第73話〜帆布の重みとレールの試練〜
体育の授業で限界まで引き裂かれた身体と衛生・美容の授業で引き裂かれた心を引きずり、私たちは家庭科室へと向かった。外は夕刻の気配を帯び始め、窓から差し込むオレンジ色の光が、教壇に立つ志乃様の冷徹な美しさを際立たせている。
「今から30分以内に、昨日各自で設計したトートバッグを完成させなさい。布の裁断、縫製、仕上げ。一つでも妥協や手抜きがあれば、その場で引き裂き、最初からやり直させます」
志乃様の宣告に、教室中に緊張が走った。私は急いで厚手の帆布を手に取った。私が設計したのは、重い調教道具の運搬にも耐えうる、実用性と堅牢さを兼ね備えたバッグだ。帆布を三重に重ね、持ち手には口に含んだ際に歯を傷めないよう、しなやかな牛革を巻き付ける。
(30分……。三重の帆布を縫い合わせるのは、家庭用ミシンでは骨が折れる。でも、志乃様の前で針を折るような失態は許されないわ)
ガガガガッ、とミシンの音が教室に鳴り響く。指先に神経を集中させ、厚い布地を正確に送り込んでいく。タイムリミットが迫る中、私は最後の一針を止め、革を巻いた持ち手を丁寧に縫い付けた。
「1番、完成いたしました」
志乃様は私の差し出したバッグを手に取り、縫い目の間隔から裏地の始末まで、言葉もなく精査した。
「……いいでしょう。では実技テストに移ります。バッグを咥えなさい。そのまま廊下へ」
廊下に出ると、そこには私たちを苦しめる『レール』が、どこまでも続く背骨のように鎮座していた。私は志乃様が見守る中、制服のスカートを捲り上げ、バッグの持ち手をしっかりと口に咥えた。両手と太腿を使い、高さのあるレールの上へと乗り上がる。
「っ……!」
微小な電流が断続的にレール全体を震わせ、先ほどまでの柔軟で敏感になった場所を容赦なく責め立てた。
「いつもと同じように立ち止まることは許しません。さあ、行きなさい」
「かしこまりました」
志乃様の冷ややかな声に背中を押され、私は腕の力で身体を引き寄せ、前へと進み始めた。いたるところにある凹凸が、進む度に、『ツルツルにになった肌』を刺激する。重い帆布のバッグが顎に負担をかけ、呼吸が苦しい。だが、ここで果てれば主人である大和様に泥を塗ることになる。
やがて、難所である階段へと辿り着いた。斜面に沿って設置されたレールの上には、一本の弾力あるロープが張られている。私はロープを両手で掴み、10cmほど引き上げると、レールとロープをまとめて跨ぎ、その上に跨った。
「ふ……ぅ、んんーっ!」
バッグを咥えているため、声は鼻に抜ける。結び目のあるロープを手繰り寄せるたび、身体が大きく揺れ、バランスを崩しそうになるが、私は奥歯を噛み締め、必死に保った。ようやく階段を登りきり、廊下の終着点で床に降りる。
「……合格です。1番、よく耐えましたね。次の授業へ移動してよろしい」
志乃様の許可が出た瞬間、私は震える膝をつきながら、口からバッグを離した。私は一礼し、陶器のようになった下半身の痛みに耐えながら、足早に次の教室へと向かった。




