第90話〜極限の検品、ドS兄弟の玩具箱〜
今日は入学して初めての土曜日だ。土曜の授業は、級長は級長のみで集められ、他の『家畜』たちはランクごとに分かれて行われるそうだ。
私たちの授業が行われるのは、実技棟にある多目的室だ。そこへ行く途中、私はまた、お兄ちゃんの足音を拾ってしまった。その規則正しい軍靴の音は無情にも、多目的室の前あたりで止まった。どうやら私はまた、お兄ちゃんの前で辱められるらしい。
多目的室に入ると、案の定、教壇に立つ由羅様の隣には、お兄ちゃんが冷酷なまでの美貌を湛えて座っていた。
この3時間は、由羅様とお兄ちゃん――龍雅院の血を引く『ドS兄弟』が満足するためだけの、理不尽極まりない『特別選抜授業』になるのだろう。教室の中央に、6つの開口部が上を向いた奇妙な形の拘束台が設置されているのが、その証拠だった。
「おはよう、僕たちの可愛い『最高級品《級長》』諸君。今日の授業は、お前たちがゴールデンウィークの公務に耐えうるか、その根性を叩き直すためのものだ」
由羅様が楽しげに鞭を鳴らす。
「ルールは簡単だ。理事長と俺が思いつく限りの『理不尽』をお前たちに与えてやる。お前たちは、どんな激痛や恥辱の中でも、一糸乱れぬ『犬』の姿勢を保ち、級長として完璧な英語で答え続けなければならない。……一回でも悲鳴を上げたり、姿勢を崩したりした生徒は、その場で『欠陥品』として廃棄処分とする。全員訓練着は持ってきているな?30秒以内に着替えろ」
「かしこまりました」
凍りついた空気の中、私たちは急いで着替えた。
「このぐらいは全員できるようだな。お前たちから見て左から1番から順に、台の上で第二服従姿勢だ。執事見習いたちは、自分のパートナーを固定してやれ」
「かしこまりました」
私は、震える体を無理やり動かし、台の上で四つん這いになった。大和様により手足はガッチリと固定され、頭は低く、腰だけを高く突き出される。お尻には、もふもふした犬の尻尾のようなアクセサリーを付けられ、腰周りには、微弱な電流を流す機械がつけられた。拘束が終わると、大和様が私のすぐ後ろに立った。その鋭い視線が、薄い訓練着から透けて見える聖痕を射抜く。
「準備はいいな? では、ウォームアップだ」
由羅様の指先がスイッチを押した瞬間、装着された機械から、何時もより強めの電流が走った。
「あ、が……っ!?」
「1番、無駄口は禁止だ。スペックを言え」
背後から、大和様の冷たい声が降ってくる。
「申し……訳……ござい……ません……Specimen number 1. ……Height, 152cm. ……Ah, ugh…… Weight, 43.5kg!(検体番号1番です…身長152cm……あぅ…体重43.5kgです)」
電流で内股が激しく痙攣し、意識が飛びそうになる。だが、ここで止まれば、私は『お兄ちゃんの自慢の妹』ではなくなってしまう。
「ふむ、まだ声が明瞭だな。理事長、次をお願いします」
由羅様が促すと、お兄ちゃんが立ち上がり、私のすぐ横に来た。
「れいな、いい子だ。……だが、級長ならこの程度は耐えられて当然だよね?」
お兄ちゃんはそう言うと、私が必死に我慢していた電流の電圧を、最大まで引き上げた。同時に、大和様が私の背中に、容赦なくその重いブーツの踵をめり込ませた。
「っ、ひい、いぃ……っ!」
「鳴くなと言ったはずだ、犬。……お仕置きだ」
「っ……」
そこからの3時間は、まさに地獄だった。由羅様が電気刺激で肉体を翻弄し、お兄ちゃんが冷酷な言葉で精神を追い詰める。大和様は私を『商品』として扱い、一寸の甘えも許さない。視界の端では、3組の級長が失神し、ゴミのように運び出されていくのが見えた。
「あと1時間だ。全員、次は英語で『ご主人様の靴を舐める許可』を求めろ。……ご主人様の靴を汚したら、どんなお仕置が待っているか、お前たちなら理解できるよな?」
「かしこまりました」
由羅様の言葉に、絶望が全身を駆け抜ける。
"I am Master Yamato's faithful dog. As a sign of my loyalty, please allow me to lick Master Yamato's boots. I beg of you, Master Yamato."
(「私は大和様の忠実な犬です。忠誠の証として、どうか大和様の靴を舐めさせてください。お願いいたします、大和様」)
「英語の発音が甘い。もう一度だ」
「かしこまりました」
"I am Master Yamato's faithful dog. As a sign of my loyalty, please allow me to lick Master Yamato's boots. I beg of you, Master Yamato."
(「私は大和様の忠実な犬です。忠誠の証として、どうか大和様の靴を舐めさせてください。お願いいたします、大和様」)
「……許可する。だが、唾液で俺の靴を汚すなよ。鏡のように磨き上げろ」
大和様は私の頭を無慈悲に踏みつけ、冷たく言い放った。
「かしこ……まり……ました……」
(お兄ちゃん……私、立派な『級長』になれてる……? これで、いいんだよね……?)
「そこまでだ。清掃点検に移る。1組、3組、5組の『極上商品』は俺たち教師が引率してやる。2組、4組、6組の『極上商品』はパートナーが引率してやれ」
(私の引率者は誰だろう? お兄ちゃんだといいな)
しかし、私の淡い期待はこの後すぐに粉々に打ち砕かれるのだった。




