第83話〜法規、聖なる模範と最後に残った肉の鎖〜
「『商品』の皆さん。ご機嫌麗しゅう。おやおや眠そうな『商品』が多いですね。授業が始まって三日目。それに本日ももう六時間目。寝不足に加え、疲れも溜まって来ている頃合ですね。気合いを入れてあげましょう。全員起立」
誠也様の冷徹な声が、西日の差し込む教室に響く。
「かしこまりました」
私たちは椅子の音を立てないよう、慎重に椅子を持ち上げてからその場に立った。
「宣告の蹲踞。本日の授業はそのまま聞きなさい。ノートはとってよろしいですよ」
「かしこまりました」
一斉に姿勢を落とした私たちの肉体が、残酷なまでに露わになる。私は羞恥に震えながらペンを走らせた。
「この学院は、1905年『日北鎮圧大戦』終了と共に神代大元帥閣下により、『規律による人間支配』を目的として創立されました。その頃は、あなたたちのような『主人が快楽を得るためだけの商品』だけでなく、従順な『駒』も育てておりました。凜人様の曽祖父様であられる景清様も、学院の教師として教鞭を執っていたそうですよ」
(今の支配の礎……。その頃から、ここはこの国を支える『家畜』の育成場だったというのね)
「時は進み、今から30年前、凜人様の祖父君であられる公直様は、敗戦国ノースガルトの誇り高き皇女を、この学院でたった三日で仕上げ、大元帥閣下の寝所に送り届けたのです。かつて一国の希望であった彼女が、閣下の御前でただの『這いずる肉』として完璧な振る舞いを見せた時、閣下は深く感銘を受けられ、その日のうちにこの学院は、褒美として龍雅院家へ下賜されたのです。この学院の『躾』が厳しいのは、その為ですね」
誠也様の言葉が、私の心臓を氷の楔で貫いた。
凜人は、何も教えてくれなかった。オリエンテーションの数日前、龍雅院家に初めて連れてこられたあの日。汽車の中で私を凌辱したあの手付き。兄弟や従兄弟たちに囲まれ、恐怖に震える私に彼が見せたあの眼差し。
(……やっぱり最初から『妹』ではなく、『単なる都合のいい駒』としてしか見ていなかったのね。じゃなきゃ、会ったばかりのあんな時に、平気であんな事……。私を愛していたんじゃなくて、龍雅院の次期当主として、新しく入荷した商品を検品していただけなんだわ……)
その瞬間、脳の奥底でガシャリ、と何かが壊れる音が聞こえた。今まで私をこの地獄で繋ぎ止めていた、細く、けれど温かかったはずの絆。それが修復不可能なほどに無残に壊れ、音を立てて崩れ去っていく。心の鎖は、今、完全に壊れた。
「……っ、ぁ……」
だが、絶望に冷え切っていく意識とは裏腹に、肉体はあまりにも卑しく、商品として完成されつつあった。汽車の中での執拗な開発の記憶が、今この瞬間、誠也様の言葉によって『伝統』へと昇華され、私の股間を疼かせる。
心の鎖が壊れても、この肉体にはまだ、逃れられない『肉の鎖』が食い込んでいる。シースルーのセーラー服の下で、不潔な分泌液が太ももを伝い、床にポタポタと水溜りを作っていく。精神は凛人を拒絶しているのに、肉体はかつての皇女と同じように、跪き、捧げられる喜びを予感して濡れそぼっていた。
誠也様は、私の足元に広がる不名誉な染みを冷徹に見下ろすと、静かに授業を締めくくった。
「当学院が行っている『躾』のすべては、その時の皇女の絶望と快楽を再現するための聖なる模倣なのです。一画の文字の乱れ、一滴の分泌物の漏れ……それがかつての『最高級供物』の質を汚すことは、龍雅院一族にとって許されざる屈辱だということをお忘れなきように。1番、わかりましたね。その汚い水溜まりは舐めて掃除しておきなさい。今日の授業はここまでと致しましょう」
「……かし、こまり……ました……」
私は、自分が吐き出した羞恥の証に舌を伸ばした。誠也様は私が床を舐め、完璧に掃除が終わるのを無機質な瞳で見届けた後、翻るマントの音と共に退室して行った。




