第85話〜芸術・礼法、響き渡る苦痛のコンチェルト〜
今日の芸術・礼法の授業は音楽室で行われる。(この学院に入って初めての音楽の授業、喜英様は一体どんな授業をするのだろう)
ドキドキしながら口をぽかんと開け、第一服従姿勢で待っていると、喜英様が入室した。
「昨日の法規の授業で、校歌を紐解いたようだな。今までは『宣告の蹲踞』や第一待機姿勢で歌ってきたけれど、あれは本来、この学院の『創始者であり、神である』神代大元帥閣下に捧げる歌だ。俺の授業では、第一服従姿勢で歌え。いいな」
「かしこまりました」
「では、校歌斉唱」
喜英様の合図と共に、音楽室に私たちの歌声が響き渡った。しかし、それはすぐに冷酷な遮断によって止められた。
「止めろ。……1番、前へ」
「……っ、はい」
喜英様は、ピアノの傍らで指揮棒を弄びながら、私の前に立った。
「歌う声が小さい。お前たちは閣下への忠誠が足りないようだな。クラスを代表して、お前に規律を叩き込んでやろう」
ビシッ! と、喜英様の持つ指揮棒が、私の寄せられた胸の頂点を鋭く打った。
「っ……!」
「もう一度、最初から」
二回目。全力で声を張り上げたが、今度は別の理由で止められた。
「姿勢が悪い。歌うことに集中して、腕の寄せ方が甘くなっている。最も美しく主人に捧げろ」
喜英様は、私の背後に回り、突き出されたお尻を容赦なく踏みにじった。第一服従姿勢を崩すことは許されず、私は腕に力を込め、胸をさらに強く寄せながら苦痛に耐えた。
三回目、四回目。回数を重ねるごとに、喜英様の指摘は理不尽さを増していく。
「感情がこもっていない。閣下への愛を、共に歌に乗せろ。……1番、お仕置きだ」
「まだ音程がズレている。1番、級長であるお前が皆を導かなくてどうする?」
一回歌うごとに、私の身体には新しい紅い『五線譜』が刻まれていった。クラスメイトたちの視線が、連帯責任を恐れる恐怖から、次第に『1番が打たれている間に自分たちは逃げられる』という冷ややかな安堵へと変わっていくのがわかる。
(痛い……。お兄ちゃん、助けて……なんて、もう思わない。私は、ただ歌い続ける機械……)
授業が終わる頃には、私の胸もお尻も、喜英様の『指導』によって熱く腫れ上がっていた。
「今日の授業はここまで。1番、お前のおかげで、皆の歌声が少しは『マシな商品』の音に近づいた。よく頑張たな。この調子で皆を導いていけ」
「かしこまりました」
喜英様が去った後、私は震える腕で床を支えながら、虚空を見つめた。壊れた心の奥底で、法規の授業の時に切れたはずの鎖の断面が、ズキズキと、肉体の痛みと共に疼いていた。




