるのなら手を上げてくれ。
誰かいるのならこちらもその方が楽だしな」
「……」
だろうと思ったよ。
「そんなわけで、金無いからお前等で複写しろ。
文句があるなら教えられない。
それだけだが?」
「わかった……」
ったく、駄々こねられてもできないものは出来ないんだよ?
というか、僕の金で勉強するってドンだけ?




