第90.5話【閑話】〜さらさの暗躍〜
「麻衣ちゃん。あのね、言おうかどうしようかずっと迷ってたことがあるんだけどいいかな?」
私は、ランク毎、しかも級長は別授業というこの時間を待ち、麻衣ちゃんに話しかけた。
「最近元気ないから心配してたんだよ。今まで話しかけられなくてごめんね、さらさちゃん」
「気にしないで。だって、どこで誰が監視してるか分からないもんね」
「それってれいなちゃんの事?あの子だって好きでやってる訳じゃないんだからそんな風に言っちゃだめだよ」
私は別に1番の、事を言った訳じゃない。学園中に、仕掛けられている『隠し監視カメラ』のことなんだけど…知らなかったら勘違いするよね。さて、この子は私の掌でどのように踊ってくれるのかな?
「そうじゃ無いよ。オリエンテーション中、れいなちゃんと陽子ちゃんが揉めたんだって?その時すぐに由羅様と補助員がすぐに来たんでしょ?なんでだと思う?」
「え?なんで知ってるの?あれは、たまたま見回りしてたとか?」
あはは。純粋ていうより、バカ?きっと、蝶よ花よってぬくぬく甘やかされて育って来たんでしょうね。『駒』として使ってあげようと思ったけどやめた。1番を潰したら、あなたを潰してあげる。
「違うよ。れいなちゃんから聞いたんだけど、寮や学園には、『隠し監視カメラ』と『盗聴器』が隠されてるらしいよ。ほら、あの子先生方から贔屓されてるから、教えて貰ったらしいよ」
みるみる顔色が悪くなっていく。
「それにね。れいなちゃん、麻衣ちゃんのこと――『私が守ってあげなきゃ何もできないグズ』って言ってたよ」
「うそ……」
麻衣ちゃんの声が震えた。信じられない、というより、信じたくないという響きが強かった。
私は端末を取り出した。
「じゃあ、これ聞いてみて」
再生ボタンを押す。
『……麻衣ちゃんは……私が……守って……あげなきゃ……何も……できない…グズ…』
途切れ途切れの音声。れいなの声に聞こえるよう、丁寧に作ってある。
麻衣ちゃんの瞳が大きく見開かれた。最初はただ呆然としていたけれど、すぐに唇を強く噛みしめ、指先がスカートの裾をぎゅっと掴んだ。
「……れいなちゃんの声、だよね……?」
小さく、か細い声。けれどその中に、必死に否定しようとする力が混じっている。
「頂冠式の後、響ちゃんと三人でれいなちゃんの部屋に行ったでしょ? あの時、私が部屋を見て回ってたの覚えてる?」
麻衣ちゃんは青ざめた顔で、こくりと頷いた。でもすぐに首を小さく横に振った。
「でも……おかしいよ。れいなちゃん、そんな風に言わない……はずだよ。私、れいなちゃんに何度も迷惑かけて……でも、いつも『大丈夫、麻衣ならできる』って励ましてくれたじゃない……」
声が途中で詰まる。目頭が赤く染まり、涙がじわりと浮かんでくるのを必死に堪えているのがわかった。
(……いいね。揺れてる)
私は内心で微笑みながら、そっと彼女の頭を撫でた。慰めるように、味方であるかのように。
「信じたくないよね。私も最初は信じられなかった。でも……本当のことだったら、どうする?」
麻衣ちゃんの肩が小刻みに震えた。葛藤が顔に浮かんでいる。
「これね、あの時にご主人様の指示で仕掛けた盗聴器の音声なの。正真正銘あの子が言った言葉だよ?」
1番の、部屋にご主人様の指示で盗聴器をしかけたのは本当。でもこの音声は、色々な音声を繋ぎ合わせてご主人様が作った偽造証拠だ。
「……私、れいなちゃんのこと、信じてる。でも……もし本当にそう思ってるなら……私は、ずっと負担だったんだ……」
ぽろっと一粒、涙が落ちた。
「ねえ。もうそんな子と無理に仲良くしなくていいんじゃない?」
私は優しく、優しく囁いた。毒が全身に、回るように。
「私や響ちゃんと一緒にいようよ」
麻衣ちゃんは何も答えなかった。ただ俯いたまま、唇を何度も小さく動かしていた。
「れいなちゃん……」という言葉を、喉の奥で飲み込もうとしているのが見えた。
その姿を見ながら、私は静かに微笑んだ。
思ったより、ずっと面白いかもしれない。




