第95話〜体育館の断罪、そして悪魔の証明〜
重厚な扉の先で待っていたのは、龍雅院の兄妹たち、そして…銀縁眼鏡を光らせる真冬様だった。
「おめでとうれいな。お前は『神の器』に選ばれたよ。これからお前には儀式のために身を清めて貰うよ。服を脱ぎ、第四服従姿勢」
「かしこまりました」
私が指定された姿勢をとると、手に剃刀と肌を傷つけないためか、クリームを持った愛理様が近づいてきた。
「1番、神の器は陶器のようにツルツルでなくてはならないわ。検品してあげる」
先日の愛理様の授業で剃毛したばかりの私の身体は見た目はすべすべしている。愛理様は、際どい部分の剃り残しを見つけては、綺麗に仕上げていく。
「これでいいわ。次は内側よ。第二服従姿勢になりなさいな」
「かしこまりました」
真冬様の冷たい指が四つん這いに、なった私のスカートを捲り上げた直後、愛理様によって、灼熱のような薬液が流し込まれた。
「これは『矯正浣腸』お前には、全校生徒の前で、『もっとも見られたくない姿』を晒して貰うわ。それが『神の器』として完成するための儀式よ」
「れいな。我慢しろ。……俺の許可が出るまで、その汚れを外に出すことは許さん。真冬、大和じゃ役不足だ。お前が連れて行け」
「仰せのままに、我が主」
私が体育館に連れていかれると、もう既に全校生徒が集まっていた。私は、1年1組の列へと連れていかれる。
「1番。ここでお座りして、待て」
「わん」
私にはこの答えしか許されていない。そう。私はまた、真冬様に『忠実な犬』として扱われているのだ。静まり返った館内の正面ステージには、スポットライトに照らされた重厚な『診察台』が鎮座していた。
「1年1組1番。……登壇しなさい」
お兄ちゃんの冷酷な声。真冬様にリードを引かれ、私は全校生徒の好奇と蔑みの視線が突き刺さるステージへと上がった。
「皆、見なさい。これが君たちの『代表』、龍雅院家が選んだ『器』の、真の姿だ」
真冬様の手によって、私の制服のスカートが衆人環視の中で無慈悲に捲り上げられた。
「あ……、っ……!」
悲鳴のような吐息が漏れる。冷気にふれ、人間として当たり前に備わっている機能が、私を苛めるが、れは真冬様の冷たい指によって、押し止められた。
「まだ我慢しろ、1番。級長たるもの、その行為すら、学園の規律を示すための『教材』とならなければならない」
「かしこ…まり...ました...」
真冬様の指を汚せば、このまま公開処刑が始まるだろう。私は我慢するしかなかった。
「何故、この『家畜』がこのような姿になっているか。それは、『神の器』に選ばれたからだ。あれは、オリエンテーション中の事だ。神代大元帥閣下は俺を呼びだし、こうもうされた。『仕上げが終わった時点で、神の器を差し出せ』と。今から『神の器』の総仕上げを行う。全員、第一服従姿勢の後、校歌斉唱」
「かしこまりました」
ステージの両端に立つ由羅様と凜人様、そしてアラン様や海斗様、大和様までもが、冷笑を浮かべて私の『崩壊』を待ち構えている。
「……出しなさい。……今です」
校歌斉唱が終わったその時、真冬様が抑えていた指を離した。冷たい診察台の上で、私は人間としての最低限の生理機能さえも、自分のものではなくなったことを知らされた。真冬様が冷徹な手つきで『管理』を行う間、私は級長としての威厳を捨て去り、ただ主人の命令通りの機能として排出することしか許されなかった。……これが、龍雅院家が求める『究極の効率化』なのだ
すべてを終え、ステージの上で廃人のように横たわる私。その傍らで、大和様が震える声で真冬様に問いかけた。
「……真冬先生。ここまで……、ここまで汚辱に塗れさせなければならないのですか。彼女は学園の誇りだったはずだ。なのに、今はただの……」
(あぁ、大和様…庇ってくれるんだ…)
真冬様は、銀縁眼鏡に付着した飛沫を丁寧な所作で拭い取ると、大和を冷徹に見据えた。
「大和。誇りなど、『神の器』…いえ、『悪魔を宿すための器』には不要な不純物に過ぎません。……彼女を空っぽにし、純粋な『器』へと作り変える。それが、神代大元帥閣下より続くこの学園の、そして龍雅院家の真の使命なのです」
「……あなたは、本当に人間なのですか? あなたこそ悪魔の化身ではないのか……っ!」
大和様の絶望的な叫びに、真冬様は完璧な角度で一礼した。
「……フフ。あなたは何を言ってるのですか?たしかにわたくしは教師ですが、『悪魔で龍雅院家の執事ですよ?』...。……さあ、空っぽになった彼女に、最初の『教育』をしなくてはなりませんね。理事長に『役不足』として見切られたあなたは教室にお戻りなさい。それとも、懲罰房の方がお好きですか?」
真冬様はそう言い放つと、この世の者とは思えない、冷たい笑顔を浮かべた。
「…教室へ行きます」
「そうですか。もし、もう一度1番を『教育』したいなら放課後わたくしの教官室を尋ねてきなさい。わたくし直々にあなたも『教育』してさしあげます」
「承知致しました」
(あぁ...。やっぱりそうなのね...何となく感じていた...。悪魔に心を許した私も同類ね...)
私は薄れ行く意識の中、そう考えていた。




