第96話【器・Ⅰ】〜悪魔の背、感覚の剥奪と偽りの拒絶〜
(あれ?ここどこだろう?それに誰か泣いてる?)
私は見慣れない白い天井の部屋にいた。そこは、学院とは思えない、まるで病院のような場所だった。
「れいな…早く…目覚めて…くれ。妹として…いや、『俺の大事な女性』…として…抱きしめてやる前…に逝かないでくれ。俺はまだ、お前を『現実』では、抱きしめて居ないんだ」
お兄ちゃん?現実?どういうこと?
「お目覚めの時間ですよ。れいなお嬢様」
冷たい。どうやら私はまた、真冬様に冷水をかけられたらしい。あれは夢だったのだろうか。だって私は今、黒い天井に、複雑な拘束具で吊り下げられているのだから。
「さて、授業を初めますよ」
目の前には巨大な鏡。そこには、儀式を終えて蒼白になり、なおも薬のせいで卑猥に震え続ける私の姿が映っている。
「ご自分の姿は確認できましたね。これからあなたの感覚を少しづつ奪っていきます。まずは視力から奪ってあげましょう」
真冬様は、私にアイマスクを付けた。
「貴女は先ほど、体育館ですべての『人間としての不純物』を排出しました。今、その内側にあるのは、主人の意志を注ぎ込むための『純白な空白』……。わたくしが今から、新しい『規律』を書き込んで差し上げます。大和が庇ってくれた、などという妄想は捨てなさい。彼は貴女の醜態を見て、教室で嘔吐していましたよ。……貴女を美しいと言ってくれる者は、この地上に、わたくし以外存在しないのです」
「嘘だ……大和様は、そんなこと……っ」
「妄想に縋り付くのはおやめなさい。これが証拠ですよ」
カチッとなにかボタンを押すような音がした。
『1番はもう汚れた。二度と触れたくない。あんなものは器に過ぎない』
紛れもない大和様の声だ。私の耳が聞き間違えるわけがない。
「こちらも聞いてみますか?」
『れいな?あぁ、1番のことか。かつて俺の妹だった器だな。最初から『神の器』としてしか見てないのに、俺に依存して鬱陶しかった。俺が愛してるのはお前だけだよ。れな、愛してる』
今度はお兄ちゃんの声だ。
(嫌だ。信じない。お兄ちゃんも大和様もこんなこと言わない)
「さあ、答えなさい。貴女は誰ですか? 人間ですか? それとも……龍雅院家の、ご主人様…いえ、神代大元帥様の、わたくしの……『器』ですか?」
「私はれいな。お兄ちゃん…の…妹…」
「まだすがるのですか。仕方ないですね。おしおきです。わたくしが戻ってくるまでこの音声を永遠と聞いていなさい」
真冬様は、音声を流し、退室した




